【インタビュー】長屋晴子(緑⻩⾊社会)、ミュージカル『ジャニス』を語る「エタの二面性を表現したいと思っています」

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8月23⽇、25⽇、26⽇の3日間、東京国際フォーラムホールAでBiSHのアイナ・ジ・エンドがジャニス・ジョプリン役を務めるブロードウェイミュージカル『ジャニス』が上演される。『ジャニス』の概要や、主演のアイナ・ジ・エンドインタビュー、各出演者のコメントは先ごろ公開したとおりだ。これに続いて今回は、アレサ・フランクリン役のUA、ニーナ・シモン役の浦嶋りんこ、オデッタ&ベッシー・スミス役の藤原さくら、エタ・ジェイムス役の⻑屋晴⼦(緑⻩⾊社会)の個別インタビューをお届けしたい。

◆ミュージカル『ジャニス』画像

長屋晴子が演じるのは1960年代のR&Bシーンを牽引し、アレサ・フランクリンと比較されることも多いエタ・ジェイムスだ。イタリア人の父とアフロ・アメリカンの母の間に生まれたエタは祖父母に育てられ、そのずば抜けた歌唱力が評価されて14歳の頃からミュージシャンとしての活動を開始。R&Bやソウルの多くのヒット曲を放ち、一時はドラッグ依存に苦しむものの、1994年にはビリー・ホリディの曲をカバーし、グラミー賞のジャズ・ヴォーカル賞を獲得している。初ミュージカルで伝説のシンガーを演じることに最初は不安しかなかったという長屋の背中を押したのは総合プロデューサーである亀田誠治から贈られた言葉だったという。同じシンガーとして共通項を見出し、自分なりのエタを演じたいという彼女の今の心境を聞いた。

   ◆   ◆   ◆

■バンドとは全く違う世界
■今は挑戦だなと思っています

──キービジュアル撮影を担当したレスリー・キーさんとの撮影現場はいかがでした?

長屋:私が演じさせていただくエタ・ジェイムスはヴィジュアルも含めて、ふだんの自分とはすごく違うキャラクターなので。レスリー・キーさんからポーズだったり表情だったりのヒントをいただいて、撮影するうちにどんどん気持ちが出来上がっていく感じでした。

──レオパード柄の衣装がカッコよくて新鮮です。キーさんからはどんなアドバイスがあったのでしょうか?

長屋:「微笑んで」って言われました。前を向くイメージでしたね。

──エタ・ジェイムスを演じる実感が湧いてきたのでは?

長屋:衣装を着てメイクをして、“自分がエタの格好をすると、こんな感じになるんだ”って実感しました。


──ミュージカル『ジャニス』の出演オファーが来た時にはどんな気持ちになりましたか?

長屋:ミュージカルや舞台を観るのは好きで興味はあったんですが、バンドとは全く違う世界だと思っていたんです。お話をいただいた時は嬉しい反面、曲を作って自分の気持ちを表す形とはベクトルが違う表現なので、“私に務まるのかな”という不安はありました。

──今はその気持ちに変化も?

長屋:はい。今は挑戦だなと思っています。初めての経験をたくさんすることになると思いますが、全部自分にとってプラスになっていくような気がしていて。これからの緑黄色社会にもいい影響をおよぼしてくれると思っているんですね。新しい扉が開かれる気がして今は楽しみです。亀田(誠治/『ジャニス』総合プロデューサー)さんと打ち合わせさせていただいた時には、まだ不安でいっぱいだったんですが、「大丈夫だよ」って優しく接してくださって。自分でもビックリしたんですが、泣いちゃったんです。抱えていたものが一気に溢れ出したみたいに。

──その時、亀田さんはどんなことをおっしゃったんですか?

長屋:まだ私が歌うエタ・ジェイムスの曲を聴く前の段階だったんですけど、以前、音楽番組で私の歌を聴いてくださったようで、「その時に感じたものがあったから、君を選んだんだよ」って言ってくださったんです。「僕たちがサポートするから、絶対大丈夫だよ」という言葉に安心したし、救われました。緑黄色社会のメンバーやスタッフにも背中を押してもらって、100%エタのように歌えるわけではないけれど、私なりのエタと自分らしさを表現したいと今は思えています。

──そもそも長屋さんは亀田さんにどんな印象を抱いてらしたんでしょうか?

長屋:もともと東京事変さんが大好きで高校生の時にコピーしていたんです。「透明人間」という曲なんですが、本当に晴らしくて。どのパートをとっても洗練されていて、カラフルでメンバー全員の個性が際立っている東京事変さんは、当時の緑黄色社会が目指す理想的なバンドのイメージだったんです。メンバーみんな聴いていたので憧れの方とご一緒できるのも、とても嬉しいです。

──亀田さん率いる凄腕バンドメンバーとステージに立つこと自体、楽しみですね。

長屋:はい。自分でもいつも不思議だと思うんですが、一緒に演奏する方々や楽器の音色が違うだけで、歌い方や声色まで変わってくるんですよね。歌の表情だったり、リズムの取り方だったり、“こう来たなら、こう歌おう”ってアドリブ的に変えたり。そういう化学反応を何度も経験しているので、今回も知らなかった自分に出会える気がしてすごく楽しみです。メンバーは素晴らしい方ばかりなので、歌の引き出しも増えるんじゃないかなって。


▲Photographed by Leslie Kee
(L to R):⻑屋晴⼦(緑⻩⾊社会)、UA、アイナ・ジ・エンド、藤原さくら、浦嶋りんこ

──では改めて、長屋さんが演じるエタ・ジェイムスについてご紹介していただけますか?

長屋:エタはジャニスが影響を受けたソウルフルで力強い歌声が印象的なシンガーで。その一方で、すごく繊細な心を持ち合わせている方なんじゃないかと思っているんです。エネルギッシュでナイーヴという相反する面を持ち合わせているのが彼女の魅力に繋がっているんじゃないかなと。自分も落ち込んだり悩んでいる時ほど、ライブでパワーが出ることがあるんですね。彼女とは時代も背景も違いますが、出自や境遇などから負い目を感じることがあったのかもしれないですし、悔しさから薬物に手を出してしまったのかもしれないなって。当時の社会や彼女の葛藤をすべて理解することはできないですが、自分なりに解釈してエタの二面性を表現したいと思っています。

──もしかしたらジャニス・ジョプリンも彼女の歌のみならず、エタ・ジェイムスの生き様にも魅かれたのかもしれないですね。主人公のジャニスにはどんな印象を抱いていますか?

長屋:ジャニスの曲はCMや街中で流れていたので、自然と耳にしていたんですね。だから後になって、“あれがジャニスだったんだ!”って、改めて楽曲の素晴らしさを感じましたし、偉大さも感じました。本当に魂で歌っていて、だからこそ、これほど多くの人たちの心を動かすんだなって。聴けば聴くほど見れば見るほど。魅力的だなと思いますね。

──激しく燃え尽きるような生き方についても?

長屋:そうですね。彼女もいろいろな葛藤や悩みを抱えていたんだろうし、私自身、共感する部分もあります。最初は音楽が自分の気持ちを吐き出す表現手段だったんですけど、自分のためではなく誰かの音楽に変わっていく瞬間がきっとあると思うんです。そこで壁にぶつかったり障害を感じて。ジャニスも自由に音楽ができなくなると思った時期があったんじゃないかなと思います。

──ブロードウェイで上演されたミュージカル『A Night with Janis Joplin』の映像もご覧になったんですよね。

長屋:はい。コンサートのようなミュージカルを観るのは初めてだったので、すごく新鮮でしたし、素晴らしい内容でした。もちろん英語なので、わからない部分もあったんですが、言語を超えた音楽の魅力に改めて衝撃を受けましたね。エタ・ジェイムス役の方が登場する瞬間から堂々としていてカッコいいんです。“この部分では自分ならこうするな”って参考にしつつ、いろいろな角度から見ました。

──ジャニスを演じるアイナ・ジ・エンドさんを始め、日本版にも素晴らしいキャストが出演されますが、共演者の方々の印象についてはいかがですか?

長屋:主演のアイナちゃんとはイベントや番組で何度か一緒になったことがあったんですね。で、『ジャニス』の話が決まった後に共演する機会があって、その時に深くお話させてもらいました。とても愛嬌のある方で、アイナちゃんのほうから話しかけてくれたのがすごく嬉しかったんですね。「今度、一緒に作品観ようよ」って盛り上がったり。藤原さくらちゃんはウチのメンバーが仲が良いので間接的にお話は聞いていて、同世代なので共演できることが嬉しいです。UAさんと浦嶋さんとは初対面ですが、『ジャニス』には素晴らしい女性ボーカルの方々が一堂に会するので、刺激的でしかないですね。どんどん吸収していきたいと思います。

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