【インタビュー】川崎鷹也、自分を支えてくれた人との思い出の曲をカバーしたEP『白』

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■武部聡志さんと僕にしかわからない信頼関係を音楽を通して感じられた
■だから5曲全部イントロから大好きだし違和感なく気持ちよく歌えるんです


――『白』を聴いたときに、川崎さんは原曲のアーティストさんの歌い方や呼吸をすごく大事になさっていると感じました。

川崎:僕も曲を書くので、曲を聴くとなんとなくそのアーティストさんの譲れないところがわかるんですよ。僕もありがたいことにカヴァーしていただく機会が多いですけど、“あ、ここ変えちゃうのか”と思うことがまったくないと言ったら嘘になる(笑)。やっぱり作っている側、歌っている側にしかわからない感覚はあるんです。だから僕もこの5組のアーティストさんにそう感じてもらいたくはなくて、できる限りのことはやりました。

――それがリスナーから“川崎鷹也のカヴァーは原曲へのリスペクトを感じる”と言われる所以かもしれませんね。

川崎:カヴァー曲で100%自分の歌いたいように歌うのは違うと思っているんです。と言ってもレコーディングに向けてガチガチに準備をしていったわけではなくて、“自分がずっと聴いてきたこの音楽たちを、今の僕が歌うならどうするか?”ということに集中して、まず一度好きなように歌いました。その後に武部さんと話し合いながら“自分らしく歌うところ”と“原曲に忠実に歌うところ”を微調整していきました。

――これまでの武部さんとの関係値があったからこそできたレコーディングかもしれませんね。川崎さんのヴォーカルからそのアーティストさんの香りはするけれど、ものまねではないし一歩引いてもいない。ヴォーカリスト川崎鷹也がちゃんと歌の場所にいるなと感じました。

川崎:それは多分、武部さんのアレンジがすごく大きいと思います。原曲という正解がありつつも、武部さんは僕が歌いやすいオケを大前提に考えてアレンジしてくださってるんです。たとえば「愛燦燦」や「366日」の原曲は、かなり特徴的なイントロだと思うんですよ。

――たしかに、イントロですぐにわかる曲。そこに着目すると、川崎さんのカヴァーはがらりと印象が変わります。

川崎:カヴァーのイントロは、武部さんが僕の歌力を信じてくれたからこそのものだと思っているんです。多分それを信じてくれていなかったら、原曲に忠実なアレンジになさるだろうなと思うんですよね。

――うんうん。そうですね。

川崎:何歩先も行った攻めたアレンジが上がってきたので、武部さんも“鷹也なら何かやってくれるだろう”と僕に託してくれたんだろうな、ヴォーカリストとして信頼してもらっているんだなとすごくうれしくて。“任してください!”って気合いが入りましたね。武部さんと僕にしかわからない信頼関係を、音楽を通して感じられました。だから5曲全部イントロから大好きだし、違和感なく気持ちよく歌えるんですよね。“こういうほうが歌いやすいのにな”と思う箇所がひとつもなかった。武部さんが僕らしい歌を歌えるアレンジをしてくれたからこそ、おっしゃっていただいたように感じてくださったのかなと思います。


――エレファントカシマシ「悲しみの果て」のカヴァーは、これまでに聴いたことがない川崎さんの歌声を聴くことができました。

川崎:マネージャーであり高校の同級生である親友との思い出の曲ですね。暗闇のなかで何があるかわからないけれど、それでも突き進んでいくというメッセージが込められていて、高校の頃の僕らが抱いていた将来の不安を払拭してくれた曲なので、僕らのテーマソングというイメージが大きいです。宮本(浩次)さんの、低いところから一気に高いとこに駆け上がるメロディの動かし方は僕にないものなので楽しかったですし、原曲のキメを生かしながらもイントロにルバートっぽい、ジャズっぽい雰囲気を入れた武部さんのアレンジも遊び心があってテンションが上がりましたね。ライヴでも映える曲になると思います。

――「元気を出して」は事務所の社長がお好きな曲とのことで。

川崎:ボスが昔からいちばん好きなアーティストが竹内まりやさんなんですよ。ボスとは苦しい時代を二人三脚で過ごしてきて、そこからいろいろな人と出会って、いろいろな大人も見てきて、楽しいことも苦しいことも悔しい思いもふたりでしてきて――ボスと僕のふたりにしかない感覚は今でもすごく大事にしてるんです。だからこのタイミングで「元気を出して」をボスに歌えてよかったです。

――少し話がそれますが、最近は活動開始と同時に楽曲をSNSにアップしているアーティストさんが多くて。そこで知名度が上がっていくので、初ライヴの時点でお客さんを300人、500人と集められる、チケットがソールドアウトする人が多いんです。

川崎:へええ、そうなんですね。それはすごい。

――特にソロシンガーさんの場合は、これがスタンダードな歩みになってきていると個人的には感じていて。そうすると、お客さんゼロのライヴハウスで歌う経験をする人はほとんどいなくなるんだろうなと思うんです。でも川崎さんにとってお客さんゼロのライヴハウスで歌っていた経験は、今でも大きな糧になっていると思っていて。そういう頃に出会ったのが、今の事務所の社長なんですよね。

川崎:ああ、なるほど。いろんな活動スタイルややり方があるので、一概に何がいいとは言えないですけど、何かトラブルや高い壁にぶつかったとき、それを乗り越えられるパワーが生まれるのは、お客さんゼロでも音楽をやってきたところがすごく強いと思います。そんな状況に加え、大人が信じられなくなっていた僕に、社長は2年もずっと一緒にやろうと声を掛けてくれて。正直お客さんゼロのシンガーソングライターと一緒にやるなんてリスクでしかないじゃないですか。でも社長はリスクを背負ってでも“鷹也の歌声は最高だよ。一緒にやろう”と言い続けてくれた。それはステージに立つ側の人間からすると、とても心強いことなんですよね。それから6年ぐらい経って……ほんっとに、いろいろな思いをしてきましたけど。うん、良かったかな。


――そういう背景があるからこそ歌える「元気を出して」なのではないかと思います。

川崎:そうですねえ……。武部さんも僕のバックグラウンドや、どういう思いで歌を歌っているのか、どう届けたいかを100%理解してくれてるので、ボスの大好きな「元気を出して」を武部さんと録れたこともすごくうれしいんです。“武部さんはちゃんとわかってくれてるんだな”と思いながら歌えたので、それが歌にも生きていると思いますね。

――川崎さんは“たくさんの人に伝わってほしいと思って歌っていない”とよくおっしゃるし、そのメンタリティがあるから『白』も生まれたんだと思います。でも“「元気を出して」のように、人生や人、愛をもっと広くとらえた楽曲を作りたい”ともおっしゃっていて、それは“たくさんの人に伝わる曲”にもなると思うんですよね。このあたりのバランスは、どうお考えなのかなと。

川崎:お、難しい質問が来たな(笑)。

――(笑)。意地悪な質問をしている自覚はあります。

川崎:んー、そうだなあ。自分のぶれてはいけない軸として“あくまで誰かひとりに向かって歌う”というのがあるんですけど、もう一方でそういう気持ちや、誰かひとりへ向けた愛、何気ない日々の幸せが大事だよねと、みんなに知ってもらいたい気持ちがあるんですよね。でもそれを主張したいというよりは、わかってくれる人にわかってもらえればいいかなとは思っていて。僕のスタンスや性格、人間性をわかってくれる人がいたらうれしいなとは思っています。

――となると今年リリースした「愛の灯」は、川崎さんの目指す“人生や人、愛をもっと広くとらえた楽曲”の第一歩なのかもしれませんね。

川崎:うんうん、そうですね。その“人生や人、愛をもっと広くとらえた楽曲”というのが、最初話した“10年20年と長く生き続ける音楽”にもつながってくるのかなと。この5曲全部、僕の目指すべき音楽だと思っています。

――そして玉置浩二さんの「メロディー」は、鷹也少年が初めてギター弾き語りを練習した楽曲だそうですね。なぜこの曲を最初の練習曲に選んだのでしょう?

川崎:初心者でも弾けるくらいコードが簡単だからです(笑)。あと玉置浩二というアーティストへの絶対的な憧れと尊敬がありましたね。玉置さんのことはいつの間にか知っていて、いつの間にか追いかけていて、いつの間にか“こういう人になりたい”とずっと思っていて。専門学校のオーディションで「メロディー」を歌ったりはしていて、それを弾き語りでやってみようと思ったのが始まりです。だからカヴァーEPを作ることが決まっても、玉置浩二さんの歌を歌うつもりなんてなかったんですよ。玉置浩二さんへの憧れが強すぎて、“僕が歌っても良いものにならないだろう”とハナから決め込んでた。だから選曲リストにも入れてなくて。

――そこで武部さんに“あれ? 玉置浩二はカヴァーしないの?”と突っ込まれた、ということですか?

川崎:そうです(笑)。武部さんは僕の玉置さんへの思いを知っているので、リストを見て“あれ? 玉置の曲入ってないじゃん。なんで?”と言われて。いやいや歌えないですと答えるも、“いやいや入れなきゃだめだろ。俺が玉置に言っとくから入れよう”と(笑)。

――ははは。入れて良かったですか?

川崎:……良かったです!(笑) 多分今回「メロディー」を歌わなかったら多分ずっと歌わなかったと思います。いつか玉置さんの曲は歌いたいとは言ってましたけど、そう言いながら逃げて多分このままやらないだろうなってなんとなく自分でも思っていたんですよね。だから背中を押してもらえてよかったです。でもこうやって武部さんが背中を押してくれたのは、武部さんの思いもあるんだろうなと思ったんですよ。

――と言いますと?

川崎:武部さんは何度も玉置さんと共演なさっているので、武部さん個人も玉置浩二というアーティストに強い思いを持っていると思うんです。だから「メロディー」は武部さんの思いも加味した歌を歌いたいなと思って。その瞬間から良い歌を録れるように頑張ろう!というモードになりました。しかも「メロディー」だけは楽器も歌も全部一緒に撮ってるんですよ。

――そうなんですか。あの心地よい緊張感はほぼライヴの環境で録られたものだから生まれたんですね。

川崎:完全にライヴでしたね。レコーディングブースに僕と武部さんとストリングスの皆さんが一緒に入って、皆さんの顔を見ながら歌いました。ナマモノだから歌いながら血が湧きたつような感覚があったし、最後のロングトーンは俺が好きなところまで伸ばして、好きなところで歌い始めて、そこに全員が合わせてくれて。「メロディー」をみんなで一発録りするのは、武部さんの意向だったんです。みんなの緊張感も相まって、良いテイクが録れました。

――鷹也少年が初めて弾き語りに挑戦した楽曲を、様々な出会いを経てアーティスト川崎鷹也がたくさんの人の力を借りて音源にした。一度立ち止まって人生を振り返るのに、カヴァーEPはとても良い機会だったのではないでしょうか。

川崎:そうですね。いろいろな思いを持ってシンガーになりたくて東京に出てきて、途中で一度バンドも経験して、弾き語りをやっていて。それから初めて自分以外の人と一緒にレコーディングをして、SNSで「魔法の絨毯」をピックアップしてもらって、いろんな人との出会いがあって――そこで得られる知識や学びがすごくたくさんあって。それで川崎鷹也の色がついたと思うんです。

――川崎さんがよくおっしゃっていることですよね。“その人との出会いがなかったら、今の自分にはなっていない”。

川崎:100%言い切れますね。『白』に収録した5曲は僕の思い出に染まっていると同時に、たくさんのリスナーの方々の思い出が詰まった曲たちでもあるので、僕だけのストーリーじゃなくて、聴いてくださった人それぞれのベストの色をこのアルバムに見出してほしいんです。それでチームのみんなでこのEPを『白』と名付けたんですよね。聴いてくださった方の好きな色に染めていってほしいです。

取材・文:沖さやこ

リリース情報

COVER EP『白』
2022年9月14日(水)発売
■通常盤(CD)WPCL-13399 ¥2,200(税抜価格¥2,000)
■初回限定盤(CD+Blu-ray)WPZL-31994/95 ¥2,750(税抜価格¥2,500)
予約:https://takayakawasaki.lnk.to/shiro
収録曲
1.「愛燦燦」(美空ひばり)/作詞・作曲:小椋佳
2.「悲しみの果て」(エレファントカシマシ)/作詞・作曲:宮本浩次
3.「元気を出して」(竹内まりや)/作詞・作曲:竹内まりや
4.「366日」(HY)/作詞・作曲:IZUMI NAKASONE
5.「メロディー」(玉置浩二)/作詞・作曲:玉置浩二

ライブ・イベント情報

<Billboard Liveツアー「WHITEーあなたに贈る歌ー」>
10月6日(木)東京・ビルボードライブ東京
1stステージ 開場17:00 開演18:00
2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[問]ビルボードライブ東京 03-3405-1133
〒107-0052東京都港区赤坂9丁目7番4号 東京ミッドタウン ガーデンテラス4F
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13569&shop=1

10月9日(日)神奈川・ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場14:00 開演15:00
2ndステージ 開場17:00 開演18:00
[問]ビルボードライブ横浜 0570-05-6565
〒231-0003 神奈川県横浜市中区北仲通5丁目57番地2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13570&shop=4

10月14日(金)大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場17:00 開演18:00
2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[問]ビルボードライブ大阪 06-6342-7722
〒530-0001大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2
詳細:http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13571&shop=2

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