【レビュー】時間・空間を彩ってくれる『FFXIV』チルアレンジアルバム配信

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現在、全世界の累計登録アカウント数※が2700万を突破したオンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)。同作は、ゲームそのものに関してはいうまでもないが、その音楽面にも熱い視線が注がれているコンテンツだ。

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今年に入ってからは、6月に『FFXIV』オフィシャルバンド・THE PRIMALSが幕張メッセイベントホールにて2デイズライヴを開催(両日共にチケット即完売)。12月17、18日には、東京ガーデンシアターにてフルオーケストラコンサート<FINAL FANTASY XIV ORCHESTRA CONCERT 2022 -Eorzean Symphony->が行なわれることになっている。
※日本・北米・欧州・中国・韓国の5 リージョンの累計アカウント数。フリートライアル版のアカウントを含む。

これまでも、サウンドトラックはもちろんのこと、ゲーム内で使用されている楽曲にピアノ、バンド、オーケストラなど、様々なアレンジを施した音楽CDが多く発表されているのだが、11月11日に、アレンジアルバムの最新作『Sanctuary's Heart: FINAL FANTASY XIV Chill Arrangement Album』のダウンロード配信が開始された。

リリース後には、オリコン週間デジタルアルバムランキング1位、mora週間総合アルバムまとめ買い1位、iTunes総合部門サウンドトラック部門1位を記録するなど、話題を呼んでいる。



『Sanctuary's Heart: FINAL FANTASY XIV Chill Arrangement Album』は、これまで発表されてきた『新生エオルゼア』『蒼天のイシュガルド』『紅蓮のリベレーター』『漆黒のヴィランズ』『暁月のフィナーレ』の中から20曲を厳選し、作品タイトルにもある通り、“チルアレンジ”を施したもの。参加アーティストは、MURO、DJ UPPERCUT、VaVa、doooo、grooveman Spot、JJJ、starRo、DJ Mitsu the Beats
の8名。国内外、様々なシーンで活躍中のプロデューサー/DJ/ビートメイカーが集結している。

音楽における“チルアウト”であり、“チルアレンジ”といってもその形は多種多様だが、サウンドの特徴を端的にいうと、音数が少なく、テンポがゆっくりで、雰囲気が落ち着いているもの、といえるだろう。元を辿ると、音楽ジャンルとしてのチルアウトが生まれたのは、1990年代。クラブで踊り明かした身体を“落ち着かせる”ための部屋で流れていた音楽であったり、The KLFが1990年に発表したアルバム『Chill Out』のタイトルから来ていたりと、諸説様々。

そこから数多くのチルアウトミュージックが生まれてきたが、現在のブームに直接的に結びついているのは、大規模なフェスでオーディエンスを熱狂させてきたEDM(ビッグルームハウス)が鳴りを潜め、テンポを落としたトロピカルハウスがシーンのトレンドになり始めた2010年代半ば辺りだろうか。他にも、チルウェイヴ、オルタナティヴR&B、ローファイ・ヒップホップの隆盛など、様々な事柄が絡み合っていると思われるが、その中でもひとつ言えるのは、2020年代の突入と同時に始まったパンデミックの影響で、そのムードがより高まったということだろう。開かれた空間で不特定多数の誰かと騒ぐための音楽から、パーソナルなもの──ひとりで過ごす時間、もしくは気心の知れた仲間や大切な人とゆったり過ごすための音楽がより求められるようになったのは、想像に難くない。

本作『Sanctuary's Heart: FINAL FANTASY XIV Chill Arrangement Album』にも、そんな時間・空間を彩ってくれる楽曲が収録されている。たとえば、dooooがアレンジを手掛けた「Tomorrow and Tomorrow」。原曲は、女性の美しいファルセットをたたえたミディアムナンバーで、曲の出だしこそ物悲しい雰囲気があるのだが、中盤から柔らかな光が差し込むように開かれていき、徐々にその光が輝きを増していくドラマティックな歌モノだ。今回のチルアレンジでは、中盤から後半にかけての部分がフィーチャーされていて、どこか無機質な手触りも感じさせるビートの上で、心地よく跳ねる美しいピアノの旋律に心が浄化されていくような仕上がりになっている。

「冥き水底 〜テンペスト:深部〜」はVaVaがアレンジ。原曲で主に耳に残るのは、儚げに奏でられるピアノの音色と、リズム的な役割も担っている時計の秒針の音。補助としてストリングスやグロッケン(鉄琴)の音も薄めに入れられており、ある意味チルアウト、あるいはアンビエント的ともいえるだろう。そんな幻想的な原曲を、まどろみ感を増幅させる電子音や、エフェクティブなボーカルコーラスを加えることで、メロウなものに転換させている。

先に挙げた2曲はヒーリングミュージック的な要素もあるアレンジだが、癒しだけでなく、ダウナーなサウンドもチルアウトミュージックの魅力のひとつである。チルアレンジということもあり、本作は比較的穏やかなトーンの楽曲がメインになっているのだが、そのなかでも刺激の強い音が耳に飛び込んでくるのがstarRo編曲の「英傑 〜ナイツ・オブ・ラウンド討滅戦〜」だろう。勇ましい男声コーラスで幕を開けた後、テンポをグっと上げてなだれ込んでいく壮大で雄々しい原曲は、RPGのバトル音楽の王道的展開でもあり、チルアウトという言葉とはかなり距離がある楽曲でもある。アレンジ版もクワイアコーラスは生かされているのだが、歪んだ電子音が絡みついていて、曲が進んでいくごとに薄暗い電子の海に深く沈んでいくような音世界を繰り広げている。

「万世の言葉 〜禁書回収 グブラ幻想図書館〜」もダウナーなサウンドを堪能できるし仕上がりだ。そもそも原曲がかなり異色で、拍子が意味不明だったり、不協和音が繰り返されたり、突如ジャジーなピアノをフィーチャーしたパートが飛び出したりして曲展開も多めだったりと、かなりカオティック。奇妙な夢の世界に入り込んでしまったかのような感覚に陥るのだが、今回、DJ UPPERCUTが施しているアレンジも、混沌とした不気味な世界は引き継がれている。原曲は、拍子が安定したり、わかりやすいパートが来るとちょっと気持ちが落ち着いたりするところもあるのだが、アレンジ版ではそういった部分は皆無。ひたすら深淵に潜っていくような重厚なサウンドは、是非とも一度、あなたの耳と感覚で体感していただきたい。

他にも、『FFXIV』の最新パッケージ『暁月のフィナーレ』の中でも一際人気の高かった楽曲「Flow」のチルバージョンも収録されている。アレンジを手がけたのはDJ Mitsu the Beats。どこか感傷的で儚い雰囲気が漂う美麗なピアノバラードを、インストゥルメンタルにアレンジ。温かみのあるエレクトリックピアノの音色や、心地よく胸に響くビート、効果的に挟まれる水の流れる音など、“光の戦士”(FF14プレイヤーの愛称)であれば、ゲームの名場面を自ずと想起させるものに。もちろん、ゲーム未経験の音楽リスナーも、メロウでノスタルジックな響きを持ったチルアウトサウンドを堪能できるものになっている。

8人のアーティストがその手腕を発揮し、日常の様々な場面を彩る形に再解釈された『Sanctuary's Heart: FINAL FANTASY XIV Chill Arrangement Album』。本稿でも原曲とアレンジ版の違いをまとめているが、どんな楽曲がどう生まれ変わったのかを辿ってみる楽しみも、アレンジアルバムの醍醐味だろう。現在、『FFXIV』のサウンドトラックは、各音楽サブスクリプションサービスでも配信されているので、是非聴き比べて、その世界を味わっていただきたい。

さらに、11月23日には『Sanctuary's Heart: FINAL FANTASY XIV Chill Arrangement Album』に収録されている全20曲を、tofubeatsがDJ MIXした『Soothing Sanctuary Mix FFXIV Music to Craft and Gather To』がYouTube・SQUARE ENIX MUSIC Channelで公開される予定となっている。気づけば今年も残り少なくなってきた今日この頃。師走の慌ただしい日々を乗り切るための処方箋としても活用していただければ幸いだ。

文◎山口哲生



『Sanctuary's Heart: FINAL FANTASY XIV Chill Arrangement Album』

発売日:2022年11月11日(金)
配信リンク:https://sqex.lnk.to/DOGLFd
※配信状況、配信価格はリージョンやサービスごとに異なる場合があります。
※ダウンロード購入のみの配信となります。

収録曲:
1. 静穏の森
2. 彩られし山麓 ~高地ドラヴァニア:昼~
3. 迷宮 〜ラヴィリンソス:昼〜
4. 紅の夜明け 〜クガネ:昼〜
5. 古傷 〜ギラバニア湖畔地帯:夜〜
6. 雲霧街の夜霧 ~イシュガルド下層:夜~
7. 終の戦
8. 影なき影 〜創造機関 アナイダアカデミア〜
9. 女神 ~女神ソフィア討滅戦~
10. Tomorrow and Tomorrow
11. 冥き水底 〜テンペスト:深部〜
12. Close in the Distance
13. 英傑 ~ナイツ・オブ・ラウンド討滅戦~
14. 万世の言葉 ~禁書回収 グブラ幻想図書館~
15. シヴィライゼーションズ 〜ラケティカ大森林:昼〜
16. 世界を照らす闇 〜クリスタリウム:昼〜
17. 古の星空 〜エルピス:夜〜
18. 余光 〜ラールガーズリーチ:夜〜
19. Flow
20. 忘却の彼方 ~蛮神シヴァ討滅戦~

発売元:スクウェア・エニックス ミュージック
権利表記:(c)2010 - 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

◆『Sanctuary's Heart: FINAL FANTASY XIV Chill Arrangement Album』特設サイト
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