【インタビュー】植田真梨恵、11年越しの“ユーフォリア計画”完遂「死ぬまでに作り上げたいと思っていました」

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■音楽の在り方が子どもの頃とは変わった
■映像も含めた1曲の作品を作らないといけない

──先ほど、「え? もう?」という言葉もありましたが、「“ユーフォリア”は作らないんですか?」って言われたときは率直にどうでした?

植田:“まじか。今か。できるかな?”っていう気持ちがありましたし、“ユーフォリア”をやるということは、仕事じゃなくて、よりプライベートの素の自分で、夜ご飯作るくらいの気持ちで作らなきゃって思ったんです。一流レストランの美味しいご飯じゃないけど、うちのご飯食べて?っていう作品なんですよね(笑)。そういう図式をアルバム作りに持ってこれるなら、作れるかもって思いました。

──実際、難しいものですよね。急に、うちのご飯食べてというところにみんなを引っ張っていくのって。

植田:そうですね。性格的に、なんていうか、仕事をちゃんとしないとって(笑)。でも、変にしっかりしなきゃみたいなのが入ってしまうのは、良くないとも思ったので。マネージャーとは15年来の付き合いになるし、他のスタッフも10年以上一緒にやっている方ばかりだし、もう嫌われるとか迷惑かけるとかは、一回置いておいて。嫌われても迷惑かけても、わがままを言いながら作らせてもらわないと“ユーフォリア”にはならないって思いましたね。っていう、ダメだったらダメだなみたいな気持ちと、私がやりたい、こうしたいっていうものすべてを受け入れて一緒に走ってくれているスタッフに、今まで以上に感謝があります。


──実際の曲作りはどうでしたか。“ユーフォリア”を作れるんだという状況になってからの制作は、またこれまでとも違う感覚だったのかなと思いますが。

植田:最初に制作にとりかかったのは20歳のときに書いている曲たちで。アルバム収録曲は、先ほど挙げた5曲はあったけど、その他の6曲はまだ生まれてなかったんです。3ヵ月連続配信リリースで「“シグナルはノー”」と「ダラダラ」のリリースが見えていた状態だったので、そのオケのレコーディングをしながら並行して歌入れをして、アレンジや歌入れをしながら次の曲を作っているような状態だったんです。それに「ダラダラ」や「最果てへ」は特に二度目のレコーディングで、ライブで歌っていたりもしたので、歌いなれてしまっていて。なので結構、歌入れのときに当時の自分の感じが出ないなとか、それこそピュアな感じやスレてない感じとか、何も考えずに書いていた良さがなくなってきて。こなさないように歌う難しさを感じながら、レコーディングをしていましたね。

──改めて「ダラダラ」のデモバージョンを聴き返しましたが、あの雰囲気はやっぱりあのとき、あの瞬間にしか出ないものですね。

植田:そうだったみたいです(笑)。


──ちなみに、よくこの“ユーフォリア計画”のことをこれまで話さずにいたなと(笑)。BARKSはデビュー作の「彼に守ってほしい10のこと」の頃からインタビューをさせていただいてますが、「ダラダラ -demo-」については、インタビューで話も聞きましたよね。「“demo”とありますが、これは完成形ではないんですか?」って質問したとき、「完成形は頭のなかにあるんです」と言っていたんですよ。たしか、「最果てへ -demo-」のときも同じようなお答えだったと思います。

植田:そうですね、やっとできたんですよ(笑)! 当時はいろんな意味でできないことでもあったので。だって、メジャーデビューだし、こういう曲で売れると思ってはいないですし。もちろん私は100%いいと思ってるんですけど。だから、そういう意味では希望でもありますよね。音楽業界に対する期待として、このアルバムを出しますっていうのは。

──なるほど。ただ今回は、当時のものにあまり手を加えすぎず、デモやそのときの良さを引き立てるようなアレンジが施されているという印象でした。つまり、音楽的な時代性に左右されない普遍性の高いサウンドで仕上がっているというか。

植田:そうですね。「ダラダラ」はアコースティックギターにエレキギターが重なってきて、世界観自体はガッとステレオに広がる感じではありますけど、作りはものすごく質素に、ドラムとベースがあってというもので。こだわりとしては絶対にストリングスを入れないぞというのはありました。いかに、ストリングスじゃない長く伸びる楽器で、情感を出せるかというところ。メロトロンの音やオルガンを足したりはしているんですけど、やっぱりあの“部屋感”みたいなところを崩さないために、大げさすぎるアレンジは、全曲通して避けていますね。


──それはすごく感じます。いろんな音が入っている曲も、インナートリップ的なアレンジになっていて。ノイジーな曲もありますが、手触りとしても優しい雰囲気で。まず3曲を連続リリースをして、ミュージックビデオも自分で監督をして。そこでの充実感は高かった感じですか。

植田:はい。このアルバムで表現していることでもありますが、音楽の在り方が、自分が子どもの頃に見ていた世界とは変わったと思っていて。悪い面ばかりではないけど、自分の行きたかった宝島みたいなところとは、もう違っているという思いはありました。普段音楽を聴くときとか、試聴するときも、映像付きのYouTubeっていうものから音楽を取り入れる出会い方がとても多くなっているから、映像も含めた1曲の作品を作らないといけないと思って、「配信曲は全曲ミュージックビデオを作りたいです」と言ってやらせてもらったり。「出来る限り自分で監督もしたいです」って言ったのは、映像を含めた1曲の作品を作る、それが理由の一つではありましたね。

──最初に配信となった「“シグナルはノー”」は、制作当時、どんなイメージをして作った曲か覚えていますか。

植田:あまり覚えてないんですよね、「“シグナルはノー”」は特に。ただある種、自己満足的というか。冒頭の“日に焼けたアルバムと蔦の絡まる苺の実”とか、もうポエムですよね。メッセージ性とか、歌詞で明確に何かを伝えたいというよりはポエムで、いいなあ、好きだなあと思う言葉を綴って、それを歌にしたっていう気持ちが強い。そのポエムから曲が進んでいって、私の部屋があって、宇宙というものがあって、そこに飛び立っていくふたり。……ふたりは繋がっているんだけど、だんだん信号が途絶えていくみたいな物語を描写したんです。それも、この物語が伝われ!っていうよりは、好きなように世界観をただ描く、ポエムでしたね。

──苺のイメージだったり、記憶をくすぐる情感があったり雰囲気があるということでは、ビートルズの「Strawberry Fields Forever」を思い浮かべる感覚があったんですね。あの曲も子ども時代やノスタルジーにつながる曲ですが、この「“シグナルはノー”」も自分の内側や記憶に触れる感触があって、すごくいいなって思いました。

植田:嬉しいです。まさに、「Strawberry Fields Forever」のストロベリーフィールズの孤児院と……本当に抽象的な表現でどうしようもないんですけど、戦場で戦っている戦士たちが頭の中にあったんですよね。そのふたつの情景みたいなものが曲の手触りに入ったらいいなっていうのはあったんです。物語は別軸なんですけど、見えている世界はそういうものでした。

──その質感を何とかして音だったり空気感として出そうと。

植田:そうです。



──「BABY BABY BABY」のミュージックビデオではご自身が作った大きな泥人形が映像に登場していますが、あれは曲を映像化するにあたって思い浮かんでいたんですか?

植田:最初は私ひとりでいいかなと思っていたんです。クルーザーに乗ったり、船の中のベッドでユラっとしたり、窓から見る景色が海の表面で、水色で…とかそういうものをふんわりと考えていたんです。だけど、何かが足りない気もしていて。それで19歳の頃からの親友でもある映像監督とおしゃべりをしているときに、曲を聴いてもらったら、「泥人形でも作ったら?」と言われたんですよ。

──すごい発想ですね(笑)。

植田:“泥人形って何?”って最初は思いました(笑)。でも、彼も私も、ヤン・シュヴァンクマイエル(チェコの映像作家)が好きだったりするので。すぐに“ああいうことか。でもあれはストップモーションアニメだし、映像作るの大変そうだな”と思いました(笑)。でもひとりでクルーザーにいるよりも、誰かとランデブーしているほうが確かに合うなと思って。あと「BABY BABY BABY」には命というテーマがあるんです。命のないものと時を過ごしているところってすごくいいアイデアだなって思ったんですよね。それでなんとか泥人形を作りました。

──映像ではより切なさや儚さが出ましたよね。

植田:はい。実は泥人形を家で作ったんですけど、猫がちょっとなついたんです。

──あんな大きなものに(笑)。

植田:めっちゃ怖がると思ってたんですけど、2匹いる猫のうち1匹は、撫でてほしそうに手のところに鼻をスリスリしていて(笑)。ミュージックビデオでは最後に水に沈めちゃう描写があって、泥人形だから、もうグズグズでドロドロに溶けてしまうんです。一発勝負の撮影で、その後は破棄するしかないくらい崩れちゃったので、なんとも切なかったですね。撮影を進めていくうちに本当に彼に感情があるように見えてきて、スタッフとかみんなで「染五郎〜」って呼んでいたんです。だから本当に最後はしんどくて、感情のスイッチをオフにしました。

──これまで、ミュージックビデオも自分で手がけたり、手作りしたりしてきましたが、そういうことも今回につながっていますね。

植田:本当に。音作りにおいてもそんな感じでしたね。

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