【対談】中島卓偉×来夢(キズ)が語る、<VOCAL SUMMIT>と交錯する音楽愛「最後は人間力しかない」

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■「音楽が好きじゃない」と言いつつも
■成功例があるから説得力が違う。尊敬します

──でも、上京時には中島卓偉を意識しているくらいだから、スタートの時点で純粋にヴォーカリストですよ。

来夢:憧れは別ですよ。きっかけはモテたいとかの下心でしかないから。その中でよりカッコいい男を探すわけじゃないですか。それが好きなアーティストだったりして、その中に卓偉さんがいた。卓偉さんを追っかけてみたけど、あんなストレートな歌詞は俺には歌えないし、こんなまっすぐな生き方はできないし、“なんでだなんでだ”って苦しんでたら、今日みたいになった。

卓偉:そこで自分の好きなこと、自分の手法を見つけて今の形があるのはすごいことだと思いますよ。僕は逆で、ただ音楽ファンなんですよ。その他のことがまったく不器用で金の計算とか数字も全然できないし、世の中のネットのツールとかもできない以前に興味がない。Twitterもいろんなスタッフとかにやれやれ言われてようやく始めたところもあって、毎日チェックしているかと言われたらしていないし。僕は本当は一番最初はサイドギターを演りたかったの。とにかく和音が好きで、ヴォーカリストやリードギタリストを和音で支えながら、それをハモっていればいいみたいな。だけどバンドを演っても理想とするヴォーカリストが現れないし、自分より上手じゃなかったりするとハモれない。なら自分がヴォーカリストになったほうが早いのかなと思ったんですよ。中学生くらいのときに曲が書けるのがわかったので、うぬぼれと自分を信じる気持ちで糸の切れた凧にように上京したんです。

──すでにマインドはミュージシャンですね。

卓偉:勉強もできないし人ともうまく会話ができないし、自分の思いを相手に伝えることもできないし、身体も小さくていじめられっこで、好きだと思えるものが音楽しかない。それ以外が何も楽しくなくて地獄なんだよね。勉強する気がないんだったら受験しない、ひとつのことしかやるもんか、みたいな感じだった。当時は当たり前に大学を目指す時代だったから、“高校受験をしないってどういうことだ”って校長室に呼び出されたりして、進学校だったから学校創立以来初めて受験しない生徒を出すのがイヤだったみたいね。そんなドロップアウトを重ねて、それしかやることがないんだと思ってメジャーデビューまで行っただけだよ。

来夢:そこがすごいんですよ。


▲来夢(キズ)

卓偉:当時はメジャーデビューでレコード会社に抱えてもらうのがひとつの目標だったんですよ。そうすることで、なんとか食いつないでいくみたいな。そこに関しては今の時代の子のほうがうらやましいよね。レコード会社も事務所も必要のない時代になって、今のほうが絶対にいいと思う。

来夢:僕は逆に、昔に生まれたかったなって。

卓偉:CDが売れる時代にデビューしていたら金持ちかもね。

来夢:僕はゆとり世代ど真ん中の人間なんです。インターネットが普及してYouTubeも出始めてやれることが無限になったけど、頑張ってつくったミュージックビデオも隣のあんちゃんの動画に再生回数で負けるとか。Twitterとか自分で宣伝できるツールはあるけれど、脳みそがないし使い方もわからない。ネット上はファンもアーティストも同じ位置に立っていて、あそこには何も壁はないと思っているから、そこに踏み込んで自分のキャラが溶け込むのは難しかったりする。だから僕は、デモテープを持っていろんなところに行きたいです。今は送ったとしてもデモテープも聴いてもくれないんですよね。

──デモテープを作るという行為自体がなくなりましたよね。制作は対レコード会社でなく、YouTubeやTikTok、Tweetに乗せるためのものになったから。

来夢:ネットで人を集めて求められた人がライヴをするっていうイメージなんです。バンドとか関係なくネットで人気の出た人たちが集まってやる。ライヴハウスでちゃんとファンをつかんであげていくっていう時代が遠くなっちゃった。

卓偉:キズは結成何年?

来夢:5年目ですね。

卓偉:結成して5年目で今の活動状況は素晴らしいことだと思うけどな。今の時代、集客満員にするって難しいですから、すごいことだと思います。そこを本当に尊敬します。

──中島卓偉は音楽以外興味のない男、そこが最大のリスペクトポイントと思っています。

来夢:僕もそう思います。本当は僕もまっすぐに「音楽が好き」と言いたい。でもそうじゃないから、まっすぐ「好きじゃない」と言います(笑)。

卓偉:逆に、「好きじゃないくせにやってんじゃねえ」って言う人がいたら、そっちのほうが間違ってると思う。そもそも言われる筋合いもない。僕にも煙たいことをいう上の人っているんですよね。「これを勉強してなかったらダメだ」みたいな言い方をする人っているじゃないですか。それ全然興味ないんだけど。基本は自分の音楽にフィードバックできること、音楽に付随するもの、枝分かれしていくものがただ好きなだけだから、むしろ今の時代は「普段はサーファーです。食うために音楽やってます。普段は波乗ってます」って人のほうが器用でいいと思うし、時代に合わせた生き方をしてる来夢くんのほうがフットワークが軽い。「音楽が好きじゃない」と言いつつも、今の自分の成功例があるから説得力が全然違う。それは本当に尊敬しますよ。


▲中島卓偉

──来夢は、自分から音楽を剥ぎ落とすと何が残ると思いますか?

来夢:音楽に対して、まずそこまで深く考えてないんです。伝えたいものも“僕が今、何を思っているか”です。頭の中のものをポンと言っているから、それはTwitterとかとあまり変わらない感覚。でも、僕の考えをそのままツイートしたら、たぶん炎上するんですけど、これが曲になるとみんな“そうかも“って思ってくれる。僕の言葉を聞いてくれるんですよ。MCでも“結構ひどいことを言ってるな“って自分でも思うんですけど、みんなは「それがいい」と言ってくれたりもする。“なんでステージとTwitterじゃ違うんだ?”って思いますよね。

卓偉:確かにそれは作家もそう。Twitterでひどいことを書いたら炎上するはずですけど、小説の中に書くとセーフですよね。歌の中だったら成立することもある。もしかすると、それは我々が使っている手段っていうことかもしれないですね。

──確かに。

卓偉:ラインを越えていかないと目立たないし、当たり障りのないは響かないことっていっぱいあるじゃないですか。「誰もわかってくれない」という僕の歌は、サビに“♪死んじまえよ”っていう歌詞がある。主人公が明日誰かを殺してしまおうかと、誰も自分のことをわかってくれないから世間のせいにしようとする。目の前を老人が通り過ぎる、はしゃぐ子供たちの群れ、これ今ぶっ刺してやろうか、でも俺にそんなことはできるわけない。でも、すべて世の中の人間なんか死んじまえばいいのに、という歌詞です。そんな曲だけど、世にリリースすることができたんですね。前の事務所の会長が「最高だ」って言ってくれたんですよ(笑)。「ロックだ」って。スタッフからは「こんな歌詞どうやって売るんだよ」って批判を食らうし、いざ出したら「卓偉さんどうしたんですか」って言われる。だけど結局、来夢くんみたいな人は僕のそういう歌詞は理解できるでしょ? 僕はもうわかってるんです。不特定多数には最初から伝えようと思ってないんですよ。そういう歌詞でひとりでもわかるやつがいたらもう十分なんですよね。なおかつリリースして送り込んだ以上は自分の手を離れているわけですから、どう解釈してもらっても構わない。そして今頃になって時間が経ってくると「「誰もわかってくれない」の歌詞が良いです」と言われるようになる。リアルタイムですぐ人を動かすことはできない時っていっぱいあるじゃないですか。ジョン・レノンの「イマジン」と一緒ですよ。当時は意外と売れてない。だけど今、これだけ世界に愛される歌になったっていうのは、響いていくまでにタイムラグがあるってことです。それを書いた本人も理解してやっていかないと、ジレンマに陥る。だからそういうものだと思って、曲も歌詞も書こうと思ってるところがある。



──…勉強になるね。

来夢:これいくら払ったらいいですか?

卓偉:ははは。「別に音楽好きじゃないけど、伝える手段としてやっているんです」ってさらっと言えて、なおかつ実績があってファンを惹きつける理由があるというのは、学問を全部学んだからといってエリートなわけではないのと一緒。僕は上京したときに40種類ぐらいアルバイトをやったけど、学歴なくても仕事ができる人がリーダーのプロジェクトって、現場はめちゃめちゃ回るんだよね。そういう人をすごく研究したっていうか影響を受けた。一度ね、3分遅刻してクビになったことがあんのよ。3日間すげー頑張って「おまえみたいに仕事できるやつが来て嬉しいわ」ってすごく可愛がられて、「おまえ明日から来いよ」って4日目に3分遅刻して、その場で「帰れ」って言われてクビになった。すげぇいい勉強になった。“この人本気だ”と思ったよね。だからIQは高くても、人間力と学力って別だなって思う。何が言いたいかっていうと、来夢くんはたぶん人間力のある人なんだと思う。最後は人間力しかないでしょ。

来夢:卓偉さんも本当にそうです。説得力とか言葉のパワーで惹かれた。

卓偉:僕は結局バンドも組めなかったし、ひとりで考えて答えを出すような環境だった。自分で責任取らないとダメというか、若いときから流行りってものを追ったことがなくて、“これが好きなんでそうやります”っていう感覚しかなかったの。僕は古いミニに12年乗っているんだけど、燃費悪いしよく壊れるから、性能のいい日本車に乗っている人からすると、「なんでそんな金かかって壊れて冷房も効かないような車にずっと乗ってるの、バカじゃないの?」って言われると思うんだけど、理由はひとつ、好きだからなんだよ。子供のときにザ・ビートルズが4人ともミニに乗ってたんだよね。その写真を5~6歳のときに見て、“ザ・ビートルズの4人ともが乗る車ってなんだ?”って。バカだからそのときの憧れが大人になっても残っていて、“こんな最高な車あるか”ってただ思っているだけなんだよね。僕もミニに乗って、信号待ちで街のガラスに映ったときに、なんていい車なんだ…と思いながら都内を走ってる。それで十分なんだよね。それでいいと思うんですよ。しまいにはうちの子供が、誰々君のお父さんはレクサスとかだけど、やっぱりパパが乗ってるミニが僕は好きだと言ってくれれば嬉しい。そういう感覚でほとんど世間を気にしてないんです。もちろん気になったときもあって、メジャーに入って大人の意見を聞かなきゃいけなくて人の意見やファンの意見に流されそうになったときもあるんだけど、結果自分が好きなことだけやった人のほうが強いんですよね。来夢くんは若いうちからそう思ってるってことは、そのへんの気持ちが強い人が勝つと思いますよ。

来夢:話がリアルタイムすぎて、今日話ができて本当に良かった。昔やんちゃしてたんで、暴走族やってたときの友達がライヴに来てくれたとき、僕が旗を振って登場したんで「昔からやってること一緒だな」って言われた。「音楽になっただけじゃん、おまえがまとめてるやつ」って言われて、「確かに」と。

卓偉:なるほどね。好きなことは変わらない。

来夢:戻ってきた。

卓偉:変化は大事だけど、好きなことを変える必要はないよね。

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