【コラム】『サガ』シリーズの楽曲をより深く、熱く、ロックに

1989年の発売から30年の月日を優に超えた今も、多くのゲームファンに愛され続けている大人気RPG「サガ」シリーズ。独創的なゲームシステムや衝撃的なシナリオなど、ゲームとしてはもちろんのこと、その音楽面も高い評価を受けているタイトルで、『東京2020オリンピック競技大会』の開会式で使用されたことも記憶に新しい。

そんな「サガ」シリーズの楽曲をさらに深く、熱く楽しめるロックサウンドにアレンジしているのが、2020年に結成された「サガ」オフィシャルバンド・DESTINY 8だ。メンバーは、「サガ」シリーズの作曲家である伊藤賢治（Key）に加え、上倉紀行（Key）、森 空青（G）、坂田善也（G）、池尻晴乃介（B）、岡島俊治（Dr）の6名。2022年には2枚の音源を発表し、「サガ」愛溢れるアレンジで多くのファンを歓喜させている彼らが、このたび3rdアルバム『DESTINY 8 - SaGa Band Arrangement Album Vol.3』を完成させた。

本作は、記念すべきシリーズ初作品『魔界塔士サ・ガ』から、現在好評稼働中のスマホ向けRPG『ロマンシング サガ リ・ユニバース』、そして、昨年12月に発売された『ロマンシング サガ -ミンストレルソング- リマスター』など、歴代作品から10曲をピックアップ。今作も、バンドマスター兼リーダーの上倉が、全収録曲の編曲を担当している。

ハードロック／ヘヴィメタルを土台にした、パワフルでテクニカルなバンドサウンドというDESTINY 8の持ち味は、本作でも健在。アルバムの幕開けを飾る「乱戦の指揮者」（インペリアル サガ エクリプス）から勇猛なサウンドを高鳴らし、「魔界塔士」（魔界塔士サ・ガ）では、鮮烈なツインリードギターを轟かせる（途中で同作の「メインテーマ」をさらりと折り込む場面も）。また、アコースティック楽器を用いた前半から、中盤でハチロクのリズムに切り替わる「最終試練」（ロマンシング サガ -ミンストレルソング-）や、原曲の尺は1分に満たないものの、強烈に耳に残る旋律を幻想的なベースソロで表現した「遙かなる戦いの歌」（ロマンシング サ・ガ2）など、ドラマティックな展開を擁したものばかりだ。

そのなかでも異彩を放っているのが、「Roman」（サガ フロンティア2）。8bitサウンドのイントロから一気にバンドアンサンブルを爆発させるのだが、原曲が持つ透明感からインスピレーションを受けてか、シティポップやAOR、もしくはフュージョンを思わせる、爽やかでグルーヴィーなサウンドを聴かせる場面も。それでいて、DESTINY 8らしいずっしりとした手触りもしっかりとあるという、6人の卓越した手腕が光る仕上がりであり、まだまだこのバンドの表現の幅が広がっていきそうな予感に溢れたものになった。

また本作には、強烈な掛け合いで魅せる「Save the world」（サ・ガ2 秘宝伝説）や、美しくも不気味さを煽る原曲のKOCHOによる歌唱をフィーチャーしたダークでヘヴィな「女道化師イゴマール」（ロマンシング サガ リ・ユニバース）など、ボスバトル曲を多数収録。そのどれもがオリジナル楽曲の持つ強烈なエネルギーをさらに増幅させた意匠が施されていることもあり、過去作に比べて異常なまでに熱量が高い印象を受ける。

その印象を決定づけるのが、ラスト3曲に置かれている「死への招待状 -The Battle with Death-」「呼び醒まされた記憶 -The Battle with Sherah-」「決戦!サルーイン -Final Battle with Saruin-」という『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』に登場する三柱神メドレーだ。重厚で荘厳で激烈なメタルサウンドを轟かせる「死への招待状 -The Battle with Death-」では凶暴なグロウルが飛び出し、スピードメタル／パワーメタル的な「呼び醒まされた記憶 -The Battle with Sherah-」で超絶技巧の嵐を巻き起こす。そして、クライマックスとなる「決戦!サルーイン -Final Battle with Saruin-」は、ただでさえハードな原曲からテンポをさらに上げていることもあり、その勢いたるや、かなり壮絶。その上で、ゲーム本編で流れる「邪神復活」や、スーパーファミコン版『ロマンシング サ・ガ』の「決戦!サルーイン」のフレーズを織り込むという粋な計らいは、とにかく「サガ」ファンに喜んでもらいたいというファン・ファーストの表れと言えるだろう。もちろんゲーム未プレイのロック／メタルファンも、自然と拳を振り上げ、頭を振り回したくなるものになっている。

圧倒的な火力を誇る1枚となった『DESTINY 8 - SaGa Band Arrangement Album Vol.3』。それもあって、収録曲はどれもライヴという空間でその威力を強烈に発揮するものばかりで、おそらくこれまで以上にライヴでオーディエンスと共有することを意識して制作されたような印象も。となると、この興奮をぜひ生で味わいたいところだが……これまでDESTINY 8は、「サガ」公式生放送でライヴ配信を行なってきたが、2022年12月には生放送内で初の有観客ライヴを開催。アイテムもリリースし、感染症の問題も少しずつ落ち着きを見せ始め、様々な規制が緩和され始めた今、そろそろ何かあるのでは……と、勝手な期待を抱いてしまっているのだが、1日でも早くDESTNY 8が超満員のオーディエンス達と熱い空間を作り上げることを楽しみにしたい。そう願わずにはいられなくなるほど、本作はとにかく強烈な熱を放っている。

文◎山口哲生