【対談】椎名慶治×田澤孝介が語る、<VOCAL SUMMIT>と歌い続けるということ「闘わなあかん」
■作詞の理想は浅瀬と深海を携えた海
■ここにしか見えへん景色と楽しさがある
──いろいろなプロジェクトを同時進行しているからこそ、新たな自分も引き出されていくと?
田澤:そう思います。ただ、自分のできることの全てを自分のプロジェクトで発揮できているか?というと、それは全然違いませんか?
椎名:うん、全然違う。
田澤:例えば、“田澤孝介の名の下に出来る歌唱法”というのは、自分でコントロールしてるだけではなく、パブリックイメージも含めてあるんですよ。いろいろな歌を唄えるけど、“この歌い方をしたら田澤っぽくないよな”みたいなものもあるから。
椎名:ブランドイメージにそぐわない。
田澤:ホントにそうだと思います。だから、ファンの方が抱いている“椎名さんの歌ってこうだよね”というイメージを裏切ってはいけない。これは世の中のヴォーカリストのほとんどがそうだと思いますけど、出せる歌唱法を全部は出し切ってないんですよね。例えば “今まで出したことのない声でカバー曲を歌いましょう”ということなんて全然できるんですよ。
椎名:うん。ただ、歌えたところで「それがお前の良さじゃないよね?」ってなっちゃうんだよね。
田澤:そうなんです! そういう意味では、僕はいろいろなプロジェクトをやっているおかげで、“このプロジェクトでは、こういう出し方もいいかな”という歌唱法をちょっとずつ発信することができている。そのベクトルでの活動がそれぞれ長くなった時に、“全部、田澤ひとりがやってる歌やで”になればいいかなと思えるようになった。ただ、その束をひとつにまとめるのはすごく大変な作業やと思いますけどね。
椎名:それは難しいわな。
田澤:はい、すごく難しいですけど、それを50歳までにやりたいんです。椎名さんってどこからどう聴いても、どんな曲を歌っても椎名さんやから、憧れたりもするんですよ。僕の歌にはそこまでの強さがないから。だからこそ、いろいろやるんだと思う。
▲椎名慶治(SURFACE)
──いろいろできる、ということが持ち味になっていくのでは?
田澤:でもそれって、意外と持ち味にならないんですよ。ならないからこそ、それをひとつにどうまとめたらいいかな?ということを今模索中なんですよね、お恥ずかしいけど。
椎名:その話すごくわかる。不器用なやつのほうが味になったりするんだよね。“それしかできない”というのは結構武器だったりするんですよ。その対極が器用貧乏っていうもので。なまじいろいろな歌を上手にこなせるために、これ!というものをかえって失ってしまう。
田澤:そうです、僕は本当にそう。
椎名:田澤くんが器用貧乏だとは言わないし、迷ってしまうところもあるかもしれないけど、それって上手過ぎていろいろな表現ができちゃうからこそ。俺は“これしかできない”タイプだから、田澤くんとは違いがあって、そこがおもしろいところかもしれないですね。
──歌詞についても伺いたいのですが。椎名さんは東日本大震災直後にリリースした楽曲「よーいドン」で、“♪頑張れ なんていらないぜ”という歌詞を綴られていました。当時のインタビューでも「頑張れって言葉は使いたくなかった」と語っていて。今、このコロナによる閉塞感がある時代で、どういう言葉を歌詞として発していくのか? おふたりはどうお考えですか?
椎名:僕の場合、マネージャーが曲やリリックに口を出すことはあまりないんですよ。でも、コロナ禍がまだ全然明けそうになかった一昨年2020年、「ちょっとみんなが疲れてる。ファンから届くメッセージを見ていても元気がないように感じるから、一回応援メッセージの曲をつくってほしい」と言われたんですね。それで2020年7月、“喜怒哀楽いろいろあるけど、頑張っていこうよ”みたいな歌詞の曲(「KI?DO?AI?RAKU?」)をまずは1曲デジタルリリースしたんです。ただ、「それは出すから、じゃあ僕自身がみんなに発信したい曲もつくっていいですか?」という話をして、翌8月に「DOUBT!! w/ZERO」をデジタルリリースして。後者は完全に、浮気をしている女性のことを歌った楽曲。応援メッセージを送るのはもちろん大事なことだけど、それ以上に、全く関係ないことを僕は歌ってあげたかった。“背中を押すよ”とか“頑張っていこうよ”とか“またいつか会えるよ”とかじゃなくて、音楽というものを単体で楽しんでほしいという想いがあって。全くメッセージソングじゃないものもつくりたかったから、2枚連続でデジタルリリースしたんです。
──そのどちらも、音楽の役割を果たしていますよね。
椎名:だと思います。メッセージだけを出すんだったら、コメントでいい。だけどやっぱり、“音を楽しむ”ことを忘れてほしくないんですよね。“辛いから聴いてます”じゃなくて、“これを聴いたらめっちゃテンション上がった!”となってほしい。あまり背中を押し続けると説教臭く聴こえてくるし、そこのバランスってすごく難しくて。ただ、どちらも大事なので、2曲出すというやり方をしました。
田澤:忘れ去ることのできる優しさってありますよね。だって、“頑張れ”って歌われ続ける3~5分間は、頑張らなあかんことを思い出させてるってことやから。僕ね、椎名さんの歌詞ってそういうのが抜群に上手いと思ってます。どうやって修行したんですか? 「さぁ」は1人で書いたんですよね?
椎名:そうそう。俺、ゴーストライターはいないから(笑)。
田澤:ははは。あんなによくできた歌詞ってなかなかないと思うんです。メロディーとのシンクロもいいし、読み解いたら読み解いただけ、またそこにドラマが見えてくる。作詞について何か勉強とかしたんですか?
椎名:修行をしたことはないんだけど、小学校1年生からの腐れ縁の友だちが今、プロの作詞家で。そいつとふたりで話し合ったり相談することはあるかな。
田澤:なるほど。もともとナチュラルに意図せず、作詞ノウハウみたいなものを蓄積なさっていたということですかね。そうじゃないとあの歌詞は書けないですよ。メッセージ性があるのにポピュラリティーもあるって、一番難しいことをやってのけているので。
──ユーモアも溢れていますよね。
田澤:そう、おもしろい。
椎名:俺はそれをすごく大事にしてるんだよね。例えば、読んだだけでは分からないけど、メロディーに乗ると何となく形になる、という歌詞は簡単なんですよ。答えを出さない、みたいなね。難しい表現をするのも実は簡単。しかも、難しい言葉を使って“俺、頭いいだろ?”っていう歌詞が俺は嫌いで、みんなが普段使っている言葉で歌詞を書かなきゃイヤ。だから、すごく悩みますよね。俺の歌詞って矛盾がないので、書くのが難しいんです。“1から10まで矛盾がないかな?”と探して、“あ、ここおかしいな”と気付いたら直していく作業は結構大変で。
田澤:どうしてそういう歌詞を?
椎名:俺が生きてきた時代は、街のどこかから流れてくる有線放送とかで曲を聴いたとか、テレビを観てたらタイアップ曲が流れてきたとか、曲に触れるきっかけってそういうものが多かったんですよ。CDを買ってもらって歌詞を読んでもらって、そこで初めて“いいね”と言われればいいような時代じゃなかった。15秒ぐらいの中で表現しなければならない時って、やっぱり響きが良くないといけないし、単純明快じゃないといけない。その難しさは、今思えば若い頃にすごく学んだんじゃないかな。
田澤:闘ってる歌詞だなと感じるんですよね。例えば、「さぁ」の歌詞を書くカロリーをイメージした時、僕は“しんどい……”と思ってしまう。自分もつくり手だから、“ここまで落とし込むのってめっちゃ大変やろな”というのがわかるので。僕の場合、“全部伝わらなくていいや”という意味で書いてる歌詞もありますもん。もちろん表現において妥協はしてないけど、難しいことを誰にでもわかる簡単な言葉で伝えることは本当に難しいわけで。昔は全部伝わらなかったらイヤやったんですけど、最近僕は“まぁいっか”という判断を遠慮なく自分に下すようにしてるところが少しある。
──諦めているわけではないですよね。
田澤:そう、目線が違うんです。中学の時、オノくんという同級生がいたんですけど、彼はなぜか毎朝僕の家に寄って、LUNA SEAの「Déjàvu」を聴いてから学校へ行くんですよ。アイツはそれをすることで、“今日1日頑張ろう!”というモチベーションが湧くんです。“「Déjàvu」ってそういう曲ちゃうで”って思いそうなものだけど、これがまたさっきの椎名さんの話に繋がるんですよ。“メッセージでなくていい。音楽というものを単体で楽しむ”っていう。だから、何を言っているかわからなくたっていい。セックス・ピストルズの「アナーキー・イン・ザ・UK」を聴いて、“よし、今日も頑張ろう!”でいい。音楽ってそういうシンプルなもんやと思っているから、“1から10まで伝わらんでもいい”と思えるようになったのかもしれないですね。もちろん、掘り下げたい人は掘り下げてくれればいいんです。……まぁ、ポピュラリティーを持つ歌詞を書くことが難しくて、毎作品そこにカロリーを使うこともできないから、という言い訳ですけどね(笑)。
椎名:いや、俺も毎回は無理だよ(笑)。
田澤:理想としては、浅瀬と深海を携えた海でいたいんです。幼子がちゃぷちゃぷと浅瀬で遊ぶことができるし、マニアックな人たちはダイビング用具を揃えて沖で遊んでください、と。“ここにしか見えへん景色と楽しさがありますよ”ということを作品に込めていたいというか。
椎名:すごく同意できるなぁ。
田澤:椎名さんとは、表現として出てくるものが違うだけで、マインドはたぶん一緒ですよね。だから僕も、ポピュラリティーと闘う椎名さんの姿勢を今日改めて聞いて、“あ、やっぱり俺も闘わなあかんな”と鼓舞されました。 “上手過ぎて違う世界やわ”って、自分に言い訳をする日々も結構あったので。
──先ほどの歌唱の話のように、その人にとっての得意不得意もあるんでしょうか。
田澤:個人的には、“自分に何が向いてるのか?”をそろそろ見つけ出さないとなって。残りの時間が少ない年齢になってきていると思うんです。50歳になった時に今と同じ声が出ているかなんてわからないじゃないですか? それも含めて、50歳までは今のクオリティーをキープできるように頑張っていこうねっていう、自分への枷でもあるんですが。
椎名:本当に思うよね。“いつまで出るんだろう? この声が”って。
田澤:思いますねぇ。
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