【インタビュー】植田真梨恵、11年越しの“ユーフォリア計画”完遂「死ぬまでに作り上げたいと思っていました」

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■ユーフォリアだけど寂しくて切ない曲ばかり
■人の肌の感じがしっかりとあるアルバム

──植田真梨恵さんとともにアレンジに名を連ねているのが森良太さんですが、どういう経緯で一緒にやろうとなったんですか?

植田:20歳の頃、私の初めての弾き語りのワンマンライブのゲストに来てもらったことがあったんです。その時も「一緒に曲を作って、1曲披露したいね」って言って、1曲一緒に作ってるんですよ。

──森さんも、その当時からの仲間なんですね。

植田:はい。彼は制作というものに対するレスポンスが、ものすごく速いんですよ(笑)。「曲を作りたいね」と話した2日後には1コーラス送られてくる感じ。当時からものすごいバイタリティだなと思っていました。その後、森くんはBrian The SunというバンドやボカロPとかもやってずっと忙しそうにしていたんですけど。Brian The Sunが活動休止して、フリーで動くようになって、わりと自由にアレンジの仕事もやってると聞いたので、「あのレンスポンスの速さと、理解力の深さで、今回ぜひ一緒に作ってほしいな」ってお願いしました。

──では、久々の一緒の作業だったんですね。

植田:そうですね。同い年で、同じく大阪でずっと活動しているので、頑張ってるなと思いながら、お互い見ていたと思うんです。実は「“シグナルはノー”」でコーラスを入れてくれた内田秋くんも、同い年で、出会った当時はピアノガールというバンドで歌っていて、今もNo Funというバンドで音楽を続けていて。バンドで音楽で…戦ってるという言い方は良くないですけど、なんとか音楽で自分の居場所を作ろうと音楽を鳴らして戦っている人たちと一緒に作りたかった。そういう気持ちがあったんです。



──森さんのレスポンスの速さは相変わらずでしたか。

植田:めっちゃ早かったですね(笑)。

──今回の作品でも通じ合う部分が多かったんですかね。

植田:制作に入る前にめちゃくちゃ話しましたね。“こんな感じ”という曲の雰囲気とか、全体でのつながりとか、アルバムの前提とか。そもそもアレンジの進め方も、出来上がったものをデータでやり取りして確認というのではなくて、もっとこういうベースラインでもっとこうしようとかを、その場で実際に音を出して話し合いながら進めていく感じだったんです。

──一枚のアルバムでそこまで一緒に作り上げていくっていうのは、これまでなかったんですよね?

植田:なかったですね。届いた完成形に対して私がなんやかんやお願いしてイメージを近づけていくことが多いんですけど、今回はアレンジの最初の段階から私の頭の中の音を実現しようとしてくれたと思います。


──では、そのアルバム収録曲についても具体的にお聞きしていこうと思いますが、まず1曲目の「EUPHORIA」。これはベースラインから始まるというのがとても植田さんらしいなと思いました。

植田:本当ですか(笑)!?

──「ベースが好き」っていうことも以前お話していただきましたが、今回こういう始まりなんだ!って(笑)。

植田:お恥ずかしいです(笑)。もともとアコギとベースのフレーズをひとりで作っていて。これで始まりりたいけど、植田真梨恵の曲に、これまでベース始まりの曲があまりないから、ベース始まりにしよって思ったんです。…でも、そうか、私らしかったか(笑)。

──ははは。ファンタジックな匂いや雰囲気があって、でもその後ろには悲しいものがある音になっていて。心をざわつかせる感じが1曲に詰まっているサウンドになっていますね。幸福感の意味を持つ「EUPHORIA」というタイトルではあるけれど、決してその多幸感や陶酔感だけを描いているわけじゃない、そこに至るまでの最初のダイヴという感じがあるなと。

植田:私が考えている“ユーフォリア”という言葉自体、全世界的な大きなものではなくて、私という人間がいて、関わる人たちがいて、その中にひとときある幸福感みたいなものだったりするので。どちらというと、歌詞にも出てきますが“ディストピア”ありきの、最悪なとか不利な状況ありきのものだなという感じがしているんです。なので、幕開けとしては全然ハッピーではないけど、とても小さなユーフォリアを描いていますね。

──「“ユーフォリア”という言葉は元々好きだった」ということですが、惹かれたきっかけがあったんですか?

植田:言葉としては、18歳くらいのときに出会っているんです。よく行っていた雑貨屋さんがあって。そこはとっても個性的な、上海とパリが混ざったようなエスニックなお店だったんです。ご夫婦でやっている雑貨屋さんで、当時私は友だちも全然いなかったから、2時間とか入り浸ってお話していて(笑)。神棚もたくさんあって、世界のいろんな神様が飾ってあってパワースポットのような場所だったし、そういう時間だったんですね。そこの奥さんと話をしているときに“ユーフォリア”という言葉を教えてもらったんです。“へぇー”と思って、心の中に残っていたから、いつかそういうタイトルのアルバムを作ってみたいと思っていました。

──そのときの印象って、意味どおりに幸せな感じがある響きだったんですか。

植田:なんだろうなあ……18とか19歳で……つねに面白い言葉に出会えたら覚えておこうみたいな感じだったんですよね。だから、いつか作りたいなって、大きなイメージとして持っていたのかもしれないですね。

──以前も言ってましたね、「本屋さんとかで気になるタイトルとか言葉とかを見つけてストックしている」って。その感覚ですかね。

植田:そうだと思います。

──でも、そうやって10代の頃だったり多感な時期に出会ったものって、すごく大事なものだったんだなって、後々になってわかることもありますよね。

植田:好みって、あまり変わらないですしね。


──そこへ意味がつながっていくというか、意味が出てくるというか。「プロペラを買ったんだ最近」はライトな曲調で、リズミカルなボーカルです。ここ最近の心地よいグルーヴ感が出ているタイプの曲ですね。

植田:アルバム全体に言えるんですが、ユーフォリアというアルバムだけど、寂しくて切ない曲ばかりなんですよ。それとともに、全曲生ドラムで録音したり、わざと揺れてるテイクを残したり、人の肌の感じがしっかりとあるアルバムにしたくて。「プロペラを買ったんだ最近」は、友達に連絡できない気持ち……たとえばSNSとかで見てるんだけど、知らないこともあるでしょって。

──それを象徴するかのようなタイトルですね、「プロペラを買ったんだ最近」って。

植田:はい(笑)。そんな嘘のタイトルなんです(笑)。これは、邦楽チックではない、歌詞ばかりが入ってこないような曲も書きたいなと思って、ホワホワっと作りました。

──それでリズムに乗っている感じが強いんでしょうか。

植田:でも、いざ書いてみると、歌詞に注力して書かなかったのに、気に入ったものができた曲ですね。どのくらいの人がこの寂しさに付き合ってくれるのかな?とは思うんですけど。プロペラ機で空を飛びながらでしか、そこであなたの家を見つけることくらいでしか、関係性を持てないっていうか。伝わるかはわからないけど、そういう曲です。

──次の「HEDGEHOG SONG」もそうですが、スルッと入ってくる曲です。ノイジーなギターでガッとひっかかれるオルタナティヴな感じもありますが、アルバム全体を通して、肌馴染みがいいサウンドに仕上がっていて。その中で寂しいなとか、つらいなとか、懐かしいなとか、そういう感触が湧いてくる、そんな作品だなっていう。

植田:嬉しいです。このアルバムの初の感想なので。

──みなさんに聴いてもらう上でのドキドキ感というのは、これまでと違ったものがあるんですか?

植田:それこそ森くんとかエンジニアさんとか、マネージャーさんとか、一緒に作った人たちに曲を聴かせるときは、顎がカチカチ鳴るくらい怖くて震えてましたね、正直(笑)。私にとってすごく気に入ったものができてしまっているから、「よくない」って言われてしまったらどうしようって思いながらいたんです。だけど、作っていく過程で、その“いいじゃん”っていうのが自分の中で確信に変わっていったから。もう、それを好きか嫌いか、でしかないなって思っているので、今は震えないです。

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