a-ha、ダフト・パンク、ロクセット……難民だった青年が語る半生と、名曲の数々が彩るドキュメンタリー・アニメ映画『FLEE』

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本年度アカデミー賞にて、史上初となる国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞3部門同時ノミネートの快挙を成し遂げた、デンマークほか合作によるドキュメンタリー映画『FLEE (フリー)』が、2022年6月10日(金)新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン 池袋ほかにて全国公開となる。

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本作は、主人公のアミンをはじめ周辺の人々の安全を守るためにアニメーションで制作された。いまや世界中で大きなニュースになっている難民やアフガニスタンを巡る恐ろしい現実、祖国から逃れて生き延びるために奮闘する人々の過酷な日々、そして、ゲイであるひとりの青年が自分の未来を救うために過去のトラウマと向き合う物語を描く。多くの観客に深い感動と衝撃を与え、昨年のサンダンス映画祭でワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門の最高賞であるグランプリを獲得、また、アヌシー国際アニメーション映画祭でも最高賞となるクリスタル賞ほか3部門を受賞するなど、ドキュメンタリー、アニメーションという表現の垣根を越えてジャンル横断的に高い評価を受け、4月12日現在、各国の映画祭で82受賞136部門ノミネートという圧倒的な評価を獲得している。

主人公の青年アミンが誰にも明かしたことのなかった自身の過去を、長年の親友である映画監督(本作の監督ヨナス・ポヘール・ラスムセン)に対して初めて語る物語を録音し、それを元にアミンの人生で起きた記憶や繊細な心の様子を鮮やかに描くためにアニメーションが用いられている本作。ラスムセン監督は、アミン本人の声と記憶を通してこれまで誰にも語られなかった彼の物語を聞きたいと考え、その心のペースに寄り添いながら約4年もの長い時間をかけて断続的にインタビューを敢行した。


その斬新な手法やテーマ性に公開に向けて期待の声が広がっているが、映画に登場するアミンの半生を彩る名曲の数々にもぜひ注目したい。本作のオープニングシーンで描かれるのは彼の一番古い記憶である幼い頃の姿で、彼が“難民になる前”のことである。場所はアミンの生まれ故郷であるアフガニスタンのカブール。ご機嫌そうに街を駆け抜ける幼いアミンが大事にしている初代ウォークマンで聴いているのは、a-haが1984年に発表した世界的大ヒット曲「テイク・オン・ミー」だ。監督によると、この「テイク・オン・ミー」はその頃のアミン自身のプレイリストに実際に入っていたもの。監督はアミンとふたりで音楽についての話をする中で、彼の口から出てきたのが、a-haをはじめマドンナやホイットニー・ヒューストンなど自分に馴染みのあるアーティストばかりだったことに驚いたという。「アフガニスタンの少年も、僕らと同じようにa-haを聴いていた。皆、同じなんだということが感じられ、そこから物語が始まっていくというのがとてもいいなと思いました。我々がいかに似ているかというとこから話が始められる。この頃、僕も彼も同じように「テイク・オン・ミー」を聴いていたのですから」と監督は語った。


その後、家族とアフガニスタンを脱出しひとまずロシアのモスクワに逃れたアミンは数年後、家族を残してたったひとりでヨーロッパに向けて亡命を目指す。その道中の孤独と不安の中でアミンにつかの間の初恋が訪れるが、彼が相手の青年とヘッドホンをシェアしながら聴くのは、ロクセットによる4度目の全米ナンバーワン曲となった「ふたりのときめき」(1991年)だ。難民として居場所を求めてもがく苦難の中で芽生える同性へのほのかな憧れをポジティブな形で描き強い印象を残す場面だが、この曲もアミンの当時のプレイリストから採用した。


一方、ラスムセン監督はアミンがデンマークに亡命を果たした直後の16歳の頃からの旧友で、アミンが17歳で初めてゲイであることをカミングアウトした相手でもあったなど、20年以上に及ぶふたりの長い信頼関係が本作のベースにあることは想像に難くない。そんな監督自身にとって思い入れがあるというアイスランドの注目のロックバンド、ロウ・ロアーから「ブリーズ・イン」と「ヘルプ·ミー」の2曲を劇中で使用。その中でも、アミンが本作のために語った物語の中で監督が最も心を揺さぶられたという海上での出来事を描くシーンのBGMに「ブリーズ・イン」を使用した。これについて監督は、「この曲自体は美しい声で歌われていて気持ちが上がるような曲ですが、それをわざと真逆のシーンにぶつけています。それこそが、この作品で感じてほしい感情なので、あえてそうしたのです」と狙いを語る。さらに、「このシーンの話を聞きながら、アミンの物語をドキュメンタリーとして作っている自分はこのシーンのクルーズ船のお客と何が違うのか…と思ったこともありました」と打ち明ける。監督は、ロウ・ロアーの「ブリーズ・イン」と「ヘルプ·ミー」は、本作において感情面での本質を捉えた曲であると説明する。

本作の音楽は、スウェーデンの作曲家/ミュージシャンでこれまで70作品以上の映画音楽を手掛けるウノ・ヘルマーソンが担当し、本作でアヌシー国際アニメーション映画賞の最優秀オリジナル楽曲賞、デンマークのロバート賞最優秀作曲賞を受賞。ほかにも、ダフト・パンクの「ヴェリディス・クオ」やエイス・オブ・ベイスの「ホイール・オブ・フォーチュン」などなど名曲揃いなので、気になる人は映画公式サイトからSpotifyの公式サウンドトラックを確認してほしい。


『FLEE』

2022年6月10日(金)新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン 池袋他全国ロードショー
監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン 製作プロダクション:Final Cut for Real『アクト・オブ・キリング』 製作総指揮:リズ・アーメッド、ニコライ・コスター=ワルドー
2021年/デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フランス合作/シネスコ/カラー/89分/5.1ch/G/原題:Flugt 英題:FLEE日本語字幕:松浦美奈/後援:デンマーク大使館、特定非営利活動法人 国連UNHCR協会/配給:トランスフォーマー
(C)Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved

■STORY
アフガニスタンで生まれたアミンは、幼い頃、父が連行されたまま戻らず、残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める……。

◆『FLEE』 オフィシャルサイト
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