映画『ワイルド・スタイル』、歴史的瞬間をとらえた秘蔵写真公開&世界最速公開となる1983年来日ツアー裏話とは?

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ストリートカルチャーのマスターピース、映画『ワイルド・スタイル』が製作から40周年を迎えるのにあたり、2022年9月2日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷・新宿シネマカリテ他で全国ロードショーとなる。

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製作開始から40周年を記念して、当時、世界最速公開に漕ぎつけて映画プロデューサー・カズ葛井から、当時の裏話が届いた。来日時に密着取材されていたカメラマンの菊地昇による貴重な写真をインタビューと合わせて紹介する。

1983年カズ、フラン葛井夫妻は『ワイルド・スタイル』の日本での劇場公開のプロモーションのため、36人のスタッフ&キャストを日本に招聘した。日本人が初めてヒップホップに触れることになった歴史的事件。この来日イベントの当時の様子を、カズ葛井に伺った。また、来日時に密着取材をしていたカメラマンの菊地昇による貴重な写真を映画の40周年を記念して公開。当時の様子を感じてもらいたい。

1983年、映画『ワイルド・スタイル』が劇場公開されることになったものの、まだ「ヒップホップ」という言葉も生まれておらず、この新しいカルチャーについて知る日本人はほとんどいなかった。「映画について知ってもらうには、実際にブレイクダンスやDJ、ラップを見てもらうのがいちばんいい」と葛井夫妻が当時アメリカのカルチャーを紹介するイベントを企画していた西武百貨店と大映の協力を得て、来日ツアーを計画した。ところが、当時は、映画出演者が、みなアメリカから、どころかブロンクスから出たこともない。中には、ドラッグなどで逮捕歴がありツアーに参加できない者も。パスポートを取ってあげることから始め、なんとか36人を日本に向かう飛行機に乗せることができた。

内幸町にあった広場に特設されたステージでDJとMCの音楽に合わせて、ブレイクダンスを記者団に披露。これが、日本人が初めてブレイクダンスを目撃した瞬間となった。後ろに立てられたパネルには日本の看板屋さんが制作したタイトルのグラフィック、間に来日したライターやミュージシャンのタグ(サイン)が書き込まれている。

▲来日記者会見の様子 / Photo by Sho Kikuchi

プロモーションイベントは西武百貨店でも行われた。当初ロックステディクルーはデパートでのパフォーマンスをすることに「デパートなんかで出来るか!」と難色を示したが、葛井はシャンパンのモエ・シャンドンを飲ませることを条件に出演の承諾を取り付けた。当時はモエのシャンパンは彼らにとっては夢の高級品。飲んだ後も「帰ったらお母さんに見せる」と空瓶を大事に持ち帰った。イベント用にいくつか用意してあったラジカセは、みな誰かが持ち帰って全て消えてしまった。

当時は日本のストリートカルチャーのメッカといえば、原宿。タケノコ族やロックンローラーが代々木公園に集まり、パフォーマンスを行っていた。そんな“日本のカルチャーとニューヨークのカルチャーの衝突が起きるとどうなるか?”と葛井は一行を連れて、代々木公園へ。ロックンローラーとケンカになる、と思っていたBUSY BEEはフリンジ加工したTシャツにサングラス、頭にはホテルから持ってきたバスタオルをかぶって、少しでも強く見えるようにアラブのグールーのような格好をして乗り込んだ。結局衝突は起こらず、みな友好的でBUSY BEEも人気者になった。

▲代々木公園で日本の若者と交流するBusy Bee。奥にはLady Pinkの姿も。Tシャツのフリンジ加工はLady Pinkによるもの / Photo by Charlie Ahearn

一行は、プロモーションのために、「笑っていいとも!」や「11PM」などのテレビ番組にも出演。「笑っていいとも!」では、BUSY BEEらがラップ、ロックステディクルーがブレイクダンスを披露。パフォーマンスを見たタモリが即興で中国語(?)ラップで対抗した逸話が今尚、ファンの間では語り継がれている。また来日中には東京のクラブ、ピテカントロプスとツバキハウスでイベントも行われた。

▲ピテカントロプスでのイベント。左から葛井カズ、 Fab5Freddy、チャーリー監督、BUSY BEE、 Rodney Cee (Double Trouble) / Photo by Sho Kikuchi

▲ピテカンドロプスでDJするAfrika Isram、Charlie Chase / Photo by Sho Kikuchi

クラブイベントはテレビ出演を見た若者たちでいっぱいになり、ブレイクダンスに「キャー」と黄色い声援がおき、DJ がスクラッチをする度にみなが釘付けになった。イベントは京都や大阪でも行われ、新幹線で大阪駅に降り立つと女の子たちが一行の到着を待っているほどの人気ぶりだった。大阪では何人かがホテルに女の子を“お持ち帰り”し、その女の子を探してヤクザがホテルの部屋に乗り込んでくるという事件もあったという。

DJもラップもブレイクダンスも、誰も見たことがなかった当時。彼らの来日と『ワイルド・スタイル』という映画が日本のカルチャーに多大な影響を与えた。のちのDJ KRUSHはこの時、西武百貨店でのパフォーマンスでDJを目にしてその足でターンテーブルを買いに行ったというのは有名なエピソード。原宿ではブレイクダンスをはじめる若者が現れ、やがてその波は日本のポップミュージックに融合していった。

そして40年後の現在。音楽、ダンス、アート、ファッションの中にヒップホップはすでに定番のスタイルとして定着している。ブレイクダンスは“ブレイキン”として2024年パリ五輪の追加競技となった。それでも、本作『ワイルド・スタイル』が名作であり続けるのは、「映画がとらえた若者たちのエネルギー、自分を表現しようとする情熱が今も色褪せないからだ」と、チャーリー・エーハン監督もカズ葛井も同じように語る。荒れ果て、犯罪が蔓延する1970〜80年のNY、サウスブロンクスから生まれたヒップホップ。葛井は、「暴力の代わりに、地下鉄アートやラップやダンスでバトルした若者たちのパワーを、難しい現代を生きる若者たちに感じてほしい」とメッセージを送ってくれた。


『ワイルド・スタイル』

2022年9月2日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか 全国順次ロードショー

監督・製作・脚本:チャーリー・エーハン キャスト:リー・キノネス、ファブ・ファイブ・フレディ、サンドラ“ピンク”ファーバラ、パティ・アスター、グランドマスター・フラッシュ、 ビジー・ビー、コールド・クラッシュ・ブラザーズ、ラメルジー、ロックステディクルーほか配給:シンカ 1982 年/アメリカ/82 分/スタンダード/DCP
(C)Pow Wow Productions, Ltd.

◆『ワイルド・スタイル』 オフィシャルサイト
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