【コラム】ヒゲダン「Subtitle」など“奇跡的”な英語詞カバーを発表、ギフトを与えられたAnonymouzというシンガー

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「歌がうまい」。おそらくいま、シンガーに贈られる最上級の賛辞だろう。J-WAVE(81.3FM)「ALL GOOD FRIDAY」でAnonymouz(アノニムーズ)の歌声を耳にしたとき、それとは違う言葉を無意識のうちに探していた。

あらかじめ誤解のないように言っておくが、Anonymouzは高い歌唱力を備えたシンガーだ。つまり、ぶっちゃけ、歌がうまい。今回番組で披露した、Official髭男dism(以下、ヒゲダン)「Subtitle」は、── 「Subtitle」に限らずヒゲダンの楽曲は、ポップでさらりと耳なじみがいいが、その実、はちゃめちゃに高難度な歌い方に支えられていたりする。藤原聡(Vo/Pf)が熟考を重ねた末に、言葉とメロディの最適解を導き出しすことにより、奇跡的に獲得しているポピュラリティなのだ。ゆえに、もし貴君が人前でヒゲダンを歌おうとして、大惨事…みたいな黒歴史があったとしても、それはやむをえないことなのだ。

しかしながら、Anonymouzのカバー歌唱は、楽曲の難度を感じさせることなく軽やかに耳にすっと入り込んできた。それだけでも驚きに値するが、英語詞は自ら翻訳したものだと知って仰天した。どのアーティストも当然ながら、歌詞は意味を成すだけでなくメロディに乗ったときにいかに美しく、印象深く響くかを練りに練って言葉を紡いでゆく。ゆえに、メロディと歌詞は、それぞれ容易に引き離すことが困難だ。

つまり、藤原がち密に組み立てたメロディと歌詞を、英語詞に代えて歌唱するのは、その密接に絡み合った言葉を一度分解し、再構築してから英語をメロディに乗せる必要がある。オリジナルの世界観をきちんと理解した訳詞だけでもハードルが高いだろう。さらに、旋律に美しく寄り添う英文へと換えながら、なおかつ、自分がカバー歌唱する際に、発音に違和感がないワードを適切に選び抜くことも求められる。それを繰り返すと考えただけでも気が遠くなりそうだが、そうしたハードルを飛び越えて、このカバーは奇跡のように存在している。彼女の持ち前の音や言葉への鋭い感性と深い洞察、探求心の深さがあって、なせることに違いない。そう考えると、まさにAnonymouzによる「Subtitle」はオーサム(awesome)だ。

さて、本カバー歌唱では、シンプルなピアノ伴奏に乗せて、まずつぶやくようにAnonymouzの吐息交じりの柔らかな歌声によって、聴き手を優しく誘うところから始まる。その声は、どこか頼りなげにも聴こえ、歌の主人公の心細さに呼応しているように感じられる。サビに向けて次第に、透明感のある歌声とかすれながらも柔らかさを備えた歌声が拮抗しながら、確信めいた強さを帯びていく。その、ゆるやかなクレッシェンドも実にナチュラルで、歌の世界観の広がりを鮮やかに聴き手に体感させるのに成功している。2番は日本語のカバー歌唱に転じるが、流ちょうな英語詞の発音と同じように、歌詞に込められた主人公の自信のなさや戸惑い、隠そうとしても溢れてしまう想いを、少しかすれがかかったつぶやくような歌声から伸びやかなハイトーンまでを駆使して、より叙情的に表現していく。


透明感とハスキーヴォイスという、ある種のアンビバレントな歌声を有するシンガーには、独自の引力を備えている場合が多い。たとえば、伸びやかなクリーントーンとひび割れた鋼のような強靭さを併せ持つ秦基博。憂いに揺れるような繊細さと達観したかのような老成したハスキーヴォイスを縦横無尽に操る宇多田ヒカル。パワフルさと同時に深い慈愛や悲哀をも感じさせる説得力ある歌声が魅力の米音楽家、アリシア・キーズなどもそれにあたるかと思うが、いずれも不世出のアーティストであることに異論はないだろう。相反する歌声を違和感なく持ち、それを楽曲の世界観に合わせて意識的に使い分けられる才にも恵まれた人。やや強引な決めつけかもしれないが、そうしたギフト=天からの贈り物を与えられた人は、生粋のシンガーと呼ばれてしかるべきなのではないだろうか。


Anonymouzの歌唱については、彼女もそれに通じるタレントを有しているのではないか。どこまでが感情によるものか、知的に歌い分けられているかは推し量るしかないが、この楽曲本来が備える切実さや、真綿の中にゆっくりと沈み込んでいくような穏やかな悲哀、離れたかと思えばぐっと近づく2人の揺れる距離感などが、歌声で巧みに表現されていると感じるからだ。昨今不可分のビジュアルがなくても、いやむしろ、ビジュアルに頼ることのないラジオだからこそ、それは十分に感じ取れる。

2022年10月、J-WAVE(81.3FM)「JK RADIO TOKYO UNITED」にてヒゲダン「Pretender」、レディー・ガガ「Hold My Hand 」をカバー歌唱をした際は、大きな反響があった。ラジオという、親密で音が頼りとなるメディアで彼女の歌声に触れた人々が、その歌声に心震えたということは、Anonymouzの歌声そのものの魅力が伝播したということに他ならない。


ちなみに、ちょっと不思議な響きを携えたAnonymouzという名前。これは、ある日突然名前を失った彼女が、絶望や悲嘆のなかから、自らの名前を探す旅に出た、というエピソードに由来しているという。実際に彼女が旅に出た先々で歌声を響かせ、それによって得られるあらゆる反響音から、彼女は自分の形を徐々に確かめ、つかんでいくのだろう。

ミステリアスで、心揺さぶる歌声の持ち主となると、ついどこか近寄りがたいイメージを作り上げてしまいたくなるが、そこもいい意味で裏切ってくれている。たとえば、1月26日、夜8時ごろ。寒中の凍てつく寒さのなか、彼女は路上ライブを敢行し、今回のラジオ出演について自ら告知している。そうした、地に足の着いた活動も行っていることがなんとも好ましく、いじらしい。

そんな遠くて近い不思議な存在は、早耳の音楽ファンにはすでに知られていたようだ。2019年にYouTube上でJ-POPの英語カバー歌唱を発表すると、たちまち口コミで話題となった。現在、チャンネル登録は14万人に達し、動画総再生回数は1500万回を超えるという。そうしたカバー楽曲の中には、リリックビデオが制作されたものもあり、よりその楽曲の世界観を立体的に感じることができる。今回の「Subtitle」の歌唱カバーも、リリックビデオが制作され、オンエア後に解禁となった。美しい絵本のような、ボタニカルアートのような静謐さをまとったリリックビデオで、楽曲の世界にどっぷり浸ってほしい。






いずれにせよ、Anonymouzのしなやかさで柔らかな歌声は、するすると心の奥底に入り込んでくる。そして、その人の大切な場所にそっと触れ、優しく揺さぶるような特別な体験となりうる。それは、歌本来が備えている力を想起させるものだ。そう、そもそも歌は祈りであり、伝承であり、心中から伝えたい思いを届けるためのコミュニケーションツールだった。そうした祈りにも似た切実で誠実な歌声に触れ、魂震える体験をする人は、この先もっと増えていくのだろうなと推察する。というのも、2月15日に待望の1stデビューアルバム『11:11(イレブンイレブン)』がリリースされるのだから。「Ladder」(アニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」EDテーマ)や「River」(アニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON2 OPテーマ)、「Eyes」(ソニーXperia 5 II CMソング)といった既発のタイアップソングのほか、新曲ではどんな表情を魅せるのか…。想像するだけでワクワクしたり、どきどきできる、Anonymouzの歌声はそんな魅力を確かに携えている。





文:橘川有子

  ◆  ◆  ◆

アルバム『11:11』

2023年2月15日発売

初回限定生産盤
¥4,400円(税込) SECL-2838 ~ SECL-2839
CD+ジグソーパズル

通常盤
¥3,300円(税込) SECL-2840
CD ONLY

<収録曲>
01.Waterfall
02.Ladder ・・・テレビ東京系アニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」エンディングテーマ
03.River ・・・TVアニメ「ヴィンランド・サガ」SEASON 2 オープニング・テーマ
04.11:11
05.夜行性
06.Underground
07.Oxygen
08.Eyes ・・・ソニーXperia 5 II CMソング
09.If I Was feat. K.E.I
10.Melodies ・・・出光興産 北製CM「手紙篇」CMソング
11.恋をして ・・・「島田昌典」プロデュース楽曲
12.Pink Roses feat. Fleurie
13.Hide & Seek
14.Unbreak ・・・フェルメールと17世紀オランダ絵画展 テーマソング
15.カタシグレ ・・・テレビ東京ドラマ「嫌われ監察官 音無一六」主題歌
16.Silhouette ・・・「澤野弘之」提供&プロデュース楽曲
17.Heaven
18.はじめのはじまり ・・・「内澤崇仁(androp)」提供&プロデュース楽曲

シングル「River」

2023年2月15日発売

期間限定生産盤
¥1,980円(税込) SECL-2841
アニメ絵柄ジャケット、2023年5月末までの期間生産

<収録曲>
01.River
02.River (Anime Version)
03.River (Karaoke Version)
04.River (Instrumental)

<Anonymouz Live 2023 ~11:11~>

2023年2月23日(木祝) 代官山UNIT
開場 17:15 / 開演 18:00

チケット料金
前売:オールスタンディング 4,200円(税込)
※ドリンク代別途必要、未就学児入場不可
チケット購入
チケットぴあ : https://t.pia.jp/pia/search_all.do?kw=Anonymouz
ローソンチケット : https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=575059
イープラス : https://eplus.jp/sf/search?block=true&keyword=Anonymouz

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