【インタビュー】S.L.N.M、不気味で不穏で退廃的なのにポップで病みつきになる『健全』

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ユキテロ(空きっ腹に酒)、慧(memento森)、にゃおみ(木原尚美)の3MCと、インダストリアル/ノイズ系のビートメーカーShin Wadaで結成されたオルタナティヴ・ヒップホップ・コレクティヴ、S.L.N.M(サルノメ)。2021年の始動を皮切りに、畳みかけるように楽曲を発表してきた4人の音楽は、不気味で不穏で退廃的、それでいて、どこかポップで一度聴いたら病みつきになること確実で、マジでトベる仕上がりだ。今回のインタビューでは、S.L.N.Mの始まりから、リードトラックに関西アンダーグラウンドのカリスマサウンド・ユニット裸繪札のマチコを迎えた『健全』について、じっくりと話を聞いた。単調な日常に刺激が欲しくてたまらないリスナーは、是非とも彼らの音楽を体験していただきたい。

■『健全』は進化というよりは改革とか革新だと思っているんです
■ちゃんと設計図をひいて一個ずつ組み立てて音楽にしていく感覚があった


──まずはみなさんが集まった経緯からお聞きしたいです。

ユキテロ:元々、宮地(慧)と僕は、SPARK!!SOUND!!SHOW!!のタナカユウキと、Alaska Jamの森心言の4人で、新日本ミクスチャースクールっていうラップユニットをやっていたので、僕らが揃うことは自然な流れだったと思うんです。遊びでラップはずっとしてきていたので。ただ、S.L.N.Mをやるときに中心となっていたのは宮地だったから、僕はどちらかというと、最初は呼ばれた感じのほうが強かったですね。

慧:SPARK!!SOUND!!SHOW!!が東京に拠点を移したこともあって、関西組の僕とユキテロで何か考えようっていう話になったんです。コロナ禍で、各々のバンド活動もライブ活動もできなかったんで。それで、僕がトラックメイカーのShin Wadaと交流があったので、彼の家に集まって、フリースタイルでもいいし、ラップやらへん?って。で、作り貯めていたトラックを聴かせてもらったり、その上にラップを乗せてみたりして。それが結構よかったのと、そのときにできたトラックに、女性ボーカルを入れたらおもしろくない?っていうことになったんですよ。

──そこからにゃおみさんに声をかけたと。

慧:にゃおみは木原尚美の名義で活動していたんですけど、ライヴに惚れ込んでいたのもあって、ちょっとヤバい奴がいるから聴いてみてほしいと。で、にゃおみにいきなり声をかけて、Shin Wadaの家に来てもらって、試しに1曲弾き語りしてもらったときに、歌声を聴いた瞬間、2人とも固まって。ヤバい!って。

ユキテロ:あれはほんまに衝撃やった。宮地を中心にそれぞれ3人が周りにいた感じだったんで、僕とにゃおみとShin Wadaの3人は知り合いじゃなかったんですよ。

にゃおみ:はじめましてでしたね、そのときが。

慧:だから、にゃおみは怖かったと思いますよ。

にゃおみ:なんか、得体の知れない集まりに急に呼ばれて(笑)。

ユキテロ:その節はほんまにすみませんでした、ウチの宮地が(笑)。

にゃおみ:コロナ禍に入ってすぐの頃にお誘いを受けたんですけど、私も何かしたいなと思っていたし、面白そうだなと思って。元々は、リモートで完結できる何かをしたいねっていうところから始まったんです。

ユキテロ:そうなると、必然的に打ち込みの音楽になるし、ヒップホップ的なアプローチになったのかなと思いますね。バンドをやっていたんで、パっと始めるとなったらそっちのほうが始めやすかったと思うんですけど、やっぱりコロナ禍だったし、Shin Wadaも面白そうなことがあったらすぐ飛びつくんで(笑)。いまも彼、イギリスにいますしね。

慧:ソロでUKツアー中なんですよ。

ユキテロ:それでインタビューに出られないっていう(笑)。だからまぁ、最初は遊びのつもりだったけど、できた曲が遊びの範疇を超えてしまったっていう感じはありました。

──ちなみに、最初に作った曲って何だったんです?

にゃおみ:私のところに最初に送られてきたのは、「あなたと珈琲休息」でした。

──確かにいきなりあの曲ができたら、これやべえぞってなりますね(笑)。

3人:ははははははは(笑)。

慧:にゃおみとしては、いきなり歌を入れろって言われても困ったと思うけど。歌が入る感じの曲じゃないから。

にゃおみ:入れるも何も、自分が聴いたことのない音楽だったので。元々ラップもほとんど聴いてこなかったし、その上でノイズが多用に散りばめられている曲で、まぁ驚愕しましたね。なぜ私を呼んだのか(笑)。

ユキテロ・慧:はははは(笑)。

にゃおみ:でも、面白そうだなっていう好奇心もあったし、やっぱりみんな動けないストレスがあったと思うんですよね、あの時期って。そのタイミングで誘っていただけたので、自分の中で燻っている気持ち、音楽をしたい気持ちを少しでも発散するじゃないけど、S.L.N.Mを始めることによって、良い方向に行くんじゃないかなと思っていました。

慧:最初に出したEP「猿ノ目」は、それこそコロナ禍におけるストレスが、サウンドにもリリックにも無意識で表れていると思うんですよ。

ユキテロ:確かに。そのことについてしか書けないっていう悩みすら出てくるぐらい、リリックの内容がかなり偏ってましたね、その時期は。

──最初は遊びで集まったけど、実際に動くとなったときに、こういう感じにしていこうみたいなお話もされたんですか?

慧:いや、完全に見切り発車でした(笑)。最初の頃は、Shin Wadaがひとりで作ったトラックに対して、僕らがどうアプローチしていくかっていう感じだったんですよ。

ユキテロ:「GENT」辺りまではそうだった。で、その次に出した「I'm sad」の基盤を作ったのが僕だったんですよ。その辺りから、メンバーが持ってきたビートとかが、曲を作るキッカケになっていくことが増え出して。

慧:徐々にね。

ユキテロ:そうやって少しずつイメージを掴んでいった感じもあるし、自分がこれをやりたいというものもあるんやけど、宮地がこんな感じのラップしたらかっこいいんじゃないかとか、にゃおみのこういう歌とかラップを聴いてみたいとか、Shin Wadaのトラックも、もっとメロディアスなものも聴いてみたいとか。そうやってちょっとずつS.L.N.Mに対する欲が出てきた気がする。

にゃおみ:『猿ノ目』を作っているときは、私自身が追いつくのに必死だったんですよ。オルタナティヴと謳ってますけど、基盤はヒップホップな曲が多数だったので、できないことが多くて。でも、こなしていくうちに慣れていくし、楽しくなっていくし、できることも増えていった中で、やっと冷静にみんなを見渡せるようになったときに思ったのは、S.L.N.Mを動かし始めてから、すごいスピードでよくなっていってるなと。楽曲も、乗せるリリックやフロウも。だから、みんな徐々に本気になっていったのかなと思うんですよね。で、本気になっていくうちに、可能性を広げたくなったのかなって。それは自分でも思いましたし、メンバーに対しても思いました。

ユキテロ:なんか、雑な言い方をすると、“売れんちゃう!?”みたいな(笑)。

にゃおみ:そうそう(笑)。“これ売れるでしょ!”って。

ユキテロ:それぞれがハッキリと口に出さなくても、それをなんとなく感じてきたというか。それがさっき言った「欲」みたいなところだと思うんですけど。

──慧さんもそこは同じく?

慧:S.L.N.Mを発足したときは、緊急事態宣言やコロナ禍といった、すごくクローズドな状況だったんですよね。制約されている中で生まれたフラストレーションを、どう解消するのかっていうところから始まっていきましたけど、なんか、背骨とか基礎体力みたいなものは、ちゃんと作れているんじゃないかなと思って。周りは思うように活動できなくなって、どんどん腐ってしまうこともあったと思うけど、俺達は止まらずにできていたので。それが少しずつ、緩急ありながらも世の中の制限が解除されていく中で、クローズドな状況で作ったものを、もっと外側に出したいっていう気持ちに明確に変わっていく1年ではありましたね。だから、最初から表立って活動できなかったことが、逆によかったのかなって。自信や実力を蓄える期間だったかなと思います。


──先日リリースされたEP『健全』は、こういう作品にしようと考えていたものはありました?

にゃおみ:構想がありました。今回は、ユキテロが持ってきた元ネタをみんなで広げていったんです。

ユキテロ:最終的な仕上げはShin Wadaに任せていますけど、「AGURA」「かっぱ」「STIMULATION」「My life」は、僕がビートを持って行ったんです。こんな曲がやりたいって。それをみんなが肉付けして行ってくれた感じがすごくあって。「冷たい足」は最初にShin Wadaが持ってきたんですけど、今の形とはまったく違うものだったんです。ビート自体はそんなに変わっていないけど、にゃおみがピアノを乗せたりしていて。なんていうか、曲を作った人以外がいろいろしてくれるというか。そういう安心感がすごくあったかな。

──ここまで作ってきたことによって、意思疎通が取れるようになってきた?

ユキテロ:意思疎通が取れるようになったというよりは、意思疎通をしっかり取ろうとする動きをしたっていう感じでしたね。今まではノリで作っているところが結構多かったけど、もう少しちゃんと話し込んで理解し合おうっていう(笑)。それをようやくやり出したというか。だから、周りからしたら“そんなもんコンセプトちゃうやろ”って言うかもしれないけど、自分達からしたら、“いや、結構しっかりしててん、今回は!”っていう(笑)。そう思える作品かもしれないですね。

にゃおみ:私的には、さっきちょっと話してくれていた「冷たい足」とか、「不健全」のピアノも弾いているんですけど、そのキッカケになったのが、「娑婆にさらば」で。あの曲は、4人で集まって、こういうのが作りたいっていう目標を決めて作り出したんですよね。それまでは曲の基になる部分にはあまり関わってなかったけど、そこを一緒に作ったり、コード進行を考えたりして。そこで、私もアイデアを出していいんだなっていう安心感が生まれて、そこからの流れが結構大きかったですね。歌だけじゃないアプローチを、もっともっとしていきたいなっていうのが出てきました。

慧:それもあって、僕の中で『健全』というEPは、進化というよりは改革とか革新だと思っていて。これまでとは明確に違う制作方法やアプローチをしていたし、今まではビートミュージックとかヒップホップというカテゴリーをやっていたのが、より音楽になっていったというか。ノリ一発で、エネルギーで作っていたものを、ちゃんと設計図をひいて、一個ずつ組み立てていく、ちゃんと音楽にしていく感覚はすごくありました。

ユキテロ:自分はあんまりそういうことを考えずに音楽を作るんですよ。“ヒップホップみたいなやつ作りたいー!”って言いながら「かっぱ」を作ったりとか(笑)。そうやって自分の中でジャンル分けをしていたものを、どんどん崩されていく快感みたいなものはありましたね。気付いたらまったく違うものになっていたけど、かっこいいとか。そうやってどんどん更新されていくんだろうなって考えると、さっき宮地が言っていた革新っていうのはすごく当てはまるなと思いますね。

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