【インタビュー】堂村璃羽、『夜景』に孤独と美しさ「“失恋ソング=悲しい”ではない。生きるための一つの道標」

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■音楽も悩み相談のような感覚で作っている
■悩みを持つ人に寄り添えたらという気持ち

──アルバムリード曲の「Prima Stella」にも強い思い入れがあるそうですね。

堂村:はい。バカにされても夢を追いかけ続けている男の子と、夢を貫く彼に恋をしている女の子のストーリーを歌った曲です。男の子はずっと一番星を追いかけていたけど、やがて自分についてきれくれる女の子のことが気になり始める。隣にいる女の子のことが大好きになって、一番星を見つけるという夢をずっと追い求めたはずなのに、そっちに時間を割くようになる。だけど女の子は、夢に向かってがむしゃらに突き進んでいる男の子のことが好きだったわけで、彼の想いが星じゃなくて自分に寄せられるようになったことに気づくと、違和感を持つようになって、すれ違っていく。曲自体は、男の子が“きっと一番星は誰より 僕のそばで笑う君のこと”と女の子に伝えるところで終わっていて、すれ違うところはあえて描いていないんですけどね。

──確かに、直接的には描かれていなくても、この2人の関係は上手くいかなくなってしまうんだろうなと想像ができます。

堂村:だから悲しい曲ですよね。こういう“一見ハッピーエンドのようで実はバッドエンド”なストーリーもそうですけど、僕の好きな夜や星を歌詞に入れることもできて、自分のやりたかったこと全部をぶつけられた曲です。あと、ファンの人と一体感を作れる曲にしたかったんですよ。僕の曲はライブでも静かに聴くような音楽が多いけど、ラッパーの方々のライブを観ていると、リスナーさんと一緒に歌うスタイルの人が多いなと、ライブでは、ファンのみなさんと一緒に歌いながら盛り上がりたいですね。


──アルバムには全10曲が収録されますが、堂村さんの楽曲には、上手くいっていない恋愛の歌が多いですね。

堂村:僕は“失恋ソング=悲しい”とは思っていなくて。むしろ生きるための一つの道標なんじゃないかと思う。悲しい気持ちになって、涙することもありますけど、人間泣いたらすっきりしますからね。

──あと、言葉と気持ちが裏腹になっている様子を描いた曲が多い。例えば「共依存」では、“都合のいいおもちゃに なった自分に気づかなくて わかってても変われない バカだと信じたくはない それでもまた無意識に求めてる”と歌っていますが、全部が矛盾しているんですよ。“気づかない”と言いつつ、“わかっている”と言っているし、“信じたくはない”と言っている時点で“無意識”なわけはない。

堂村:今、言われて“確かに”って思いました。例えば、好きな人と体だけの関係になってしまっているという人の場合、告白したいけど、関係が切れてしまうのが怖いから、本音を心の中にしまい込んで、 都合のいい自分を演じて関わり続ける、というケースが多いと思うんですよ。だからこそ、心の中で考えていることと口から出る言葉が矛盾する。自分の気持ちは分かっているし、言いたいけど、言えなくて……という葛藤を表した歌詞ではありますね。

──これは質問というか相談になってしまうんですけど、実は、私の友人で、恋人のいる男性と体だけの関係を続けている女性がいるんですよ。“二番目でもいいから”という感じで。

堂村:おお、そうなんですね。

──私はその話を打ち明けられた時に「そんな関係はよくない。離れたほうがいいよ」と伝えたんですけど、聞く耳を持たないというか、“何を言っても無駄かもしれない”と思わざるを得ない感じだったんです。だけど、そういう恋を歌った曲の歌詞がどうやら響いたらしく、友人であるはずの私の言葉は届かなかったのに、彼女のことを知るはずもないアーティストが作った音楽は心の中に入っていけるんだなと、ちょっと悲しくなったんです。

堂村:なるほど。そもそも、浮気をしているということは、人に話すべきことではないと思うんですよ。それでも相手の方が話してくれたのは、信頼している証だと思うんですけど……止めてほしいわけじゃないんなら、“わざわざ私に言わなくてもいいじゃん”と思うって話ですよね?


──その通りです。

堂村:たぶん、自分の爆弾を一人で抱えていられなかったんじゃないかな。自分の抱えているものを誰かに渡すことで、少しでもショックを減らしたいという気持ちがあったんじゃないかと思います。自分自身悪いことをしていると分かっていたから、相談したところで肯定はしてもらえないだろうけど、それでも寄り添ってほしかった。ただ話を聞いてくれるだけでよかったんだと思います。

──なるほど。

堂村:あと、友達から「そんな恋、やめたほうがいいよ」と言われても、“そんなこと、私が一番分かってるし、分かってるけどやめられないんだよ”と思ってしまったりするじゃないですか。だけど音楽の場合、歌っているアーティストは自分のことを知らなくて、歌詞の言葉は自分に向けられているものじゃないからこそ、逆に拒否反応が起きないというか。自分に向けられた歌ではないからこそ、自然と自分の中に取り入れたくなるし、“この歌詞刺さるな”と感じたりするんじゃないかと、今のお話を聞いて思いましたね。

──矢印が自分に向いていないからこそ、かえっていいと。つまり歌はただそこにあるだけで、音楽はあくまで“場”として存在しているということですね。

堂村:そうです。その曲の再生数の分だけ、自分と同じ悩みを持っている人がいるんだという安心感もあるような気がします。

──すごい。勉強になりました。

堂村:おそらく今のやりとりで証明できたと思うんですけど、僕、悩み相談に乗るのがめっちゃ得意なんですよ。音楽も、悩み相談のような感覚で作っているようなところがあって。体だけの関係を描いた曲だけではなく、一人っ子の曲とか、親から愛されなかった子の曲とか、いろいろな種類の楽曲を作ってきました。そのどれか一つでもいいから、悩みを持つ人に寄り添えたらという気持ちでいます。


──「長年付き合っていた恋人と別れる歌」のように、堂村さんは、曲の内容が想像できるような、分かりやすいタイトルをつけることもありますよね。もしかしてそれは、“こんな悩みを抱えている人に聴いてほしい”というラベルを貼って、当てはまる人に手に取ってもらいやすくするためですか?

堂村:そうなんですよ。例えば本屋さんでたまたま『○○な人必見!』というタイトルを見つけた時に、“これ、自分のことだ。読んでみようかな”と思うことってあるじゃないですか。それと同じですね。分かりやすいタイトルをつけることで、まず、その境遇の人に聴いてもらうという最初のハードルはクリアしやすくなると思うんですよ。聴いてもらったあとにどう思ってもらえるかは僕の実力次第ですけど、そういう意図は確かにありますね。

──曲=悩みの処方箋だということですね。しかし堂村さんは、曲の中で明確な答えを出したり、それによってリスナーにアドバイスしたりすることは避けているように感じます、むしろ悩みや後悔をとことん描くスタイルで、だからこそ、聴いている側としては、自分の不器用さも許してもらえているような気持ちになるというか。

堂村:人生に答えなんてないですからね。それに……僕、月が好きなんですけど、太陽は自分の光で僕らの住む街のことも照らしてくれるけど、月は太陽の光を反射させて光っているだけだから、太陽は人想いで、月は身勝手だ、と思っているんですよ。

──面白い考え方ですね。

堂村:それでも月が好きなのは、自分に優しい人は、人にも優しくできると思っているから。理不尽に怒ってくる人ってたまにいますけど、嫌なことがあってイライラしているとか、家庭が上手くいっていないとか、僕らには分からないところで何かしらの苦労があって、しんどい想いをしていて、未熟さゆえに感情を誰かにぶつけてしまうんだと思うんです。それなら、他人に気を遣って自分をすり減らすよりも、まずは自分に一番気を遣ってあげたらいいんじゃないかと。そのあと余裕ができたら、その気遣いを他の人に少しずつ分けていったらいいじゃん、と思いますね。

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