【ライブレポート】GLIM SPANKY、ツアー<Into The Time Hole>ファイナルにロックバンドの矜持「最高だな!」

ポスト
no_ad_aritcle

GLIM SPANKYが12月21日(水)、東京・昭和女子大学 人見記念講堂にて全国ツアー<Into The Time Hole Tour 2022>のファイナル公演を開催した。最新アルバム『Into The Time Hole』を引っ提げて行われた同ツアー最終日のライブレポートをお届けしたい。

◆GLIM SPANKY 画像

「東京! 今日はみんなでロックンロールを楽しんでいきましょう!」──松尾レミ(Vo, G)

すでに総立ちの客席に向かって、松尾レミが投げかけた言葉に応え、観客が拳を振りながら一つになった3曲目の「褒めろよ」を演奏し終えたとき、ライブの臨場感を今一度噛みしめるように「すごーい。みんな来てくれてありがとう!」と言った松尾は続けて、「最高だな!」と付け加えた。

何も意識せずに、胸の内からぽんと飛び出たように聞こえた端的な言葉は、まさに快哉と言えるものだったと思うのだが、その「最高だな」という一言は想像するに彼女の胸の内に去来する、さまざまな思いが反射的に集約されたものだったのだろう。


その「最高だな」をはじめ、この日、松尾と亀本寛貴(G)の2人は2時間30分におよぶ熱演の間、幾度となく「最高」「楽しい」という言葉を口にしたのだが、それもそのはず、今年8月にリリースした6thアルバム『Into The Time Hole』のタイトルを冠した今回の全国ツアーは、実に3年ぶりの開催となるのだから、2人の歓びようも大いに頷ける。

そんなふうに大観衆の目の前で演奏することを、まるで無邪気に楽しむ2人の姿ももちろん、この日の見どころだったに違いない。しかし、2人が何度も口にした「楽しい」だけで終わらず、ロックバンドとしての矜持を見せつけた上で、最後には新たな目標に向かうGLIM SPANKYのこれからを印象づけたところにこそツアーファイナル2DAYSの2日目を完全燃焼で締めくくった意味があった。



ライブは亀本がクールなギターリフを閃かせ、R&Bのグルーブを持つ「シグナルはいらない」でスタート。フレアスカートを揺らしながら、ハンドマイクで歌う松尾のパフォーマンスがステージに華やかさを加える。この日、キーボード奏者も含む5人編成でライブに臨んだGLIM SPANKYはそこから2時間半たっぷりとアンコールも含め全22曲を披露。セットリストの軸になっていたのはもちろん、「シグナルはいらない」をはじめ、以前にも増して振り幅の広い曲に挑んだ『Into The Time Hole』からの8曲だ。

中でも、「一緒に踊れる曲!」という松尾の言葉に応え、観客が軽やかなビートに体を揺らした小粋なポップナンバー「HEY MY GIRL FRIEND!!」、ダンサブルでジャジーな演奏にメランコリーを落とし込んだ「レイトショーへと」、リラックスしたラテンファンクナンバー「Sugar / Plum / Fairy」の3曲はこれまでとは一味違う魅力をアピールしていたはず。

そんな『Into The Time Hole』からの8曲に加え、亀本が奏でる倍音の響きを生かしたリフも印象的なノスタルジックでフォーキーなバラード「美しい棘」、亀本がスライドギターで唸らせたブルージーなリフをはじめ、'70年代のブリティッシュロックを彷彿とさせる「Breaking Down Blues」、松尾のハイトーンボーカルが冴えわたるアップテンポのロックロールナンバー「怒りをくれよ」といったお馴染の曲を織りまぜ、客席を沸かせていく。さらには10月31日に配信リリースした新曲「不幸アレ」も披露。アップテンポの演奏とメンバーが重ねるシンガロングに観客が拳を振った。



観客が存分に楽しむ光景に「すごくいい景色!」と松尾が感嘆する。熱演の間には「さっき松尾さん、東京って言ってたけど、東京って言うより、三茶(三軒茶屋)って言ったほうがおもしろいよ」という亀本の一言をきっかけに人見記念講堂がある三軒茶屋にまつわるざっくばらんなMCも楽しませた。

「昨日、発覚したんですけど、私達18の時に長野県から東京に出てきて、下北(沢)とか、新宿とか、渋谷とかでライブハウスに出てたんだけど、こんなに下北から近いのにさ、三茶でライブしたことが1回もなかったの。だから、昨日今日がGLIM SPANKYにとって初めての三茶ライブ(笑)」──松尾レミ

「僕らからしたら、経済水準が高くて、三茶は行っちゃいけないところだった。学生時代は。下北から近いけど、崇高なイメージがありましたね(笑)」──亀本寛貴

また、全国10カ所を回った今回のツアーが全公演、楽しかったことを振り返った松尾と亀本は、それぞれに3年ぶりのツアーで改めて実感したライブの醍醐味も語った。

「3年ぶりにアルバムのリリースツアーができて、こうやって仲間が集まってくれた感動と言ったら! GLIM SPANKYの音楽を軸として、音楽友達が集まって、一緒に楽しんでくれるんだから、そりゃ楽しいよね。これからもGLIM SPANKYはずっと挑戦し続けて、いい意味でみんなを裏切っていきたいと思うんですけど、同時にずっとライブもやり続けていきたい」──松尾レミ

「いろいろなGLIM SPANKYを好きな人がいると思うんですよ。昔から好きだって人もいると思うし、最近知ったから昔はわからないっていう人もいると思うし、いろいろな人がいると思うんですけど、ライブに来たら、関係なくGLIM SPANKYなんですよね。今回のツアーも最新アルバムの雰囲気を楽しんでもらいつつ、いろいろな時代の曲をやっているんですけど、昔の曲も今の曲も全部、僕らの持ち歌だし、いろいろな時代からやるから、ライブに来たらみなさんが好きなGLIM SPANKYグリムがいると思います。ぜひ遊びにきてほしいと思います」──亀本寛貴

「ライブって私たちも歌うけど、こうやってみなさんからエネルギーをもらって、それを音に変えっていう循環になってるから、楽しいんです」──松尾レミ

「コロナ禍以降、できるやり方でいろいろライブしてきたんですけど、改めてロックのライブって楽しいと感じてます。松尾さんが最近、ライブ楽しそうなんです。そんな感じしません? 松尾さんが楽しいそうだから僕も楽しい(笑)」──亀本寛貴


今回のツアーがいかに充実していたか。GLIM SPANKYにとって、ライブがいかに必要不可欠なものかが窺える。そして、前述したようにGLIM SPANKYは松尾が言う仲間との交歓の中でライブの楽しさだけにとどまらず、ロックバンドとしての自分達の信念や使命も今一度見つめ直したようだ。それは次の2人の言葉からも明らかだった。

「コロナ禍以降、ネットでの発信が増えて、曲のサイクルが早くなっていて、楽曲1曲の価値もすげえ変わってきている。配信リリースが多いから、毎日誰かがリリースしている。こんなに出す意味ある⁉って思っちゃうぐらい、みんなが曲を出している。でも、曲を出すしかないんですよ、僕らも。他にできることがないから。松尾さんは、「来年もどんどん曲を作ってリリースしていこうと思います」って言ってたけど、音楽の楽しみ方、消費のしかたが変わってきている時代だと思うんですよね、今まで以上に。その中で音楽活動しながら、どういう発信をするべきかとか、どうしたら新しいリスナーさんに聴いてもらえるかとか、今まで聴いてくれてたリスナーさんにも楽しんでもらえるかとか、自分達もこれまで以上に考えて、音楽活動をしていこうと思っています」──亀本寛貴

「でも、私は自分の信じる美学は曲げないから(笑)。自分がカッコいいと思っているものを曲げずに、どれだけ引き出しを増やしていけるかってところの勝負だと思っているので、いろいろなテイストの曲も作るけど、どんな曲を作っても自分の血となり肉となっているものは薄まらないと思う。そういう自信があるので、いろいろなことに挑戦していきたいし、自分の美学を曲げずにやっていきたい。きっとそういう仲間達がここには集まっていると思います」──松尾レミ

2人の改めての宣言に観客が大きな拍手を贈った。


本編最後の曲は、『Into The Time Hole』からの「形ないもの」。コロナ禍の中で、大切なものや大事な居場所をなくした人が自分達も含め、大勢いることにインスパイアされ、書いた曲だそうだ。

「なくなっていってしまったものはしかたない。それを自分の中に大切なものとして残しながら、次にちゃんと進んでいける曲を書きたい。ロックというカルチャーは時代を反映しているものだし、自分が聴いて、勇気をもらえたものには、そういうメッセージが込められていたから、自分もそういう曲を作りたい。この時代が終わっても、みんなの日常に流れている曲でもありたいと思って作った曲を最後に歌いたいと思います」──松尾レミ

その「形ないもの」を、この日ここで歌う理由を、松尾はそんなふうに語ったが、ノスタルジックな曲調がマーチ風のドラムとファンファーレを思わせるホーンの音色を加えたことで、せつなさの中に勇気が湧くような印象に変わるアレンジを聴きながら、今この瞬間、GLIM SPANKYはロックバンドとしての矜持を刻み込んだのだと思った。


そして、それは同時にGLIM SPANKYの新たな始まりだったようにも感じられた。なぜなら、『Into The Time Hole』のボーナストラックだった「ウイスキーが、お好きでしょ」は別として、この日、アンコールで演奏した3曲は、松尾と亀本の母校がある長野県下伊那郡松川町を舞台にした映画『実りゆく』の主題歌として提供したフォーク調の「Be Myself Again」をはじめ、どれもGLIM SPANKYのルーツを刻み込んだ曲だったからだ。

演奏するたび、観客がいなかった頃のライブハウスの光景がよみがえるというフォーキーなバラード「大人になったら」は、GLIM SPANKYの代表曲の1つだが、ハングリー精神や青さの象徴として、大学時代からずっとやり続けているのだと思う。そして、同様に大学時代からやっているという「Gypsy」は軽快なヨコノリのロックンロール。

「音楽やっててよかった。楽しかったね。またみんなに会いたい!」──松尾レミ


「大人になったら」から一転、観客と一緒に盛り上がった最後は、音楽を始めた頃の無邪気さに立ち返って、楽しんでいるように見えたのだった。大きな拍手の中、名残惜しそうに、なかなかステージから立ち去れない松尾と亀本の姿が物語っていたのは、ツアーの大きな成果だった。

取材・文◎山口智男
撮影◎上飯坂一

■<Into The Time Hole Tour 2022>12月21日(水) 東京・昭和女子大学 人見記念講堂 SETLIST

01. シグナルはいらない
02. ドレスを切り裂いて
03. 褒めろよ
04. HEY MY GIRL FRIEND!!
05. It’s A Sunny Day
06. 美しい棘
07. Breaking Down Blues
08. 時代のヒーロー
09. Looking For The Magic
10. Velvet Theater
11. レイトショーへと
12. 怒りをくれよ
13. ワイルド・サイドを行け
14. 愚か者たち
15. 不幸アレ
16. NEXT ONE
17. Sugar/Plum/Fairy
18. 形ないもの
encore
en1. ウイスキーが、お好きでしょ
en2. By Myself Again
en3. 大人になったら
en4. Gypsy

■新曲「不幸アレ」

2022年10月31日(月)AM0時デジタルリリース
作詞:いしわたり淳治、松尾レミ
作曲:GLIM SPANKY
編曲:亀本寛貴

配信URL https://glimspanky.lnk.to/worstPR
歌詞URL https://www.uta-net.com/song/325561/


この記事をポスト

この記事の関連情報