【コラム】Sou、10周年を飾る新曲「月夜のタクト」に進化し続けるクリエイティヴィティ

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2023年1月に活動10周年を迎えたSouが、記念すべきアニバーサリーイヤーの幕開けとしてデジタルシングル「月夜のタクト」をリリースした。同曲の詞曲編曲を手掛けるのは、音楽クリエイターギルドバンド・月蝕會議。TVアニメ『最強陰陽師の異世界転生記』の第3話エンディングテーマにも起用された。Souがアニメのテーマソングを担当するのは、2020年のTVアニメ『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』OPテーマ「ミスターフィクサー」以来二度目となる。


作品の中で重要な局面を迎える話の特殊エンディングとして花を添える「月夜のタクト」は、本音を隠しながら狡猾に生きようとする主人公の心情を描いた、優雅なピアノとエッジの効いたギターが交錯するロックナンバー。メランコリックなムードと色気がない交ぜになったSouのヴォーカルが、スリリングでドラマチックな世界観をより高めている。ジャケットのアートワークとMVを手掛けるのはCollage Artist / Video Directorのイノウエマナ。実写やコラージュ、奇抜なカラーリング、交差しないであろう時代や文化を大胆にブレンドするなど、ポップセンスとダークな雰囲気を併せ持つ彼女の本領が発揮されたと言わんばかりの、奇天烈なムード溢れる映像に仕上がっている。「月夜のタクト」のMVも人の身体を効果的に使ったカットがインパクトを残し、ヴォーカルと楽曲が醸し出す人間が内に秘めた毒々しさや繊細さをよりファンタジックかつ生々しく描いている。強烈な個性を持つクリエイターが制作した音楽と映像の中で、Souのヴォーカルが埋もれずに存在感を放つのはなぜなのか。その理由は彼がここ数年でヴォーカリストとしてのスキルを着実に伸ばしているからに他ならない。


転機はやはり2019年リリースの2ndフルアルバム『深層から』だろう。同作で彼は初の作詞作曲に挑戦し、さらに2020年リリースの「ミスターフィクサー」を含む7曲入りEP『Utopia』は、彼の本質を色濃く表した作品となった。理想の自分や場所は見えているものの、力が及ばずそこに届かないという劣等感や焦燥感、自暴自棄の念を抱えながらも、それでもどうにかもがきながら、少しでも自分の理想へと近づこうとする。どうせ自分なんてと思いつつも、どこか“こんな自分でももしかしたら実現できるかもしれない”という希望を捨てきれない── そんな人間くささに、共鳴する人も多いのではないだろうか。

表現者としてのスタンスや等身大のマインドを『Utopia』という作品に落とし込み、世の中に提示できたからこそ、彼は新しい表現を追求することができた。その裏付けとなるのが2022年リリースの3rdアルバム『Solution』だ。Chinozo、ちゃんみつ、和ぬか、かいりきベア、てにをは、伊根、水野あつ、羽生まゐご、春野、x0o0x_、川谷絵音といった、Souがリスペクトする作家陣の書き下ろし楽曲で構成された同作は、彼のヴォーカリストとしての才能とプロデュース力を余すことなく体感できる。

Souは元来“歌ってみた”の選曲にもこだわりが見える。そのラインナップから、流行の楽曲から選出するのではなく、能動的に様々な音楽をリサーチし、自身のアンテナが反応した楽曲をピックアップしていると推測する。彼の“歌ってみた”動画をきっかけに、その楽曲を知る人も少なくなかったはずだ。そういったアクションも、彼が純粋なミュージックラバーだからだろう。“この音楽を知ってほしい”や“この人の作る楽曲は素晴らしいから聴いてほしい”というシンプルな動機が、彼を突き動かすのだ。

『深層から』と『Utopia』でSouというアーティスト像が明示されたことにより、作家陣それぞれに“Souにこんな楽曲を歌ってもらいたい”というイメージがより色濃く湧いたのか、『Solution』はSou史上最もバラエティに富んだアルバムに仕上がった。同時に彼のヴォーカルも楽曲それぞれの物語を彼なりの解釈で彩り、その結果これまでに見たことがない表情をヴォーカル内でも覗かせていた。その楽曲を自分が持ちうる力で最大限に輝かせたいし、そのためにも自分の力をできる限り伸ばしたい。音楽への真摯な思いが、彼のアーティスト性を高めてきたのだ。

『Solution』で養われた表現力が、「月夜のタクト」にも存分に生かされている。エッジの効いたダークなサウンドと調和しながら、じっくりと聴き手を楽曲の内側へと引き込むヴォーカルは、闇のなかに浮かぶ月のように美しくも切なく、目を見張るものがある。ニルヴァーナに代表されるように、厭世観を漂わせながらも芯の強さが光るヴォーカルは、ひずんだギターや緊迫感のあるドラムなどの音と相性がいい。Souの元来持った資質を生かした楽曲と言えるだろう。SouはSNSで“10周年を迎えるけど、そんなに力まずに今年も自分らしく活動していく”と発言していた。その言葉のとおり、10周年という節目でも気張らずに、好奇心の赴くままにヴォーカリストとして、アーティストとして挑戦を続けていくだろう。それは「月夜のタクト」を聴いていても明らかである。音楽を愛する少年の心を持ち続けているからこそ、彼のクリエイティヴィティは進化し続けるのだ。

文◎沖さやこ

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Sou Digital Single「月夜のタクト」


2023年1月22日(日)配信
作詞・作曲・編曲:月蝕會議
配信サイト一覧:https://lnk.to/sou-tsukiyonotakuto

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