【インタビュー】ONOMADAT、儚げながら芯を感じさせる歌声とサウンドメイクが切なくも美しく融合

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4人組バンドWALTZMOREのヴォーカリストこうのいけはるかがコンポーザーとギタリストを務め、ボーイズグループサバイバルオーディション番組『14ALL』に候補生として出演した多田亮太がヴォーカルを務めるユニットONOMADAT。2022年2月28日にユニット始動が発表され、翌日の3月1日にEggsにて音源3曲を先行公開。4月1日からは前述の3曲を含む計6曲のデジタルシングルを6週連続でリリースした。多田亮太の儚げながら芯を感じさせる歌声と、こうのいけの自由なサウンドメイクとポップセンスが、切なくも美しく融合する楽曲たち。歌詞に登場する人物たちは複雑な事情を抱えている。こうのいけはこの6曲を制作していくなかで、このユニットでやりたい音楽が少しずつ見えてきたという。異なる人生を歩んできたふたりは、ONOMADATでどんな音楽表現を導き出したのだろうか。産声を上げたばかりの謎多きユニットに迫った。

■自分はこんな曲も作れるんだ!という発見もあるし
■ピュアな感覚でポップスを作れている実感があります


――ONOMADATは2022年2月28日に活動が発表されたユニットですが、どのような経緯で動き出したのでしょう?

多田亮太/Vo(以下、多田):今お世話になっているプロデューサーさんが提案してくださったんです。こうのいけさんも僕もお互いのことを知らなかったんですけど、その方が“良いコンビになると思うから、ふたりで音楽をやってみてはどう?”って。

こうのいけはるか/Gt&Composer(以下、こうのいけ):僕は今まで、自分以外の人に歌ってもらうための曲を書いたことがなかったんです。だからお話を頂いた時は、自分が多田くんに対してどういうかたちで力になれるのかイメージがつきにくくて。でも多田くんの歌声を聴いて、多田くんの歌と僕の曲で化学反応が起きそうだなとインスピレーションが浮かんできたんです。

――それだけ多田さんのヴォーカルが魅力的だった?

こうのいけ:多田くんの歌に“声の輝き”を感じたんです。ヴォーカリストでもこの輝きがある人とない人がいると思っているんですが、多田くんは間違いなく前者だったんです。僕は自分の声に自信がないので(笑)、“多田くんの声があれば今まで作れなかった曲も作れるんじゃないか?”と自分のソングライティングに可能性を感じて。実際にONOMADATの楽曲は自分だけでは作れないものが多くて、自分の音楽人生にとってすごくプラスになっています。お声掛けいただけて良かったと思っています。

多田:僕もオーディション番組に出演していたからそのプロデューサーさんに見つけていただいたので、こうのいけさんとユニットを組めたのは運命的だと思っています。

――多田さんは2021年に放送されたボーイズグループサバイバルオーディション番組『14ALL』の出演が追い風になったと思うのですが、同番組以前から様々なオーディションをお受けになっていたようですね。

多田:はい。10代の頃から漠然と“音楽がしたい”という気持ちがあって、その勢いで音楽の専門学校のボーカルコースに入学しました。そこで授業を受けていくうちに自分で曲作りをしたい欲が湧き上がってきて、“シンガーソングライターになりたい”という気持ちが大きくなっていきました。卒業してからK-POPに興味を持って、そっちの道を挑戦しているなかでたどり着いたのが『14ALL』なんですよね。

――そこでK-POP系の音楽表現にシフトしようとしたということでしょうか?

多田:音楽ファンとしていろんなジャンルの音楽を聴くのが好きなので、そのうちのひとつがK-POPだったんです。だからほかの参加者よりは幅広く音楽を聴いてきた自信はありました。聴いてきた音楽がすべて自分を作っているし、それが自分のやりたい音楽にもつながっていると思います。自分で作った曲を歌ったら、“自分の歌”として歌う感覚が掴めるようになって。それからカヴァー曲でも自分の歌として歌うことができるようになったんです。

――そういう背景があったうえで、ONOMADATの結成を提案してもらったということですね。

多田:そうです。オーディションが終わって、またシンガーソングライターとして活動をしていこうと思っていたところで頂いたご提案だったので、正直いろんな葛藤や迷いはあったんです。でもこうのいけさんの作る曲は、音もメロディラインも僕の好みだったし、歌詞もすごく自分の気持ちに深く響いてきて。自分のやりたいこと、自分の好きなものが全部あったんです。こうのいけさんと一緒に音楽がしたいと思ったんですよね。

――ONOMADATはポップスを軸に、幅広い音楽性を取り入れているのも特徴だと思います。

こうのいけ:自分が歌うとなると曲を作るうえで制約が生まれるんですけど、多田くんと一緒に作るとそれが取り払われて“こういうことをやってみたらどうだろう?”というアイデアがいろいろと浮かんでくるんです。多田くんには歌い手としてのパワーがあるから、声や歌の面でもいろんなことにトライできるんですよね。自分はこんな曲も作れるんだ!という発見もあるし、多田くんも自分の期待以上の歌を返してくれるので、やりたいことも増えていくんです。ピュアな感覚でポップスを作れている実感がありますし、それが成し得ているのも彼の歌声ありきだと思います。

――多田さんもこうのいけさんも、それぞれの活動である程度経験を積んだうえでの結成ですから、それが好手となったところも大きいのかもしれませんね。

こうのいけ:はい。それは大きいと思います。

――2022年3月にEggsで「identity」「ほんとはね」「Darling Darling」の3曲先行配信をし、4月からはその3曲と「my name is.」「アウトサイダー」「nostalgia.」を6週連続で配信シングルをリリースしました。どの楽曲もまったく異なるアプローチです。多田さんもリリースの告知のたびに、SNSに“今までとはまた違うテイストの楽曲です”と書き込んでいて。

多田:あははは、たしかに(笑)。

こうのいけ:企画会議でプロデューサーさんから歌詞のテーマとリファレンスの楽曲も頂くんです。その全部が洋楽で、僕の知らない曲も含まれていたりするんですよね。それをすべて噛み砕いたうえで、“この雰囲気をONOMADATでやっていくにはどうするべきか?”を考えて作っています。その結果、ONOMADATでしかできない曲が生まれている実感がありますね。

――センシティブなテーマに対して、こうのいけさんは楽曲制作とどう向き合っているのでしょう?

こうのいけ:たとえば「my name is.」は複雑な家庭環境で育った女性が、すべて受け入れて愛してくれる男性と出会い立ち直っていくというテーマなんですけど、最初にそれを共有してもらった時に、こういう経験がない自分が書けるのか? どうしたらいいんだろう? と思いました(笑)。でもいざ書いてみると、すらすらと言葉が浮かんできたんですよね。ONOMADATの楽曲の主人公はマイノリティというか……誤解を恐れずに言うと弱い立場の人だと思うんです。



――たしかに強者ではないと思います。

こうのいけ:でもこういう経験をしたことがある人はこの世の中に実はたくさんいるだろうなとも思うんです。そういう人たちの人生賛歌になれるような、味方になれる曲を作りたいと思いながら、多田亮太の歌が主人公として存在して、そこに付随していろいろな物語が展開していけばというイメージで書いています。それが多田くんの声にも、僕のポリシーにも合っているし、そこが共鳴したと思っています。

多田:さっき“こうのいけさんの歌詞が心に響いてきた”と話した理由にもなるんですけど……僕が今まで自分で作ってきた楽曲が、すごく暗い曲ばっかりで。ネガティヴなので、マイナスな楽曲ばかり歌ってきたんです。しゃべることも苦手だし、歌うことに自信があったわけでもなくて、でも音楽だけは唯一ずっと続けてこれた、続けていきたいものだったんです。そんな時にこうのいけさんの楽曲に出会って。自分だけでは絶対にここまで掘っていけないと思うほど、深いところに連れてってくれる楽曲だと思ったんですよね。

――こうのいけさんの楽曲をきっかけに、よりその物事を深く考えられるということでしょうか?

多田:それもありますし、聴くタイミングによって歌詞もメロディも聴こえ方が変わってくるんです。だから歌うたびに歌う感覚も変わるし、それでどんどん深いところに行けるような感覚があって……。この感覚をうまく言葉にできないんですけど、毎回決まったように歌うのではなく、その時その時の自分の感情を歌に乗せていられるので、それができる楽曲を作っているこうのいけさんがすごいと思います。そういう音楽の仕方ができるようになったのも、ONOMADATが始まってからですね。自分にとって音楽の在り方が変わりました。

こうのいけ:明るい人たちが車で流す曲ではなく、クラスの目立たない子が放課後ひとりで帰り道に聴く曲――制作を重ねていくなかで少しずつイメージが固まっていきました。だから1stシングルの「identity」はかなり苦戦したんです。

――そうなんですか。新生活や新しいスタートを切る人たちへの応援歌がテーマになっていて、新しいスタートを切るONOMADATの姿も重なりましたが。

こうのいけ:まだ多田くんの声がどんな楽曲に合うのかを把握し始めている段階で作ったのと、テーマの間口が広いぶん難しくもあって……。レコーディングも試行錯誤しながらでした。



――それでも「identity」も、シビアな状況で懸命に生きる人が主人公ではありますよね。《また聞こえた誰かの嘲る声》などの描写からして。

こうのいけ:たしかに。《無我夢中で掻き分けていくオーディエンス》は自分を見ていない人に見てもらおうともがいているし、あまり周りに味方がいない状態を言い表した歌詞は多いですね。それは僕自身の要素が反映されていると思います。……でも僕はWALTZMOREではこういう歌詞を書かないんですよ。理想の自分の姿、理想の世界を描いているのに対して、ONOMADATでは現実の自分や自分の現実世界、今までの人生で感じてきたこと、孤独感や閉塞感を描いてるんですよね。

――「アウトサイダー」は当事者でなければ書けないであろう、かなり生々しい描写が多いです。

こうのいけ:たしかに(笑)。容姿コンプレックスというテーマをもらったんですけど、そこに留まらず、環境に馴染めないことへのコンプレックスや、広い意味でのコンプレックスを抱えた人を主人公にした楽曲になったと思います。自分の実体験を赤裸々に書いた曲です。



――こうのいけさんがご自身の生々しい部分を楽曲にしていることも含め、ONOMADATの楽曲は“多田さんが歌うからこそできる表現”を突き詰めた結果なのかもしれませんね。

こうのいけ:そうですね……そんな気がしています。

――多田さんは悔しさやつらさが表れた言葉でも、まっすぐ歌うところが印象的です。そのスタンスが、苦しみを受け入れながら前を向いているようにも映るというか。

多田:僕は音楽だけが自分を見せられる場所だと思っていて。だから『14ALL』に出る前までは、自分の抱えているネガティブな感情を押し出す曲ばかり歌ってきていたし、それしかできないと思っていたんです。だから「identity」を聴いた時も、まず最初に思ったことは“この曲を自分が歌えるのか?”だったんです。

――と言いますと?

多田:さっきおっしゃっていただいたとおり「identity」にはマイナスなところも描かれているんですけど、最終的にはプラスの方向に進んでいくんですよね。マイナスなことばかり歌っていた自分が、その世界観を表現できるのかな? と不安なままレコーディングに臨んで。こんなことを言うのはアレなんですけど、音源になった「identity」のヴォーカルは未完成だと思うんです。

こうのいけ:それでも「identity」を完成させたことで見えてきたことはたくさんあって。僕もそれ以降は“多田くんならこういう歌い方もできそうだな”と考えながら曲作りができるようになったんですよね。

多田:僕もONOMADATで6曲完成させたことで得られたことがいろいろあって。今歌う「identity」は、リリースされている「identity」とは全然違うものになると思います。

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