【ライヴレポート】清春、BorisのAtsuoが目撃した<The Birthday>に混沌と確信「残り少ない命を燃やしたい」

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清春が自身の誕生日である10月30日、恵比寿ガーデンホールにて恒例の<The Birthday>を開催した。有観客によるリアルライヴの開催は自身約1年ぶり。コロナ禍では<A NEW MY TERRITORY>にて精力的なストリーミングパフォーマンスを繰り広げていた清春の生身のステージは、やはり想像を超える高い熱量とひりつく緊張感に溢れたものだった。

◆清春 画像

なお、翌日10月31日の<LIVE AT 新宿LOFT 25TH>を含め、連続開催されたこの二夜は、清春と公私ともに親交が深いBorisのAtsuoに執筆を務めてもらった。スタイルを共有するアーティストとして、コロナ禍を駆け抜けてきた同じミュージシャンとして、独自の視点で綴られた両日のレポートをお届けしたい。まずは<The Birthday>から。

   ◆   ◆   ◆

今回の2Daysはアーティスト“清春”にとって、また日本の音楽業界にとっても、転機になる2日間になる予感がしていた。ライヴレポートというよりは私の視点からの一連のドキュメンタリーという側面が強くなると思うが、お付き合い願いたい。


ここ最近の清春は配信でのライヴに重点を置き、観客に規制を強いるリアルライヴを敬遠しているように思われた。そして、恵比寿ガーデンホールでの誕生日公演、そして新宿LOFTの”解放”を謳う2Daysを機に、久しぶりの有観客公演が行われた。

我々アーティストは国内のエンターテインメント現場の疲弊感を強く感じているし、この状況をこの秋にはなんとか変えていかなければ、という危機感を強く持っていた。私は6月にオーストラリア、8月および9月にアメリカツアーを行なっており、海外とは対照的なこの日本の遅々とした状況を痛感している。

当日の公演はオールスタンディング形式で行われた。前方からフロアがどんどん埋まっていき、人数制限下ではあるが1000人のオーディエンスが集った。ステージ後方には異才、秋田和徳氏による巨大なヴィジュアルがオーディエンスを圧する。所謂バンドのロゴが入ったバックドロップとは全く異なる趣で、人々を一方向に導くようなアイコン、人物、団体の名称はそこにはない。ただこの世界の混沌が描かれたような壮大なヴィジュアルは清春の無言のメッセージそのもので、そこに集うオーディエンスはそれを知っている。


コロナ制限に関するアナウンスが流れる。まだ、国内の様々な会場で自主的な規制が行なわれ、未だにある種の息苦しさに場内が包まれている。やはり拍手だけのリアクションしか許されない状況は異常であって、オーディエンスが歓声を上げられないライヴなど、歌い手が歌を歌えないのと同じ。いつだってライヴという場はそこに参加するオーディエンスと共に作り上げられ、完成する。欧米では歓声の制限が設けられたという話は聞いたことがなく、音楽文化に対する根本的な価値感、意味合いが全く違っている。日本の文化を取り巻く状況は、表現者が消耗するようなシチュエーションが多々見受けられる。

恵比寿ガーデンホール公演<The Birthday>では、ここ最近の最重要プレイヤーとなっているギターのDURAN、チェロにRobin Dupuy、そこにライヴでは初の試みとしてパーカッションの中北裕子が加わった編成。開演のSEが鳴り、間合いをはかるように3人の音がレイヤードされていく。有機的な音の響きに会場が飲み込まれて、清春の登場。オーディエンスは手を掲げ、求める。そして「下劣」からスタート。

甘く独特な低域の倍音、擦り切れるようなシャウト、抑揚と無尽蔵の表情、声と感情のヒダ。ライヴではその都度自身の声と対話しながら、瞬間瞬間に生まれていく豊かな歌。最近のライヴでは『夜、カルメンの詩集』『JAPANESE MENU/DISTORTION 10』、これら2枚のアルバムの楽曲を軸に、それぞれの代表曲がポイントに配置されるセットが組まれている。この2枚のアルバムは今の彼の表現スタイルを支える重要な作品となっていて、所謂”ロックバンドを率いるソロアーティスト”というスタイルからの逸脱、独自の方法論と世界感を生んでいった非常に意欲的な作品となっている。


この夜も中盤まで、この2枚のアルバムからの曲がゆらりゆらりとオーディエンスとの間合いをはかるよう響く。バースデーライヴでありながらも”お誕生日会”という能天気な空気、馴れ合いは微塵もなく、ただただアーティストとオーディエンスの真摯な関係がそこに生まれていく。「五月雨」ではお互いの気持ちを吐露するかのように“憂鬱でした”と歌われる。観客は解放を求めるように同じく歌を口にし、ホールにはだんだんと大きく、声が響いていった。

この2年半の間、時には理不尽とも言える政府の自粛要請によって、我々アーティストはオーディエンスと共有する場所と時間を奪われ続けて来た。ガーデンホールに響き渡るその声は、この状況を突破、リアルな“生”を取り戻そうという願いにも聞こえた。

インターバルでは演奏陣のインプロヴィゼーションが旅の風景をさらに彩る。エレクトロな風合いを持ったキックが鳴り始め、ショウを次のレベルへと運んでいく。DURANのギターは天真爛漫、無邪気に会場を高揚させ、Robinのメロディは皆の意識を空へ舞い上げる羽衣のようだ。音は拡散し、ここガーデンホールには“聴きどころ”の混沌が生まれている。


衣装を変えた清春が再び登場し、オーディエンスのフォーカスがまた主役へともどる。『夜、カルメンの詩集』から2曲をまたゆったりと歌い上げ、ライヴにおける代表曲「JUDIE」へ。キックの低音に牽引され、会場の熱量も一気に上がっていく。清春から投げかけられる言葉──「簡単じゃん」「手を伸ばして」。そう、踏み出すだけ。簡単なことなのだ。今、この国ではその簡単な行為をも制する空気が満ち溢れている。沢山のオーディエンスが手を伸ばして、“生きる”を求める態度を示す。

「あったまってきたじゃん」と清春に笑みが浮かぶ。「多少(文句を)言われても気にしない人たちが続けていかないと、(この状況は)明けないから」「残り少ない命を燃やしたいよね」──自粛制限下の会場で、お互いが心の突破口を探っている。

「リグレット」「アウトサイダー」「妖艶」「EMILY」「少年」と続く本編後半では、オーディエンスとの一体感もパンデミック以前に戻っていくようだ。清春自身もそれを実感しているように笑顔が頻繁にこぼれ、歌をオーディエンスと共に作り上げていく。



本編終了後、アンコールで急遽披露された弾き語り。それは純度100パーセント“清春”の領域、特筆すべき、不完全でありながら非常にビビッドな時間だった。「練習しない人なんで」とアコースティックギターの指板上のコードを確認しながら「アロン」が始まる。曲タイトル通りの独演。少しずつ立ち上がっていく歌は、声の届く距離も時間も自在で、飛ぶ先の予測がつかない蝶のように自由に舞い続ける。記憶を確かめながらのコードストローク。その危うげな姿にその場にいる全員が目も耳も離せないでいる。歌という概念が還元され、次々に生まれる現象に身を委ねるしかない。ステージの中央でマイクも無しに歌声を響かせる清春。オーディエンスや会場を含んで、その場所全体が歌になっていく。

続く「忘却の空」「ゲルニカ」。演奏アレンジや編成がどんな形式になってもオーディエンスとは歌でつながっていて、お互いが出会えた場所ではそのつながりが歌となって空間に響く。歌は唯一の約束なのかもしれない。何も強制しない、同じことを繰り返さない。再現もしない。唯一歌という了解がそこにある。


メンバーが再び呼び込まれ、本来のアンコールパートへ。DURANが大きなバースデーケーキを運び込むと、Robinのチェロを伴奏に、会場全員で「ハッピーバースデートゥーユー」が歌われ、清春が蝋燭の火を吹き消す。和やかな祝いの時間も束の間、早々にショウの終演へと突入していく。

アンコールは「眠れる天使」「SURVIVE OF VISION」。アーティストが自立した活動を続けているからこそ、自ずとそこには価値観を共有したオーディエンスが集う。リフレインされる"This is all my life"。外側のルールに依存しない、自分の意志で発せられたそれぞれの歌が大ホールに響き渡る。「真っ暗にして」「手を上げて」「ゆらして」「ぜんぜん見えてないから」──会場を暗転させ、誰が歌っているかもわからない、そんな安心感を作り出す清春。暗闇の中で大合唱が続く。会場に響き渡る沢山の“一人ひとり”の歌声。"This is all my life"──最後はオーディエンスの歌声のみ、息が続く限り空間に響き、途絶えた残響が会場に広がる。それらは沢山のことを象徴するシーンだった。


「信じられる?」「その音楽は信じられる?」「幸せだと思ってます」「皆が僕の音楽を信じてくれていることを信じてる」──誕生日に沢山のファンの前でそう言える、それが彼の全て。最終曲のコール「我が美学ここにあり」と口にすると、タイトル通り自身の「美学」を歌い上げて誕生日の夜が閉じられた。

取材・文◎Atsuo (Boris)
撮影◎森好弘

■<清春『The Birthday』>2022年10月30日(日)@恵比寿ガーデンホール SETLIST

01. 下劣
02. 赤の永遠
03. アモーレ
04. 洗礼
05. グレージュ
06. 五月雨
07. 悲歌
08. シャレード
09. JUDIE
10. リグレット
11. アウトサイダー
12. 妖艶
13. EMILY
14. 少年
encore
15. 貴方になって
16. 眠れる天使
17. SURVIVE OF VISION
18. 美学


■<NEW YEAR COUNTDOWN>

2022年12月31日(土) 名古屋ダイアモンドホール
open22:00 / start23:00
(問) ZOOM:052-290-0909
▼チケット
一斉発売:12/3(土) 10:00
https://kiyoharu.tokyo/

■<Toshihiko Imai「ETERNAL DANCE」LDH kitchen THE TOKYO HANEDA>

▼第一夜 passing through
2022年12月23日(金) LDH kitchen THE TOKYO HANEDA
open18:00 / start19:00
馬場俊英 × 今井俊彦
guest:神佐澄人(pf)
Ticket:https://tiget.net/events/216584
official site:https://fan.pia.jp/babatoshihide

▼第二夜 nobody knows love
2022年12月24日(土) LDH kitchen THE TOKYO HANEDA
open17:30 / start18:30
清春 × 今井俊彦
guest:DURAN(G), Robin Dupuy(Vc)
Ticket:後日発表
official site:https://kiyoharu.tokyo

▼第三夜 sleep sheep strangers
2022年12月25日(日) LDH kitchen THE TOKYO HANEDA
open17:00 / start18:00
高野 哲 × 今井俊彦
guest:吉田トオル(pf), 三輪紫乃(vn)
Ticket:https://t.livepocket.jp/e/eternal_dance
official site:https://www.afro-skull.com

(問)LDH Kitchen THE TOKYO HANEDA 03-5579-7461
https://www.ldhkitchen-thetokyohaneda.jp/

【今井俊彦 (イマイトシヒコ)】
日本の写真家・映像作家。東京都生まれ。主にロックを中心とするミュージシャンを被写体としたアルバムジャケット、ライブ写真、映像作品も数多く手掛ける。近年、個展『nobody knows me』の開催と共に写真集『Last waltz』を上梓。
https://toshihiko-imai.com


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