【インタビュー】和楽器バンド、『ボカロ三昧2』驚異のサウンドメイク「実現するのが私たち」

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■あのときよりも進化した姿、難易度の高い楽曲をお見せすることになります

──そもそも、最初に和楽器とボカロ曲の相性は「最悪だ」とおっしゃっていましたが、和楽器はそれぞれこういう風に使う、といったセオリーはあるんですか? 例えば箏は使いやすそうだし三味線と和太鼓は疾走感を出すのに役立ちそうだし。でも尺八は使いづらそうだなって思うんです。

鈴華ゆう子:尺八は存在感がすごいから原曲のアレンジの中にどう入れるのかわからない、箏はキーボードのような扱いにできそう、というイメージですよね?

──そうです、そうです。

町屋:それは多分にイメージで、箏はかなり不器用です。転調にほとんど対応できないので。例えば「フォニイ」でいうと、Aメロはもともとのピアノの右手のフレーズを箏に割り振って、左手をギターに割り振るというやり方をしているんですが、Bメロになるともう転調するので、箏で弾ける音が限られてくるんですよ。なので急に手数が減る。だからBメロは三味線がBメロのキーに合わせて三味線が立つように作っていたり。尺八に関して言うと、神永(神永大輔/尺八)は特殊で、一本の尺八でエニーキーが弾けるっていうちょっと変わった奏者なので、サビはギターと尺八で頑張る、みたいな住み分けの仕方ができるんです。ほかの曲でもそういうのはちょいちょいあって。不器用さも言い換えれば武器にもなるので、そこをうまく応用というか、利用してアレンジを作っています。

──なるほど。

町屋:三味線は割とコードトーン中心だから何を入れても音が当たることはないんですけど、箏は音程的に際どいところを攻めるんです。

鈴華ゆう子:箏らしさを出そうとすると、音がぶつかりがちなんですよね。

町屋:そう、ぶつかる音とか際どい音が箏らしさの要因のひとつなので。尺八は箏のフレーズと歌の旋律の関係性を知りながら、自分がどの辺で吹くかということを意識するのが多分すごく重要なんですけど……今回、ディレクション中に一番強く当たったのは、神永だと思います。

──え、どうしたんですか!?

町屋:彼ね、曲聴いてこないんですよ。

一同:爆笑

町屋:現場でいきなりアドリブで吹き始めるんです。アドリブじゃあもう対応しきれないくらいしっかりアンサンブル作ってあるから、「ちゃんと曲聴いて譜面見て、周りのアンサンブルちゃんと覚えた上でフレーズ作ってきな」って言って一回帰したことありましたね(笑)。

黒流:曲聴いてこないのは本当に全員一致でダメ(笑)。

──ある意味、神永さんはその場でなんでも吹けてしまう天才型の奏者、という証明でもありますけど!

山葵:それはそうなんですけど、カットせず書いておいてください! 本人の戒めのために(笑)。「ダメ、絶対。」って。


──気を取り直して(笑)、それぞれ印象的だった曲についても聞いていきたいと思います。

鈴華ゆう子:全てが刺激的で印象的なので難しいんですが……高音・高速・跳躍という意味では「フォニイ」。リードにしようと決めていたので、これをどれだけ歌いこんで私の良さを出してみなさんに届けるかというところで自問自答しました。自分が成長しないといい歌歌えないなって思って、ボイトレの仕方も含めてかなり真剣に向き合った曲なんですよ。主メロのキーが、いつもと喉の使ってる部分が全然違って、新しい声域の開拓という意味でも向き合い直した曲です。

──ボカロってそもそも機械だから声自体には感情がないじゃないですか。それをどういう風に自分の中に落とし込むのでしょうか。

鈴華ゆう子:曲が決まってまずは、この技術はここに取り入れよう、これはこんな風に歌おう、と言う表を作りました。そこから詞を把握して、どの演技をしようかな、と女優になりきって歌いました。実際に歌う際は目の前にキーボードがある感覚で、そこにしっかり音をはめていく。ただ、それが機械的になってはつまらないし、どうやったら自分らしく歌えるかというところはかなり意識しました。各曲のキーに関しても、今回は結構チャレンジしてて。いつもより5度とか6度高いんですね。新たな自分の声域が開拓され、さらに新しいキャラクターが生まれたなって思ってます。



──「フォニイ」の場合は、具体的にどのようなイメージで歌いましたか?

鈴華ゆう子:裏声を地声のように使って歌うとどう聞こえるか何度も繰り返しているうちに、ちょっと大人っぽさを感じたんですね。原曲は私よりも年齢が低めの可愛いらしい感じに聴こえていたので、その女性が経験値を得てちょっと大人になったイメージで歌いました。「歌ってみた」も色々聞いたんですが可愛い声ばかりで、この歌い方なら私じゃないほうがいいって思ったので、これよりいいものってなった時にすごい考えてできたのが今の「フォニイ」です。

──ほか、歌の表現が面白いなと思ったのは、「Surges」や「ド屑」でした。

鈴華ゆう子:「Surges」は爽やかに淡々と歌ってます。「ド屑」に関しては逆にガクッと年齢を下げて、感情表現が上手じゃない子のイメージで歌いました。中盤の詩吟ぽい部分は、二重人格というか、二面性を表現しています。

──「ド屑」の感情が見え隠れする感じ、とても良かったです。「紅一葉」「Fire◎Flower」などは、いつものゆう子さんのスタイルで歌ったのかなと感じました。

鈴華ゆう子:めっちゃ歌いやすかったです。「Fire◎Flower」、まっちーは過去にニコニコ動画でいろんな人のバックで何十回もこの曲を弾いてきたんですが、「今まで聴いてきた「Fire◎Flower」の中で一番いい」って言ってくれて。難しい曲が並んで疲弊し始めてた最後の方に録ったんですけど、それで元気をもらって、気持ちよく歌えました。そういうのびのびした感じが出せたんじゃないかなと思います。メンバーに褒められるのって、アガるんですよね。そのときから、「Fire◎Flower」はライブのラストに歌いたいねって言ってました。

町屋:昔、ニコニコ動画がイベントを始める前、素人の奏者や素人のイベンターでライブをバンバンやってた時代に、最後は必ず「Fire◎Flower」を演者全員出てきてやるっていうのが割とお決まりだったんですよね。

鈴華ゆう子:そうそう、だからラスト感があるよね。

──そういう、思い出とリンクするのも良いですよね。町屋さんが印象的だった曲といえば?

町屋:「マーシャル・マキシマイザー」ですかね。原曲がものすごく好きなので、そこに対するリスペクトで、なるべく崩したくなくて。でもこの曲、ほとんどギター入ってないんですよ。ギターの入ってない曲にギター入れるのってめっちゃ邪魔くさいんで、どういうアプローチをするかすごく悩みましたね。一回もうギターなし!っていうところまで行き着いたけど、やっぱり入れなきゃダメかなって(笑)。いかに全員のパートの隙間をぬって、かつ原曲のイメージを壊さず、自然にギターが馴染むフレーズを入れていくかってところをすごく工夫しましたね。

──今回、全体的にギターの音作りがロックではなくジャズっぽいのかなと思ったり。

町屋:そうですね。使っている機材も今回ガラッと変えていて、ジャズよりなものになっています。フレージングも全体的にジャジーなものが多いですね。というか、近年のギターのスタイルが、割とジャズ理論を当たり前に駆使したフレーズになっているので。ピアノのようなフレーズをギターで弾くというか。歪みもなるべく抑えて、綺麗な音でピアノのような役割を担うというのが、近年のトレンドですね。なので、そういう技法をメインで取り入れてますね。

鈴華ゆう子:指板がキーボードに見えるくらい、速くタッピングで弾いたりするフレーズが入ってます。


──さすがですよね。

町屋:いやいや。「天ノ弱」のド頭の16小節録るのに6時間かかりましたからね。

──その「天ノ弱」のイントロギターリフ、原曲からガラッと変わって、おしゃフレーズになっていたのもすごく良いなと思っていました。

町屋:「天ノ弱」って知名度高くて、どんな人がカバーしても原曲のギターリフの刻みって印象的ですよね。でも、僕ってすごく歌詞を中心にフレーズを作る人なんですよ。“僕がずっと前から思ってる事を話そうか”と歌っている後ろでギターリフで刻んで、そっと語りかけているところを切り刻むのってちょっと歌詞に寄り添ってない気がして。なるべく歌詞に寄り添うような感じで、かつモダンなプレイスタイルというところで落とし所があんなフレーズになったんですけど、めっちゃ難しいです。ははっ。

──歌詞のことまで考えてのフレージングなんですね。

町屋:そうですね、僕と聖志(いぶくろ聖志/箏)は割と歌詞に寄り添ってフレーズを変えますね。例えば迷いがうかがえる歌詞があったら、わざと音をぶつけたりして葛藤を表現したりします。

鈴華ゆう子:神永先生に聞かせたいですね(笑)。

──いろんなスタイルがありますね。黒流さんは?

黒流:「アイデンティティ」ですね。フレーズを作らずに、その場でゼロから考えたので。

町屋:これ、苦戦しましたねえ〜。

黒流:ドラムが入ったバージョンを聞いて「あ、こうなるんだ」って思ったので、もう幽体離脱して打っているような感覚で、全部のフレーズを打ちました。アドリブと言えるかもしれないです。他は全部まっちーと相談しながら作ったんですけど。

町屋:そう、これはドラムがテクニック的に非常に苦戦したところで、和太鼓はアイディアの面で非常に苦労した曲かもしれないですね。


──和太鼓のおかげで、原曲よりも疾走感が増したように感じました。

黒流:そうですね。リズム隊の2人でサビを加速させたいなという思いがあったので、疾走感は意識しましたね。あと、「ド屑」も和楽器コーナーのところはほぼアドリブでやったかな。これは連絡ミスで、レコーディングの曲の順番が間違って伝えられたからなんですけど。フリーの中間のところをがっちり作ろうと思っていたのをその場で勢いでやったのが、逆に面白い仕上がりになったなと思います。作り込んだものと感覚でやったものは自分の中で差はあるんですけど、聴いてみるとそれぞれの良さがあるなと感じましたね。

──山葵さんはいかがでしょうか。

山葵:色々ありますけど、「いーあるふぁんくらぶ」ですかね。

町屋:初めてちゃんとコーラス録ったもんね。

山葵:中国に憧れて中国語勉強する曲なんで、中国出身の俺が何もしないのも不自然かなと思って。なんかやろう!って。



──曲中のセリフは山葵さんの発案ですか?

山葵:そうです、「まっちー間奏なんかやらせてよ」って頼みました。中国語のセリフをレコーディングしたんですけど、それがいいかどうかは現場の誰にもわからないっていう。

黒流:大丈夫なこと言ってんのかな、ってね(笑)。

山葵:俺の独断です(笑)。そしたらBメロでもやっていいよって。

町屋:いいぞもっとやれ!ってね。

鈴華ゆう子:これ歌録りするとき、最初に山葵が録ってたんですけど、コーラス重ねようと思ったら、すっっごい山葵で(笑)。

山葵:まっちーっていい感じに溶け込むのに、俺って俺だよね。めっちゃ目立つなって思ってた。


──この曲は黒流さんの掛け声も入っていたり、サウンドも華やかだったり、みんな好きなやつですよね。

鈴華ゆう子:わたしも、これはもう楽しく陽気に歌わせてもらいました。

町屋:和洋折衷大団円!って感じだよね。

山葵:べに(蜷川べに/津軽三味線)も最初の「ウー!ハー!」ってとこを声入れてます。

──ライブでやったら盛り上がるでしょうね。

鈴華ゆう子:べには、「それどころじゃないくらい忙しいから無理〜」って言ってました。

山葵:ド頭も、中国の曲なのに「おりゃ!さー!」とか言ってるしね。

黒流:内容的に楽しければなんでもありっしょ!

──ドラムのプレイで印象的な曲は?

山葵:「エゴロック」「アイデンティティ」はテクニック的にかなり苦労しました。あとは先ほども出ましたが、「ベノム」。1枚目の『ボカロ三昧』のときは大幅にアレンジやグルーヴ感を変えて、とりあえず勢いでノリで録っちゃえみたいな曲が多かったんですが、今回もそういう感じでガラッと変えるのがあってもいいんじゃないかと。和楽器バンドの激しいロックな部分が出て、良かったなと思います。

鈴華ゆう子:「ベノム」は、まっちーとの歌い分けも提案しました。それも和楽器バンドらしさの一個かなと思うので。



──まさに『ボカロ三昧2』は和楽器バンドらしさも感じさせつつ、進化したサウンドを魅せる一枚になりましたね。ツアーも始まりますが、ライブでは全曲聴けるのでしょうか。

町屋:全曲やります。『ボカロ三昧』を出したときの<ボカロ三昧大演奏会>のときもツアーで全曲やってすっげえ大変だったんですけど、今回はそのときより公演数が倍くらいになってるし、そもそも1stの時より難易度も高いし、『ボカロ三昧』と『2』の間に「×」を入れたいくらい!

鈴華ゆう子:過去、ライブで倒れたのは<ボカロ三昧大演奏会>の時だけなんです。

──えっ、倒れちゃったんですか。

鈴華ゆう子:酸欠とライブハウスのハウスダストで(笑)。

町屋:そう、当時はまだライブハウスツアーだったんですよ。楽屋にめちゃホコリ溜まってて。

山葵:雪みたいに積もってた(笑)!

黒流:天井が低いから、手をあげたらバーンとあたってホコリが特効の粉雪かのように降ってきたり(笑)。

鈴華ゆう子:そんな思い出もありつつ(笑)、今回はあのときよりも進化した姿、難易度の高い楽曲をお見せすることになります。和楽器バンドの醍醐味ってライブにもあるので、この『ボカロ三昧2』を録るだけじゃなく実現していくのが私たち。『ボカロ三昧2』の曲とパフォーマンスをお届けできる良い機会が、この全国ツアーです。ツアーって重ねるごとにパワーアップしていくので、その進化の過程をぜひ目撃していただけたらと思います。

取材・文◎服部容子(BARKS)
撮影◎Junko Yokoyama

ニューアルバム『ボカロ三昧2』

2022年8月17日(水)発売
■デジタル
2022年8月15日(月)先行配信
iTunes Store予約受付:https://wgb.lnk.to/vocalo_zanmai2_digital
※2022年8月21日(日)23:59までの期間はiTunesスペシャルプライス:¥1,069

■CD
CD予約 ショップページ一覧:https://wgb.lnk.to/vocalo_zanmai2_all
アルバム収録曲(各形態共通):

01. フォニイ
02. エゴロック
03. マーシャル・マキシマイザー
04. Surges
05. 天ノ弱
06. ベノム
07. 紅一葉
08. アイデンティティ
09. グッバイ宣言
10. キメラ
11. いーあるふぁんくらぶ

【Bonus track】
12. Fire◎Flower ※初回限定ボカロ盤にのみ収録
12. ド屑 ※デジタル盤のみボーナストラック

■真・八重流(FC限定)盤
CD(全3形態=初回限定∞盤+初回限定ボカロ盤+CD Only盤) + DVD
PDCS-1929 ¥16,500(税込)
※受注生産限定盤
※トレーディングカード(絵柄A、B、Cのいずれか全9種入り)
※スペシャルBOX仕様
※受注受付終了

【DVD収録内容】
ファンクラブ限定ライブ【真・八重流総会2022】当日密着映像

■初回限定∞盤
CD + Blu-ray
UMCK-7172 ¥6,600(税込)
※トレーディングカード(絵柄A) 全9種類の内1枚ランダム封入

【Blu-ray 収録内容】 8th Anniversary Japan Tour ∞ - Infinity - (全19曲)
Overture〜Infinity〜
Starlight
生命のアリア
千本桜
月下美人
ブルーデイジー
咎首
ウロボロス〜ouroboros〜 第一楽章
ウロボロス〜ouroboros〜 第二楽章
ウロボロス〜ouroboros〜 第三楽章
吉原ラメント
ロキ
名作ジャーニー
ドラム和太鼓バトル・対決列島〜砕打〜
日輪
雨上がりのパレード
Ignite
生きとしいける花
Singin' for...

■初回限定ボカロ盤
CD + DVD
UMCK-7173 ¥5,500(税込)
※トレーディングカード(絵柄B) 全9種類の内1枚ランダム封入
※猫将軍による着せ替えジャケット 2種
※ボーナストラック”Fire◎Flower”収録

【DVD 収録内容】
レコーディングのドキュメンタリー

■CD Only盤
2CD (収録楽曲の全曲インスト入り) ※Instrumental収録は、CD Only盤のみ
UMCK-1717/8 ¥3,850(税込)
※トレーディングカード(絵柄C) 全9種類の内1枚ランダム封入

<和楽器バンド ボカロ三昧2 大演奏会>

【チケット料金】
VIP指定席・VIP着席指定席 前売¥15,000(税込/前方指定席/プレゼント付)
一般指定席・着席指定席 前売¥10,000(税込)

【日程】
2022年
08月27 日(土) 神奈川・相模女子大学グリーンホール 日(相模原市文化会館)
08月28 日(日) 千葉・千葉県文化会館 大ホール
09月04 日(日) 愛媛・松山市民会館
09月10 日(土) 新潟・新潟県民会館 大ホール
09月11 日(日) 群馬・伊勢崎市文化会館
09月14 日(水) 東京・中野サンプラザホール
09月18 日(日) 島根・島根県民会館
09月19 日(月・祝) 岡山・倉敷市民会館
09月24 日(土) 石川・本多の森ホール
09月25 日(日) 長野・ホクト文化ホール 大ホール
10月02 日(日) 愛知・名古屋国際会議場 センチュリーホール
10月09 日(日) 岩手・盛岡市民文化ホール 大ホール
10月13 日(木) 大阪・オリックス劇場
10月16 日(日) 北海道・カナモトホール (札幌市民ホール)
10月22 日(土) 福岡・福岡サンパレスホテル&ホール
10月23 日(日) 鹿児島・宝山ホール(鹿児島県文化センター)
10月29 日(土) 静岡・静岡市民文化会館 大ホール
11月12 日(土) 山口・山口市民会館 大ホール
11月13 日(日) 広島・広島文化学園HBGホール
11月17 日(木) 京都・ロームシアター京都 メインホール
11月18 日(金) 兵庫・神戸国際会館 こくさいホール
11月20日(日) 茨城・ザ・ヒロサワ・シティ会館 大ホール
11月25 日(金) 宮城・トークネットホール仙台(仙台市民会館)

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