【ライヴレポート】J、25周年公演<pyromania is back>に新たな普遍性「今という瞬間を常に大事にして欲しい」

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人間の記憶著貯蔵量には限りがあるようで、日々、新たな経験を重ねていくにつれ、古い記憶は削除されていったりディテールが曖昧になっていったりするものだ。今から25年前のことを皆さんはどれくらい正確に憶えているだろうか? もちろんその当時まだ生まれていなかった読者もいるはずだが、Jにとって四半世紀前の記憶はいまだに鮮明なままであるようだ。

◆J 画像

2022年の今年、Jはソロ活動開始から25周年を迎えている。当然ながらそれは彼個人に限ったことではない。1997年はLUNA SEAの5人がそれぞれ個人単位での活動に集中していた年にあたり、メンバー全員がソロ活動というものを始めてから25年という等しい時間を経てきた。去る5月、彼は筆者が行なったインタビューの中で次のように当時の心境を振り返っている。

「当時、LUNA SEAというバンドはものすごい勢いで東京ドームまで上り詰めていって、日本の音楽シーンの中で自分たちなりの世界観っていうものを作ってきて、そのシーンの中で理解できたこともあれば、まったく理解できないこともやっぱり存在していた。日本では自分がどこに属しているのかが理解できつつあったけども“世界の中で自分はどこにいるんだろう?” “バンドではなく1人になった時、自分はどこにいるんだろう?”という想いもあった。そこで自分自身を試してみたかった。幸いなことに当時のバンドのスケール感という意味でも、いろんなことに挑める環境にあったし、誰にでもそういう挑戦が可能というわけじゃない。だからこそ自分たちはやらなくちゃ、という使命感みたいなものもあったと思う。もちろんバンドとしてはひとつの塊になるんだけど、各々に当然のように個性があったし、“自分自身はこうなんだ!”というものも示したかった。しかもそれは奇をてらったようなものではなく、邦楽・洋楽の垣根や時代性も関係なく、'90年代という時代感の中でリアルに呼吸している自分ならではの世界というのを作っていきたいという願望があった」──J

そんな気持ちに突き動かされながら彼が作り上げたのが『PYROMANIA』だった。ロサンゼルスでレコーディングされたこの衝動的なアルバムは1997年7月24日に世に放たれている。そして、その発売日からちょうど25年を経た2022年の同じ日、JはZepp DiverCity Tokyoのステージに立っていた。この日のライヴに掲げられていたのは<J 25th Anniversary Special Live「PYROMANIA 2022 -pyromania is back-」>というそのものズバリのタイトル。ただ、そこで筆者が少しばかり気にかかったのは“pyromania is back”という言葉だった。あの当時に彼が解き放った炎は、それ以降もずっと燃え続けてきたし、彼自身がどこか違う世界へと立ち去ってしまったわけでもない。だから“放火魔が帰ってきた”という言葉は現実に沿っていないように思えたのだ。



場内が暗転したのは開演予定時刻の午後5時を20分以上過ぎてからのことだった。それまでずっと流れていたLED ZEPPELINが止み、Jの登場を促すかのように自然発生していた手拍子の音が映画『バットマン』のテーマ曲にかき消される。そういえば『バットマン』のシリーズには『バットマン・リターンズ』という作品があるが、主人公の帰還という意味においては“pyromania is back”にもそこに重なるところがあるのかもしれない。いつのまにかメンバーたちが配置に就き、ステージ中央に躍り出てきたJが「Alright Tokyo! 飛ばしていくぞ!」とオーディエンスに号令をかけるかのように扇動の言葉を投げつけ、オープニング曲のタイトルをコールする。記念すべき夜の1曲目は当然のように1stアルバムの表題曲にあたる「PYROMANIA」だ。4人の演奏者の音がバチバチにぶつかり合うような研ぎ澄まされた激音。Jは「聴こえるか?」と呼びかけるが、聴こえないはずがない。

この曲の間奏部分では観衆がライターの炎を掲げることが常になっている。もちろん本来ならば客席内は火気厳禁ということになるが、それが特例的に許されているのは、彼のオーディエンスが“守る必要のあるルールには従う”ことが実証されてきたからだ。彼のライヴ中、そのごく短い時間以外に火を灯そうとする観客は一人もいない。



コロナ禍でさまざまな規制が伴う状況が続いている昨今においても彼は“条例などに則った状態で、それがなかった当時と同じ熱を求める”というチャレンジを続けてきた。そうして成功例を重ねていくことが本来のあるべき日常を取り戻すために不可欠であることを知っているからだ。実際、そうした挑戦や試行は今になって始まったものではない。四半世紀前、オールスタンディング形式のライヴに免疫のないファンも少なくなかった当時には“あとから入場したはずの人が自分よりも前方で観ている” “知らない客ぶつかってきた” “足を踏まれた”といった苦情も寄せられていたという。なかにはそれを理由に彼のライヴに足を運ばなくなったファンもいたのかもしれないが、そこでJが目指したのは“新たな秩序”のようなものを作ることだったに違いない。

そうしたものを定着させ、根付かせていくためには、当然ながら時間も必要だし、大人たちを頷かせるための折衝も欠かせない。Jはパンク然とした破壊欲求の強い人物でもあるはずだが、既成のものをぶち壊せばそれで気が済むという破滅的な思考の持ち主ではない。要らないものや腐ったものは大胆に切り捨てながらも、捨てる必要のない武器は大切に磨いていく。それが従来の常識から掛け離れたやり方だったとしても、リスクを恐れずにまずは挑んでみる。そうしたことを長年にわたり続けてきたからこそ、彼が25年前に放った火は、今も燃え続けているのだろう。

あまりにも象徴的な「PYROMANIA」に続いて、Jが無伴奏で歌い始めたのは「BUT YOU SAID I’M USELESS」。その歌声を追うように演奏が始まり、激しくも心地好いグルーヴが場内を巻き込んでいく。このご時世だけに、本来はスタンディング形式であるフロアにも座席が規則正しく並べられた状態ではあるし、観客はマスクの常時着用を求められ、大声を出すことが叶わない。ただ、それでも身体を揺らすことはできるし、手拍子の音量が制限されているわけではない。ステージ上の4人に大合唱で応えることはできないながらも、オーディエンスは極上の一体感を味わっていたはずだ。歌詞の途中、“F”で始まるワードが飛び出す箇所で中指を立てるタイミングも完全にシンクロしている。



この曲に続いて「ONE FOR ALL」と「A FIT」が披露され、青い照明に染まりながら「LOOP ON BLUE」へと繋がっていく。Jがパンキッシュな衝動ばかりではなくブルーズロック的な普遍性をも求めていることを実感させるこの曲は、まさしくブルーな気持ちが延々とループしていくかのような空気を漂わせながら、かつて彼のライヴ全体における起伏の“谷”の部分を担っていたものであり、同時にそこがひとつの山場になっていたともいえる。『PYROMANIA』の他の収録曲についても同じことがいえるが、この曲も当時の彼が理想を体現するにあたって不可欠なピースのひとつだったということだろう。そこに改めて気付いた時、僕は、自分がこの夜に向けて膨らませていた想像が間違っていなかったことを確信した。そして、ステージ上のJ自身が吐いた言葉がそれを裏付けることになった。

「25年前の今日、あの忌々しい、俺のソロ1stアルバムがリリースされました。それを記念して、当時そのままのセットリストでガンガンに盛り上がっていきたいと思います。鮮明にすべてを思い出せるくらい、焼き付けていってくれ!」──J

『PYROMANIA』の誕生25周年を祝うにあたり、Jは同作の完全再現ではなく、あの当時のライヴと同じ選曲・曲順でプレイすることを選んだのだ。名盤と呼ばれる作品のアニヴァーサリーの際には、その作品の全曲を収録順通りに披露するライヴを実施するバンド/アーティストも少なくないが、Jが今回のライヴのために選んだテーマはいわば“1997年当時のライヴ空間へのタイムスリップ”だったのだ。近年の鉄板セットリストの中に『PYROMANIA』を組み込むという手法も可能だったはずだが、こうした選択をとったのは、J自身が完全にまじりけのない『PYROMANIA』の世界を再提示することを望んだからだろうし、それによって何かを再確認できるはずだという想いを抱えていたからだろうと想像できる。ただし、同じ演奏メニューが組まれていようと、25年前とまったく同じにはなり得ない。なにしろJ自身もオーディエンスの側も、等しい時間経過の中で、それ相応の経験値を身につけているのだから。


この日のライヴ本編は、「PUNK FLOYD」と命名されたジャムパートをカウントしても全12曲、アンコールを含めても全14曲というコンパクトなものだった。そして具体的なことを言えば、1997年当時のJには『PYROMANIA』というアルバム1枚と、「BURN OUT」と「CALL ME」(BLONDIEのカヴァー)が収録されたシングル1枚しかなかった。ジャムパートが設けられていたのも、「CHAMPAGNE GOLD SUPERMARKET」で延々と演奏を続けながら客席を煽る場面があったのも、そのためだったといえる。

ただ、そうした場面こそがJならではのライヴの空気感というものを育んでいくことになった。その「CHAMPAGNE GOLD SUPERMARKET」の後半、本来ならばフロアを埋め尽くしたオーディエンスがハジケまくり、人の波をサーフする者たちが続出する光景を目の当たりにするはずだった場面でも、あいにく今のご時世、誰も自分の席を離れることはできないし、大声を出すことすら禁じられている。しかしそこで筆者が感じさせられたのは、不自由な息苦しさよりもむしろ“衝動の成熟”とでもいうべきものだった。そこでクラウドサーフなどに興じることができなくても、感覚の持ち方次第でそれに勝るとも劣らない興奮を味わえることを実感した観客は、実際、少なくなかったのではないだろうか。

約束の曲ともいうべき感触を伴う「ACROSS THE NIGHT」、途切れない熱を象徴する「BURN OUT」をはじめ、彼自身と共鳴者たちにとって大切な曲が次々と繰り出されていった末に炸裂したこの曲に、そうした印象深さを感じずにはいられなかった。また、同楽曲の際、背景が「WAKE UP MOTHER FxxKER!」というキーワードが描かれたグラフィティ調の巨大バックドロップに切り替えられた瞬間にも、改めて目がさめるような興奮をおぼえた。


アンコールに応えてふたたびステージに姿を現したJは『PYROMANIA』について「怒り、憤り、願い、悲しみ、仲間たちへのメッセージ……25年前の想いすべてが詰まっている」作品だとオーディエンスに告げた。実は前述のインタビューの中でも、彼は次のように語っている。

「当時の自分自身が感じてた疑問とか憤り……シーンに対しても、自分自身に対してもそれはあったし。そこで自分の身のまわりにあるものに対して、全方位に向けて“俺はこうなんだ!”って狼煙をあげたようなアルバムだったと思うんです、『PYROMANIA』というのは。今、同じことができるかって言われたら、多分できない。やっぱりあの当時のエネルギーというのは、いろんなものを見たり聴いたり感じたりすることによって、ものすごく濃いものとして膨れ上がっていたと思うから。もちろん今はそれが薄まってるという話ではないんだけど、なんかこう、扉を開ける前の状態にある時の絶対的なエネルギーってものが、若さには存在するはずだから」──J

『PYROMANIA』に満ちていたのは、まさにそうしたエネルギーだった。しかもそのエネルギーを、より熟成され、精製された状態で今現在のJは持ち合わせているのではないだろうか。彼は「同じことをやるにしても、やり方そのものがが違うんじゃないかなと思う。同じ結果を求めたい場合でも、あの当時と今とでは。だからこそ若い世代の人たちには、常に“今”というその瞬間を大事にして欲しいなと思う」とも語っている。


アンコールで披露されたのはTHE DAMNEDの「NEW ROSE」、そしてフランク・シナトラをはじめとする数々の先人たちの名唱で知られる「MY WAY」。前者はTHE DAMNEDの、そして後者は当然ながらSEX PISTOLSのシド・ヴィシャスの歌唱による破壊的ヴァージョンのカヴァーだ。この2曲も1997年のJにとっては持ち駒が少ないゆえの選択ではあったはずだが、シドの写真を目にしたことで人生が変わったという背景を持つ彼にとって、それが単なるカヴァー以上の意味を持っていたことは言うまでもない。

Jが歌う「MY WAY」を聴きながら、SEX PISTOLSの『NEVER MIND THE BOLLOCKS』が世に出たのが1977年だったことを思い出していた。それから10年後にあたる1987年には、GUNS N’ ROSESの『APPETITE FOR DESTRUCTION』が登場している。どちらもロックミュージックの歴史を変えた作品である。そして、それからさらに10年を経て生まれた『PYROMANIA』もまた、変わり続けていく時流の中で変わっていく必要のないものとして生まれた“新たな普遍性”のひとつだったのだ。そんなことを改めて感じさせられた一夜だった。

取材・文◎増田勇一
撮影◎田辺佳子

■<J 25th Anniversary Special Live「PYROMANIA 2022 -pyromania is back-」>7月24日(日)@Zepp DiverCity (Tokyo)セットリスト

01. PYROMANIA
02. BUT YOU SAID I'M USELESS
03. ONE FOR ALL
04. A FIT
05. LOOP ON BLUE
06. PUNK FLOYD
07. ACROSS THE NIGHT
08. WHAT'S THAT MEAN?
09. CALL ME
10. LIE-LIE-LIE
11. BURN OUT
12. CHANPAGNE GOLD SUPER MARKET
encore
en1. NEW ROSE
en2. MY WAY


■LIVE Blu-ray『J 25th Anniversary Special Live「PYROMANIA 2022 -pyromania is back-」2022.7.24 Zepp DiverCity Tokyo』

F.C.Pyro会員限定販売
完全受注生産
※詳細はオフィシャルサイトにて近日発表

■<F.C.Pyro. 20th Anniversary SPECIAL「J BIRTHDAY LIVE -20220812-」>+生配信

8月12日(金) 東京・渋谷Spotify O-EAST
open18:15 / start19:00
▼チケット
¥6,500(税別/当日ドリンク代別)
※立ち見 (スタンディングポジション/入場整理番号付)
※ファンクラブ会員限定公演のためチケットの一般発売はありません
F.C.Pyro. SITE:https://fcpyro.jp

【生配信概要】
生配信:2022年8月12日(金)
開演19:00
▼配信チケット
¥4,500(税込)+別途手数料
番組視聴:https://live.nicovideo.jp/watch/lv337818988
【アンコール放送概要】
配信:2022年8月13日(土)
開始時間:21:00
▼配信チケット
¥4,500(税込)+別途手数料
番組視聴:https://live.nicovideo.jp/watch/lv337820647

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