【コラム】LUAが放つ、1周回った新しいシティポップ

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“シティポップ・リバイバル”を掲げて活動するシンガー・ソングライター、LUAの新曲がデジタルでリリースされた。タイトルは「Don’t Stop The DOKKYUN!!」。その時点で「あっ!」と思った人はきっと感受性が強い。言い換えれば、少し妄想癖があるかもしれない(笑)。

LUAは、2018年に5曲入りのEP『ユーフォリア』でデビュー。そのリード・トラック「魔法使いの恋」が川谷絵音のラジオ番組で採り上げられ、高い評価を得た。以降、2021年までに5枚のデジタル・シングルをリリース。1st EPに収録された「Rainy Step」や2021年のシングル「SQUALL」にその影響が見えるように、山下達郎やオリジナル・ラヴをルーツに持つ、1周回った新しいシティポップ世代のアーティストだ。

これまでも様々な音楽性をシティポップのフォーマットの中に落とし込んだ作品をリリースしてきたLUAだが、2022年初のリリースである「Don’t Stop The DOKKYUN!!」は、シェリル・リン「ガット・トゥ・ビー・リアル」をルーツに持つスウェイビートをベースに作り上げた、ドリーミーなディスコ・チューン。新しすぎず、懐古的になりすぎずというところに、“リバイバル”と謳うバランス感覚が滲み出る。

そういったシティポップ的な語法を使いながらも、本当に伝えたいのは「胸キュン」という、今や死語となった甘酸っぱい感情。撃ち抜かれる感覚は今も昔も消えないものだが、キュンやズッキュンを超え、もちろんDQNでもなく「DOKKYUN」という言葉に置き換えられているところにもまた1周回った感がある。中性的なヴォーカルをさらにデフォルメして「DOKKYUN」と歌ってしまうところには、ときめきすら感じる。そう、スパークしてスパークルするのだ。これ大事。

面白いのがMVだ。マイケル・ジャクソン「Thriller」へのオマージュをアニメーションで描きつつ、少しパステル調の色合いや、キャラクター性を含んでいるところも含めて、1980年代的なノスタルジーをサンプリング的に引用しているのがわかる。どこかあの時代の東亜会館を思わせる雰囲気があるのは、偶然かもしれないが。こういう作品を見ると、シティポップという言葉が既に音楽的な語法を超えて、感覚として広まっていることを実感するのだ。もはやシティポップとは音楽だけを表す言葉ではない。


実は、いまコスプレの世界では、重加工系コスプレ女子が「現実には存在しません」といいながら表現活動をしている。二次元にあるモチーフを三次元で表現し、再びネットという二次元に戻した上で完成度を高めるために画像を加工して、その代わりにオリジナルである自分自身の存在を消してしまう。それは自分自身をアバター化するのに近い。

LUAが表現するシティポップも、オリジナル世代のシティポップをどこか遠い世界に感じながら、それを現世で作り直し、仮想世界に新しいシティを作ってそこの住人として理想のシティポップを歌い描いていくような、不思議な浮遊感を感じる。イラストタッチのMVは、その仮想世界の具現化。そして、LUAの中性的なヴォーカルは、現実と仮想空間を繋ぐ鍵なのだ。

つまり、LUAは<メタバース空間のシティポップ王子>。さぁ、ダイブしてスパークしてスパークルしよう。これ大事。

文◎池上尚志


「Don’t Stop The DOKKYUN!!」

2022年6月8日 デジタル配信スタート
https://lua.lnk.to/dokkyun
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