【ライブレポート】Eve、初の武道館公演に驚異的な密度と刺激「現実逃避したくなったら遊びに来てください」

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2022年8月30日、Eveによる<Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演>2日目が日本武道館で開催された。これは2022年4月から5月にかけて開催された、8都市9公演をまわる約2年半振りの全国ホールツアー<Eve Live Tour 2022 廻人>の追加公演で、Eveにとっての初の武道館公演。2日間にわたって開催された。

Eveは、BUMP OF CHICKENを自身のルーツとし、インターネット出身のアーティストとしては意外なほどバンドサウンドを志向してきた。その彼が、2020年に「廻廻奇譚」の大ヒット後、2022年の最新アルバム『廻人』などでは、よりメランコリックで淡い世界を描きだすようになった。そうしたアーティストとしての表現の幅の広がりが、近年の楽曲を中心にして、そのまま武道館という場でも表現されたライヴだった。



開演前からステージ上の巨大なモニターにアニメが流れ続け、定刻とともに鐘の音が響くと、会場が暗転して拍手がわきおこった。そして「廻人」というロゴが映しだされた。ライヴの幕開けは、インストルメンタルの「廻人」。そして、「紗幕」と呼ばれる薄い幕の向こうにEveが登場した。「藍才」では、甘いながらもしなやかな歌声が武道館に響きわたる。そして、生のバンドサウンドが心地いい。音楽とアニメと照明とともにライヴは進行し、さらにファンが手首に装着しているLEDバンドが、曲中でカラフルに色を変えて会場を彩った。この色は主催側がコントロールしていた。



ベースラインが前面に出た「夜は仄か」でも、Eveは気負いをまったく感じさせない。完全に場を掌握していると感じさせられた。「YOKU」ではファンのクラップが響き、再びインストルメンタルの「doublet」へ。「LEO」では、本人の手元に蝋燭のように火が輝いた。さらに熱いヴォーカルとともにトラップも鳴り、フューチャー・ソウルのEve流解釈のような楽曲だ。「レーゾンデートル」は、ダンサブルな演奏と拮抗するヴォーカルに、フロアも熱を帯びていくのがわかる。「いのちの食べ方」のサビでは、ひときわEveのヴォーカルの高音が冴え渡った。しかも艶やかだ。Eveの歌声とバンドサウンドによる真骨頂を聴いた瞬間だった。

インストルメンタルの「slumber」を挟んで、「トーキョーゲットー」では80年代を彷彿とさせるシンセドラムの音色が響く。「ヒッピーなこの街」という歌詞といい、ワイルドさが光る楽曲だ。そして、「アウトサイダー」のイントロで、Eveは遂に「武道館ー!」と叫んだ。そして、疾走感に満ちたサウンドとともに歌いあげていく。「ラストダンス」では、歌いながらステージの左右へと駆けていった。

開演から約40分を経て、ようやくMCが行われた。「武道館2日目、夏休みの思い出を作りに来ました」と。さらに2020年を振り返り、「アリーナ公演が中止になったんですよね。その年の夏休みは、今日みたいにたくさんの人が集まってライヴをするとかありえなかったし、お祭りやプールもできなくて、当たり前じゃないんだなと気づかされました。ライヴもそう。そのとき感じた、感情とか気持ちを忘れないために、書いた曲がありました」。

そして、ピアノの伴奏で歌いはじめたのが「杪夏」だった。「長い休み明けの匂い」「声もあげられないまま」といった歌詞は、今年の夏のために書かれたかのようだ。さらにステージ上では、11本の炎が松明のように揺らぎ、Eveの姿を照らした。コロナ禍の夏を鮮明に描きだす「杪夏」は、今夜最初のハイライトだった。

「蒼のワルツ」もピアノから始まった。胸の痛みを鮮やかに表現するのもEveの真骨頂だ。そして、ステージにはオーケストラも登場し、武道館をも越えていきそうなスケールでEveは歌いあげた。オーケストラは「心海」にも参加し、Eveは伸びやかな高音とともに繊細な表現を聴かせていく。間奏では、天井から大量のメタリックフィルムが、銀色の輝きとともに舞い散った。



インストルメンタルの「fanfare」を経て、「ナンセンス文学」へ。バンドサウンドによるEve流のダンスナンバーだ。腕を振るファンの姿にも、熱がこもっているのがわかる。「ドラマツルギー」では、Eveはステージの両端まで移動してファンに歌いかけた。

インストルメンタルの「廻人」が再度流れると、モニターには再び「廻人」のロゴが。そして、Eveの代表曲を更新した「廻廻奇譚」のイントロが鳴りはじめた。ヴォーカルのエフェクトがトリッキーにして、メロディーには随所に強力なフックがあり、2番になるとトラップが前面に出てくるなど、「廻廻奇譚」がいかに力作であったかを改めて痛感させられる。そして、会場では銀テープが噴きあげられた。



「最後の曲になりました、みんなまだいける? 踊れる?」とEveがファンに聞くなか、「退屈を再演しないで」へ。フロア志向のサウンドが、武道館を巨大なダンスフロアに変えていた。「楽しかったです、本当に本当にありがとうございました!」。そう言ってEveはステージを去った。

それでも満員の武道館には激しいほどの拍手が響き、Eveが再登場してアンコールへ。「デーモンダンストーキョー」は、この日もっともファンキーな楽曲だった。「群青讃歌」は爽快なロックナンバーだ。



MCと写真撮影も行われ、Eveはファンにこう語りかけた。「今日来てくれているみんなは、赤の他人とは思ってないので、現実逃避したくなったら遊びに来てください、本当に今日はありがとう」。

軽快なダンスナンバーの「お気に召すまま」では、銀テープがまた噴きあげられた。歌い終わると、Eveはステージの左右、そして中央で改めてファンに深く頭を下げて感謝した。

ところが、「もう一曲やっていいですか? 帰りたくなくなっちゃった」と、ギターを抱えて、セットリストにもない楽曲を演奏しはじめた。「盛りあがる曲じゃないけど、ひとつになりましょう」と言って歌いだしたのは「君に世界」。ツアーをようやく開催できた2022年の夏が終わっていくのを噛み締めるかのように歌った。

Eveは「またね」とだけ言い残してステージを去ったが、それは名残惜しさを振り切るかのようだった。ファンはモニターに流れるエンディングロールにも惜しみない拍手を送り、そしてその最後で2022年12月13日に映像集「ZINGAI」のリリースが発表された。



前述のように、Eveの武道館公演は、音楽とアニメと照明によるライヴで、さらにファンの腕のLEDバンドも演出に加わっていた。本編は約80分だったが、その密度と刺激は驚異的なほどだ。アンコールを含めて24曲も演奏したのに2時間に満たない簡潔さ。それが高い密度を生みだし、冷めやらぬ興奮を残したのが<Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演>だった。

文:宗像明将
撮影:Takeshi Yao

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セットリスト

<Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演>
2022年8月30日@東京都・日本武道館
00. 廻人 -inst-
01. 藍才
02. 夜は仄か
03. YOKU
04. doublet -inst-
05. LEO
06. レーゾンデートル
07. いのちの食べ方
08. slumber -inst-
09. トーキョーゲットー
10. アウトサイダー
11. ラストダンス
12. 杪夏
13. 蒼のワルツ
14. 心海
15. fanfare
16. ナンセンス文学
17. ドラマツルギー
18. 廻人 -inst-
19. 廻廻奇譚
20. 退屈を再演しないで
<アンコール>
21. デーモンダンストーキョー
22. 群青讃歌
23. お気に召すまま
24. 君に世界

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