【インタビュー】井出靖、「DJが初期にやっていたようなエディット・ミュージックを駆使しながらソロ演奏やセッション性を混ぜた作品」

ツイート

井出靖が『Cosmic Suite2-New Beginning-』をリリースした。2020年11月『Cosmic Suite』リリース後、<Yasushi Ide 60th Celebration Special "New Beginning" THE MILLION IMAGE ORCHESTRA VS The Cosmic Suite Ensemble>の開催、アフリカ・バンバータとのコラボ、さらに名物コンピ『Late Night Tales presents Version Excursion selected by Don Letts』へのフィーチャーなど精力的に活動を続ける彼が、前作に続く“圧倒的な”ボーカルアルバムを制作したもの。早速その本意を聞いてみよう。

◆井出靖 関連動画&画像


■スッキリ聴けるのではなくて
■混沌とした世界観が出たらいい

──前作『Cosmic Suite』から1年半ぶりとなる『Cosmic Suite2-New Beginning-』ですが、“2”と名付けられていつつも、単なる第2弾ではないアルバムと言えると思います。このアルバムを作り始めたきっかけは?

井出靖(以下、井出) 『Cosmic Suite』を作り終わったくらいに、GRAND GALLERY(編注:井出が経営する、音楽レーベルGrand Galleryからスタートしたセレクトショップ)で編み物の展覧会をやったんです。そこでアフリカ・バンバータをモチーフに編んだ作品があったので、ハッシュタグ@AfrikaBambaataaをつけてInstagramに載せたら、なんと本人とやりとりをすることになって……そこからレコーディングしてみようかと。そのときはまだ朧げに手持ちの『Cosmic Suite』のトラックに歌を入れていけばいいなと。『Cosmic Suite』はインストだったから、次は歌物にしたい、そんなことは思ってたんですが。

次にドン・レッツに頼んだら、今や押しも押されぬシンガーになってしまったエミリー・カペルと、まさかの二人で歌ったトラックを返してきた。その後にエミリー・チックにオファーしたらこちらも快諾……そうやって歌が入っていたんです。だけど『Cosmic Suite』をベースに僕が指定した部分に歌を入れてもらうだけだと「ウィー・アー・ザ・ワールド」みたいになっちゃって……カラオケに歌ってもらってバトンを渡していくみたいな(笑)。

で、さらに去年頭くらいに、『Cosmic Suite』の歌物の日本人編もあればと、まずはUAに当たったんです。彼女がカナダに住んでることも知らず、AJICOの復活も知らず。4月にやるっていう快諾をもらって、そのときに『Cosmic Suite』の1パートに歌ってもらうんじゃなくて、曲を作ろうと思ったわけ。だから『Cosmic Suite 2』は曲をすべて作り直した作品と言えますね。


──では『Cosmic Suite』とは別もの?

井出 ある楽器を抜き差したり、構成は部分部分から持ってきてまた作り直して……そこで初めて曲を作り出した。最初にできた曲が「LAVA feat UA」です。そこからエミリー・チックもドン・レッツも、歌のデータは手元にあったから、すべて分解してひとつの曲に作り直したんです。ホントはノンストップのまま歌ってもらおうというイメージだったんだけど、一曲づつ曲を作ることにしたわけです。

──元曲があって、リミックスという考えではないんですね。

井出 そうなんです。歌ってもらったものを伸ばしたり……リミックスではなく、素材があって曲を作った、そんな感じですね。

──“再構築”でもない?

井出 そうですね……例えば「Sumimasen Suite」だったら、入っていた楽器の音を減らしてダブ的な処理をして……Watusi君がキング・タビーのプラグインを持っていたので、「もう他の楽器はいらないね」という会話をしつつ採用したり。歌い直してもらったわけじゃなくて、作ったものは別というか。構成も変えちゃってるし……やっぱりリミックスではなく素材があるものを使って曲を作る、感じかな。

──制作方法は前作と同じく、Watusiさんとお二人ですか?

井出 そうですね。Watsui君もほかのプロデュースの仕事とかズーッと忙しいじゃないですか。だからスタジオに行く前にこことここをやりたいというのを伝えて、スタジオでは「何分何秒のここをこうしてほしい」といって作業をする。帰るときに音源をもらって帰って聞いて違うな?となれば、またすぐ直す……。アルバムは組曲にはしたかったので、円を描くというか……オープニングの「Mirror feat. josue Thomas」から始まってエンディングの「New Beginning」まで半円を描くような、半円の中心から曲が対象となるように……そんな絵が頭に浮かんだんですね。それを僕は組曲と呼んでいて。それがクラシックみたいにパート1、パート2と書いてあったりしますが、そういうものに近いのかなと思います。で、そこから切磋琢磨しながら増えたり、消したりしましたね。「New Beginning」は最後の最後にできた曲で、Watusi君に「まだ作るの?」って言われて作った曲です(笑)。

そのひとつ前にできた曲「Galactic Beats」は、「We Need Power」がアフロっぽいからトニー・アレンが生きていたらねぇと思っていたら、とある人がトニー・アレンのビートを持っていると……。

──そこで何で持っているのか、おかしいですよね(笑)。

井出 おかしいですよね(笑)。ただその人がComet Recordsの人でSpotifyにあがっているものは自分が権利を持っていて、すべてドラム・ブレイクだけだったので、借せるよと。ただ借りたものの、テンポが合わないからWastusi君に「ドラムだけ活かして、新しく曲を作ろうよ」と。そしたら「まだ作るんだ……」と(笑)。

あと例えばRECKさんがジェームス・チャンス(ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ)と昔演奏をしてたから、「ジェームス・チャンスのサックスの音、ありますよ」と言ったら、「じゃあ、入れてくれよ」ということになったり……。

それに上原“ユカリ”裕の娘さんの上原菜々恵さんは、The Cosmic Suite EnsembleのライブのときにCDをくれて、それがドローンの音楽が宇宙観のある曲だったんです。「Outer Space feat.DJ KRUSH」に行く前の宇宙を彷徨っている砂塵みたいな箇所があったので、ライセンスさせていただいてダブしようということに……こういうふうに二十代の人から上の方まで、いろいろな形で『Cosmic Suite 2』に参加していただいてますね。

そうやって会ってない人がセッションしているようなイメージがひとつ。あとテーマとしては宇宙的な考えで言うと、例えばトニー・アレンやスタイル・スコットのように亡くなっている人と生きている人が同時にセッションをしている。本来はしてないわけだけど。そのあたりの作り方は独特なのかもしれない。

──昨年神田でライブ(編注:2021年5月の<Yasushi Ide 60th Celebration Special "New Beginning" THE MILLION IMAGE ORCHESTRA VS The Cosmic Suite Ensemble>)をされたときに拝見しましたが、井出さんのやられていることは「セッション」がひとつテーマになっていると思います。それは井出さんのDJ的な感覚なのでしょうか? 

井出 The Cosmic Suite Ensembleはジャズみたいなテーマがあるから、セッション性が強くて、THE MILLION IMAGE ORCHESTRAはひとつの映画みたいにしたい、そういう違いがあります。今回の『Cosmic Suite 2』は、初期に作った『Lonesome Echo』に近いのかな……DJが初期にやっていたようなエディット・ミュージック、ああいうものを駆使しながらソロ演奏やセッション性を混ぜる。しかもあくまで僕ひとりで混ぜる。The Cosmic Suite Ensembleだったらもう少し、ここをこう叩いてとか具体的にあるんですけど、今回はある程度の音をもらってすぐに編集に入りました。ソロ作品は自分だけのものだし、「Galactic Beats」はセッションしているように見えるけど、実はだれもスタジオにはいないんです。


──今回のアルバムは井出さんの頭の中にあるものがそのまま具現化した感じですか?

井出 そうですね。『Cosmic Suite』の続編としては。CDだと難解かもしれないけど、あえて長尺でタフじゃないと聴けないアルバムにして、LPは曲をセレクトして曲順も変えて違う聴き方をできるようにした。自分はもう少し長くしたかったけど、2枚組LPの2枚目ってなかなか聴きづらいじゃないですか(笑)? しかしなぜか今回、“長尺”にこだわりました。無理に曲を伸ばすわけじゃなくて、例えば「Sumimasen Suite」Part.1、Part.2があって、ひとつにしてしまえばいいかもしれないけど、あれはそれぞれ歌詞が違う。しかも30分後に同じドラムが繰り返して出てくるような、ある意味「イビツ」な内容……、かつ「Cosmic」なので普通のポップス10曲入りのようなアルバムにはしたくなかった。

──長尺という意味だと、ジョージ・クリントンやJBのような「一晩中ファンクやろうぜ」のような感じもありますね。

井出、そうそう。それもあるし、マイルス・デイヴィスも一時期2枚組で、長尺でした。それらにはセッション性も聴こえるけど、僕の作品は熱く演奏しているように見えて、実はこっちがキチンと計算してエディットして演奏をさせているわけ。そういう混沌とした世界観が出たらいいかなと。スッキリ聴けるのではなくて……。

──ラジオ・ミュージックというか3分で聴かせるものとは真逆の世界観。

井出 作りたいものを作ることにしたからかな。特に自分のレーベルで、自分がアーティストで、自分がディレクターで、自分がA&Rで、自分が他社のアーティストと契約交渉し、そして自分がスタジオをブッキングして、客観的に演奏や作業を見つつ、自分がやりたいことも考え……かつ、ひとりで曲を聞きなおして、何分何秒のここをこう変えたいとメモる。朝から晩までそういう作業をしているので、膨大なメモがあります。

──そこに人の意見は全くいらない?

井出 いらないですね。そこに合議制はない。The Cosmic Suite Ensembleもそうですけど、あれはライブで演奏をする方がいる。今回はライブではないし、ここをこうした方がいいとか、曲が多いかもしれないとか、そういう意見は聞かない。レコード会社的な機能も含めて、自分だけで完結する。だからここまで我を通してもいいじゃないかなと。力強い作品を出したいと思って、そういうやり方で完成に向かった感じですね。長いものをキチンと聴くことを提案している……表現としてはそういうことなのかな。

■アイディアは枯渇してないし
■やりたいこともたくさんある

──井出さんは今の音楽もたくさんお聴きになっていると思いますが、今の雰囲気、今っぽさは意識しましたか?

井出 しました。例えばディスクロージャーのアルバムを聴いていると、ダウンテンポもラップも入ってて、整っていて気持ちよく聴ける。僕のアルバムと何が違うんだろうって考えたんだけど、同じダウンテンポでもできたものは全く違くて(笑)。イメージはあるのにそうならない自分が面白かったしね。

──そのイメージってかなり具体的なものなのですか?

井出 ディスクロージャーのライブはノリノリな感じだからどうでもいいんだけど、アルバムはコモンとかスロウタイとかケリスとかいろいろ入っていてポップでよかったので参考になったんです。僕はテクノの人じゃないのでケミカル・ブラザーズみたいなものは作れない。けど音像として、“今の”キックの音が出ていて、歌もフィーチャーして、アフロっぽい感じからダウンテンポまでいろんな感じが混ざってる世界観、そういうものを見せられたらライブをするときも面白いんじゃないか。そしてバラエティに富んでるとも感じたし……一方で自分の作品は一曲一曲が濃いなと。その洗練されていないところが違うなと(笑)。

今のアルバムってヒップホップならヒップヒップだけじゃないですか? バラエティに富んだアルバムってあまり評価されないですよね。そういう意味でディスクロージャーを例に出したまでなんですが、音楽的にどうこうじゃないけど、ディスクロージャーは聴きやすくて、自分の作品は聴きにくいんだなと思ったんです(笑)。お店(Grand Gallery)でレコードをかけて「軽快だな」と思って聴いてたわけ。そんな感じのアルバムに僕のもなるだろうと思っていたら全くかけ離れているから、お店では自分の作品はかけないですもん(笑)。

──とはいえ、10年前、20年前の井出さんには作れなかった作品ではないでしょうか?

井出 そうですね。自分で作ったアルバムはどれも好きですが、僕らは今、人のマネージメントもしてないし、レーベルとして他の人の作品を積極的に出すこともしてない。そうすると人のことを考えなくなる。自分のとこで自分のものを出していくと決めたから──本もそうですけど──そこの覚悟が違いますね。それで『Cosmic Suite』を作り出した。コロナ禍で籠るのではなく積極的に動いていかなくてはと思ったんです。一番ピークのころだったから、移動も身内が運転する車で、だれにも会わないで帰っていくみたいな生活でしたけど。そのことが強くあったからこそ、内なる強さを出していくような作品を作りたかった。

ちなみにタイトルのも、今回“2”にするかすごく悩んだんです。続編過ぎちゃうから別なタイトルでもいいかなと……そこで“New Beginning"という言葉が生まれて、『スター・ウォーズ』みたいにシリーズ化すると分かりやすいのかなと。続編ってことでもなく……別のタイトルにするほどでもない。

──“3”はありますか?

井出 今後の予定として、80年代前半にコンパス・ポイント・スタジオに在籍してグレイス・ジョーンズやトム・トム・クラブなどで活躍したエンジニア、スティーヴン・スタンレイに全編ディスコダブのアルバムを作ってもらったので、それが出ます。次の『Cosmic Suite 2』のリミックス版も作ってますがアルバムになるかどうか。それにこの後、深く沈んでいくような“深海の組曲”を作りたいと思っていて……もうスタジオに入りたくなってるけど、(スタジオ作業を)ズーッとやってるからねぇ(笑)。そして時期がズレますが、これからヨーロッパでThe Cosmic Suite Ensembleが出て、『Cosmic Suite 2』が浸透して行ってライブのアテが出ると、「Yasushi Ideはこういうことをやっている人物なんだ」と伝わりやすいと思うんです。なので、“3”はまだ分からないな。

近々62歳になるんですが、自分は大丈夫そうな気がするけど、今後どれだけ積極的に動けるか分からない。アイディアは枯渇してないし、やりたいこともたくさんある。やりたいことはすぐ実践しないと……5年後に出そうとか、僕はそういう感じじゃないんですね。だから無理にじゃないけど出し続けているところはあります。今年は準備期間でライブはやらないですけど来年ライブとかできたらいいかな。

──では作りたいと思うものはまだまだたくさんあるわけですね?

井出 困っちゃいますね(笑)。

──一連の“Cosmic Suite”の流れとは違う構想もある?

井出 そうですね。

──先ほどの“深海編”が“Cosmic Suite”の流れを汲むかは……。

井出 それは僕にも分からないですけど。それとは別に自分の作品をまとめたものとか……もう出せるように許諾だけは取っているんです。たくさんの方々とご一緒しているので、“レジェンド”ってアルバムとか(笑)。そういう記録は残しておきたい。今は宣伝するものがたくさんあるので、制作モードに入らないように気をつけて、ディレクターやA&Rモードに入っているところではあります。だんだんアイディアは浮かんできちゃうんだけどね(笑)。


『Cosmic Suite 2 -New Beginning-』

2022年6月22日(水)
Grand Gallery

CD 3,080円/LP 4,180円/カセット 2,750円

CD収録曲
01. Mirror feat. Josue Thomas
02. Lava feat. UA
03. The Battle Part.1 feat.Emilie Chick
04. Galactic Beats Part.1
05. Sumimasen Suite Part.1 feat. Emily Capell, Rebel Dread
06. We Need Power part.1 feat.Josh Milan
07. I'm Thinking,I.m Spacing feat.Afrika Bambaataa
08. Music of the Celestial sphere ~Music of the Celestial sphere Dub
09. Outer Space feat.DJ KRUSH
10. The Battle Part.2 feat.Emilie Chick
11. Galactic Beats Part.2
12. Sumimasen Suite Part.2 feat. Emily Capell, Rebel Dread
13. We Need Power Part.2 feat.Josh Milan
14. Hear,There feat. Kan Takagi, RECK
15. Beyond feat. RECK16. New Beginning

LP収録曲
Side A
01. Mirror feat. Josué Thomas
02. Lava feat. UA
03. The Battle Part.1 feat.Emilie Chick
04. Sumimasen Suite Part.1 feat. Emily Capell, Rebel Dread
05. We Need Power part.1 feat.Josh Milan
Side B
06. I'm Thinking,I.m Spacing feat.Afrika Bambaataa
07. Outer Space feat.DJ KRUSH
08. Galactic Beats Part.1
09. Hear,There feat.Kan Takagi, RECK
10. New Beginning

◆井出靖 オフィシャルサイト
◆Grand Gallery オフィシャルサイト
◆井出靖 note
この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス