【対談 -連載最終章-】渋谷すばる × ドリアン・ロロブリジーダが語る選択と生き方、「じゃあ普通って何なんだろ?」

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■“男らしさ”とか“女らしさ”とか
■“らしさ”って誰かが押し付けた幻想

ドリアン:“普通にならなくちゃ”とか“自分は普通じゃないんだ”っていう思いを抱えて苦しんでいらっしゃるみなさんは、少なくないと私も思います。私も実際に、そういう悩みを抱えた方からよく相談を受けたり、お便りをたくさんいただくんですよ。

渋谷:やっぱそうですよね。ドリアンさんはそういう相談に、なんて言ってあげているんですか?

ドリアン:私はそういう相談に対しては、「“普通じゃない”って言われたら、“自分は抜きん出た存在なんだ!”って思うようにしなさい!」と言ってるの。「自分は卓越した存在だと思うようにして!」って伝えるようにしているんです。

渋谷:(すごく納得いった表情で)なるほど。うんうん。

ドリアン:普通よりも、頭一個出てるってことなのよ〜! そう思ったほうが絶対にいいわ!と思っているから。さっきすばるさんが“日本だから?”っておっしゃっていたけれど、それもあると思う。“日本は特に”だと思うんですけど、個性を削ぎ落として削ぎ落として、管理したがる社会だから。

渋谷:でも本当に、“普通でなければいけない”という考え方を改めて見つめ直すと、どんどん“普通って何?”って思えてきますよね。逆に、その普通にも人それぞれの普通があるから、一緒じゃないんじゃないの?って思えてくると言うか。


──たしかに。“◯◯じゃなくちゃいけない” “◯◯であるに違いない”とかね。例えば、“ドラァグクイーンならば、御意見番としてバッサリ切ってくれるに違いない”とかも、ある意味偏見に入るんですかね?

渋谷:あーうんうん、たしかにね。当人は全く意図していないのに、イメージで勝手にそう思われてしまうってやつね。

ドリアン:たしかにありますよね、そういうの。私達ドラァグクイーンは、「御意見番としてバッサリ切ってほしい」ということは、よく言われることでもありますからね。たしかにそういうのも偏見の一つなのかもしれないですね。

──でも、それも悪い意味とかではなく、むしろ、角が立たないであろうからという好意的なイメージなんだとは思うんですけどね。

ドリアン:でもそれもね、“男らしさ”とか“女らしさ”と同じでね。周りがその人に対してそうあって欲しい、そうあるべきだと思っているという、いわば幻想だから。例えば“ドラァグクイーンらしくしてよ”っていう人のドラァグクイーンのイメージは、“アンタなんなのよ〜っ!”って偉そうにして言いたいことをズバズバ言うって感じだと思うし。例えばアイドルらしい行動をしてほしいっていうことも、 “こうあって欲しい”というその人の幻想を押し付けているだけ。だからね、私は“らしさ”って言葉もあまり好きじゃないの。 “そんなもんねぇし”って思ってる。

渋谷:(真剣な面持ちでドリアンの話に聞き入る)

──なるほど。でも“らしさ”って使いがちですよね。私も正直、原稿を書く上でよく書いてしまいがちです。悪い意味で使うことはないんですよね、らしさって。でもたしかに、らしさって、そう感じるその人の主観なのかもしれないなって、今、ドリアンさんの言葉を聞いて思いました。

ドリアン:うん。なんかね、私は“らしさ”って、やっぱり誰かが押し付けた幻想だと思っているのよね。“男らしさ”“女らしさ”“貴方らしさ”って。下手したら、“自分らしさ”もそうで、自分らしさなんてものは存在しないとも思うの。ありのままの自分って、すごく尊い言葉に聞こえるけれど、結局それってなんなんだろう?って、迷子になっている方が多いと思うんですよ。“本当の自分ってなんなんだろう?”って。選択の結果が今だし、今やってることが自分なだけであって、今の自分と地続きにしか自分らしさってないと思うから、そこを切り離して、幻のような“本当の自分”ばっかり考えちゃってる人が多い気がしてるんですよね。

渋谷:(引き続き真剣な面持ちでドリアンの話に聞き入る)

──(渋谷の表情を見て)そういう表情で聞き入っているんだろうなと思ってました。

渋谷:(真剣に考えながら)うん。

ドリアン:でも、これはあくまでも私の意見であって、絶対にそうだ!って言い切れる話でもないんですけどね。


──言われる側、言う側でもきっと想いは違うでしょうからね。渋谷さんはどう思われますか?

渋谷:いや……今、ドリアンさんが言ってたこと、ほんまにめちゃくちゃ分かるなって思いながら聞いてた。ほんまにすごく分かる。たしかにプラスの意味で“らしくある” “らしくありたい”という想いって、悪い意味ではないと思うけど、ドリアンさんが言った「ありのままの自分って、すごく尊い言葉に聞こえるけど、結局、それってなんなんだろう?って、迷子になっている方が多いと思う」っていう意味もほんまにすごく分かる。自分も、周りとか応援してくれる人達を傷つけたくなくて、傷つけないために自分はどう在るべきかっていうことをすごく深く考え過ぎてしまうところがあるから。それってまさに今、ドリアンさんが言ったことなんだろうなって思う。

──そういう深い部分での想いって、なかなか真っ直ぐには伝わらなかったり、ときには誤解を招くこともありますからね。本当に人の心が真っ直ぐに伝わるのって難しいなって思います。

渋谷:今回、映画『ひみつのなっちゃん。』の舞台挨拶に登壇するお話もいただいていたんですが、僕、そこは違うのかなと思って、お断りしてしまったんです。これは偉そうな意味ではなく、この映画は、この映画を作られた田中監督と滝藤賢一さんをはじめとする役者のみなさんのものだと思っていて。僕は音楽でそのお手伝いをさせていただいた立場なので、作品とそこに関わられたみなさんを尊重するという意味でお断りしたんです。もちろん、僕を応援してくださるファンの人達は、僕にとって本当に尊い存在で、本当にありがたくて、本当に大切な存在なんですけど、きっと僕が登壇すると知ったら、近くで会いたいと思ってくれるが故に……。舞台挨拶は、この映画のためのもので、田中監督と滝藤賢一さんをはじめとする役者のみなさんのものなのに、本来の目的と違う場所になってしまうんじゃないかな、そうなったら本当に申し訳ないな、と思ったからだったりもして。

──うんうん。

渋谷:こういう話も、言葉にすると真っ直ぐに伝わるかどうか。すごく難しい話やと思うんですけど。決して僕のファンの人達を否定してるわけじゃないんですよ。むしろ、せっかく応援に来てくれているのに、自分のファンの人達が周りから変な風に思われるのは嫌だからで。もちろん、ファンのみんなも『ひみつのなっちゃん。』をすごく応援してくれているし、それはすごく嬉しいことやなって思ってる。なんて言ったら、曲がらずにちゃんと伝わるか分からないし、ほんまに上手く話せないけど…。映画完成披露のおめでたい場所やし、僕で良かったらお祝いに行きたかった気持ちはすごくあったんですけどね…。ご迷惑がかかるといけないから、ご遠慮させていただこうかなと…。だから、自分なりに自分の出来る形で映画を応援したいなと思ったんですよね。

ドリアン:素敵なお話じゃないですか。



──渋谷さん、先方に理由をお伝えせずに登壇をお断りしてしまったことに、すごく心を痛めていらっしゃいましたもんね。

渋谷:そう。自分のファンの人達はほんまに大事な存在やから、ほんまに大事にしたいと思っているんです。だから、自分のライヴとかでは思いっきり楽しませてあげたいし、最近ほんまにそういう気持ちがより強くなってきてるから、守りたい気持ちもあるというか。

ドリアン:本筋じゃないリアクションがきちゃうことへの気遣いだったんですね。なるほど、そういうことだったのかぁ。なるほど。すごく分かります、そのお気持ち。規模こそ全然違うんですけど、私にもそういう経験があるんです。自分が出たかったイベントに出演させていただいたとき、私のファンの方もそのイベントに来てくださったんです。DJが作る音楽に合わせてズンドコ踊りまくらなくちゃいけないイベントでもあったんですが、私のファンの方はそんなイベントの趣旨なんてあまり関係なくて、ステージの前でずっと棒立ちでドリアンのことを見てて。「ちょっと! 来てくれたんだったらイベントを盛り上げてよ! イベントの趣旨をちゃんと解って楽しんでよ! ドリアンだけのワンマンライヴだったら何したっていいからさ! そこでは自由にして人に迷惑かけなきゃ何したって良いんだからさ!」って伝えたこともあります。「来てくれたからには、ちゃんとそのイベントの空気に合わせて、そこで最高に楽しんでいってね!」って。

渋谷:そう! ほんまにそうなんです! 自分のライヴやったらとにかく思いっきり「大好き!」って言ってくれていいし、むしろ「キャ〜ッ」て言いまくってほしい(笑)。これ、ちゃんと伝わるかな? ほんまに来るなって言ってるわけちゃうねん。

──伝わってますよ、大丈夫。渋谷さんのファンの方々、たくさん映画観に行ってくださってるみたいですし、『ひみつのなっちゃん。』をすごく宣伝してくれてるみたいですから。田中監督や滝藤さんに対しても映画の感想とかも伝えてくださっているみたいですよ。その上で、ちゃんと主題歌「ないしょダンス」も渋谷すばるも宣伝してくれてるみたいですから。

ドリアン:あら、素敵! ファンの鏡ね。すばるさんの気持ちや人間性をちゃんと分かってくださっているんですよ。やっぱり気持ちって伝わるんです。

渋谷:それ、すごく嬉しいですね。本当にすごく嬉しいです。そういう話を聞けることも本当に嬉しいな。いろんな反応とかを見て、みんなが喜んでくれてるのを知れるのは本当に嬉しいことだし、間接的にそういう話が聞けるのも、すごく嬉しくて。また頑張ろう!って気持ちにさせてもらってます。

──本当に羨ましい関係性ですよね。

渋谷:本当に、改めて思います。ずっと応援してくれているファンの人達には感謝しかないですからね。いろいろと気持ちを振り回しちゃったりもしたと思うけど、一生かけて恩返しをしていけたらと思ってます。

ドリアン:それ、一番嬉しい言葉だと思いますよ。素敵です。

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