【対談】椎名慶治×田澤孝介が語る、<VOCAL SUMMIT>と歌い続けるということ「闘わなあかん」

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強者ヴォーカリストが豪華揃い踏みするイベント<VOCAL SUMMIT>が、スタートから5年目を迎える2022年、2つの趣旨の異なる二本立て公演として開催される。9月19日に大手町三井ホールで行われる<VOCAL SUMMIT CLASSICAL>は、弦楽五重奏をバックに田澤孝介(Rayflower / fuzzy knot)、椎名慶治(SURFACE)、TAKUMA(wyse)といった3人のヴォーカリストが出演。翌週9月24日にEX THEATER ROPPONGIで行われる<VOCAL SUMMIT 2022>は、森友嵐士(T-BOLAN)、来夢(キズ)、田澤孝介(Rayflower / fuzzy knot)、中島卓偉、椎名慶治 (SURFACE)、TAKUMA(wyse)、RYO (KING)といった7人のヴォーカリストが出演。三代堅(G)、Kenji(G)、Ju-ken(B)、kiyo(Key)、小柳“cherry”昌法(Dr)からなるスペシャルバンドをバックにヴォーカリスト同士のコラボも披露される予定だ。

◆椎名慶治×田澤孝介 画像

両スタイルの公演に初回から皆勤賞の常連・田澤孝介。昨年の<VOCAL SUMMIT 2021>に初参加し、2022年は両公演に出演する椎名慶治。経験と実績を持つ両ヴォーカリストの対談を通じて、今年の<VOCAL SUMMIT>の行方を探りつつ、お互いの共通点や相違点、そしてターニングポイントを語り合ってもらいながら、タイプの異なるヴォーカルふたりの思考の深部に迫った。「人のバックボーンって、こうやって紐解いていかないと見えない。今日お話を聞いていて、点と点が繋がった気がしました」との発言も飛び出したトークセッションは実に濃度が高く、全ヴォーカリストに読んでいただきたい内容となった。

   ◆   ◆   ◆

■化け物たちの無駄遣いです(笑)
■スピーカーが割れちゃう!って

──2018年に<VOCAL SUMMIT>の初回がスタートして、2022年で5年目4回目を迎えます。

椎名:田澤くんは第1回目から全部出演してるの?

田澤:はい。説明すると、<VOCAL SUMMIT>って概念がちょっと特殊なんです。演奏を務めるバックメンバーは固定で、ヴォーカルだけが入れ替わっていくイベントなんですよね。今回はこれまでで出演者数が一番多いし、過去イチでコラボの数も多い。だから、“お前ずっとステージに出続けてない…?”みたいなメンバーもいるっていう(笑)。結構おもしろいと思いますね。初参加のキズの来夢くんと誰かとのコラボは当然ありますし、森友嵐士さんのステージはちょっと別枠という捉え方を僕らはしているので。コラボできるかは分からないですけど。前回は大黒摩季さんが同じようなポジションで出演してくださって、1曲最後にセッションさせていただいたんですけど、今回も許可していただければそういうスペシャルもあるのかな。

──<VOCAL SUMMIT>の出演者同士って、事前にどのくらいコミュニケーションを取るんですか?

田澤:本番前に出演者顔合わせの席を設けるようになったのは、実は前回からなんですよ。それ以前は、コラボする人同士はリハーサル現場で「どうも」やし、それ以外の人とは当日「初めまして」みたいな。

椎名:俺は前回が初参加だったんだけど、じゃあ、あれが初めてだったんだね。通例のことだと思って僕はその顔合わせに参加させてもらったんですけど、コロナ禍でみんながアルコールも飲めない中、ホテルの個室で緑茶を飲みながら打ち合わせをしている光景を思い出しますね。


▲椎名慶治(SURFACE)

── 一方の<VOCAL SUMMIT CLASSICAL>のほうも顔合わせはあるんですか?

田澤:<CLASSICAL>のほうは特にないですね。概ね我々はバンマスでありチェリストのロビンさんと連絡を取っていて、リハーサルでやっとストリングスメンバーの皆さんと顔合わせするという感じです。<VOCAL SUMMIT>のセットリストはこの間決まったので、やっと実感が湧いてきているところです。椎名さんはまだセットリストを提出してないですよね?

椎名:俺だけ決まってない(※7月の取材時点)。みんなアーティストなのに真面目なんですよ。「6月末までにセットリストを決めてください」と言われたら、皆さん素直に6月30日までに上げていて。“そこで怒られてこそじゃないの?!”と思ってます(笑)。

──ロックミュージシャンたるもの、締切を破るぐらいが通常運転のはずだと(笑)。

椎名:そうそう。だから俺はみんなが決めたセットリストを見て、“あ、だいたいみんな5曲ぐらい歌うんだ”って、参考にさせてもらっています(笑)。もうそろそろ決めないと怒られますけどね。

田澤:こう聞くと横暴な感じに受け取れますけど、椎名さんって実はそうして全体のバランスをとる役目を担ってくれてるように感じるんですよ。

椎名:それはそうよ! みんなのセットリストをバーッと見た中で、コラボ回数が少なそうな出演メンバーに「一緒にコラボしない?」と声を掛けたり。まぁそれは締切を守らなかったからこそできることですよね(笑)。

──椎名さんは昨年の初出演はどんな経緯でオファーがあったんでしょうか? また、実際に出演なさっての感想はいかがでしたか?

椎名:出演のきっかけとしては、常連の中島卓偉が僕のことを薦めた、ということを後で知りました。<VOCAL SUMMIT>というイベント自体は、僕はもともと知らなかったんです。ただ、摩季姉さんとは昔から仲が良いので、“あ、摩季姉さんも出演する”とは思っていて。最初、<VOCAL SUMMIT>に対して僕が抱いていたイメージは、出演者同士別に仲良くもなくて、“俺が一番だ!”という感じで出ては消え出ては消えみたいな闘いのようなものだったんですよ。そうしたら、決起集会の顔合わせの場で、みんなが「去年やったあれって何だったっけ?」「CHAGE and ASKAじゃなくて、CHAGE and CHAGE and CHAGEのさ~」とか言ってて、俺抜きで盛り上がっているわけですよ。

田澤:ははは!

椎名:つまり、高校生の学園祭みたいな感じで和気藹々と話している姿を見て、“あれ? 俺が思い描いている<VOCAL SUMMIT>とは違うんじゃないか?”と思い直したんです。それで噛み砕いてどんどん消化して、“あぁ、これはみんなと遊ぶ場所なんだ”と。だから、本番を迎えて終わった後に思ったのは、“本当に楽しかった”ってこと。なので、主催者側に「ぜひ来年も呼んでいただけませんか?」と僕から逆オファーしたところ、「じゃあ来年も出てよ」とその場で言われて、今年につながったという。<VOCAL SUMMIT CLASSICAL>のほうは映像で田澤くんが歌っているのを少し観たんです。歌はもちろんですけど、弦楽カルテットに乗せて歌っている田澤くんがめちゃくちゃカッコ良くて。「もしこちらにも出演できるんだったら僕も」ということで、今年初めて出ることになりました。でも、言ったはいいんですけど田澤くんは“化け物”なので、隣で一緒に出るのは嫌なんですよ。

田澤:いやいやいや、何をおっしゃいますやら!

椎名:僕はもう、とにかく一生懸命歌います(笑)。


──CHAGE and CHAGE and CHAGEの話が出ましたが、昨年の<VOCAL SUMMIT>のセットリストを見返しても、大人の文化祭という感じがありますよね。

椎名:光GENJIの「パラダイス銀河」を全員で歌ったんですけど、化け物たちの無駄遣いですよね(笑)。“スピーカーが割れちゃうんじゃないか?”っていう。本当にすごかった。

──声量があるヴォーカリスト揃いで、モニターも会場の出音も爆音だったと。

椎名:イヤモニをしていたらたぶん、耳痛いんじゃないですかね?

田澤:だって僕、<VOCAL SUMMIT>のために耳栓買いましたもん。リハで「YAH YAH YAH」か「パラダイス銀河」か何かをやったら、耳が痛くてヤバかったから。ま、どちらも椎名さんが出られてたんですけど(笑)。

椎名:俺の声がうるせーって? 俺だけのせいにすんなよ(笑)!

田澤:いや、やっぱり卓偉と椎名さんがすごいんですよね。音量が大きいわけではないんですけども。

椎名:卓偉とは僕、よく対バンライヴをやっていたんですが、ふたりとも倍音がすご過ぎて。僕が「卓偉の声がうるさすぎて自分の声が聴こえない」と言ったら、卓偉は「俺は椎名さんの声がデカすぎて聴こえない」とか返して、お互いに文句を言い合いながら(笑)。そこにさらに、田澤くんもそうだけど、他のやつらの声も入ってくるわけだから。


▲<VOCAL SUMMIT 2022>

──爆音になるのは必然と。<VOCAL SUMMIT>あるあるなんですね。お話が遡りますが、おふたりの出会いはいつだったんですか?

椎名:実はイベント<you’ve guitar a friend vol.3>(2019.5.17@新横浜NEW SIDE BEACH!!)で3〜4年前に一度会っているんです。楽屋に田澤くんがいて、「初めまして」と挨拶した時に…本当に申し訳ない…これは本人にも言ってるんですけど、高校生に見えて。“なんでこんな若い子がいるんだろう?”と思ったんです。そうしたら、Rayflowerという言葉が聞こえてきて、“聞いたことある気がするな”と思いながらも、それでもまだ高校生だと疑っていないので、挨拶だけしたのが最初の出会いでした。スーパーヴォーカリストだと知るのはその後の本番で、聴いてブッたまげましたね。

田澤:僕はもちろんSURFACEの頃から椎名さんのことを存じ上げていたので緊張していたんですけど、こういう気さくな方なので、僕にもすごくよく話し掛けてくださって。優しい、気のいい兄貴みたいな印象でしたね。

椎名:こっちは10歳以上の年下と話しているつもりでいましたからね。たかだか2〜3歳しか変わらないのに。

──椎名さんからご覧になって、田澤さんの歌声に感じる魅力とは?

椎名:知っての通り、あれほどのハイトーンで綺麗な、繊細さの中にも力強さがあるヴォーカルって日本にあまりいないので。“うわっ、何だ?! あの高校生超うめー!”という感じでした。当然ですけど、高校生の表現力じゃなかった。なので終わったら「ごめんね~!」と謝ったんですけど(笑)。

田澤:椎名さんの声は、しゃべり声からしてそうなんですが、倍音とは言いつつやっぱりちゃんとエッジが立ってるんですよ。飛んでいくというか。もともとそうでしたか?

椎名:たぶん若い頃はその倍音はなかったと思う。僕はデビューが22歳で、それからもう24年になるんですけど、最初の頃はもっと上の部分で歌っていたんですよね。それがどんどん下がってきた。意識しているつもりはないんですけど、勝手にそうなっちゃいましたね。

田澤:でも当然、それは歌にとってはいいことで。上手い言葉が思いつかないんですけど、“やっぱりすごいな、圧倒的やな”というのが、生で聴いた時の最初の感想です。

椎名:ありがとうございます、うれしいですね。その後の<VOCAL SUMMIT>の時に田澤くんとコラボすることになって、B'zの「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」を歌ったんですけど、その映像を改めて観た時、“あ、このふたりの声の相性っていいな”と思いました。一番低い部分を僕が、一番高いところを田澤くんが支えている感じで。もちろんもともとひとりで十分レンジ(音域)はあるんですけど、それをさらに田澤くんが足してくれているので、ふたりで歌うと音域の上から下まで、他の楽器がなくても声だけで十分お客さんに響かせることができるんだろうなと。「今年もふたりで何かやってよ」という声があったので、今回も一緒に歌おうかなと思っています。

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