【ライブレポート】THE ORAL CIGARETTES「自分らしくいられるほうが人生は絶対楽しい」

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2019年以来、2回目の開催となる<PARASITE DEJAVU 2022 ~2DAYS ARENA SHOW in SAITAMA~>。会場であるさいたまスーパーアリーナに着いたとき、入場口の周辺に複数飾られた、そのシンボルと思しきメデューサの首を戴いた中世のヨーロッパを連想させる城門のビジュアルに迎えられ、果たして、そこにはどんなテーマが込められているんだろうか、と期待しながら臨んだワンマン・ライブスタイルの1日目。大型ビジョンに映し出した映像やファイヤーボールなど特効をふんだんに使ったアリーナならではのスペクタクルな演出、ブロックごとにテーマを設けていたように思えたプロットを作った上で最近のライブの定番だけにこだわらない選曲で挑んだセットリスト、そして物語性に富んだコンセプトといった一流のエンターテインメントを楽しませながら、BKW=番狂わせを掲げるTHE ORAL CIGARETTES(以下オーラル)は、単に楽しかったの一言では終わらせなかった。

その意味では、MCでリベンジという言葉も飛び出したようにロック・バンドならではの反骨精神と前に進み続ける意思を、アリーナとスタンドを埋め尽くしたファンに今一度、見せつけたことこそが、この1日目の見どころだったんじゃないかと思う。







荘厳なオープニングのSEからなだれこむようにたたみかけた「Red Criminal」と「MACHINEGUN」の2曲で、いきなり観客をバウンスさせ、アリーナ全体を揺らした直後、「やっば、マジぱんぱんじゃない?」と山中拓也(Vo, G)は快哉を叫んだ。

「前回のアリーナ・ツアーがコロナで中止になってしまって、本当はさいたまスーパーアリーナで2daysやる予定だったんだけど、とんでもうたんで。今回はそのリベンジ、プラス<PARASITE DEJAVU>ということで、めちゃめちゃ気合が入ってます」

そんなふうに今回の2デイズ公演にかける熱い思いを語った山中は、続けてオーラルにさいたまスーパーアリーナは埋められっこないという外野の声がネット上に少なからずあったことを語ったのだが、相手にするのもバカバカしいヤジと思いながらも、人一倍の負けん気の持ち主だ。きっとカチンと来たに違いない。ざまあみろと言わんばかりに「2日間、ぱんぱんなんですけど。オーラルをナメるなよ」ともう一度快哉を叫んだのだから、そこにいる誰もが溜飲を下げたことだろう。









「ここはみんなの遊び場です。遊べる奴、どれだけいる?」と観客に挑むように山中が言った「DIP-BAP」から「踊り狂う人形」まで、オーラル・サウンドの魅力のひとつであるダンサブルなグルーブを持つ計6曲を一気に披露。一口にダンサブルなグルーブと言っても、歌謡ファンクな「Shine Holder」もあれば、サイケデリックな「Naked」もある振り幅もオーラルならではだ。





また大型ビジョンの映像とナレーションで、メデューサの伝説を語ってからの「嫌い」では、「演出のため、次の曲では動かないでください」と、その目を見た者を石に変えてしまうメデューサの魔力を表現するという大胆な演出も。バンドのリクエストに応え、演奏中に微動だにしない観客を見た山中は「実験的にやってみたんだけど、あんな景色見たことない」と三たび快哉を叫ぶ。そして、石と化した観客をメデューサの魔力から解き放つため、いつも以上にテンションを上げた演奏になった「GET BACK」と「踊り狂う人形」に観客はさらに熱狂した。





その直後に山中が語った言葉からは、前述した「嫌い」の演出が、コロナ禍以降のライブにおけるさまざまな規制を逆手に取ったものであることがうかがえた。

「みんな、フェスを含め、いろいろな場所にライブを見に行ったと思うんですけど、どのルールに従ったらええか、ようわからんかったやろ?声を出していいのか、あかんのか、どないやねんっていう。ロック・シーンに限らず、私生活でもそうだと思うんだけど、自分が知らない人が決めたルールに従うのはバカバカしいことだと本心、俺は思ってます。ただ、ルールの中でかっこいいライブをするのがロック・バンドだとも思います。なので、俺らは今あるルールに従ってやります。声を出せるようになるまでがまんして、がまんして、声を出せるようになったときワーッとなったほうが気持ちいいと思うから、オーラルはその都度その都度、ルールを提示していきます。今日、こうやってルールを守ってくれてることがうれしい。本当にありがとう」

それはコロナ禍の中でオーラルが見出したひとつの答えなのだろう。



「みんなが何に従ったらいいかわからん、何に頼ったらいいかわからんって時は、俺らについてきてください。ただ、最終的には誰かじゃなくて、自分自身を信じてほしいと思います。人に頼る人生じゃなくて、自分に頼る人生。自分に正直に生きる人生であって欲しい。今回、このライブを通して、そういうことをみんなに伝えていきたいと思います」──山中拓也

エモーショナルなロック・ナンバー「キエタミタイ」、シンセ・オリエンテッドなサウンドにリアレンジした「ハロウィンの余韻(Redone)」を、あきらかにあきら(B, Cho)がシンセベースを、中西雅哉(Dr, Cho)がドラム・パッドを演奏しながら披露すると、再び巨大ビジョンの映像とナレーションでメデューサ伝説の続きと、メデューサが畏怖の対象になった経緯を物語る。そこでメデューサに死と再生のイメージを重ね合わせたことを、観客は知るのだが、オーラルにとってそれが何を意味するのか。それが明らかになる本編最後に至るまでには、後半戦のさらなる盛り上がりが。






Kamui

サプライズ・ゲストのKamuiとSKY-HIを迎え、Kamuiとは「Ladies and Gentlemen」と「ENEMY」の2曲を、「おまえらの分まで俺が歌ってやる、安心しろ」というエモい言葉で観客を歓ばせたSKY-HIとは「カンタンナコト」を共演。盟友達と山中が歌とラップを掛け合いながら、エネルギッシュなパフォーマンスを繰り広げると、新たな音像をアピールするようにシンセのリフを鳴らしたダンス・ロック・ナンバー「BUG」を間髪入れずに繋げ、観客を踊らせる。






SKY-HI





一度勢いづいたバンドの演奏は、もちろん止まらない。

「ここからもう一発アゲていっていいですか?」(山中)と繋げたのが「Mr.ファントム」と「大魔王参上」。ストレートなロック・ナンバーの前者では、鈴木重伸(G)とあきらかにあきらがジャンプをキメ、観客をバウンスさせたちょっとコミカルなところもあるファンキーな後者では、山中のギターと観客の手拍子のコール&レスポンスが大きな一体感を作り上げた。





「こんな広いところにたくさんのお客さんが来てくれてて、改めてさいたまスーパーアリーナで<PARASITE DEJAVU>を、大切なイベントをできているんだと実感が湧きました」…そんな山中の言葉に大きな拍手が沸き起こる。そして、そこに込められた思いのひとつひとつを受け止めながら、山中は「俺は誰かに作られた理想の山中拓也、理想のTHE ORAL CIGARETTESをやるの、もう辞めます」と観客に語りかけた。

「俺はその時はその時で良いと思ってたし、それが正解だと思ってた。みんなの期待に応えたいと思ってたから。それがすべてだと思って生きてきましたけど、痛い目を見ました。別にみんなが悪いんじゃない。俺が悪い。俺らが悪い。これからは好きなように生きていきます。そういう生き方にももちろん悪い部分もあるし、ええ部分もある。そのどちらも愛して、自分らしくいられるほうが人生は絶対楽しい。山中、黒髪でいろよ。ギターを持てよ。いろいろな声がありますけど、どうでもええ。俺はこれからも自分がやりたい音楽を発信するし、それが誰かの幸せに繋がればいいと思います。ただひとつだけ絶対ぶれへんものは、俺らがステージに立ってるのは、紛れもなくあなた達の愛があるからということ。それだけは絶対、心に刻み続けます」

何が山中にそこまで思わせたのか、筆者にはわからない。しかし、敢えて言葉にしなかったことも含め、いろいろな意味でリベンジを果たしたこの日、新たにそう決意したことにこそ大きな意味があるのだろう。

「いつも応援してくれてありがとう。俺は自分自身を貫きます」という山中の宣言からステージと客席をひとつにする眩い光の中、4人は渾身の演奏を繰り広げながら、「5150」「BLACK MEMORY」の2曲を披露。そして、本編最後を飾った後者を演奏し終えたとき、山中が言い放ったのが、「今までのTHE ORAL CIGARETTES、さようなら」だった。

その瞬間を境に生まれ変わったオーラルがこれからどんな活動を繰り広げるのか期待している。きっとファンをびっくりさせるようなこともたくさんやってくれるに違いない。









アンコールは潔く1曲のみ。伝えたいことは伝えきったと本編が終わったとき、絶対に思えるはずだという自信と、それだけの達成感を得られる演奏をしなければというセットリストを組んだ時のメンバー達の思いが窺えるような気がした。最後の最後にオーラルがファンにとって、どんな存在であるのかをダメ押しで伝えるために「みんなが好きであってほしい1曲」とバンドが選んだのは、《帰れる場所があることいつも忘れないで》という歌詞が胸を打つロック・バラードの「ONE'S AGAIN」。

メンバー達がシンガロングを重ねる中、花道で客席を見渡しながら山中が歌うその背後にあるビジョンに映し出される歌詞を追いながら、いろいろな受け止め方ができるこの曲がこの日は、バンドとファンの絆を称えているように思えたのだった。





写真◎ハタサトシ
文◎山口智男
提供◎Artist Commons

<THE ORAL CIGARETTES PARASITE DEJAVU 2022 DAY1 ONE MAN SHOW>

1.Red Criminal
2.MACHINEGUN
3.DIP-BAP
4.Shine Holder
5.Naked
6.嫌い
7.GET BACK
8.踊り狂う人形
9.キエタミタイ
10.ハロウィンの余韻(Redone)
11.Ladies and Gentlemen feat.Kamui
12.ENEMY feat.Kamui
13.カンタンナコト feat.SKY-HI
14.BUG
15.Mr.ファントム
16.大魔王参上
17.5150
18.BLACK MEMORY
EN1.ONE'S AGAIN

◆THE ORAL CIGARETTESオフィシャルサイト
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