【コラム】和楽器バンド＜ボカロ三昧2 大演奏会＞、8周年の集大成がここに

和楽器バンドが8月17日にリリースした最新アルバム『ボカロ三昧2』は、もう聴いただろうか。まだ聴いていないという人には、この和楽器と洋楽器が織りなすサウンドメイクの驚異を『ボカロ三昧2』で知ってほしい。そして何より、本作を掲げたツアー＜和楽器バンド ボカロ三昧2 大演奏会＞で生の演奏を見てほしい。

◆ライブ写真

アルバムリリース時のインタビューで鈴華ゆう子は「この『ボカロ三昧2』を録るだけじゃなく実現していくのが私たち」と語っていたが、その言葉通り、本ツアーでは驚異的なサウンドをステージの上で“実現”しているのだ。

まだツアーが開幕したばかりということもあり、ここでは全楽曲について詳細に触れることはできない。しかし、よりたくさんの人に『ボカロ三昧2』を聴いて、現地で『ボカロ三昧2』を味わってほしいと思うので、東京・中野サンプラザ公演を見て感じたことや、見どころを少しだけ記しておく。

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とにかく、本公演はすごかった。『ボカロ三昧2』だけを聴くと、和楽器バンドはなんとテクニカルで統制のとれた優等生なバンドかと思うはずだが、ライブ会場で和楽器バンドの音を聴くと、まず音圧に圧倒される。和楽器バンドのメンバーそれぞれが各楽器のエキスパートであるためもちろんテクニカルではあるのだが、現地で聴く音は町屋のディレクションによって気持ちよくミックスされた音源とは違った印象を受けるはず。圧倒的なバンドサウンド感なのだ。そもそも『ボカロ三昧2』は高音・高速・跳躍の昨今のボカロ曲をメインにカバーしたアルバムなので、普通に考えてカバーすることも演奏することも難易度が高い。しかし和楽器バンドはアルバムとして音源を見事に作り上げ、それをライブでは怒涛の音圧のバンドサウンドを持って表現する。


「フォニイ」や「エゴロック」といった特にBPMの早いボカロ曲では、山葵（Dr）が繰り出すツインペダルの激しいビートに高揚感を掻き立てられ、それに乗る亜沙（B）のスラップベースがとても気持ちいい。町屋（G&Vo）のスーパーテクニックも目が離せない。全員が全力でぶつかってくる感覚すら覚える。今回カバーしたボカロ曲のほとんどが、もともと和楽器の入った曲ではないだけに、和楽器バンドの洋楽器隊が生み出す“土台”の強固さが顕著に現れるのだろう、いつものライブよりもビリビリとするような音圧を感じた。

その洋楽器隊が生み出す土台の上で、自由に動き回る神永大輔（尺八）の尺八の音、空気を張るような蜷川べに（津軽三味線）が叩き出す三味線の音。すっと耳に飛び込んでくるいぶくろ聖志（箏）が爪弾く弦の音、時に大太鼓、時に鳴物と変幻自在に形を変え曲に色を添える黒流（和太鼓）と、和楽器隊が個性を発揮する。今回のライブでは、全員の音が要所要所ではっきり聞こえてきた。こんなに個性的な楽器の多いバンドなのに、無駄な音がひとつもない。8年かけて彼らが作り上げてきたアンサンブルの成果が、このボカロ曲カバーという難易度の高いライブで最大限に発揮されていることを、ライブではひしと感じられるだろう。

鈴華ゆう子（Vo）の歌も、こんなに速くて難しい歌をピッチを狂わせることなく駆け抜ける。「エゴロック」ではがなるような声を聞かせた後にすぐ跳躍、「グッバイ宣言」では逆に可愛い女の子の声で曲をスタートさせたりと、様々な声色を使い分ける。カバー曲ではあるが、しっかり自分の歌として落とし込まれているのも感じた。


また、メンバーの技術力にも注目だ。今回のツアーではステージ上に津軽三味線が7棹、箏が4面用意されている。蜷川べにはその７棹を曲にあわせて次々変えるほか、バチとピックを使い分ける。その音飾が変わっていくさまも聴き飽きない。いぶくろ聖志はいつもの事ながら曲中に調弦を行いつつ演奏。4面の箏を行き来しながら高速フレーズを弾く合間で、手で琴柱を移動させてチューニングするのだからとんでもない。一方で神永大輔は４本の尺八を使い分けつつも、自身の吹き方で全てに対応。黒流は大太鼓、締め太鼓、鉦などとにかくたくさんの打楽器に囲まれて、あっちを打ったかと思えばこっちを打つ。しかも和太鼓ならではの“魅せる”パフォーマンスを入れながら。

転調の多いボカロ曲だけに、転調に対応しづらい和楽器隊がどのように楽曲を表現しているのかという点は、今回のツアーならではの見どころだと言えるだろう。MCでは尺八がボカロ曲において自身の存在意義を考えるところから始まったというエピソードや、箏はもともとボカロ曲に入っているシンセサイザーなどの音を表現するため、簡単なフレーズを弾くとカッコ悪くなってしまうという苦悩があったことなども明かされた。

そして、ライブが“見て”楽しいのも和楽器バンドのライブの特徴。MCでは鈴華が「目でも楽しめるような1日を」と述べていたが、その通りメンバー同士がステージを広々と使って動き回り、パフォーマンスも目が離せない。鈴華が舞扇子や和傘を使って舞う姿は美しくて素敵で、ヘドバンしたかと思うと手をウキウキさせて踊る亜沙や、べにが両手を猫のようにして飛び跳ねる姿も可愛い。「いーあーるふぁんくらぶ」は、まさかの山葵の中国語の歌唱から始まり、朗々としたその歌声に黒流が吹き出したり。メンバーが8人もいるだけに、まさに“目が足りない”状態。こうしたパフォーマンスを見ることができるのも、ライブならではの楽しみだ。MCもたっぷりで、詳細は控えるが中野サンプラザ公演では黒流の“黒歴史”が明かされて、爆笑する場面も。今後は会場変わりでどんなメンバーのどんな“ネタ”が明かされるのかも、追っておきたいところ。


本当は一曲一曲についてや詳しい演出、アンコールでのトークについてもしっかり書き記したい。個人的に感嘆してメモを取ることも忘れ見入ってしまった曲もあるし、こんな展開も用意されているのかと驚かされた場面もある。だが、ツアー開幕すぐなのでここで全ての種明かしをしてしまうのは興ざめになるだろうし、何より11月まで続くツアーの中でさらに練度が上がっていくことも明らかなので、いまは「＜和楽器バンド ボカロ三昧2 大演奏会＞は行かないともったいない」ということだけお伝えしておこう。

取材・文◎服部容子（BARKS）
写真◎上溝恭香