【ライブレポート】King Gnuが彼らのままで東京ドームに行きついた理由

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撮影:伊藤滉祐

11月19、20日の2日間にわたり、King Gnu初の東京ドーム公演<King Gnu Live at TOKYO DOME>が開催された。

私が行くことのできた2日目のMCで、5万人の観衆を目の前にした井口理(Vo.Key.)は“King Gnu”というバンド名の持つ意味に触れて、「やっとKing Gnuになれた」と語っていた。こういう場所でバンドのスポークスパーソンの役割を担いながら、その実、「偉そうなことは言いたくない」という誠実な不器用さも兼ね備えていそうな彼にとって、こういう言葉を大舞台で言うことには照れくささもあっただろうが、それでも、ビジョンに映る彼は本当に感慨深そうな眼差しで客席を見つめていた。加えて井口は、5年前に前進バンド“Srv.Vinci”から改名するにあたり、4人でスタジオ帰りに下北沢のキッチンオリジン(厳密にはオリジンダイニングと思われる)で新たなバンド名を考えた、というエピソードも披露していた。5年前というと私は下北沢に住んでいたので、「King Gnuはあの定食屋で生まれたのか!」と驚いた。そしてなんとなく、実際に見たわけではないけれど、あの店の席でだべっている4人の姿が目に浮かんだ。

撮影:川上智之

撮影:川上智之

撮影:川上智之

撮影:川上智之

撮影:伊藤滉祐

MCでも触れられていたが、下北沢にあったあの定食屋は今はもうないし、5年前と比べると下北沢の様子自体が随分と様変わりした。私が下北沢で住んでいたアパートも取り壊されて、あの街を出ざるを得なくなった(「属さない」人間に厳しい社会での新しい部屋探しは苦労した)。King Gnuが立つステージの大きさも随分と変わっただろう。私が初めてKing Gnuのライブを観たのは2017年、渋谷の小さなライブハウスで開催されたイベントでのことだったし、彼らのワンマンライブを初めて観たのは井口が酔っぱらっていた(でも、演奏は最高だった)2018年の渋谷WWW Xだった。そして、今年は<ROCK IN JAPAN FESTIVAL>でトリを飾っていたのと、この日の東京ドームの2回、King Gnuのライブを観た。世の中は本当に目まぐるしいスピードで変化していくし、同時に、急に変わったと思えるようなことでも、実はじわじわと少しずつ、何かを失ったり生み出したりしながら形を変えてきたことの結果だったりする。King GnuがKing Gnuとして生きてきた「5年」という期間を長いと受け止めるか短いと受け止めるかは人それぞれだが、大切なことは、彼らは彼らのままで、東京ドームに行きついた── その1点に尽きるのではないかと、この日のパフォーマンスを観た今思う。彼らのステージ上での佇まいは、5年前に初めて観たときと本当に変わっていない。演奏の圧倒的なクオリティと、それに比べてかなり肩の力が抜けた、じゃれ合うようなMC。ステージで嘘をつかない、一見チンピラのように見える、生真面目な表現者たち。常田大希(Gt.Vo.)もこの日、こう話していた。「ちっちゃいライブハウスでやっていた曲をそのままできているのは、ありがたいことだよね」。

撮影:伊藤滉祐

撮影:伊藤滉祐

撮影:川上智之

撮影:川上智之

撮影:伊藤滉祐

撮影:川上智之

撮影:川上智之

撮影:川上智之

アンコールも含め全24曲、素晴らしいライブだった。冒頭の「一途」から「飛行艇」へ至るスケールのデカさ、「The hole」の悲しい美しさ、「雨燦々」の輝き、「Slumberland」のいつ聴いても何かが始まりそうな気がする覚醒感、炎が吹き上がる演出の中で披露された新曲「Stardom」のダイナミズム、そして、「Flash!!!」の命を燃やすようなスピード!……思い出したい光景はたくさんあるが、ライブが終わってから数日経って、この原稿を書いている今でも特にその景色が鮮明にフラッシュバックし続けているのは、アンコールで披露された「McDonald Romance」である。常田の爪弾くギターと、メンバー4人の声のハーモニーだけで演奏されたこの曲は、この4人の間にのみ生まれる時間や空気感の親密さや深さを、そのままダイレクトに東京ドームに集まった5万人の大観衆に伝えているようだった。そして改めて、この「McDonald Romance」の歌詞はあまりに美しいと感じる。<もう財布の底は見えてしまったけど/それさえも笑い合った/それさえも恋だった>。「Flash!!!」や「Prayer X」が世に出た頃に、私が初めて常田に取材する機会を得たとき、少しだけ、この曲のことを聞いた。「金はないし、車もない。でも、満たされていなくても、不幸じゃない。今の東京で暮らす自分のリアルを歌いたい」── 常田はそんなふうに語っていて、あのときに私は、「このバンドは、今の日本で暮らす若者たちに向けて、本当に大切なことを表現しているのだ」と感じたのだった。もうその時点で彼らは人気者だったし、「自分が正しかった」なんてダサいことを言いたいわけではない。でも、本当にそういうことだったのだと、本編とアンコールの間に、誰に誘導されるでもなく観客たちが自ずとスマホのライトで廃墟のようなセットが組み上げられたステージを照らし始めた、この日の光景を思い出すにつけても感じるのだ。

撮影:伊藤滉祐

撮影:川上智之

撮影:川上智之

撮影:伊藤滉祐

ライブの幕を下ろしたのは、アンコールの最後に披露された「サマーレイン・ダイバー」だった。その光の海に潜っていくような陶酔感溢れる演奏の余韻の中でも、常田は、孤独な狼が吠えるように、名残惜しそうに、切り裂くように、ギターを鳴らしていた。どんな美しく巨大な一体感も、すべては孤独の続きであるということを、やはり彼はその存在でもって証明していた。

撮影:伊藤滉祐

取材・文:天野史彬

■セットリスト

01. 一途
02. 飛行艇
03. Sorrows
04. 千両役者
05. BOY
06. カメレオン
07. Hitman
08. The hole
09. NIGHT POOL
10. It's a small world
11. 白日
12. 雨燦々
13. Slumberland
14. どろん
15. 破裂
16. Prayer X
17. Vinyl
18. Flash!!!
19. 逆夢
20. Stardom
<アンコール>
21. McDonald Romance
22. Teenager Forever
23. Tokyo Rendez-Vous
24. サマーレイン・ダイバー

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