【ライブレポート】忘れられない気持ちを綴るツユ

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アーティストとしての美学を見せつけてMCなしで駆け抜けた本編と、トークを織り交ぜてメンバーのキャラクターを存分に生かしたアンコール。胸をかきむしるような焦燥感に満ちた楽曲と、梅雨から秋へと季節をなぞるように構成されたセットリスト。3人が持つコントラストが存分に発揮されたライブだった。2022年6月に日比谷野外大音楽堂にて開催された<ツユ 3rdアニバーサリーワンマンLive『雨模様』>にてメジャーレーベルへの所属を発表したツユによる、初の全国ツアー。最終日となるZepp DiverCity(TOKYO)の昼の部には、多くの観客が詰めかけた。

◆ライブ写真

ステージとフロアの間に斜幕が降り、ハードロック×デジタルサウンドのSEが流れるなかメンバーが登場すると、1曲目は「アンダーキッズ」。コンポーザー兼ギタリスト・ぷすの楽曲の特徴とも言える、嵐のような展開を見せるスピード感溢れるナンバーを、ライブメンバー一丸となって音源と遜色ないクオリティの演奏と歌唱で届ける。ラスサビで斜幕が落ちるとステージはカラフルなLED照明で包まれ、この日の幕開けを盛大に彩った。

miroによるピアノソロから「太陽になれるかな」へ。切なくて優しいメロディを丁寧にたどる礼衣のヴォーカルが胸に染み入る。「雨を浴びる」と「雨模様」の間には再びmiroのピアノソロが。クラシカルで優雅な彼の音色と、会場一帯で雨が降り注ぐような照明演出により、観客たちはたちまち梅雨の季節に連れ出された。


ほぼすべての楽曲でステージ背景のLEDモニターにミュージックビデオ、もしくは歌詞入りのグラフィックが映し出されているため、生演奏による熱量と、きめ細やかな舞台演出により楽曲に綴られたストーリーがより鮮明に受け手の脳内に飛び込んでくる。この環境下で、少女たちの声にならない苦しみや本音、劣等感が綴られたツユの楽曲を聴いていると、楽曲の主人公たちの心情が自分のもののように感じてしまうだけでなく、10代の頃に抱えていた自分の行き場のない気持ちともリンクし、どんどん過去の苦しい記憶や行き場のない思いが呼び起こされていった。


彼らの生々しい楽曲は、現在進行形で同じような心境を抱えている人間には“共感”という救いになる。だがそれを乗り越えた人間には、過去を鮮明に思い出させるトリガーとなるのだ。最初はその体験に戸惑いを覚えたが、徐々にこの蓋をしていた記憶や感覚は、今の自分を形成する重要な要素であることを再確認してゆく。ツユの楽曲には、忘れたくなるほど痛烈な、忘れられない気持ちが綴られていることを身をもって実感した瞬間だった。


照明演出のみで激情を優雅に届けた「テリトリーバトル」の後は、気魄溢れるピアノインストの「強欲」からメンバーのテクニックがぶつかり合うハードナンバー「デモーニッシュ」。この難解な楽曲を生演奏と生歌で実現させられることに面食らっていると「梅雨明けの」「ナツノカゼ御来光」と、ぷすがツユ結成前に発表した楽曲のセルフカバーを演奏。ピアノとヴォーカルに焦点を当てたアレンジは、涙がこぼれる瞬間を音に昇華したようだ。俯きがちだった礼衣が“前を向いて歩いて往こう”と歌う瞬間に顔を上げたシーンも胸に迫り、あたり一面がセンチメンタルな夏の夜に包まれるようだった。

アコギを持ったぷすが加わり「ひとりぼっちと未来」をアコースティック編成でエモーショナルに放つと、「アサガオの散る頃に」で夏に別れを告げて、新曲「どんな結末がお望みだい?」とインストナンバー「秋雨前線」でさらに新たな季節へ。「くらべられっ子」や「泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて」などのキラーチューンを繰り広げ、礼衣がこの日初のMCとして簡単に挨拶をすると「あの世行きのバスに乗ってさらば。」「終点の先が在るとするならば。」を間髪入れずに畳みかける。ジェットコースターのように展開していく楽曲は思春期特有の感情のうねりと浮き沈みのようで、本編終了後には若かりし頃に抱えていたような瑞々しい疲労感が残った。


アンコールでは“推し”に過剰なまでに入れ込む少女をユーモラスに描いた「いつかオトナになれるといいね。」を披露。その後は本編とは一転、メンバー3人がリラックスした様子でトークを繰り広げる。その後メンバー紹介を兼ねたテクニカルでファニーなソロ回しを繰り広げ、「ロックな君とはお別れだ」へ。miroが観客にクラップを求めるなど、本編とは違う切り口で会場をあたためていった。

ここで、3人があらためて初全国ツアーのファイナルを迎えた思いを口にする。miroはたどたどしかったMCを経て自然に話せるようになった旨を語り、「用意してきたものを話すのでは気持ちが伝わらないし、各々の喋り方とかで個性を出していったほうが絶対面白い。すごく成長できたツアーでした。ツアー各所でみんなからの思いをもらって、それを東京までつないでこれました」と感謝を告げる。礼衣は「最近知ってくれた人にも、前々から応援してくれている人にも、さらにツユを好きになってもらえるツアーができたかな、と思っています。新しいことに挑戦したり、成長できるように頑張るので、これからも一緒にいてください」と素直な思いを伝えた。


ぷすはこの先も様々なスケジュールが決まっていることを話すと、「僕は死ぬまで音楽をやめません。ツユも僕らが老いぼれるまでやろうと思っています。僕の曲は礼衣しか歌えないし、miroくんとも相性がいい。これからもツユをよろしくお願いします!」と晴れやかに告げる。観客も3人の思いに熱い拍手を送った。

最後に「やっぱり雨は降るんだね」を爽やかに届けると、3人は何度も観客に深々と頭を下げた。ステージを去る際にぷすは“もっと大きい会場でライヴをします!”と宣言。さらなる飛躍を約束した。

このツアーで描かれたのは“梅雨”と“夏”を超えた“秋”までだった。これから新しい季節、冬を迎えた先に一体どんなストーリーを紡いでいくのだろうか。ツユが大きな動きを迎えた2022年。新たなスタートを切り、勢いを増した3人の堂々たる姿を観ることができたツアーファイナル[昼公演]だった。

取材・文◎沖さやこ
カメラマン◎堀卓朗(ELENORE)

セットリスト

10月30日(日) @東京・Zepp DiverCity(TOKYO)

M01 アンダーキッズ
M02 太陽になれるかな
M03 雨を浴びる
M04 雨模様
M05 過去に囚われている
M06 ルーザーガール
M07 テリトリーバトル
M08 強欲(inst)
M09 デモーニッシュ
M10 梅雨明けの
M11 ナツノカゼ御来光
M12 ひとりぼっちと未来
M13 アサガオの散る頃に
M14 どんな結末がお望みだい?
M15 秋雨前線(inst)
M16 くらべられっ子
M17 ナミカレ
M18 泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて
M19 あの世行きのバスに乗ってさらば。
M20 終点の先が在るとするならば。
EN1 いつかオトナになれるといいね。
EN2 ロックな君とはお別れだ
EN3 やっぱり雨は降るんだね

セトリプレイリスト
URL : https://tuyu.lnk.to/LIVETOUR2022_tokyo

ライブ情報

<COUNTDOWN JAPAN 22/23>千葉県 幕張メッセ国際展示場1~8ホール / イベントホール
※ツユは2022年12月30日(金)に出演予定
HP:https://countdownjapan.jp/

リリース情報

「どんな結末がお望みだい?」
2022年10月30日(日)デジタルリリース
音楽配信:https://tuyu.lnk.to/donketsu
MV:https://youtu.be/F9sWMsUNDw0

Vocal:礼衣 https://www.instagram.com/rei_tuyu/
作詞作曲編曲:ぷす https://twitter.com/Pusu_kun
Piano:miro https://twitter.com/mironuko
Illustration:双葉陽 https://twitter.com/hutaba_haru
Movie:AzyuN https://twitter.com/AzyuN_AN

TUYU Records / PONY CANYON

◆ツユ オフィシャルサイト
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