【コラム】星野源、「喜劇」「異世界混合大舞踏会 (feat. おばけ)」に宿る創造力と想像力

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星野源が今年4月にリリースした「喜劇」の中にある<私の居場所は作るものだった>という一節は、作ること、“創造”という在り方を通して世界や自己を眼差してきた星野が歌うからこそ、とても説得力がある一節だ。彼の、そのあまりに個性的で濃密なキャリアを振り返ってみても思う。音楽をはじめとして、星野が何かを創造するとき、それはすなわち、「居場所を作る」ということと同義だったのではないかと。力で奪い取る類の居場所ではない。夢想しながら自分の世界を生きる無邪気な子どものように、彼は彼の創造力と想像力を駆使して、居場所を作り続けてきた。そして、私たちはそこに招かれた。星野源の音楽が魅せる、あの目がくらむようなイマジネーションの躍動、楽曲の細部への精緻なこだわりが、聴き手に高圧的な息苦しさを与えず、むしろ柔らかく寄り添うような質感を持っている理由もまた、この<私の居場所は作るものだった>という一節には表れているように感じる。


アニメ『SPY & FAMILY』のエンディング主題歌として書き下ろされた「喜劇」。この曲は、リリースされるやいなや世界中の人々を招き入れる「居場所」になった。同曲はSpotifyのグローバル・バイラル・チャートにもランクインし、アジア地域にとどまらず、アメリカをはじめ北南米エリアの様々な国のバイラル・チャートでも上位を記録している。こうやってチャートアクションの好調さを書き記すことは、記事の書き手にとってはときとして冷ややかな感触のある行為なのだけど、星野に関しては、そうは感じない。これは誰かの「力」の痕跡を記録する行為ではなく、言語や地域を超えた自由な音楽のコミュニケーションが今まさに世界で巻き起こっている── そんな幸福な現実を書き記す行為なのだと、自信を持てる。6月の終わりに、この「喜劇」を気に入ったというDJ JAZZY JEFFとKaidi Tathamによるリミックスバージョンがリリースされたことも、この楽曲の「居場所」としての吸引力を証明する出来事だ。冒頭からハッとさせられる、メロウで優雅なリミックスだ。


7月にリリースされた映画『ゴーストブック おばけずかん』の主題歌「異世界混合大舞踏会 (feat. おばけ)」についても触れたい。「喜劇」はmabanuaと長岡亮介を迎えた3人という少人数で制作されたことも、あの親密なアンビエンス漂うサウンドの手触りに繋がっていたと思うが、「異世界混合大舞踏会 (feat. おばけ)」では、そのmabanua、長岡に加え、海野雅威も間奏に参加。星野源のホームページでも参照できる楽曲クレジットには大量の機材が書き連ねてあるが、多層的な音像で耳を喜ばせながらも、身体にはシンプルに伝わってくる滑らかなグルーヴ感、そのバランス感覚に、「先鋭」と「ポップ」を重ね合わせる星野源の真骨頂を感じる。この曲には、さらに『ゴーストブック』に登場する「おばけ」たち──図鑑坊 (釘宮理恵)、一反木綿 (下野 紘)、山彦(杉田智和)──もコーラスで登場する、チャーミングで、聴けば一緒に踊り出したくなるような1曲である。星野が描けば、おどろおどろしいはずのおばけたちも、可愛らしい友達に変わる。歌詞をよく読んでいけば、この歴史の中で、人は何故、「おばけ」という見えないものを語り継ぎ、必要としてきたのか──そんな遥かな問いが頭をよぎる。そこにはきっと、恐怖も祈りもあるのだろう。


そして、アニメーターの五十嵐祐貴が監督したミュージックビデオも楽しいこの曲にもまた、星野なりの「創造」と「想像」への期待と希望が刻まれている。彼はこう歌う。<嘆く民に 多様な神に 行き詰まるこの地球に きみが創り 化け出る>──この世界の複雑さを前に、「時代」という病を前に、解決されない悲しみを前に、人間という生き物の愚かさを前に、人はひとりで産まれてひとりで死んでいくという純粋で平等な孤独を前に、それでも、創ること。創り続けてきたこと。そうやって生きてきたことで得た希望を今、星野源は私たちに伝えようとしているのではないか。誰もが何かを創りながら生きている。それは高尚な作品でなくてもいい。妄想でも、料理でも、スケジュールでもいい。創っている。呼吸を、心を、感情を、今という瞬間を、喪失を、思い出を、自分自身を、自分の居場所を、誰かの居場所を、誰もが日々、創りながら生きている。そうやってあなたは今、生きているということを、星野は伝えようとしているのではないか。

ちなみに、この「異世界混合大舞踏会 」の英題は「I Wanna Be Your Ghost」と名付けられている。それを知っていれば、この曲のこんな歌詞もまた、より味わい深く聴こえてきやしないだろうか。

おばけは いるぞ 側で いつも見てるから 覚えててね

  ◆  ◆  ◆

文:天野史彬

「喜劇」


2022年4月8日リリース
※アニメ『SPY×FAMILY』エンディング主題歌
https://jvcmusic.lnk.to/kigeki

「喜劇 (feat. DJ Jazzy Jeff & Kaidi Tatham)」


2022年6月27日リリース
https://jvcmusic.lnk.to/kigeki_remix

「異世界混合大舞踏会 (feat. おばけ)」


2022年7月18日リリース
※映画『ゴーストブック おばけずかん』主題歌
https://jvcmusic.lnk.to/IWannaBeYourGhost

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