【ライブレポート】音楽家・鈴華ゆう子の魅力を堪能するジャジーな一夜

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鈴華ゆう子が、5月21日(土)に東京・Billboard Live TOKYOでソロワンマンライブ<鈴華ゆう子 Jazzy Night 2022>を開催した。

◆ライブ写真

和楽器バンドのボーカル/リーダーである鈴華ゆう子。和楽器と洋楽器が融合した稀有なバンドのセンターに立ち、その類いまれな歌唱力と自身のルーツでもある和を基調にしたパフォーマンスで人々を魅了している。8人ものメンバーそれぞれの個性、和楽器と洋楽器が織りなす楽曲の魅力、それを引き立てているのが鈴華ゆう子というボーカリストだ。

だが、鈴華ゆう子を“和楽器バンドのボーカル”とだけ紹介してしまうのはもったいない。彼女は音楽─“音を楽しむ” ─ひとりの魅力的な音楽家である。それを証明したのが、今回のソロワンマンライブだった。

   ◆   ◆   ◆

ソロライブの会場は、東京は六本木ミッドタウンにあるBillboard Live TOKYO。世界的に権威のある、良質な音楽を届けるライブレストランだ。“Jazzy Night 2022”と銘打たれている今回の公演にぴったりの会場。訪れたファンも普段の和楽器バンドのライブとは違って、お酒を楽しみながらリラックスしたムードで開演を待つ。


ピアノの柔らかなイントロとともに、赤いドレスで登場した鈴華ゆう子。今回の編成は広田圭美 (Pf/バンドマスター)、蓮池真治(B)、Yeongkwi Lee(Dr)。一曲目は、鈴華が自身のYouTubeチャンネルで公開している、ソロの新曲「うたいびと」だ。

私は鈴華の歌の一番の魅力を、ひと声で聴いている人をその世界に引き込むところだと思っている。開演した時間帯にもリンクする「うたいびと」の“夕焼け映る”“夕刻を知らせるメロディ”といった歌詞と、語りかけるような優しい歌。家を出て、電車に乗って、歩いて会場に入った……そんなリアルすぎる現実と今見ているステージの境界線が、この歌ひとつで曖昧になって融けていく。没入感と言おうか。さらに、一曲目で“自身がひとりのうたいびと”であることを語るこの選曲も、聴く人を一気に鈴華ワールドに引き込んでいくのだ。


そう、今日は鈴華ゆう子のソロライブだと実感させたところで、今度は和楽器バンドの「シンクロニシティ」へ。和楽器バンドのファンとして今回のソロライブに来たファンも置き去りにしない。観客も拍手でリズムをとり、はねるリズムにノリノリだ。リリース時には和楽器バンドでジャジーな楽曲を表現するという斬新さに驚かされた「シンクロニシティ」だが、今回のバンドメンバーのジャズアレンジはまた一味違って面白い。7つの楽器で表現される和楽器バンドの「シンクロニシティ」にも負けず劣らずの豪華なサウンドだ。

「いろんな曲を“ジャズっぽ”アレンジでお届けしていきたいと思います」と言って、続いたのはジャズのスタンダードナンバー「Someday My Prince Will Come」。ディズニー映画の夢心地そのままに、メロディに身を任せながらゆったりと歌う鈴華の姿はプリンセスのよう。蓮池真治のウッドベースの細かな指さばきも見どころ。「接吻 -kiss-」では、アダルトな魅力を見せつけた。英語と日本語それぞれの言葉を美しさを伝えながら、可愛らしい高音から艶やかな低音までしっかり響かせ、対照的な2曲で鈴華の表現力を堪能できた。


セットリスト的には前後するが、のちに披露された「りんご追分」も、鈴華ならではの表現が満載で驚かされた。オリジナルは美空ひばりの演歌であるこの楽曲、公私ともに鈴華と仲の良い広田圭美が、「せっかくだからゆうこりんに詩吟の節調をやってほしいと思ったのと、ジャズと和の相性がいいと思ったので気合い入れてアレンジした」という。その言葉通り、ジャズベースが繰り出す技巧派リズムとYeongkwi Leeの緻密で正確なドラム回し、各楽器があわせるブレイクで、元が演歌だとは思えないオシャレで妖艶な「りんご追分」に仕上がっている。鈴華も節調に似た発声と、鬼気迫るコブシで、会場を圧倒する。


もはやここまでで“鈴華ゆう子のジャズライブ”として完璧ではあるのだが、ただ歌うだけで終わらないところが、鈴華らしさでもある。ソロでリリースした『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』挿入歌「戦火の灯火」では、和楽器バンドの尺八・神永大輔をゲストに呼び込むサプライズが。「今日はジャージナイトでしょ?」といいながら、全身ジャージで登場する神永。尺八奏者がジャージでBillboardのステージに立つとは、前代未聞間違いなし。そんなツッコミどころ満載のコラボながら、和楽器バンドでも華風月でもない、この日限りの貴重なセッションを見ることができて観客も大盛り上がり。尺八が入ることで渋みを増した「戦火の灯火」は圧巻だった。


また、広田と鈴華が「チャルダッシュ」をピアノ連弾で披露する場面も。演奏力が卓越しているのはもちろんだが、お互いの腕を交差させて鍵盤を叩いたり場所を移動して弾いたりと、パフォーマンスも楽しめ、目が離せない。歌唱、詩吟、ピアノと鈴華は本当に多才なボーカリストだ。また、こうして「ただ歌う」だけで終わらせない、ライブをエンターテインメントとして昇華するスタイルは和楽器バンドのスタイルとも通じている。バンドでの活動とソロの活動、どちらも鈴華で、どちらも相互に作用しているのだと改めて感じさせられた。

本公演では「カンパニュラ」「月下美人」「Dark spiral Journey」といったセルフカバー曲もジャズアレンジで披露された。「月下美人」では、和楽器バンドで演奏されるときとは違って、楽曲そのものの良さが静かに染み渡り、「Dark spiral Journey」は深みのあるジャズ&ロックサウンドで会場を盛り上げた。


そして、音楽家・鈴華ゆう子そのものを表していた「カンパニュラ」。セットリスト上では中盤で披露されたが、この日のハイライトであったことは間違いない。これは、森山直太朗が鈴華のために書き下ろした楽曲。森山直太朗は鈴華と何時間もの対話を行い、彼女のことを理解してから楽曲制作にあたったという。それだけに、可憐で強く、少し寂しく、鈴華そのもののような美しい楽曲に仕上がっている。この日のジャズアレンジも本当に綺麗で、静かなイントロからピアノが踊るAメロ、ブレイクからの強いサビ、自然体で歌う鈴華の姿、すべてがスッと心に入ってきて、思わず涙腺が震える。このような美しい楽曲を鈴華ゆう子自身となぞらえて聴けること自体が、彼女が魅力溢れる音楽家であることを証明しているのだと思った。

アンコールでは、三線弾き語りで「童神 ~天の子守唄~」を披露。好きが高じて2本目の三線を手に入れたといい、この日初めて人前で三線を披露することになった。歌の力と三線の音色で、沖縄の波に揺られているような気分に。もちろん三線の演奏も見事で、ここでも多才さに驚かされる。鈴華は「音楽の幅を広げて、楽しんで、みなさんと共有していけたら」と語っていたが、彼女は本当に音楽が好きで音楽そのものを楽しんでいて、そして今日ここで素敵なステージを見せてくれたのだと実感することができた。


そして、イラストレーターやアートディレクター、コピーライターと共に“音楽と花”をテーマとしたプロジェクト『SUZUHANA』を立ち上げることを発表。本プロジェクトでは、鈴華自身が “音楽×花で想いを表現するミュージックフローリスト”となり、様々な形で音楽という花を届けていくという。そして6月7日から新曲を発表していくことも解禁された。本公演のラストを飾ったのが、そのプロジェクトで制作された新曲「泥棒猫」。<Jazzy Night>に相応しく、ジャジーでセクシーな楽曲だ。“あなたのキスを求めるだけ無駄ね”など、ちょっとドキッとする歌詞もあり、あざといオトナの色っぽさが漂う一曲だった。

新プロジェクト『SUZUHANA』ではどんな鈴華ゆう子を見ることができるのだろうか。新たにどんな魅力が加わるのだろうか。どんな歌が聴けるのだろうか。<鈴華ゆう子 Jazzy Night 2022>、この一夜は鈴華ゆう子というひとりの音楽家の魅力を余すことなく堪能し、そして彼女自身の未来も楽しみになるものだった。

取材・文◎服部容子(BARKS)
写真◎TANABE KEIKO

セットリスト

1.うたいびと
2.シンクロニシティ
3.Someday My Prince Will Come
4.接吻 -kiss-
5.カンパニュラ
6.戦火の灯火
7.りんご追分
8.チャルダッシュ (ピアノ連弾)
9.月下美人
10.Drak Spiral Journey

en1. 童神 ~天の子守唄~
en2. 泥棒猫 (新曲)

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