【ライヴレポート】SUGIZO率いるSHAG、<THE PROTEST JAM for PEACE>に心の解放「みんな踊ろう!」

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2020年、12年ぶりに再始動したインプロヴィゼーションを軸とするジャズロック・バンドSHAGが、結成20年目で生み出した1stアルバム『THE PROTEST JAM』を掲げて7月4日、東京・恵比寿LIQUIDROOMでライブを開催した。SUGIZOは先ごろ公開したBARKSのインタビューを「これから、SHAGがパーティシーンに帰る時だと思っています」という言葉で締めくくったが、まさにその言葉を体現したようなアクトだった。

◆SHAG 画像 / 動画

オープニングDJを務めたGIVE UP GUYSのプレイにより既に熱量Maxな満員のオーディエンスで溢れ返る会場に鳴らされたのは、アルバムの冒頭を飾るナンバー「ANTI-WAR I」だ。SUGIZO(G/Vn)、KenKen(B)、類家心平(Tp)、別所和洋(Key)、よしうらけんじ(Per)、松浦千昇(Dr)の強者たちから溢れ出してくるカオティックでアヴァンギャルドな音の洪水に圧倒されると、SUGIZOが約25年の月日を経て進化させ続けてきた「THE CAGE」のおなじみのフレーズが奏でられた。SHAGでのヴァージョンは即興が主体となっているだけあって、非常にスリリング。SUGIZOの饒舌なギターにKenKenのグルーヴィーで自在なフレーズが絡み、類家のトランペットが唸りをあげ、別所のオルガンが情緒を担い、よしうらと松浦のリズムが切れ味鋭い。すべてが痛快だ。躍動感と熱を帯びたまま、冒頭のメロディに戻り、フロアからの拍手が鳴り止まない内に「Initiation of Rebellion」へ。たゆたうようなギターの豊かな音像に恍惚感を覚えていると、やがて音のうねりにのみこまれていく。ジャズ、ダブ、ロックミュージック……ジャンルを思いのままに泳いでいるような演奏が目の前で繰り広げられる。ベーシックが即興なので、当然のことながら同じ演奏は二度と聴くことができない。感性とスキルのぶつかり合いと融合がすごいスピードで繰り返されているような感覚を覚える。


「SHAGです。ありがとうございます。これだけ集まってもらえて心から感謝です」──SUGIZO

SUGIZOが挨拶し、「ありがとうございます。イエー! まずは我々、アルバム発売おめでとう。イエー! ザッツ・パーティ!」とKenKenはすでに超ハイテンション。「みんな踊ろう! 前のみなさんはこれだけギュウギュウだと踊れないと思うけれど」とSUGIZOが言えば、「適度なダンスディスタンスを」とKenKenが返し、前半にしてメンバーもオーディエンスもこのスペシャルパーティを満喫しているムードが漂う。インプロと一口に言うとハードルが高いイメージがあるかもしれないが、ルールがないことを楽しめばOKだ。次に披露されたのは東京初披露の新曲「KAMOGAWA~天一FUNK」。タイトルの由来もメンバーから語られた。

「この曲、初めてつい先日の京都でやったので、今日、2回目でございます。これまでSHAGはSUGIちゃんの曲をやることが多かったんですけど、いよいよバンドなので、みんなが曲を作ったり、いろいろ取り入れつつ。カッコいいミュージシャンが世の中にはたくさんいるので、そいつらも招き入れながら。今後とも我々SHAG、そしてセッションバンド・シーンをよろしくお願いします」──KenKen


「SUGIZOさんからライブ中に、“(曲のタイトルを即興でつけるように) 3、2、1”っていう振りをされて「KAMOGAWA」になった曲です」と別所が説明すると、「そうなんだけど、天下一品の会長さんはじめ、みなさんがライヴを見に来てくれて、すごく喜んでくださって、副題が“~天一FUNK”になってた」とSUGIZOがつけ加え、KenKenが「鴨川の川が全て“こってりスープになればいいのに”と願ってこの曲を作りました」と笑わせた。

タイトル通り、途中からファンクビートへと移行するナンバーはジャジーでメロウなのに、こってり濃厚なセクションに身体を揺らされ、気持ちよく翻弄される。楽器が全員歌っているから、SHAG初見でもいつのまにか歌がないことを忘れているはずだ。

「次は先日、アルバムのリードトラックとして発表された曲をやります。とてもとても重要なメッセージが込められていて、SHAGの精神性が凝縮されています」──SUGIZO

スクリーンに“STOP WAR”のメッセージが映し出された「Rebellmusik」はミニマルミュージック的なKenKenのベースラインとピアノが印象的な緩急のあるサウンド。天才的トランペッター、近藤等則や日本屈指のジャズギタリスト、渡辺香津美らとセッションを経験してきたSUGIZOがフルアコで奏でるギタースタイルが秀逸。フレージングはLUNA SEAとは全く異なるもので、饒舌に曲のメッセージを音で奏で、怒りや悲しみなどひと言では言えない感情を音に乗せて吐き出す類家のトランペットソロに拍手と歓声が沸き起こる。ウクライナの青と黄色のシンボルを映し出す映像にもSHAGのアティチュードが刻まれている。



SUGIZOがエレクトリックヴァイオリンに持ち替えて別所と向かい合ってプレイした「FATIMA」はロマンティックで豊かな音色から、刺激的な松浦のドラムとよしうらのパーカッションの絡みを合図に16ビートに移行していく展開。別所のピアノソロではSUGIZOが遊び心のアドリブで鍵盤を叩く一幕をはじめ、コンダクターのごとく弓で合図を送り、テーマとなるメロディに戻ったところで再びテンポアップ。ベースと一体化しているようなKenKenのスラップソロも盛り込まれたSUGIZOソロ曲の「FATIMA」は、よりスケールアップされ、インプロならではのスパイスが効いた刺激的なナンバーにアップデートされていた。

SUGIZOによるメンバー紹介の後は、ライブ時間が押していることを気にかけつつ、「ベロベロじゃねーか」と酔っ払っているKenKenをメンバーが突っ込むものの「だってパーティだもん」とすっかりゴキゲンな様子。次は初公開の新曲だ。が、ここで京都に続き、SUGIZOの無茶ぶり(?)が飛び出した。

「みんな、ちょっとお酒でも飲んでラクにいきましょう。今から別所くんの新曲やるので、曲名を一瞬でつけてもらいます」──SUGIZO

「またですか?」と引き気味の別所だったが、“3、2、1”というKenKenの容赦ないカウントに口から出たタイトルは、「目黒川」!! これには拍手とどよめきが。「なんで川縛りなんだよ」とKenKenが突っ込み、SUGIZOがずっこけて「すっごくキレイな曲なのに」と苦笑。曲のタイトル決めも即興である。

KenKenから「演歌みたいでいいですね」と形容された「MEGUROGAWA」は、実際にはSUGIZOの言う通り洗練されたジャジーで風情のあるナンバーで、23歳の松浦の冴えたドラミングがフィーチャリングされている構成にもセンスが光る。アルバム『THE PROTEST JAM』はライブトラックを核に構成された作品群だが、その先のSHAGの現在進行形を提示したのが今回のリキッドルーム公演であり、音の会話を通して深めあったメンバーがさらに自由に音楽を楽しんでいることが感じられた。そしてライブは後半戦へ。



「ものすごく由緒正しいジャズスタンダード。セロニアス・モンク作曲の『ROUND MIDNIGHT feat. 類家心平』」──SUGIZO

真夜中にいざなわれるようなムーディな音像からSUGIZOのエモーショナルなソロ、類家のビッグバン級のトランペットが突き抜け、その熱量に呼応するようにKenKenが「自由!」「サイケデリック!」と叫ぶ。そしてフリーなイマジネーションを交換し合う怒涛の「Jam in the Plandemic」へと移行。よしうらと松浦のリズムの応酬も含め、ジャンルも時代も関係なし。ジャズロックバンド、SHAGの宇宙が広がっていく。カオスの神秘に脳味噌をのっとられ、ラストはSUGIZOが敬愛する今は亡き近藤等則との共作曲「Pray for Mother Earth」でライブ本編が締めくくられた。魂のヴァイオリンの調べ、美しく尊い地球への祈りを込めたような楽曲が全てを浄化するように響いてきた。

アンコールでは未来のSHAGについてSUGIZOとKenKenが言及した。

「SHAGが最高なのは、ルールがないから爆発的なのよ。心の解放ができる。ジャムのシーン、インストのシーン、即興のシーンを大きくしたいんです」──SUGIZO

また、紛争が絶えず、状況が厳しくなっている今の時代を「いろいろなことが分断していて、さまざまなことが正直、かなり落っこちてきてる。だからこそ、音楽がとても重要で、異なるカテゴリーがミックスしてお互いを理解し合うことがすごく重要。他者と共存したり、自分と違ったことを受け入れられることができる平和な音楽だから」とSUGIZOは定義づけた。KenKenは、「俺ら、最高のプレーヤーを集めるから、最高の友達、連れて来てよ」と呼びかけた。


そしてステージに呼び込まれたのは京都を拠点に活動しているバンド、NABOWAのヴァイオリニスト、山本啓(ヒラク)。キーだけを決めただけの状態で、その場で即興演奏。SHAGの音の洪水の中、山本も全霊で熱いプレイを奏でた。KenKenの言うように、今後はSHAGと一戦を交えるミュージシャンたちが増え、客席から飛び込み参加なんてことも起こりえるのかもしれない。その熱量のまま、アルバムのエンド曲「ANTI-WARⅡ」に雪崩れ込み、怒涛のエンディングを迎えた。

「どうか音楽を好きでいてください!」──KenKen
「ありがとう。最高でした」──SUGIZO

SHAGのエネルギッシュで平和なる進撃は、今再び、始まったばかりだ。

取材・文◎山本弘子
撮影◎田辺佳子

■<THE PROTEST JAM for PEACE>2022年7月4日(月)@東京・LIQUIDROOMセットリスト

ANTI-WAR I
THE CAGE
Initiation of Rebellion
KAMOGAWA~天一FUNK
Rebellmusik
FATIMA
MEGUROGAWA
Round Midnight
Jam in the Plandemic
Pray for Mother Earth
-アンコール-
Improvisation
ANTI-WAR II

■ライヴ・ジャム・シリーズ<What is Jam? “Vol. 1 – New Dawn”>

2022年8月11日(木) 東京・渋谷 Contact
open17:00 / close23:00
※音楽の多様性・可能性に満ちたヴァイブラントなライヴ・ジャム・シリーズ開催。ライヴ・セットにはSUGIZO率いるサイケデリック・ジャム・バンドSHAGが4人編成(SUGIZO [g], KenKen [b], 別所和洋 [key], 松浦千昇[dr] )で登場。そして、TOKUを中心として今年結成されたばかりのThe Free Nationがジャズ、ポップスを横断する幅広い音楽性と即興演奏を披露する。さらに、SUGIZO&HATAKEN、キーボードの魔術師坪口昌恭が参加。終盤にはSUGIZO&KenKenをホストに、出演者全員が入り乱れて参加するジャム・セッションのセットが設けられる予定。
https://www.contacttokyo.com/schedule/what-is-jam-vol-1-new-dawn/

■1stアルバム『THE PROTEST JAM』

2022年7月1日(金)リリース
【CD (SHM-CD)】SPTC-1011 ¥3,300(税込)
レーベル:SEPHIROT
▼収録曲
1. ANTI-WAR I (アンティ・ウォー・ワン) [01:33]
2. THE CAGE (ザ・ケージ) [08:25]
3. Initiation of Rebellion (イニシエーション・オブ ・レベリオン) [08:47]
4. FATIMA (ファティマ) [12:42]
5. Rebellmusik (レベルムズィーク) [07:34]
6. Round Midnight (ラウンド・ミッドナイト) [04:32]
7. Jam in the Plandemic (ジャム・イン・ザ・プランデミック) [11:15]
8. ANTI-WAR II (アンティ・ウォー・トゥー) [02:31]

▼SHAGメンバー
SUGIZO:Guitar, Violin (LUNA SEA、X JAPAN)
KenKen:Bass (RIZE、LIFE IS GROOVE
類家心平:Trumpet (RS5pb、菊地成孔ダブ・セプテット)
別所和洋:Keyboard (パジャマで海なんかいかない)
よしうらけんじ:Percussion
松浦千昇:Drums (Yukino & Glanax)

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