【インタビュー】Homecomingsという場所が心地いい

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ソウルやブラックミュージックの要素をバンドサウンドに落とし込んだ楽曲が多く収録された2021年リリースのメジャー1stフルアルバム『Moving Days』から一転、2022年にはUSインディーやエモ、ギターポップといった自身のルーツや得意なサウンドアプローチを発揮した3曲のデジタルシングルを世に放ったHomecomings。

◆撮り下ろし写真

4人が2023年第1弾シングルとして選んだ「光の庭と魚の夢」は、『Moving Days』の制作を終えたあと同アルバムで描いたことをより具体的にした楽曲だという。それゆえにバンドサウンドを柱にしたサウンドメイクというよりは楽曲の世界観を最優先にしたアレンジが組まれ、ストリングスやキーボード、パーカッションといった様々な音色が混ざり合ったミディアムナンバーに仕上がった。「光の庭と魚の夢」を通してバンドの変わらないところ、そして現在のモードを探っていった。

   ◆   ◆   ◆

■“僕たちはこういうことを思って作りました”というアティテュードはしっかり示していきたい

──2023年最初のリリースとなるデジタルシングル「光の庭と魚の夢」。こちらはいつ頃制作されたんですか?

福富優樹(G)(以下、福富):『Moving Days』(※2021年5月リリースのメジャー1stフルアルバム)を出した直後にはなんとなく形にはなっていて、ライヴでもちょこちょこやっていたんです。だから2022年にリリースしたデジタルシングルの曲たちよりも古い曲なんですよね。

──『Moving Days』から派生した楽曲ということでしょうか。

福富:そうですね。同性婚のニュースを観る機会が多かった時期で、自分たちも映画『愛がなんだ』の主題歌として書き下ろした「Cakes」(※2019年4月リリースのデジタルシングル)あたりから、組み合わせを限定しないように歌詞を書くようにしていたんです。『Moving Days』もその流れで歌詞を書いたんですけど、それをもっと具体的になんか書けたらなと思って書き始めたのが「光の庭と魚の夢」ですね。



──となると福富さんの歌詞から始まった曲でもあるんですね。

福富:メンバーのみんなにイメージを伝えるために、ざっくりした歌詞と弾き語りみたいなデモをなんとなく作りました。それを(畳野)彩加さんが作り直してくれています。

畳野彩加(Vo,G)(以下、畳野):最初にコード進行やなんとなくの雰囲気をトミー(福富)から教えてもらったので、わたしはトミーの伝えてくれたイメージに沿って曲を作っていきました。タイトルを見ていただいたらわかるように、漫画の『BANANA FISH』なんですよ。

──ああ、なるほど。『BANANA FISH』本編の後日談を描いた作品のタイトルが『光の庭』でした。

畳野:トミーが『光の庭』まで読んでほしいと言うので読んでみたら、ドハマりしまして。

福富:『BANANA FISH』はまずストーリーが面白いもんね。

畳野:めちゃめちゃいいね。それも踏まえつつ歌詞も読んでイメージを膨らまして、歌詞の雰囲気に合わせてメロディを作りました。

福富:いつもはリファレンスや青写真くらいのものを彩加さんに送って、彩加さんがそれを形にしてくれるんですけど、「光の庭と魚の夢」はいつもより僕の中でしっかりイメージができていたので、そういう進め方になりました。



──Homecomingsは表現者や表現物へのリスペクトと、社会に対する思いが混じり合うことで楽曲が生まれている印象があります。「光の庭と魚の夢」にもマイノリティの人々を尊重する姿勢が表れている。

福富:歌詞で性別を断定しないことで幅広く受け取ってもらえると思うし、インタビューやライヴのMCを通して自分たちの気持ちを話すことで、そういう人たちにも自分の曲だと思ってもらえたりするかなと思っていて。

──その動機は“救いたい”や“支えたい”とは異なりますか?

福富:というよりは、お守りみたいに感じてくれたらいいな、。そして当事者ではない人が考えるきっかけになったらいいなと思っています。この世に1個でも多くそういうものを存在させたい。海外のシーンだとアーティストが社会的なメッセージを発信するのは当たり前のことやし、そうすることで表現者として1個責任を負ってるところがあると思うんです。それを自分たちも実現できたらなと思っているんですよね。だし、楽曲の受け取り方は自由だけど、“僕たちはこういうことを思って作りました”というアティテュードはしっかり示していきたいです。

──では「光の庭と魚の夢」は、2022年にリリースされたデジタルシングル3曲とは、ちょっと出自が異なるのでしょうか。

福富:そうですね。「光の庭と魚の夢」を作ったあたりで『Moving Days』のタームが終わって。でも『Moving Days』の1曲目の「Here」は、制作の最後のほうで“自分たちの地に足のついた表現、自分たちがいちばん得意なものってなんやろう”と考えたときに生まれた曲なんです。だから「Here」だけ『Moving Days』のコンセプトからはちょっと外れていて。



──なるほど。「光の庭と魚の夢」は『Moving Days』の系譜をより具体的にしたものだけど、「Here」は現在のモードの足掛かりになる楽曲であったと。

福富:「Here」を作ったことでUSインディーやエモは自分たちの大事な、自分たちのルーツや本質なんじゃないかと思って、そのモードで2022年に季節ごとにデジタルシングルを出していきました。それでまず2022年1月に「アルペジオ」みたいなHomecomingsっぽいギターポップの曲を出して、4月には「i care」、8月には「Shadow Boxer」とどんどん違うタイプの楽曲をリリースしていけたんですよね。並行してそれ以外の曲も合間合間に作っていったので、曲がどんどん増えていくのは新鮮でしたね。1曲1曲に集中した制作ができました。

畳野:だから2022年は自主企画ライブをやったり、いろいろ出演させていただいたりもしつつ、常に制作の脳が動いていたイメージがあります。季節をテーマにした制作に、自分たちがやりたいことを合わせていって。コンスタントに制作してそれをすぐ出すというサイクルも面白かったです。

福富:グラデーションでどんどん今のモードになっていってる感覚がありますね。それが形になったのが年末のクアトロ(※2022年12月に東名阪CLUB QUATTROを回ったツアー<US / アス>)だったのかなと思っています。

──メンバー4人全員が同じように音楽性のモードが変わるのも面白いですね。

福富:毎週ラジオをやっているので、お互いの選曲からお互いが影響を受けて感じ取っているんだと思います。日頃からお互いのムードみたいなものはずっと共有していってるので、おのずと4人の向かう方向が同じになっていくというか。「Shadow Boxer」は彩加さんの作った曲がなければ、あの歌詞にならなかったし。

畳野:「PAINFUL」(※2017年7月リリースのEP『SYNPHONY』収録曲)をライヴでやるようになったり、「HURTS」(※2015年7月リリースのシングル)の頃くらいのテンション、エモーショナルな気持ちをライヴで感じるなかで“自分はこういう感じが表現しやすいのかな”みたいな感覚が少しあって、その流れでできたのが「Shadow Boxer」なんです。わたしがただやりたかったサウンドに、トミーが歌詞で意味を付け加えてくれたことによって、すごく大事な曲になりました。

福富:言いたいことは「光の庭と魚の夢」も「i care」も「Shadow Boxer」も、シスターフッドやフェミニズム、マイノリティ的なことやと思うんです。でも「Shadow Boxer」はちゃんと怒っている。それをあらわにしてもいいサウンドだったので、曲に呼ばれて掛けた歌詞だなと思っていますね。バイオレンスなものではない、青く燃えてる炎のイメージです。怒ってるし、それをちゃんと声には出してるけど、怒りの対象を壊すというよりは自分の手に残っている傷を歌っている。そういう自分のスタンスが出ている気がしますね。



──どんなことに怒るか、どんな怒り方をするのかは、人によってそれぞれで人柄が出ますよね。

福富:ステージ上でギターを放り投げて壊すような表現にちょっと憧れもあるけど、自分にしっくりくるのは楽曲やことばで“社会や自分がもっとこうなったらいいのにな”と訴えることなんですよね。無視でも攻撃でもなく、なるべくコミュニケーションを取って、みんなの気持ちが少しずつ変わることで物事が良くなればいいなと思っているんです。

──シスターフッドやフェミニズムについては昨年からよくインタビューなどでも話していらっしゃいますが、どんなことがきっかけで関心を持つようになったのでしょうか?

福富:もともとうっすらずっと感じていたことでもあるんですけど、フェミニズムというものを意識して初めて手に取った本が『82年生まれ、キム・ジヨン』で京都に住んでいたときに通っていた大好きな本屋さんに平積みしてあったのがきっかけです。シスジェンダーの男性として生きてきた僕が読んでいると、思慮の足りなかった自分の過去の行いや発言にも気付くので、胸が痛くなることも多くて。でもそこをきっかけに映画『未来を花束にして』を観たり、たくさんのフェミニズム文学に触れていって、それにつれて知識が増えていくことで自分がまだ変われるんじゃないか、変わらないといけないんじゃないかとも思いました。知ることはすごく大事だと思った。

──わたしも女性として生きていくなかで、日常の至るところで違和感を覚えたり、歯がゆい思いをすることがあります。言う人からしたら深い意味や悪意はないのかもしれないけれど、そのもやもやは心の奥で溶けない鉛のようになっていって。

福富:Homecomingsも僕が男性1人で周りは女性のメンバーなのでメディアに出たときのトークの入り口のようなかたちで“なんでこの編成なの?”や“やりづらくない?”と言われることも多いんです。でも女性3人男性1人のバンドを作ろうとして集まったわけではないし、4人の人間としてのつながりによって今の関係があるわけで。最初のうちはそういう言葉に居心地の悪さを感じながらも、“そういうことを言われるものなんだよな”と受け流していたんですけど、これを仕方のないこと、当たり前のことにしてはいけないなと思うんです。

畳野:私たちからすれば別にバンドを組むにあたって性別の違いなんて思ったこともなくて、そういったことを言われるたびに違和感が生まれて、どう答えたらいいのかわからなくて。でもメンバーでそれについて話すことも増えて、知識も増やしていくことで、発展した捉え方ができるようになりました。

福富:そうだね。“こういう理由でこうこうこうやから嫌なんや”と思えるようになった。それは知識が増えたからやと思っていますね。

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