【インタビュー】諭吉佳作/men、クリスマスがテーマのEP発表「いろんな人が挑んできた大きなことに立ち向かいたかった」

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■「こんなこともしますよ」と今のうちに言っておきたい

── 諭吉さん自身が、恐怖を感じた印象的な作品ってありますか?

諭吉:ホラー映画とかは怖くて見れなくて(笑)。私、印象に残るものを見てしまうと、本当にすぐに夜寝れなくなっちゃうんですよ。少し前になりますけど、『ドキドキ文芸部!』っていうゲームがあって。知ってますか?

── いや、知らなかったです。

諭吉:ギャルゲームの体をとったサイコホラーっていう感じなんですけど、ビックリしちゃいました、あれは。構造も興味深いし、やっていることも面白くて。大体のシナリオは元から知っていたのに、ビジュアルとか音で単純に驚かせにきたポイントで驚いちゃったりもして……私、ビビりなんですよね。リアクションもデカいし(笑)。ずっと引きずっちゃうので迂闊には手を出せないんですけど、人をびっくりさせる構造やビジュアルには、興味がありますね。ゴシックホラーみたいなビジュアルも好きですし。『ミッドサマー』とかも観たいんですけどね。まだ手を出せていないんです。

── 『ミッドサマー』はたしかに、近年のホラー作品の代表格ですもんね。

諭吉:自分がホラーのシステムを作ろうと思ったら、観ないといけないよなと思っていて。きっと好きだと思うんですよ。でも、「じゃあなんで怖いものを人は好きになるのかな?」と考えたら、怖いから好きなふりをしたくなるのかな、とも思うんです。怖いものに対して「好き」と言っているほうが安心するのかなって。自分がそうだから思うんですけど、自分が恐怖しているものを味方にしていると思えた方が安心する。それに、「怖い」っていう感覚って、表に出して共通のものにしたほうがいいときってあると思うんですよ。世の中のものにしてしまったほうがいいというか。

── 『ミッドサマー』も集団性から来る安心と不安みたいなものを描いている部分はあったと思いますし、そこは「CHRISTMAS AFTERNOON」にも繫がるモチーフかもしれないですね。

諭吉:うん、いま考えたらそうですね(笑)。「DAY」とかもそうなんですよね。この曲のキーワードは「クリスマス、誕生日、排他」なんですけど、この曲も「安心と不安」がテーマになっていると思う。

── 「安心と不安」とか「集団と個」というテーマが、今回、クリスマスを描いたときに諭吉さんの中から出てきたものだったのかもしれない。

諭吉:ほんとですね。3曲目の「summer C」もそういう曲で。この曲のキーワードは「クリスマス、ひとりキャンプ、サマー、安寧」だったんです。南半球みたいな場所がイメージとしてあったんですけど、自分ひとりで静かに自分と向き合いつつ楽しむ方法ってたくさんあるし、ひとりでいるからって別に寂しいわけじゃないよねっていう。「全部自分でやる」っていう、ある種の万能感を表現している曲なんですけど。でも、こういう曲を作ると表現として難しくて。……というか、「表現として難しい」ということすら、今まではあまり考えなかったことで。今回、何かを言おうとしているから、考えざるを得ないんですけど。この曲は「寂しい人の曲」だと思ってほしくないんですよね、本当に。歌詞で「悲しいかな?」なんて歌ってしまうと、ミスリードかなと思って使うか迷ったんですけど、それは他者からの見られ方であって、悲しくないんです、この人は。マジでなにも悲しくない。「本当は寂しいんでしょ?」っていう人もいるかもしれないけど、絶対に違う。「クリスマスは誰かと過ごすもの」みたいなイメージもあるじゃないですか。それが幸せな人はそれで素晴らしいと思うんですけど、「別にそれだけじゃないよね」って。そういうことを割と素直に言っているかなと思います。



── 今回、こうして多角的な視点からクリスマスソングを5曲作られて、諭吉さん自身で見つけることができた、自分自身のキャラクター性というのもありますか?

諭吉:「クリスマスの曲を書こう」と思って5曲書いてこういう並びになるのは、クリスマスを真っ直ぐに楽しもうとしている人間じゃないんだなと思いますよね(笑)。でも、やっぱりなにより、「クリスマスの曲を5曲も書いた人」、それが自分のキャラクターっていう。そういうことをやっていい人になれたなと思います。今までと違うことをやろうとしたときに、自分に課すルールとして「クリスマス」という大きな縛りがあることはすごくわかりやすくて、よかったです。

── 『からだポータブル』の頃と比べても、明確に表現に対してのアプローチが変化しているところが素敵だなと思います。諭吉さんの音楽がどんどんと新しいものになっていくのを感じるというか。

諭吉:飽き症なんです(笑)。「もうちょっと一貫性を持ったことをやれ」と言われるかもしれないけど、やっぱり面白い方がいいし、新鮮な方が楽しいし。「面白い人だ」と思ってほしいじゃないですか、そりゃあ(笑)。それに、いろんなことを最初のうちにやっておいたほうが、後々なにをやっても大丈夫になるなと思うので。「こんなこともしますよ」と今のうちに言っておきたいです。

── わかりました。気になったので最後に伺いたいんですけど、4曲目「BAD EVE」は、どういったキーワードがあったんですか?

諭吉:えっと、この曲は……「クリスマスイヴ、俺が死んだ」です(笑)。クリスマスイヴを一緒に過ごす親密なふたりがいて、でも、片方が来ることができなくなってしまって。「君にもらったクリスマスカードからは君の曲が流れる」っていう歌詞もあるんですけど、もし自分がそういう状況になっても、いま、このEPを作っておけば聴いてもらえるかもしれないなっていう情景も考えていました。

取材・文:天野史彬
撮影:堅田ひとみ

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EP『With Regard to Christmas』


Digital & Subscription, 2022.11.30 Release
TFDS-00843

1.CHRISTMAS AFTERNOON
2.GOOD JOb
3.summer C
4.BAD EVE
5.DAY
6.ショック(X’mas Remix)
※6曲目DL限定ボーナストラック
(6曲目バンドル特典サイト:レコチョク, Mora, music.jp, dwango, Amazon, mu-mo, ヤマハ, オリコン, コナミ, OTOTOY, MLJ)
※iTunesでは6曲目バンドル特典はつきませんのでご了承ください

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