【対談】マシコタツロウ x 一青窈「親密な言葉と飾らない本音」

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■私のこと変人扱いするけど、あなたも相当変人だから(笑)
■やっぱりタツロウは、メロディはポップ。歌詞は変態


――最新アルバム『一青尽図』に、マシコさん作曲の「6分」という曲が入っていますね。あの曲はどういうふうに作ったんですか。

マシコ:まず一青から、6分間の曲にするというお題があって(*PAH(肺動脈性肺高血圧症)の患者がおこなう「6分間歩行検査」がテーマ。一青窈はPAHの認知向上や患者の孤立、悩みを軽減する活動に取り組んでいる)。6分間のリハビリという大変なことがあって、その間少しでも音楽が寄り添って、前向きにリハビリできるようなものにしようというところから始まったので、6分ぴったりに終わらなきゃいけない。

一青:あの曲の中で、“オレ、書けたな”と思うメロディラインって、私は大サビだと思う。“金網くぐり抜けたのが真実だ”のところ。

マシコ:間違いない。わかってんじゃん。あそこはね、歌詞が先だった。

一青:毎回歌うたびに泣きそうになっちゃう。たぶんその感じを、「もらい泣き」「ハナミズキ」の時からずっとやってるんですよ。“ここヤバイよね”というものを。

マシコ:わかってくれているんですよ。歌入れの時に、ちゃんと熱が入るから。

一青:ここでこうしてほしいんだよ、だってここがおいしいんだもん、というものをシェフが作ってくれるんです。


▲【マシコタツロウ】『CITY_COUNTRY PRESENT_PAST』

――タツロウさんは、キャリア20年以上にして初のフルアルバム『CITY_COUNTRY PRESENT_PAST』を出したばかりです。どんな作品ですか。

マシコ:今までにミニアルバムを2枚出しているんですけど、どっちも「ハナミズキ」のセルフカバーが入っていて、そうすると作曲家・マシコタツロウの作品になるんですね。それが嫌だとまでは言わないですけど、どうしてもそこに行っちゃうんだなと。で、コロナ禍で自分を見つめて、作曲家なのか、シンガーソングライターなのか、オレのアイデンティティは何なのか?と思った時に、自分ためだけに作ってみようと思って曲を書いた。それが集まったのが今回のアルバムなんですけど。

一青:人に書く時はスイッチが変わるんだ。

マシコ:変わる。特にメロディが。たとえばジャニーズのグループだったら、何人もいるから、ここでもっと細かいメロディを繋げても大丈夫、とか思うけど、自分の場合は声の抜きぎわやブレスを聴いてほしいから、最後は休符でいいとか。あと、提供先のファンが待っているメロディラインというものがあるんだけど、自分で歌う場合は、自分で思った通りに歌えるメロディにするとか。ただ、歌詞は難しかった。

一青:歌詞は、桑田佳祐的世界を感じた。

マシコ:それ、社長にも言われたよ。

一青:桑田佳祐からのび太くんに行くんだけど、ちょっと頼りないオレでも許してねと言うか、できない自分もさらけ出す強さ。それが、しずかちゃんみたいな女子たちに刺さる。一生幸せにするとかは言えないけど、オレができることはきちんと守るぜという。

マシコ:ちゃんと読んでるな。ありがとうございます。本当にそうなの、さらけ出してるの、今回。この年になって、かっこつけられないのよ。嘘ついたらバレちゃうの。

一青:そこがいいんですよ。同じ世代の、のび太くん男子にも共感を生むから。

マシコ:本当はずるいんだけどね。でも作ってみたら意外と、作家のマシコと、シンガーソングライターのマシコと、真ん中にでっかい仕切りがあると思っていたけど、実は自分で作ったしょぼいパーテーションぐらいなもので、それを取ってみたら、オレは曲を書くのが好きな、単なる音楽好きのおっさんだと思って、すごく合点がいった。ただ作るのが好きなんだというところに着地して、今すごくスッキリしています。


一青:あと、私は絶対にしない歌詞の乗せ方というか、たとえば「Off White」の“ホワイトorオフホワイト”の歌い方とか、私にはないからすごいと思った。

マシコ:ふざけてるんだけどね。

一青:私はそれが好き。タツロウにしかできない言葉遊びがあって、独特だと思う。

マシコ:初めて言われた。

一青:私のこと変人扱いするけど、あなたも相当変人だから(笑)。やっぱりタツロウは、メロディはポップ。歌詞は変態。

マシコ:どこを聴いてそう思うの? オレ、みんなに言ってるよ。結局、こんなにポップなものを作っちゃったよって。どこが変態なの?

一青:それはやっぱりね、シリ。私利私欲と、Siriをかけてるところ。このアルバムで一番好きな曲「ハッピーエンド」の歌詞。

マシコ:一青さんに教わったことですよ。言葉遊びは、一青から盗んでるよ。

一青:あと、タツロウって、ギャル男の要素も20%ぐらいあるから。“フォーギブ”(「Off White」の歌詞)とか、ちょいちょいギャルみたいな言葉使いをしてくる。

マシコ:恥ずかしいんだけど。嫌だよ、40過ぎたギャル男なんて(笑)。

一青:それと“サンスベリア”(「手紙」の歌詞)みたいな、ちょっといなたい言葉とのミックスがすごくうまい。ギャルの要素と、ジブリの要素みたいなものが混ざって、それがポップなメロディで提出されてるところが面白い。これが普通に、虹がかかったよ、明日も前に向かって歩いて行こう、とか歌っていたら、なんだこれ?ってなるんだけど、なんか変なこと言ってんなーって思うの。だから聴いちゃう。

マシコ:アルバムのキャッチコピーに書かれちゃうよ。「一青窈はこのアルバムを、ギャルとジブリの共生と言った」って(笑)。

――名コピーだと思います(笑)。

マシコ:それとね、もう一つ、今回のアルバムのコンセプトというものがあるんだけど。オレは子供の頃から恵まれていて、未だに両親は健在だし、大きな悲しみを味わったことがないんですよ。一青は幼少期から、壮絶な悲しみを乗り越えてきて、曲を書く時には絶対にそういう経験が生きてくる。それがメッセージに繋がっていくんですけど、オレは全然そういうのがなくて、いつもほめられて育って、愛されて今に至って、下積み生活ゼロ。もう何にもないんですよ。

一青:あはは。そんな。

マシコ:そんなオレが、アルバムを通して提案できることは何かな?と思ったら、ここまでもらった愛を、ハッピーな雰囲気を、心が満たされてる感じを、少しでもお返しするというか、こうやったらいいんじゃない?ということしかない。のび太くんが言う“何をやっても駄目な時は昼寝しちゃうんだい”というようなことを、オレは言いたいんですよ。

一青:それは出てますよ。

――アルバムのラスト曲「紙ネクタイ」の歌詞はズバリですよね。“愛されて育った私だもの、誰かを許したい”。全肯定のメッセージソング。

マシコ:そうなんです。今、許さない人が多いから。自分は何も危害を受けてないのに、気に入らない人をつかまえて、ツイッター上でボコボコにやっつけて、やってやったぜみたいな、そんなの誰も得しないじゃないですか。オレがいつも思うのは、「ハナミズキ」の“君と好きな人が百年続きますように”という、君だけじゃなくて、君の好きな人のことまで思えたらいいよねということと同じように、“君の嫌いな人”もいるわけで。でもその人に名前を付けて、優しく抱っこしてくれた親がいるんだなと思うと、許せる気がする。

一青:そうだね。

マシコ:こんなに頭にくる奴だけど、名前を呼ばれたらハイって言う、それって親が付けた名前で、可愛いじゃん? 何か途中であったんだろうな、今はこんなに嫌な奴になってるけど、こいつだって可愛い赤ちゃんの頃があったんだよなとか、許す方向を提案したいんですよ。

――素晴らしいです。今日は貴重な対談をありがとうございました。最後に、カラオケDAMの集計で、平成で一番歌われた「ハナミズキ」をじょうずに、魅力的に歌うためのアドバイスはありますか?という質問で締めくくりたいと思います。

一青:本当によく聞かれるんですけど、いきなり親戚とか先生とかから電話が来て、“教え子が合唱コンクールで明日歌うからアドバイスしてやって”みたいなことで、初めましての子に“9.11のテロって知ってる?”ということから、1時間ぐらいかけて話すんですけど、中学生ぐらいだと“はあ”って感じですよね。だからまず、あなたの好きな人はいる? お父さんお母さん? じゃあお父さんお母さんの好きな人はいる?っていう、好きな人の好きな人の、幸せを祈れたら、戦争ってなくなると思わない?って。“その気持ちだけでいいから、うまく歌おうとしなくていいよ”って言っています。

マシコ:なるほど。

一青:この歌は、無垢な子供が歌えば歌うほど、刺さる歌だと思うので。うまく歌おうとか、コブシを転がそうとかしなくても、♪百年続きますようにーって、音が外れていても、心がこもってまっすぐ歌っていると、涙が出てくるんですよ。

マシコ:今、心情面の話があったので、技術面で言うと、Aメロの入口が、いきなりロングトーンじゃない? しかも、♪そー、の音が、思ってるよりも低いんです。あそこだけしっかり当てれば、自信を持って最後まで行ける。

一青:私はとにかく、うまく歌えば歌うほど(心に)入らなくなってくる。

マシコ:でもほら、今って、表面的な歌のうまさが求められてるから。外さないのは大事だよ。いろいろなうまさがあって、そっち側を極めたい人もいるから。

一青:もちろん、それもわかるんだけど、カラオケで気持ちよく歌うためのアドバイスでしょう? 私が良いねと思うのは、感動するかどうかだから。

マシコ:そうだね。それはそうだ。

一青:100点満点の音階を取るよりも、外れていても、この曲のことが大好きなんだというのが伝わると、“歌ってくれてありがとう”と思います。さらに欲を言えば、歌詞を暗記して歌ってくれたほうが絶対伝わるから、どんな楽曲に対しても暗譜できるほど練習するのは必須。画面に背を向けて、みんなに伝わるようにマイクを持って歌おう。絶対こっち向きで。それぐらい、暗譜は基本です。歌詞を見てちゃ駄目。

マシコ:言ったな。プロンプターを見かけたら怒るからな。

一青:あはは。

マシコ:でも本当にそうだよな。何かを説明される時も、モノを見ながら説明されても、入ってこないもんな。その人が咀嚼してるかどうかで全然違う。

一青:だから、別に間違っててもいいんだよ。

マシコ:間違っていても、目をつぶって心をこめて歌ったほうがいいよな。それは言える。

一青:「ハナミズキ」の、一番を三回歌ってもいいから。そのほうが絶対いいと思う。

取材・文:宮本英夫

【マシコタツロウ】リリース情報

『CITY_COUNTRY PRESENT_PAST』
発売中
YRCN-95373 ¥3,000(税込)
01. 区画整理できないマイハー
02. オレンジの逆光
03. ヘイナルボン
 テレビ埼玉「いろはに千鳥」 11月中旬~12月度エンディングテーマ
04. 名もないペンキ塗りの詩
05. 未熟
06. プレゼント
07. JB Freeway
 読売テレビ「にけつッ!」 10月・11月度エンディングテーマ
08. Off White
09. ハッピーエンド
10. 手紙
11. 紙ネクタイ
 西日本シティ銀行 TVCM

【一青窈】リリース情報

8th ALBUM『一青尽図(ひととづくしず)』

発売中
COCP-41839 ¥3,000(税抜)
1. 僕をみて
2. 腕枕
3. 耳をすます
4. i²
5. カノン
6. 6分
7. 黒縁メガネ
8. ダイスキダイキライ
9. かたつむり
10. あひるの涙
11. あうん

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