【俺の楽器・私の愛機】1088「名工のジャズギター」

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【T&Joodee GEM 】(愛知県 E2 43歳)


20年ほど前にリサイクルショップの10万均一コーナーで猛禽類の剥製と鎧武者の隣に立て掛けてあり何かに惹かれる様に手に取ったジャズギターです。

衝動買いできる甲斐性も無いくせに本当に何かに惹かれる様に。素性の分からないこのギター、辛うじて中のラベルにS.Tsujiのサインを発見しスマホ普及前で購入後に帰宅して調べた所、富山の名工の手によるギターとの事でした。以来今日に至るまでこのギター1本でジャズを覚え苦楽を共に弾いてきました。

10年ほど前ふと思い立ちゴージャスなジャズギターとは似つかわしくない歴戦の傷に塗れたこのギターを片手に自宅の愛知県西部から東海北陸道で五箇山を目指しました。事前にお伺いのお電話をし奥さんと思しき女性より訪問の快諾を頂き世界遺産合掌造りで有名な12月初旬でも雪深い五箇山の南砺市(旧平村)の工房を目指しました。山深い五箇山の更に山奥の坂道の上に工房はありました。作業着姿の辻四郎さんは職人そのもので言葉少ないながら優しい表情で歓迎してくれ気弱な私は安心しました。

工房は二階建てで一階は木材のストックヤード、二階が工場となっており二階の作業机にこのギターを横たえると辻四郎さんの表情が綻んだのが印象的でした。直ぐに内部のラベルの手書きのシリアル番号を年季の入ったKOKUYOの帳面と照らし合わせこのギターが辻四郎さんにとっても思い出深い物である事が判明しました。

この辻工房には名刺代わりに一本のディアンジェリコのレプリカがあります。訪れた方々はこのギターを基準にオーダーを検討する、その為のギターです。このギター製作に際し麓の製材所で一本の楓の丸太を板にして製作しており、その同じ丸太で作られたのが偶然リサイクルショップで手に入れた私の伴侶ダキストのレプリカでした。

時は80年代中頃、一本の丸太で作られた2本のギターは海を渡り米国カリフォルニアのアナハイムで行われる楽器見本市NAMMショウに出展されました。辻さんご本人の弁によるとこの2本の出来栄えにカラマズー工場を閉めたばかりのギブソンのエージェントからアーチトップ専任で声が掛かる程だったそうです。現地で後の私の伴侶は誰かに買われ、双子の2本は離れ離れになりそれから約30年の時を経て見ず知らずの私の手により偶然の再会を果たす事になりました。

どういう経緯でこのギターが日本に戻りリサイクルショップに売られたのか皆目検討もつきませんが私が手に入れた頃は傷だらけのカールトンケースとは対照的に綺麗なギターでした。しかし20代の中頃このギターを契機にジャズに没頭する私により歴戦の傷に塗れる事になります。

そう、ギター弾きなら誰しもある傷ひとつひとつに歴戦の喜びや力不足での悔しさが滲んでおります。辻四郎さんはこのギターのその姿を慈しみ、全く同じ遺伝子(文字通り)を持つ工房のダキストと弾き比べ鳴らし続ける事による違いを説いてくださいました。辻四郎さんは今年75歳。日本のジャズギター製作に於ける第一人者ながら今でもオーダーを受ける現役の職人です。

その情熱と才能を持ってすれば1人のぼんやりギター好きなサラリーマン(私)を四半世紀以上に渡りジャズの道へ引き攣り込む事など容易だった様です(汗)

   ◆   ◆   ◆

ここにも奇跡のようなドラマがありました。そのT&Joodee GEMは、どのように海をわたり、どのようなオーナーの気持ちに抱きかかえながら数十年を重ねてきたんでしょうね。間違いなく言えるのは、誰の手元にあったときも大事に愛され多大なリスペクトを受けてきたという事実で、暗に圧倒的な名機だったことが容易にわかります。人の人生を変えうるギターって偉大なる文化資産ですし、それを生み出せる人こそ無形文化財ですよね。そして10万円で出会うというE2さんも選ばれし人なんだと思います。ランディ・バックマンのグレッチ話に勝るとも劣らない奇跡に震えます。(JMN統括編集長 烏丸)

★皆さんの楽器を紹介させてください

「俺の楽器・私の愛機」コーナーでは、皆さんご自慢の楽器を募集しています。BARKS楽器人編集部までガンガンお寄せください。編集部のコメントとともにご紹介させていただきますので、以下の要素をお待ちしております。

(1)投稿タイトル
 (例)必死にバイトしてやっと買った憧れのジャガー
 (例)絵を書いたら世界一かわいくなったカリンバ
(2)楽器名(ブランド・モデル名)
 (例)トラヴィス・ビーン TB-1000
 (例)自作タンバリン 手作り3号
(3)お名前 所在 年齢
 (例)練習嫌いさん 静岡県 21歳
 (例)山田太郎さん 北区赤羽市 X歳
(4)説明・自慢トーク
 ※文章量問いません。エピソード/こだわり/自慢ポイントなど、何でも構いません。パッションあふれる投稿をお待ちしております。
(5)写真
 ※最大5枚まで

●応募フォーム:https://forms.gle/KaYtg18TbwtqysmR7

「楽器人の投稿がmusic UP'sに掲載されます」

全国約1,000カ所の音楽関連スポットで、毎月20日に配布中されるフリーマガジン「music UP's」にて、楽器人の特集を掲載、【俺の楽器・私の愛機】で紹介された投稿の中からあなたの愛機をご紹介させていただきます。

※毎月の掲載数は2~4件ほどの予定です。選出はBARKS編集部で行ないます。
※掲載の選出対象は【俺の楽器・私の愛機】コーナーにて2022年5月30日以降に掲載された投稿が対象となります。

引き続き【俺の楽器・私の愛機】をお楽しみください。今後ともBARKS楽器人をよろしくお願いいたします。

◆【俺の楽器・私の愛機】まとめページ
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