【ライブレポート】マカロニえんぴつ、特別な感慨に包まれた初の日比谷野音ワンマンで「バンドをやっててよかった」

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11月13日、秋の深まる東京・日比谷野外音楽堂で、マカロニえんぴつを観た。結成10周年、初の野音単独公演、ファンクラブ会員限定、そぼ降る雨と光と音楽。特別な感慨に包まれた美しい一夜を、ずっと忘れないようにここに書き留めておく。

雨空を切り裂く稲妻のようなまばゆいライトと、体を揺さぶる爆音。1曲目「トリコになれ」からバンドは全力疾走、それに応えて観客は総立ち、手拍子、ジャンプで音の波に乗る。ステージの上も下も盛り上がる気満々で、高野賢也(B)が強烈なスラップを、田辺由明(G)がいかしたワウと笑顔を、長谷川大喜(Key)が踊れるリフを、はっとり(Vo&G)が周囲のビル街に響き渡るパワフルな歌を響かせる。曲は「レモンパイ」「洗濯機と君とラヂオ」「ハートロッカー」と、明るい高揚感を振りまきながら突っ走る。“あんたのために歌ってんだよ”と、歌詞にない言葉をはっとりが叫ぶ。その通り、はっとりは今この時間を共有しているあなたのために全力で歌ってる。









「こんばんは。しっかり降ってます。でも雨の中のワンマンってなかなかないし、初めて野音でやるのに雨に降られるのがマカロニえんぴつだよね。どうか風邪引かないようにね」

みんなのたましいの居場所が、今立っているその場所でありますように──。はっとりの言葉を受けて歌われた「たましいの居場所」の、レインボーカラーに彩られたライトがとても美しい。さらに「恋の中」、おなじみ“ひふみよ”のカウントから始まる「恋人ごっこ」、はっとりと高野の熱い気持ちのこもったソロが聴けた「春の嵐」、そしてみんな大好き「ヤングアダルト」は、せつないけどとても優しい、絶望を希望に反転させる力を持ったメッセージソング。ここはミドルテンポのじっくり聴かせるセクション、誰もがゆっくりと体を揺らしながら音楽の中に浸ってる。











「事前に“やってほしい曲”のアンケートを取りましたね。その上位3曲をやります。10年やってますから、古い曲はやる機会が減ったりするんですけど、今日はファンクラブイベントということで、知らない曲はないでしょ?」

“野音でやってほしい曲”の上位3曲は、3位が「零色」、2位が「ワンドリンク別」、そして「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」と、初期からの隠れた人気曲がずらりと揃った。雨は少し強くなったが、プロジェクションマッピングの手法で、野音の建物全体に投影された照明が息を呑むほど美しい。懐かしい曲が新たな命を吹き込まれたような、新鮮な感動。「“かっこつけずに生きていくよ”って、大事なことですね」──「サンキュー・フォー・ザ・ミュージック」の歌詞を引用したはっとりのMCも、いつも以上にエモーショナルに聞こえる。



「今日みたいな日は、特に気を張らないでいいというか、めちゃくちゃホームな日だから、ツアーの気張った疲れも取れてるような気がします」

田辺、高野、長谷川、はっとり、そしてサポートドラムの高浦“suzzy”充孝。メンバー紹介もそこそこにライブは後半戦へ、高野の楽曲コールで始まった「イランイラン」からの流れは怒涛のごとく、「愛のレンタル」「カーペット夜想曲」「STAY with ME」と、バンドのファンキー、アダルト、ダンサブルな側面を強調しながらぐいぐい進む。ミラーボールの壮麗な光が、半ドーム状の背景を流れるように彩った「風が泳ぐ」は、視覚的にも聴覚的にもこの日のベストシーンの一つ。時間はあっという間に過ぎ、残すはあと1曲。



「10年続けることができてます。あなたが求めてくれるからです。この場所が好きだと、最近やっと心から思えるようになりました。ここに来れば一人になる必要はないと思える場所になりました。今日は個人的な感謝を伝える日でもいいかなと思ってます。僕にこんな場所を作ってくれて、育ててくれて、みんな本当にありがとうございます」



俺が一番好きなバンドは、マカロニえんぴつだ。俺が始めたマカロニえんぴつだ。あなたもそうであってほしい。この先もあなたの前にいる僕が好きだ──。本編ラストを飾る「なんでもないよ、」に込めた思いをはっとりが熱く語り、その一番の理解者であるメンバーが心を込めて奏で、同じく一番の理解者である観客が受け取る。素晴らしい照明と音響がそれを支える。メディアやSNSのノイズをはさまない、一対一の純粋なコミュニケーション。これがマカロニえんぴつのライブ。

「こうやって生で、面と向かって会えてよかったです。配信の人も、よかったです。今日は本当に、バンドをやっててよかったなと思える1日でした。また声が出せるようになったら一緒にはしゃぎましょう」





アンコール。配信視聴者に気を配りながら、声出し禁止だった今日の観客を気遣いながら、名残惜しさを振り切ってはっとりは歌う。「愛の手」、そして「OKKAKE」と、バンドを愛するファンの心を代弁するような楽曲で、初の日比谷野音ワンマンを締めくくる。

ステージ上で記念撮影が始まる頃、いつのまにか雨はほぼ上がっていた。懐かしい曲で10周年を振り返りながら、新しい情熱で飽くなき前進を誓うライブ。10年を超えてさらなる高みへ、マカロニえんぴつとファンの旅は続いてゆく。

文:宮本英夫
撮影:酒井ダイスケ

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