【ライブレポート】眉村ちあき、バンド編成によって生まれた新たな楽しさ

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10月30日・東京・LINE CUBE SHIBUYAで開催された『眉村ちあきの音楽隊 - Episode 2 -』。普段はギターとMac Book Proを用いたソロスタイルでライブを行っている眉村ちあき(以下、ちちゃん)だが、今回の公演はバンド形態のワンマンライブ。昨年9月に中野サンプラザで開催された『眉村ちあきの音楽隊』と同じ編成が、一層の進化を遂げていたライブの模様をレポートする。

開演時間を迎えて、下手側の緞帳に当てられたピンスポット。そこに現れたちちゃんは手を振り、白い衣装をキラキラと輝かせた。そのままステージのセンターへと移動して、アカペラで歌い始めたのは「ピッコロ虫」。豊かな歌声が会場内に広がっていく。そして緞帳が厳かに上昇して兼松 衆(Key)、越智俊介(Ba/Shunské G & The Peas、CRCK/LCKS)、小西 遼(Sax/CRCK/LCKS)、吉田雄介(Dr/tricot)、qurosawa(Gt/ POLLYANNA)の演奏が合流。一気に構築されたアンサンブルの中心に立ち、歌う喜びに溢れ返っていたちちゃんの姿に、マユムラー(眉村ちあきファンの呼称)は胸が熱くなったに違いない。「今日のライブは最高のものになる!」と確信できるオープニングだった。







「せーの! ぼーん!」という合図に合わせて拳を突き上げる人々のタイミングの良さが、曲に陽気な爆発力を与えていた「Individual」。切れ味の良いギターリフがダンス衝動を誘って止まなかった「おばあちゃんがサイドスロー」。スタンドマイクに向かって歌うちちゃんを、音楽隊の演奏が優しく包み込んでいた「愛でほっぺ丼」……ドラマチックな場面の連続を経て迎えた最初のMCタイム。「来てくれてありがとう! 私の現場はどんな風に踊ってもいいんだ。どんな風に踊りたいか自分の中で想像を膨らませて。前に動くのが苦手な人は横に動いてみたり。踊り方は自由。俺たちにはディスコがあるじゃん!」という言葉を添えて突入した「なまらディスコ」は、トランス状態を誘うサウンドが冴えわたった。なんとなくロシア民謡を彷彿とさせる旋律を浴びて、思わずコサックダンスを踊りたくなった人もいたのでは? そして、ハンドマイクで歌いながら華麗なステップを踏んでいたちちゃんは、巨大なミラーボールにも負けないくらい輝いていた。





マユムラーも自由に身体を動かしながら楽しんでいた「顔ドン」。瑞々しいメロディを歌いつつ、時折ソウルフルなフィーリングを加える様がかっこよかった「レイニーデイ」……演奏が終了する度、客席内で起こる拍手がものすごい。そして、終始興奮気味だった会場内を和ませたのが、時折のMC。例えば、「トイプードルのクロちゃんです!」とギタリストのqurosawaとの関係を紹介したMCは、ほのぼのとしたひと時だった。「クロちゃんは保育園の先生です。私が小学生の頃によく家出した先の保育園の先生の部下。つまり、実質、先生と生徒です。意味わかるかな?(笑)。ということで、先生と生徒で子供たちに歌を届けようと思うわ!」。文字で読み返してみても、頭が混乱する……。しかし、なんとなく言わんとすることはわかったMCを経てスタートした「奇跡・神の子・天才犬!」は、ちちゃん+qurosawaによる編成で届けられた。原曲はハイテンション極まりない仕上がりだが、qurosawaが奏でるアコースティックギター、2人の歌声のコンビネーションによって、ホンワカとしたムードが醸し出されていた。

「謙虚な人間は自分を蔑ろにしがちじゃん? “わかるんだけど、週4くらいでいいから自分を優先して考えてね”っていう歌を作りました。ピアノと歌だけで届けようと思います」とちちゃんが話してから披露された「おもてなし子」。兼松が演奏するピアノの前に置かれた椅子に座りながら歌ったこの曲は、2人の息の合ったコンビネーションが綺麗なメロディを際立たせていた。続いて、客席にいるマユムラーが一斉に掲げた腕が揺らぐ様が美しかった「本気のラブソング」。ちちゃんもアコースティックギターを弾きながら音楽隊の演奏に加わり、平和な空間を作り上げていた「やさいせいかつ」を経て、再び迎えた小休止。MCのトーンは突然、ワイルドなロックボーカリスト風のものに転じた。「あのさあ、思ったんだけど~。血と骨ってさあ、何からできてるか知ってるか? 肉だよお~! 肉を食べないと骨と血とかいろいろができないってわかってるか? そんなみんなのために俺たちが6人で作った曲がある! みんなに肉をたくさん食べてほしくて、目に汗とかかいて作ったこの曲、みんなに聴いてほしくて。みんな顔色白いから、この曲聴いて頭に血のぼってほしいなって思ってんだぞ! いくぞ、おらあ~!」……巻き舌気味の煽りと共にスタートした新曲「肉喰え」は、荒っぽい演奏をステージ上の全員で楽しんでいるのが伝わってきた。この曲に込められたメッセージは、“肉を喰え!”ということに尽きる。炭火で焼かれた肉の塊のようにホットでジューシーなナンバーであった。







「ここに辿り着いたみんな、勇者だよ。今日はブルーノ・マーズのライブもあるらしいぜ。眉村ちあきの音楽隊を選んでくれたみんなはきっと、私みたいな人のはず~♪ だって類は友を呼ぶって言うしね~♪ だからきっとわかるはず~♪ 食器を洗いながら涙が出る人だ~♪」……バンド演奏に合わせて即興で歌いながら突入した「DEKI☆NAI」は、曲中の随所に盛り込まれているキメとタメも音楽隊の全員で楽しんでいる様が印象的だった。そして、その次に届けられた新曲「秘密の恋」と「夢だけど夢じゃなかった」も、素敵な2曲として思い出される。様々な情景を描き上げるかのような演奏、多彩な表情を浮かべる歌声、即興だと思われる語りの融合は、まるでミュージカルの一幕のよう。リアルタイムで呼吸を合わせる生バンドと歌姫の幸福な共演となっていた。









音楽隊で東名阪を巡る対バンツアー『眉村ちあきの音楽隊 -Episode 3- “列島を立ち昇る 一角獣の誘い”』を来年の4月に行うことを発表した後、「眉村ちあきはソロじゃなくても全国を駆け回れるっていうことを証明するんだあ~」と歌うように言っていたちちゃん。この編成でのライブの素晴らしさは、その直後のフリースタイルタイムでも実感できた。「東名阪 俺たちが行く~♪ 眉村ちあきの音楽隊~♪ 東名阪 一角獣~♪」……即興の歌を音楽隊の演奏が彩り、輝き始めたメロディと言葉たち。ソロでのライブでも即興で突然歌い始める彼女だが、音楽隊の音を感じながら楽しさを倍増させている様子が伝わってきた。そして、先の読めないプログレッシヴな展開が猛烈にかっこよかった「悪役」を経て、本編を締め括ったのは「大丈夫」。歌いながら掻き鳴らす彼女のエレキギターが加わり、音楽隊のサウンドはますます豊かな色を浮かべていた。







アンコールを求める手拍子に応えてステージに戻ってきた兼松、越智、小西、吉田、qurosawa。彼らが奏でたサウンドを聴いて、「冒険隊 ~森の勇者~」が始まったことを悟ったマユムラーの間から起こった明るい拍手。しかし、ちちゃんはなかなかステージ戻ってこない。「どうしたんだろう?」と思っていたら、驚きの展開が待っていた。なんと1階席下手側の扉が開かれ、彼女が現れたのだ。正面に透明のビニールシートを装着した陣笠風の帽子を被り、飛沫感染を徹底しながら通路を巡った彼女は、客席にいるひとりひとりを心底愛しそうに見つめながら歌っていた。



「何年かぶりに下に降りたんだから! 我慢してきて良かった! 近くで生きてる! 俺たちは近くで息をしてるんだ! 尊い! 顔が見えるわけ、粒々で。守りたい砂のよう。でも、近くで見たら大きかった(笑)。みんなひとりずつに心臓があると思ったら尊くて震えるぜ! 絶対に私より先に死なないで! 結構無理そうな人もいるけど(笑)。みんなのことを守りたいんだけど、みんなは私のことを守りたいと思うじゃん? こんなに幸せが増えたら、みんなは長生きすると思うよ。みんなのために“尊くて堪らん!”っていう曲をやります!」── 興奮気味のMCの後に届けられた「Lovely days」は、ステージを見つめる人々に向かって穏やかに降り注いでいた。そして、ラストを飾ったのは「旧石器PIZZA」。一斉に拳を突き上げる客席の風景が綺麗だった。コロナ禍の前のようなライブができる状況は、まだ戻ってきていない。しかし、遊び心、愛情、とびっきりの音楽があれば、こんなにも幸福な場所を作り上げられるのだと強く実感することができた。



こうして終演を迎えた『眉村ちあきの音楽隊 - Episode 2 -』。彼女のライブが圧倒的に楽しいことは以前からよく知っていたが、バンド編成によって新たな楽しさが生まれているのを感じた。様々なロックバンドが出演する音楽フェスのステージに立つ際も、この6人は最強のサウンドで幅広い層を楽しませることができるはずだ。「唯一無二のスタイルを確立しているソロライブ」と「眉村ちあきの音楽隊のライブ」という2つの武器を手にした彼女は、今後さらに活躍の場を広げていくに違いない。



文:田中 大
撮影:樋口 涼

  ◆  ◆  ◆

眉村ちあきの音楽隊 -Episode 3- “列島を立ち昇る 一角獣の誘い”

2023年4月8日(土)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
<出演者> 眉村ちあきの音楽隊 / and more

2023年4月21日(金)愛知県 DIAMOND HALL
<出演者>
眉村ちあきの音楽隊 / and more

2023年4月28日(金)東京都 EX THEATER ROPPONGI
<出演者>
眉村ちあきの音楽隊 / and more

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