【ライブレポート】 Kroiの961便に乗って、どこまでもドープな世界へ

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8月12日、Zepp HanedaにてKroiのフリーライブが開催された。Kroi史上初のフリーライブはフロアステージ形式で行われ、彼らの周りを囲むようにオーディエンスが招かれた。ちなみに、このスタイルでのライブパフォーマンスはZepp Hanedaにとっても初の試みだという。当日の模様は生配信も実施され、リアルタイムで5000人弱の人々がYouTubeを通して彼らを観ていた。

◆ライブ写真

生配信──。言うまでもなく、アーティストにとってはライブの緊張感に上乗せされる形で、「記録される」ことへのプレッシャーがのしかかる。どれだけ万全を期しても機材トラブルや人為的なミスは起きうるし、それがカメラに抜かれる可能性を考えると、やはりその負担は大きいと感じる。

しかしそれらが全くの杞憂に終わるバンドも存在するのだ。恐らくKroiはその典型だろう。彼らにとってはきっと、どんな大きなフェスのステージさえも遊戯の場と化す(実際本人たちにしか分からないプレッシャーはあるにしても)。ファンクやヒップホップ、あるいはロック、さらにはダブ…。様々な音楽ジャンルは攪拌され、Kroiの音楽として溶けてゆく。圧倒的な技巧とチームワークは細やかなミスさえも超越し、オーディエンスはそれがあたかも最初から計画されていたもののように感じてしまうのだった。



前置きが長くなったが、Kroiのライブはいつだってそんな感じだ。それゆえに、個人的な願望としても彼らにはいつかフロアステージのライブをやってほしいと思っていた(これは本当)。なぜなら、その形式こそが彼らの「遊戯」を促進させるはずだったからだ。まるでレストランで友達と会話するように、各楽器の音がステージ上を飛び交う。すぐ横の羽田空港にちなみ、この日は航空機のアナウンスのような演出があったが、そういった小粋なプロデュースも華やかに彼らの遊戯を彩る。“961便”と冠された彼らのエアクラフトは、スリリングな乱高下を繰り返しながら至高のエンターテイメントへと結実していた。


何せ1曲目の「熱海」からほぼ全員に見せ場があり、2曲目の「Juden」ではMasanori Seki(B)、Daiki Chiba(Key)、Yuki Hasebe(G)がそれぞれ間奏パートでソロパフォーマンスを披露した。Hidetomo Masuda(Dr)はクリス・デイヴばりのリズムキープ力と変幻自在なビートアプローチを見せていた。フロントマンのLeo Uchida(JieDaのエイリアンTシャツがよく似合っていた)は、彼らのソロパートの間にカホンを連打して盛り上げる。


何度書いても書き足りないぐらい彼らのテクニックは凄まじいものがあるが、彼らの凄さはそこに知性を乗せてくるところだと個人的には思っている。それは文脈とも言い換えられるかもしれない。彼らは度々Earth, Wind & FireやThe Spinnersのフレーズをサンプリングするが、この日も随所でリファレンスを持ってきていた。いつぞやのライブでは、開演前のBGMとしても「Let's Groove」を採用していた記憶がある。音楽評論家の田中宗一郎が言うように、ポップミュージックの神髄が“継承”にあるならば、彼らはまさしくその体現者だ。彼らは様々なジャンルをミックスすることを自身の作家性として認めているが、それは決して表面的な借り物を意味しない。各所からの影響を自身の血肉とした上で、音楽をアウトプットしている。


MCでも話題に上がった彼らの最新アルバム『telegraph』もまた、古今東西のサウンドの系譜に連なっている。“新曲ゾーン”として披露された「Drippin’ Desert」、「Not Forever」、「Airport」は、新曲ゆえの実験的なニュアンスを孕みながら、あらゆるベクトルに推進してゆく。「Not Forever」と「Airport」は比較的スローテンポの楽曲であるが、湿度の高いサマーチューンだと感じる。フュージョンを基軸にしながら、どこか雰囲気がレゲェ的だ。今年の夏はどこにいても暑すぎるが、猛暑ですらも心地よく感じさせてくれる。その意味では、今回は披露されなかった「Funky GUNSLINGER」のライブバージョンもいつか聴きたい。


その後、「ここからはぶち上がりゾーンなので、踊って帰ってください」とUchidaが宣言し、「Small World」や「HORN」、「Network」などの、文字通りダンスセクションに突入する。ジャンルだけでなくムードや緩急も自在だ。フジロックしかり、徐々にライブ会場に活気が戻りつつあるが、依然として感染症対策のガイドラインは存在する。その状況下でもこれらの楽曲が作り出す熱量は凄まじく、オーディエンスは抗いようもなく手を振り上げ、体を揺らしてしまうのだった。


ラストを飾った「Fire Brain」は終着点として圧巻である。他の楽曲にも言えることだが、Kroiはライブを経る度にアレンジが変わるので、曲が同じでもその都度違う印象を受ける。この日はフロアステージということもあり、よりインプロ・セッションライクな雰囲気が漂っていた。この曲のライブバージョンは、“Burn such a brain”というリリックがリフレインすることによってセッションのテンポが上がってゆくのだが、この日は以前見たアレンジとは異なっていた。ギアがもう1個上がる。それにより未体験の爆速アウトロ・インプロビゼーションが誕生。乱高下する961便の乗客は否応なく拳を振り上げ、頭を揺らす。並のパイロットであれば乗り物酔いは不可避だが、そこはKroi。完璧なハンドリングで着陸(勢い余ってもはや離陸)し、快適で「安全な」音楽の旅に幕を引いた。


余談だが、Uchidaが着用していたTシャツのブランド「JieDa」の今年の春夏コレクションのテーマは“アンダーグラウンド”だという。抑制される社会や人間の感情を地下世界に投影し、溢れ出す光を描く。その爆発力たるや、やはりKroiの音楽とも親和しているように感じられた。

再び、機内アナウンスが会場にこだまする。こちらもまたの機会を心から楽しみにしたい。“See you again in the near future”というフレーズが、どんな目的地よりも私たちをワクワクさせてくれる。

文◎川崎ゆうき
写真◎jacK

セットリスト

1.熱海
2.Juden
3.selva
4.Page
5.Drippin' Desert
6.Not Forever
7.Airport
8.Small World
9.HORN
10.Network
11.WATAGUMO
12.Fire Brain

<Kroi Live Tour 2022 "BROADCAST">

2022年
9月4日(日)神奈川・Yokohama Bay Hall
9月9日(金)埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都心VJ-3
9月22日(木)栃木・HEAVEN'S ROCK 宇都宮 VJ-2
9月23日(金・祝)宮城・仙台 Rensa
9月25日(日)北海道・札幌 PENNY LANE 24
10月1日(土)香川・高松 DIME
10月2日(日)愛知・名古屋 THE BOTTOM LINE
10月7日(金)京都・京都磔磔
10月8日(土)兵庫・神戸 チキンジョージ
10月10日(月)広島・広島 CLUB QUATTRO
10月14日(金)福岡・福岡 DRUM LOGOS
10月16日(日)熊本・熊本 B.9 V1
10月23日(日)新潟・新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
10月29日(土)茨城・水戸 LIGHT HOUSE
10月30日(日)千葉・柏 PALOOZA
11月3日(木・祝)大阪・なんば Hatch
11月16日(水)東京・Zepp DiverCity(TOKYO)
2023年
1月8日(日)東京・ LINE CUBE SHIBUYA

TICKETS
前売 4,500円(+DRINK)

チケット一般発売
・ぴあ
 http://w.pia.jp/t/kroi-t/
・イープラス
eplus.jp/kroi/
・ローソンチケット
http://l-tike.com/kroi-t/

※未就学児童入場不可/小学生以上チケット必要
※公演前に発表される注意事項を確認の上、ご来場ください。
※当日は新型コロナウイルス感染拡大防止のガイドラインを遵守し、然るべき安全対策を講じた上で開催されます。
※ガイドラインに合わせて随時レギュレーションが変更される可能性がごさいます。

◆Kroi オフィシャルサイト
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