【ライブレポート】緑黄色社会、初の武道館ワンマンに観た戦士たちのような凄み

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9月16日、17日の2日間、緑黄色社会が日本武道館でワンマンライブを開催した。<緑黄色社会×日本武道館 “20122022”>と題された、緑黄色社会にとって初めての武道館ワンマン。私は2日目、9月17日の公演を観ることができたが、今年で結成10年を迎えた彼らの、ひとつの集大成と呼べるようなライブだった。「Alice」や「マイルストーンの種」といった最初期の楽曲から「陽はまた昇るから」や「キャラクター」などの最新曲まで、キャリアを横断するように約2時間にわたり全23曲を披露した彼らの姿は、「この10年間で得たものをすべて出し切る。そしてまた、次に行く」──そんな力強い覚悟を感じさせるものだった。そう、「集大成」とは書いたものの、彼らが奏でる1音1音からは「ここで終わりじゃない」という強い意志も強く感じたのだ。実際、長屋晴子はMCでこう言っていた。「私たちを、『武道館に立ったバンド』で終わらせないでください」と。「もっと先の景色を見たい」と。だから、この日の最後に演奏されたのは「これからのこと、それからのこと」だったのだと思う。



ライブ冒頭の「Alice」や「merry-go-round」から、バンドは屈強なアンサンブルを武道館に轟かせた。穴見真吾は、武道館に立つことを許されたミュージシャンがどんな存在であるべきかを体現すべく、そのプライドを音に込めるようにベースを弾く。曲ごとに音の表情を変えていきながら、会場を彩り包み込むように鍵盤を奏でるpeppeは、空間と音に没頭しているようで、静かで、なのにどこか猛々しい存在感があった。小林壱誓は、観客が放つ熱気や喜びを全身で浴び、自らもライブができる熱と喜びを全身で発しながら、ギターを奏で、歌を歌っていた。そして長屋晴子の、伸びやかに歌い、MCで喋る時にはギターを抱きしめるように握る佇まいには、強さと弱さが混ざり合った、とても高潔なものがあった。そんな4人を支えるべく、サポートの比田井修はダイナミックにドラムを叩く。









3曲目「Bitter」の演奏が終わったあと、長屋は「ここが武道館だよ。何も心配しなくていい。私たちに全部預けて」と、観客に向かって告げた。その瞬間の彼女の逞しさと気高さ。それは、さながらフランスの伝説的なヒロイン、ジャンヌ・ダルクのようだと思った。もちろん、実際のジャンヌ・ダルクのように、なにかの犠牲になるような最後を遂げてほしいなんてことは1ミリも思わないが、それでもたしかに、この日の長屋には、そして緑黄色社会には、煌びやかなポップスターとしての表情の裏側にあるものが見えた。「戦って戦って、ここ(武道館)に辿り着いた」──そんなことを感じさせる、戦士たちのような凄みがあったのだ。

これは個人的なことだが、音楽について文章を書くときに、「戦う」という表現をあまり使いたくない、という気持ちがある。なんだか、大仰で嘘臭い感じがするからだ。しかしながら、この日、武道館のステージに威風堂々と立っている緑黄色社会の姿を目の当たりにしていると、「戦う」という言葉がとても腑に落ちた。私はこれまで何度か作品のリリースがあるタイミングで緑黄色社会の4人に取材させてもらう機会を得てきたが、取材の場で対面する4人には、ベッタリとくっついているわけではないが、しかし、4人以外の他の誰にも触れられないような親密さを感じていた。彼らは、とても大切なもの──それは音楽アンサンブルだけでなく、夢や思い出、友人から始まり変容していく関係性、そういういろんなものが混ざったもの──を4人の中で共有して持っていて、それを今はどうしても守っていきたいと思っている、そんな感じが常にしていた。その大切なものを守るために戦いながら、この国のポップシーンの階段を着実に上がってきた彼らの10年目の到達点が武道館だったのだと、その演奏を聴いていて強く感じた。



ライブの中盤、メンバーそれぞれがマイクを取り、MCをした。

「この状況下の中で開催できたことが嬉しいです。高校生の頃にメンバーに出会って、緑黄色社会のひとりとして音楽を始めて。私にとって、それは誇りで、一番の人生の転機でした。このメンバーとチームで、これからも音楽でみんなを笑顔にしていくことを約束します」(peppe)

「武道館と言えば神々のミュージシャンが立ってきた場所で、今、痺れるほど嬉しいです。でも、ここに立つことをゴールだと思わないです。むしろ、スタートだと思っています。今後どれだけ音楽を続けていけるのか、どうなっていくのか、不安もあるけど、でも考えた揚げ句、僕はもっと立派なミュージシャンになりたいと思います。僕はどんなエンターテイメントよりも、音楽のライブが一番であってほしいと思うんです」(穴見)

「なんの意味もなく付けた緑黄色社会というバンド名に、今、いろんな人の気持ちが乗っかって、この4人の枠をもう超えています。この武道館では、僕らの10年の軌跡を、ここにいるみんなに平等に感じてもらえると思います。みんなも10年間いろいろあったでしょ? その気持ちを振り返りながら、今日のライブを楽しんでもらいたいです。僕らもみんなの10年間の眼差しを感じながら演奏します」(小林)

そして、武道館の天井から下げられた日の丸の旗に目をやり、長屋は「私たちはバンドを組んだ頃から、“国民的な存在になりたい”ってずっと言ってきていて。自信家でしょ? こうやって日の丸の下でライブをできたことで、またその夢に近づけた気がします。ここに連れ来てくれてありがとう」と語った。続けて、「名古屋の大須のBLstudioっていうスタジオで、初めてこのメンバーで音を鳴らして、“曲作りしよう”ということになったんだけど、初めてだから右も左もわからなくて。でも、自分たちの音や色がスタジオに一気にバッて広がって、みんながキラキラしてた。その瞬間を今でも覚えてます。その時に、初めて作った曲」と紹介し、「マイルストーンの種」を演奏した。この「緑黄色社会の産声」とも言うべき楽曲「マイルストーンの種」に続いて演奏されたのが、現時点での最新シングル「陽はまた昇るから」のカップリングに収録されている「時のいたずら」だったことが、とても印象的だった。それは先のMCで小林が言っていたように、緑黄色社会に流れた10年という歳月があり、そして、私たちにも等しく流れた10年の歳月があること、その重みを感じさせる曲の並びだった。







「時のいたずら」は、「時間の流れ」をモチーフとしているが、同時に、長屋が「歌を歌うこと」をテーマに歌詞を書いた曲でもある。私がこの曲について取材をした時、彼女は「楽しみにしているステージがあって、そこに向けた曲にしたかった」と話していたのだが、そのステージが、この武道館公演だったのだろう。この日、「時のいたずら」は歌詞がバックスクリーンに映し出される中で披露された。今まさに人気者の彼らが<流行りは廃る/花は枯れる/全て終わってゆくのにな/どうして逆らいたいのだろう/果てる景色を愛したい>と歌ったことには初めて聴いた時にも驚かされたが、きっと、長屋にとって時の流れの残酷さは当然のことで、だからこそ、彼女は「今」を生きるために歌う。その意志は、この曲のこんな歌詞にも表れているように思える。

  ◆  ◆  ◆

いたずらにからかわれたっていい
僕を呼ぶ声が気のせいでも歌にするよ
この声が息をする理由ここにあるさ
歌いたい 限りある時を
僕はやっと君と出会えたから逃がさないよ
僕は今この光を絶やさぬように(「時のいたずら」)

  ◆  ◆  ◆

もし、無慈悲に流れゆく時間に逆らう術があるのだとしたら、それは過去に向かって時間を逆行しようとあがくことではなく、むしろ、自らの意志で未来へと進む意志を持ち、そのための選択をすることなのだろう。私はこの日、武道館で緑黄色社会のライブを観て、そんなことを学んだ気がしている。







文:天野史彬
撮影:ハヤシマコ

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■セットリスト

01.Alice
02.merry-go-round
03.Bitter
04.始まりの歌
05.アウトサイダー
06.陽はまた昇るから
07.愛のかたち
08.inori
09.想い人
10.夏を生きる
11.Shout Baby
12.マイルストーンの種
13.時のいたずら
14.Re
15.Actor
16.キャラクター
17.S.T.U.D
18.あのころ見た光
19.sabotage
20.Mela!
21.ブレス
<BONUS STAGE>
01.またね
02.これからのこと、それからのこと

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