【インタビュー】TOMOO、“失いゆくものだけど大丈夫”

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2021年8月に発表した「Ginger」が注目を浴び、2022年8月にデジタルシングル「オセロ」でメジャーデビューを果たしたシンガーソングライター・TOMOO。

◆撮り下ろし写真

同作から約3ヶ月弱でリリースされる2ndメジャーシングル「17」は、TOMOOの過去の記憶や、様々な人が抱く“若さ”への思いなどが落とし込まれたミディアムバラードだ。生楽器のあたたかい音色は聴き手の心の繊細な場所を穏やかに照らし、抒情的な言葉たちは頬に零れる涙のように聴き手の感性や記憶をなぞる。TOMOOのアート性が豊かに反映された同曲を通して、彼女の源流へと迫った。

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■「17」はモラトリアムっぽい状態から抜けていくときの気持ちを歌っています

──2022年8月のLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)のワンマンライヴ<Estuary>、非常に作品性の高いライヴでした。過去最大キャパシティの会場で、あれだけ堂々としてらっしゃるのにも驚いて。

TOMOO:自分的には広いとは全然思わなくて……それはやる前からなんとなく予想していたんですよね。自分を鼓舞して生んだエネルギーを発信するというよりは、お客さんから熱をもらって、自分がもう1回歌で返すような感覚だったんです。最後のほうは結構ぴょんぴょん飛び跳ねたりしたんですけど、心の体温がすごく高くて、疲れが一瞬も湧かなくて。お客さんの思いをエネルギー源にして歌えていたと思います。

──当日のMCでも“循環”の話はなさっていましたよね。それゆえの<Estuary>というタイトルで、そのイメージを落とし込んだ映像が随所に挟まれて。

TOMOO:コンセプチュアルなライヴをしたことが今までなかったんですけど、今回は自分のイメージを視覚化してもらえる機会をいただいて。それに合わせた選曲もできたので、ライヴを通して流れていく水の循環していく様子を表現できたと思っています。なんとなく10代の頃から“心≒水”みたいなことはぼんやり思っていて。当時からそういう曲は作っていたんです。

──あの日披露なさっていた「River」など。

TOMOO:そうですね。理屈ではなくすごく感覚的なんですけど、心は一方通行ではなく、水の旅のように形を変えて戻ってくる。誰かが言っている言葉の欠片を拾い集めていくなかで、そう思うようになりました。だからあの日も、今までのライヴでいちばんお客さんに素直に向かい合えた気がしています。カルテットの方やホーンセクションの方も入ったすごく豪華なステージではあったんですけど、皆さんとの距離の近さを感じるハートフルな時間でした。


──サウンド然りパフォーマンス然り、TOMOOさんがバラエティに富んだ表現を追求するのにはどのような理由があるのでしょう?

TOMOO:もともとは“そんなことできっこない”と思っていました。初期は弾き語り1本でやっていて、5年くらい前からバンド編成でライヴをやる機会も増えて、去年の夏に初めてハンドマイクで歌ったりするようになって──でも全部がふとしたきっかけなんですよね。3、4年前に、ライヴ告知のために普段あまり投稿しない動画を作ったんです。ピアノの伴奏録音機能で再生した音に乗せて、ぬいぐるみを持ってふざけて適当に歌って(笑)。おまけにニキビから血が出ていて絆創膏を貼っているってタイミングで……。

──お世辞にも良いとは言えないコンディション(笑)。

TOMOO:そのあとちゃんとメイクして本番を撮ったんですけど、それよりもカメラチェックで撮った絆創膏の動画のほうが、気負ってないぶんいい顔をしていたんです(笑)。大勢が観ているわけでもないしなってそれをアップしたら、当時のわたしにしては結構反響が大きくて。面白がっていただけたんですよね。

──ファンの方々のリアクションで“自分はこういうことをやってもいいんだ”と思えたということですね。

TOMOO:そうです、そうです。ピアノを演奏して歌を歌うことだけ考えてきたけど、身振り手振り、表情も含めた表現もアリなんだなと思うようになりました。そのくらいの時期からミュージックビデオをいっぱい撮るようになって、その映像を観るなかで“もうちょっと演じたほうがいいかもしれない”と思うようになって、そしたら“ミュージックビデオでわたしを観ている人からすると、ステージで全然動いてなかったら違和感を覚えるだろうな”と思ってハンドマイクパフォーマンスをやってみようかなと思うようになって……だからいろんな表現をやるようになったのは、成り行きというのが正直なところなんです。

──音楽を続けていくなかで、いろんな人から掛けられる言葉で新しい場所に冒険に行けるような感覚かもしれませんね。それもあってTOMOOさんのピアノの弾き語りスタイルを観ると源流を感じます。そしてメジャー2ndデジタルシングルの「17」も、そういう楽曲ではないかと思いました。

TOMOO:“17歳”と“セブンティーンアイス”を絡めて書いた曲です。イメージとしては“大人”と呼ばれる年齢に差し掛かっている目線から、“17歳”を見下ろしているような。モラトリアムっぽい状態から抜けていくときの気持ちを歌っています。そういうときってやっぱり“もう戻れない”という悲しさや寂しさがあるというか。


──そうですね。当たり前にあったものを失うような。

TOMOO:“脳内のラスト夏休み”が終わるなあって。でもだからこそ、過去を思い出すと心のなかに“懐かしい”という美しい気持ちが生まれるとも思うんです。それに大人になっていたとしても、お互いの心の柔らかい部分をありのままさらけ出せるような大切な人がいれば、人は子どもみたいに戻れるイメージがあるというか……それがひとつの希望なんじゃないかと思うんです。

──資料に記載されていた“人が大人になるのは、隣に誰かがいるから。でも人が子どもに帰れるとしたら、それもまた隣に誰かいるから”という思いは、そういう背景から生まれたものだったんですね。

TOMOO:この曲を書き終わったあとに書いた言葉です。だからこの曲に書いた気持ちは23、4歳の頃のものでもあるんですよね。

──先ほどおっしゃっていただいた“モラトリアムを抜けるタイミング”ですね。

TOMOO:わたしだけでなく、周りの同年代の子たちもそういう時期だったなと思います。でも音楽やクリエイター系の活動をしている人は、そういう感覚が来るのが遅い傾向にある気がしていて。自分も“何歳までに芽が出なかったら音楽を諦めるの?”とか、“そろそろちゃんと就職したら”みたいな言葉を掛けられることも多かったので、自分はモラトリアムを抜けられていないんだなと実感したり。

──周りの同年代の子たちは大人になっていくけど、このままでいいのかなという戸惑いとか。

TOMOO:そうなんですよね。顔見知りくらいの高校の同級生が、わたしのバイト先にたまたま来て。その子は間違いなく就職して働いている、しっかりとした服装で。わたしはその子の持ってきた商品をレジに打ち込んで、破れやすい薄っすいレジ袋にそれを詰めるっていう(笑)。その瞬間はきつかったなー……ああもうそういう年齢なんだなって。その頃は音楽活動もふわふわしていたので、行き場がなかったんです。だからなおさらそのときに“脳内のラスト夏休み”と思ったりもしたんですよね。その頃によく通っていた場所に、セブンティーンアイスの自販機があって、そのイメージが合わさって曲になっていて……本当にいろいろ混ざっているんですよ。

──確かに。とても観念的な曲だとは思います。

TOMOO:エレベーターの描写が入っているのも、自分が昔通っていた場所で見ていた景色なんです。あと、“もしこの人と17歳で出会っていたらどうだっただろう?”や“17歳の頃に会えていたら楽しかっただろうな、高校時代のこの人を見てみたかったな”と思ったときのことも込められていて。それも20代になってからならではの感覚だとも思うし、自分以外の人も抱きがちな感情じゃないかなと思って。自分とsomeoneがあやふやになる感じというか。


──ユングの集合的無意識のような?

TOMOO;そうですね、その描写はそんな感覚で書きました。

──なるほど、複数の濃厚な物語が編まれることで「17」は出来上がっているんですね。もともとTOMOOさんの音楽はシンプルな言葉遣いだけど、表現されているものはものすごく複雑なので。

TOMOO:常々リスナーの皆さんを混乱に陥れてるかもしれない……と思ってるんですけど。わたしは比喩、実際の景色と自分の目を通して見た景色、心象風景、内面の抽象的な話が混ざっているというか、境目がないんです。

──確かに。「17」はそれが際立っています。

TOMOO:ただの情景描写をしていたかと思ったら、それが割と心象風景っぽいものだったり、時間の経過も“さっきまで過去のこと歌ってたのにこれは今のことだよね?”みたいなことになってしまうんです。「17」 はそういう側面が強いかもしれない。

──意識的に混ぜようとしているのではなく、混ざってしまうものなんでしょうね。

TOMOO:そうなんですよね。いつも曲を書くときは、心に残ったふとした一瞬を切り取って、そこから膨らませていくので、連想ゲームみたいな感じで景色や比喩、気持ちがつながって飛躍していくんです。四方八方に連想していったことのひとつを選ぶんじゃなく、それを全部1曲に入れちゃうところがあって。


──それがTOMOOさんにとって自然な制作ということですよね。源泉かけ流しというか。

TOMOO:源泉かけ流し、いい言葉ですね(笑)! あんまり区別というものをつけない……つけられない気質なんだと思います。“この歌詞にはどういう思いを込めてるの?”という問いをいただいたりすると、もうちょっと区画整理して翻訳し直さなきゃなあとはいつも思うんですけど、そうするとわたしの見てきた景色をいちから説明しなきゃいけなくなるよなー……とも思って。まだわたしにはちょっと難しいんです。

──そういう楽曲だから、TOMOOさんのピアノの音が生きたアレンジが映えるのかなとも思いました。

TOMOO:「オセロ」で新しくてソリッドな感じを前面に出してお見せしたので、「17」では「オセロ」とは違う、ふっと力の抜けた素直さが出たと思います。歌詞の主人公もちょっと疲れてますけど、疲れてるときの何も装備をまとってない感じ……心の柔らかい部分が見えてくるような曲にしたくて。だから生音ばかりで、ピアノもよく聴こえる、音数が少ないアレンジになってますね。

──「17」は聴いたときにライヴでプレイしているTOMOOさんの姿が思い浮かんできました。だからぜひライヴで聴きたいなと思う曲でもあって。

TOMOO:それこそ「17」はスタジオで、バンドの皆さんと一緒にせーので録音したんです。だからそう感じてくださったのかも。ストリングス含め総勢14人もの奏者さんに参加していただいたんですけど、出来上がったトラックを聴いたら、自分が10代のときに抱えていた若さや青春──あんまり青春とか言いたくないんですけど(笑)、青春っぽさを感じたんですよね。それは奏者の皆さんが、曲に宿ったエモーショナルな気持ちに乗っかってくれたからだと思うんです。

──確かに。そうですね。

TOMOO:「17」は結局“失いゆくものだけど大丈夫”という歌で、それをたくさんの人と音を合わせてレコーディングしたことで、青春というトンネルを抜けた先にも人がいる感じが表現できたかな……と漠然と感じました。リスナーの皆さんが聴いてくださることで改めてそういうことを、さらに違う形で感じるかもしれないなと思っています。「17」は心の柔らかい部分を共有できたかもな、と思うんですよね。ほんと、抽象的で漠然としたことばっかり言ってすみません(笑)。

──いえいえ。それがTOMOOさんの音楽制作にとって健全なことなんですよね。

TOMOO:健全! すごくいいワードですね。健全です。


──年末年始にかけて初のワンマンツアーが全国5ヶ所で開催されますが、<Estuary>と同様に今回のツアータイトルの<BEAT>にも特別が意味が込められているのでしょうか?

TOMOO:<BEAT>を選んだきっかけ、実はめちゃくちゃくだらなくて……。ツアータイトルを決めようという連絡をスタッフさんと取った日に、お医者さんに行ってもらった薬を飲んだら、飲み合わせが悪かったのか心臓バクバクになっちゃって(笑)。寝なきゃいけない時間なのに寝つけないし、心臓がめっちゃドキドキしてて本当に止まらない、どうしよう! 本当にやばい! まじハートビート! って思って──そこでツアータイトルは<BEAT>ってどうだろう? と思ったんです。

──へええ。なんてスリリングなきっかけ。

TOMOO:直感的に<BEAT>にしようと思って、落ち着いてからあらためてBEATの意味を辞書で調べたんです。BEATの持っているあらゆる意味に全部納得したんですよね。ときめきから生まれるドキドキとか、ドラムみたいな打楽器とか。昔からリズム感悪いねと言われていたので打楽器に対する憧れもあるし、昔から自分はピアノを叩くように弾くから原点でもあるなと思ったし。

──BEATという言葉は原点回帰と憧れの象徴でもあると。

TOMOO:そうです、そうです。そういうところにもっと敏感になりたい気持ちがあったんですよね。楽器の祖は打楽器と言うし、そういう“根源”みたいなことに気持ちが向いてるのかも。あとは冬だから、心臓による血の巡りや血色みたいなあたたかさが欲しかったり、“打ち勝つ”という強く前に進むような気持ちもありつつ、心臓のビートは耳をすませないと聞こえないぐらいのミクロな音という静けさの意味合いもあって──その意味全部に共鳴したので、タイトルとして提出したんですよね。

──“原点回帰”は今年TOMOOさんがよくお使いになるワードですよね。

TOMOO:あははは、言いがちですね(笑)。こじつけかもしれないけど(笑)。

──いえいえ。「17」が生まれたのも、原点回帰と連鎖してるのかなと思いました。

TOMOO:アニバーサリー的な意味ではなく、10年という歳月は何かが巡る周期なんだろうなと思います。たとえば会わなくなった人の言っていたことが自分のなかにずっと残っていて、ある日その続きを言う人が現れたりすることとか。

──あ、それはありますね。点と点がつながるような。

TOMOO:そうそう、10年ぐらい経つとそういうことが起こる気がしていて。わたしにとって17歳はいろんなことが始まった年でもあるから、それもあって自然と今年は原点回帰という言葉を使っちゃうというか、そういう気分になることが多いのかなと思います。「17」を27歳のうちにリリースしたいと思っていたのも、そういうことなのかもしれないですね。

取材・文◎沖さやこ
写真◎野村雄治

Major 2nd Digital Single「17」

2022年10月26日(水)配信開始
https://lnk.to/_17

<TOMOO one-man live "Estuary" at LINE CUBE SHIBUYA>Zaikoアーカイブ配信

チケット:¥1,000(税込)
チケット販売期間:2022年11月23日(水)23:59まで
アーカイブ配信期間:
【+Archive】
ユーザーが3日/14日/30日のいずれかからアーカイブ期間を選び購入できます。
配信開始:2022年10月24日(月)18:00
配信終了(最大):2022年11月23日(水)23:59まで

公演サイト・チケット購入:https://tomoo-officia.zaiko.io/e/tomoo-estuary2022
詳細、注意事項等はZAIKOサイトにてご確認ください。
https://zaiko.io/support

【動画説明】ZAIKOチケット購入・視聴
https://youtu.be/BwDzQxC8vlE

【動画説明】視聴環境の確認
https://youtu.be/tHnnamfQhEo

<TOMOO 1st LIVE TOUR 2022-2023 "BEAT">

2022年12月16日(金)福岡・DRUM Be-1 Open 17:00 / Start 18:00 ※SOLDOUT
2022年12月24日(土)北海道・cube garden Open 17:00 / Start 18:00
2023年1月7日(土)愛知・THE BOTTOM LINE Open 17:00 / Start 18:00
2023年1月8日(日)大阪・BIGCAT Open 16:00 / Start 17:00
2023年1月15日(日)東京・Zepp DiverCity(TOKYO) 16:00 / Start 17:00

チケット料金:
一般スタンディング ¥5,000(税込/整理番号付き)
2階席(自由席) ¥5,000(税込/整理番号付き)
*2階席(自由席)はZepp DiverCity(TOKYO)公演のみの販売となります。

チケット販売:https://l-tike.com/tomoo/

注意事項
※入場時1ドリンク代別途必要
※未就学児入場不可
※チケットの転売/譲渡禁止

◆TOMOO オフィシャルサイト
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