【インタビュー】MUCC、25周年と新章を飾る『新世界』完成「今までにない空気感…LOVE&PEACEの“PEACE”の部分がある」

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結成25周年を迎えるMUCCが、ニューアルバム『新世界』をムックの日(6月9日)にリリースした。前作『惡』から丸2年ぶり、逹瑯(Vo)、ミヤ(G)、YUKKE(B)の三人体制となって初のアルバムは、じっくりと時間を掛けてプリプロを行った上でアナログレコーディングに挑戦。ブルース、ゴスペルを取り入れ、サイケデリックな彩りを帯びた本作は、厳かな祈りとロックンロールの激情を融合させた、いびつで温かくて、新鮮だがまさしくMUCCらしいアルバムだ。

◆MUCC 画像 / 動画

ミヤは昨年末、L’Arc-en-CielのyukihiroやDIR EN GREYの京らとPetit Brabanconを結成したほか、逹瑯は本年よりソロ活動を本格始動するなど新境地を確立する一方で、2年ぶりのアルバムに収録されたサウンドはタイトルを体現する『新世界』となった。前述したアナログレコーディングの採用や生々しいクリーントーンを活かしたギタープレイをはじめとするサウンドメイクはMUCC本来のスタイルに、パワーと温かさ、新しさと懐かしさを加えたようだ。

MUCCとしては、初めてLOVE&PEACEのPEACEを歌った作品であることをミヤはこのインタビュー中に自覚し、明言した。この時代にこの音楽を鳴らすことの意義、MUCCというバンドの新章の行方を探る15,000字のロングインタビューをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■アルバム『新世界』のキーとなったのは
■ブルースとかゴスペルのアプローチ

──新体制でのアルバムは今作が初。制作のスタート時点において、心構えもそうですが、具体的にどのような違いがありましたか?

ミヤ:三人体制ではあるんですけど、サポートメンバーは二人いる状態での最初のアルバムということで。いつもより準備は早めにしないといけない、というのは絶対的にありました。デモを早めにつくって、それを覚えてもらいつつ、それをなぞって終わりじゃなくて、アレンジはサポートメンバーと一緒にしていくという、時間が掛かることをてんこ盛りでやっていったんです。そのプリプロを経てレコーディングに臨めたので、逹瑯も自分の歌のプリプロができたりとか、メンバーそれぞれの曲への理解度が、今までで一番深かったんじゃないかな?と。曲にちゃんと向き合って“どういう表現をしたいか”ということを、各自、今までの中で一番考えられたし、工程的にもそういう時間もあったし。準備をしっかりしたぶん、実際のレコーディング期間は短くなった、という感じはありました。

YUKKE:レコーディング中に感じていたことなんですけど、前段階の準備ができたり、プリプロが終わってから本番までの間がちょっと空いて考える時間もあるというだけで、こんなにもレコーディングが楽しくサクッと終わるんだ!っていう。それは初体験な気がしています。もっとズッシリと心にいろいろなことを感じて、時間も掛けてレコーディングをして、それを抜けるとようやくアルバムが完成する、というのがこれまでの印象だったんですけど。いい意味でライトな雰囲気の中で録れていて、いろいろなことがスムーズで、それが音にも出たのかな?という気は、今、終わってみてしていますね。

逹瑯:最初にリーダーからサポートメンバーに渡す用のアレンジデモがあって。プリプロが始まる前にそこに全曲仮歌を入れちゃっていたので、ある程度のキーの検証とかを事前にできていたから、それも良かったですね。いつもならプリプロが全部終わってから、実際に歌ってみて“これはキーが違うね”とか言って変える曲もあったので。


▲逹瑯(Vo)

──なるほど。みなさん、プロセスの納得度も高く、曲への入り込み度も深い作品になった、という手応えでしょうか。

ミヤ:やっぱり時間があると、「これ、いい感じにしといてね」と言ってアイデアを投げておくことができるんですよね。時間がないとそれができないし、戻ってきた時に、もし良くなかったら本番で変更しなくちゃならないので。今回は時間もあったし、ガチガチに決め込まない状態でそれぞれのメンバーが何となく考えてくれて、サポートメンバーもそうですが、すごくいい方向に行ったと思います。新体制での初めてのアルバムなので“しっかりやらなくちゃ”という気持ちももちろんあったのと、本番がアナログレコーディングだったので、やれることがとにかく少なくなるから“しっかり準備しなきゃ”というのもあって。いろいろな要素がいい方向に、同じ方向に進んでくれたなという感じでした。

──生配信番組『いじくりROCKS! ♯27』にメンバー全員で出演された際、今作をつくるにあたって「どんな音にしたいか?」について話し合った時、「今の気分はゴリゴリ激しくいく感じじゃない」という共通認識があったと語られていましたね。

ミヤ:激しくいかないというか、「単純に聴いてて気持ちいいだけの曲とかも、今、すごく聴きたい気分だよね」という話をしただけなんですけどね。実際自分がそうだったし、激しい曲を聴きたい気分の時ももちろんあるんですけど、コロナ前とはちょっと違うなっていう。こういう時代の中で“どういう空気感の中で生活したいかな?”というところがデカかった。すごく感情的なことでも、それをどう聴かせるか? 激しくではなく悲しくだったり、悲しいことをただ悲しくじゃなくて、熱量を持った悲しさとして聴かせたり。そこで出てきたのが、僕的には、ブルースとかゴスペルというもので、そういうアプローチが多いんですけど。パワーのある温かいものというのが、今回のキーになりましたね。



──アナログレコーディングもそうですし、人間の持つ熱量や人間らしさを打ち出すことで、今のこの世界の状況に何かを問うていく。そんな信念とパワーが作品全体から伝わってきました。作詞に関してそんな意識もあったんでしょうか?

逹瑯:身の周りで起きていること、感じたことを歌に落とし込んでいくという作業はずっと昔からあったので。でも、コロナに関してはあまりそこに振り回されたくなかったんですよ、個人的に。“コロナでどうこうという歌詞は、自分からは出したくないな”という気はしていたんですけど、やっぱり今のこの世の中の形を見ると…。まだアルバムタイトルも決まってなくて、最初にこのアルバムの中で歌詞が付いた新曲が「いきとし」だったんですけど、これをライヴレコーディングで一発録りして。今の世界情勢的なものに対する感覚はやっぱり入ってくるよね、という気づきは自分自身にありました。アルバムに『新世界』というタイトルが付いた時に、リード曲の「星に願いを」……そのときはまだ仮タイトルでしたけど、この曲は「いきとし」と対になる世界観の歌詞にしたいと思って。今の世の中で感じること、思うことを混ぜながら、曲調はヘヴィだけど歌詞はもうちょっとライトに書きたいな、と思いながら書いてた感じだったかな?

──「いきとし」のレコーディングの様子は映像(特別番組配信『肉と皮と水だけでできた僕らのデジタル領域には存在させない曲』)で拝見しました。あの曲の最後の“拝啓 50年後の僕たちは まだ争っていますか?”という一節をミヤさんがメモ書きして逹瑯さんにその場で手渡して。リハもなく、その後、一度目のテイクでレコーディングが終わっていましたよね?

ミヤ:あのテイクしか残ってないですからね、一発録りなんで。

逹瑯:あの一回しか歌ってないですから(笑)。最後のところが激しかったので、一回ブレスを入れなきゃならなくて。歌い終わってハーッと息を吸った時、“あ、次歌じゃん! 間に合うのかな?”と思いながら…尺はピッタリでしたね。“危ねー!”と思ったけど。

──スリリングですね。ミヤさんは事前に準備してスタジオに行かれたのではなく、あの場で一節を思いつかれたんですか?

ミヤ:そうですね。でも、昔からああいうことばかりやっているバンドですけどね。

──MUCCとしては珍しいことではないんですね。

ミヤ:うん。だってレコーディングが終わるまでは、ずっと作曲みたいなものなので、その時に思いつくアイデアもあるから。整えて作品にするのももちろん正解としてあるんですけど、それにあまり面白味を感じないことが多いし、やっぱり突発的に出てきたものを緊張感ある中でテイクしたもののほうがスリリングだし。だからこそ今回はこういうレコーディング環境を選んだというのもあります。パソコンで何でもつくれる時代に、真逆のことをすごく今っぽくやりたいな、と思ったんですよ。昔のやり方にもすごくいい部分があるし、結局人間力なんですよね。いいギター、いいベース、いいドラムっていう厳選した機材を使うのは当たり前なんですけど、制約することによって人間力が高まるので。例えば、今回の場合はアナログレコーディングだから、テープがなくなってしまったら、もうそれ以上録れないじゃないですか?

──物理的に無理ですよね。

ミヤ:だから、できることは減るし、早く終わらせなくちゃならない。そういう状況に置かれると、人間って進化してきた生き物なので適応するんですよね。その適応をどれだけできるかな?という期待感も含めて、今回はこういうやり方をして良かったかなと。やり直しをしないから、時間も短く済んだし。

──昔であれば映画などの映像も、フィルムの長さぶんしか撮れなかったのと同じですよね。

ミヤ:制約がない良さももちろんありますけど、制約とか〆切がある良さっていうのもありますよ。なかったら永久にやらないですもん(笑)。

──〆切があるから湧いてくるものもありますよね。

ミヤ:そう。だから、目標ですよね。


▲『新世界』初回限定盤

──アナログという意味では時代に逆行しつつ、今の時代の空気や自身が求めるサウンドを感じ取りながら作品化していった、と。

ミヤ:この歳になると、身の回りのことで、運が良ければリバイバルの3回目をギリギリ感じられるんですよ。全てがリバイバルしているわけじゃなくて、いいとこ取りをされていて。それは音楽の流行にもあるし、またバンドが戻ってきて、生音が戻ってきているように、そういう手法とか空気感のリバイバルはあるんですよね。25年もやっていると経験値はあるから、“こういうサウンド感と空気感というのは、こういう録り方をしたらこうなるんだよね”というのは他よりは分かっているつもりなので、それを上手い具合に取り入れたかった。

──アナログレコーディングを採用した理由というのは、そこですね?

ミヤ:というのと。あとは、環境ですね。ちゃんとしたアナログレコーディングをできる環境が日本にはほとんどないんですけど、Charさんのレーベルのスタジオがすごくちゃんとしていて、たまたまハマッたというのもありました。しかも、若いスタッフがアナログを使っているという環境だったのも良かったし。そのスタジオのスケジュールが少しでもズレていたらこの形にはならなかったので、本当にすごく良かった。

◆インタビュー【2】へ
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