いい音爆音アワー vol.136「ナイス♪ベース・プレイ」

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爆音アワー
いい音爆音アワー vol.136「ナイス♪ベース・プレイ」
2023年2月15日(水)@ニュー風知空知
ロックミュージックを構成する4つの基本楽器と言えば、ドラム、ベース、ギター、キーボード。まあキーボードはいろいろありますが、この中で、一聴していちばん目立たないのが、やはりベースですね。店内BGMなどオーディオ環境が貧弱であればあるほど、ベースが聞こえないなんてことがよくあります。
だけど、音楽にとって“いい音”の条件のひとつはふくよかな低域。ベースはそれを担いながら、ドラムとともにサウンド全体のグルーヴを支えるのが役目。ベースが上手いか下手かは、サウンドの心地よさを左右する重要なポイントです。
ただ、私自身はベースを弾けないので、技術的にどれがホントにすごいのかは、いまいち解ってないかもしれませんが、ともかく個人的に「ナイスだな♪」と感じるベース・プレイが聴ける名曲・名盤を、今回は16曲選んでみました。


ふくおかとも彦 [いい音研究所]
  • ①Elvis Costello「Living In Paradise(天国の生活)」
    *bass: Bruce Thomas (The Attractions)

    エルヴィス・コステロの2ndアルバム、1978年3月に発売された『This Year’s Model』に収録されています。77年のデビューアルバム『My Aim Is True』はアメリカの“Clover”というバンドがバックを務めたんですが、コステロはちょっと不満だった。もっとハードでシャープな音が必要だと思い、メンバーを探して“The Attractions”というバンドを結成します。Attractionsとともに初めてレコーディングしたのが、この2ndアルバムです。
    この時点でまだアメリカでの販売会社が決まってなかったので、デビュー作もアメリカでは未発売だったんですが、なんとかしようと、コロムビア・レコードの重役が集まるコンベンション会場の外でストリートライブをやったら、うるさいってことでコステロは逮捕されまして、でもその甲斐あってコロムビアとの契約が決まりました。コロムビアはすごく乗ってくれて、レーベル面の「COLUMBIA」と表記するところを「COSTELLO」に変えたほどでした。

  • ②The Jam「The Eton Rifles」
    *bass: Bruce Foxton (band member)

    “The Jam”を結成した時、ポール・ウェラーはまだ14歳でした。ブルース・フォクストンとリック・バックラーが17歳。14歳と17歳なんて、通常は世代が違うくらい差があるものですが、最初からウェラーがボーカルで曲も書いて、バンドの中心でした。で、当初ウェラーがベースを担当して、フォクストンがギター。そしてもう一人、スティーヴ・ブルックスというギタリストがいたのですが、1976年にそのブルックスが辞めて、その時、ベースをフォクストンがやることになりました。
    フォクストンのベースが音が太くて、演奏がしっかりしているおかげで、ギター、ベース、ドラムだけのロック最小編成でも、サウンドに不足感がないんですよ。

  • ③Cactus「Evil」
    *bass: Tim Boggert (band member)

    元“Vanilla Fudge”のドラマー、カーマイン・アピスとベーシスト、ティム・ボガートを中心に1969年に結成された“Cactus”。私は彼らを「アメリカのLed Zeppelin」と呼んで、強く推し続けてるんですが、どうも知名度は低いままです。どちらかと言うと、ジェフ・ベックとの“BBA”で、ボガートとアピスという個人のほうが知られているかもですね。
    ボガートのベースは、高度なテクニックを持ちながら、パフォーマンスはロックっぽくワイルドで、アピスのドラムとの相性が抜群です。ベーシストとしてはZeppのジョン・ポール・ジョーンズよりも面白いと思います。
    「Evil」という曲は、ウィリー・ディクソン(Willie Dixon)というブルース・ベーシストがつくったシカゴ・ブルースのスタンダードで、元はまあふつうのブルースなんですが、カクタスの手に掛かるとこんなぶっ飛んだアレンジになりました。

  • ④Red Hot Chili Peppers「C'mon Girl」
    *bass: Flea (band member)

    “レッチリ”は、ギターのジョン・フルシアンテが1988年に加入して、92年にドラッグでダメになって一旦辞めるんですが、98年に再加入してからのアルバム『Californication』、『By the Way』、『Stadium Arcadium』…7、8、9枚目なんですが、これが絶頂期でしたね。ま、もちろん今でも、出せば売れるんですが。
    その『Stadium Arcadium』は、2枚組なのにチャートアクション的にはいちばんよくて、全米、全英、オリコンともに初登場1位というすごい勢いでした。
    ベースのフリーは結成以来の不動のメンバーで、前曲のティム・ボガートに連なる、確かなテクニック+ワイルドさが魅力ですが、この曲ではずっと16分音符の指弾きという、聴いてるだけで手が攣りそうな演奏を披露しています。
    ちなみに、ローリングストーン誌が2020年7月に「The 50 Greatest Bassists of All Time」というのを発表しましたが、フリーは22位でした。

  • ⑤The Jackson 5「Darling Dear」
    *bass: James Jamerson (session musician)

    ジェイムズ・ジェマーソンはいわゆるセッション・ミュージシャン。モータウンというレコード会社から給料をもらって、依頼される仕事は何でもやるミュージシャン群の一人でした。彼らは、当時レコードにクレジットもされなかったのですが、しだいにその演奏クオリティが注目されて、ある時期から"The Funk Brothers"と呼ばれるようになりました。特にジェマーソンは、ベースギターという楽器を、それまでのほぼルート音を弾くだけのものから、メロディアスなフレーズとグルーヴィなリズムで、サウンドの要となる存在に高めた、革命的なミュージシャンだったんです。しかも彼の奏法は、この「Darling Dear」のように、すごく細かいフレーズでも人差し指1本で弾くという独特なものでした。
    「The 50 Greatest Bassists of All Time」ではなんと1位に選ばれました。

  • ⑥The Beatles「Nowhere Man(ひとりぼっちのあいつ)」
    *bass: Paul McCartney (band member)

    ポール・マッカートニーはベース・プレーヤーとしての評価も高いですね。「The 50 Greatest Bassists of All Time」では9位です。特徴は、やはりメロディメイカーだけあって、フレーズの面白さですか。「Rain」とか「I Want You」とか「Something」とか名演とされているものはいろいろありますが、どうも自分の曲じゃない時のほうがベースが面白いという傾向があるかもです。
    「Nowhere Man(ひとりぼっちのあいつ)」もやはりジョンの曲です。ジョンがある日、曲をつくろうと5時間位、ああでもないこうでもないとやったけど、何も出てこず、諦めて横になったら、なんとこの「Nowhere Man」の詞も曲も全部がいきなり降りてきた…らしい。

  • ⑦Klaatu「Sub-Rosa Subway(謎の宇宙船)」
    *bass: John Woloschuk (band member)

    「カナダのビートルズ」と呼ばれた“Klaatu [クラトゥ]”。ジャケットにメンバーは出ていない、クレジットも「Klaatu」だけ、ライブも本人稼働のプロモーションもやらない、ということで、謎のグループでした。
    「Klaatu」というのは、1951年のSF映画「地球の静止する日(The Day the Earth Stood Still)」に出てくる宇宙人の名前です。この1st アルバムのタイトル『3:47 EST』も、この映画の中で「Klaatu」がワシントンD.C.にやってきた時刻のこと。午後3:47だったんです。「EST」は「Eastern Standard Time」=アメリカの東部標準時です。ただ、レコード会社のCapitolからは「そんなワケのわからんタイトルはダメだ」と言われ、カナダ以外では「Klaatu」というタイトルにされちゃいました。日本では「Klaatu(謎の宇宙船)」となっています。
    で、このアルバムのサウンドはビートルズの中期の感じに似ていて、しかも謎のグループなもんですから、「The Providence Journal」という新聞で「ひょっとしたらこれはビートルズが密かに再結成して、この名前で出したんじゃないか」という記事が出て、しばらく大騒ぎになりました。しかもちょうど、このアルバムの2年前、1974年にリンゴ・スターのソロアルバム『Goodnight Vienna』がリリースされていて、そのジャケットになんと宇宙人のKlaatuとその宇宙船が使われていたことが、さらに話を盛り上げました。

  • ⑧The Bliss Band「Rio」
    *bass: Andy Brown (band member)

    “The Bliss Band”というイギリスのバンド。ポール・ブリスというキーボード奏者&ボーカリストを中心に1977年に結成して、78年にデビュー、80年に2ndアルバム、それで解散しています。
    その1st アルバム『Dinner with Raoul』は、元“Steely Dan”のジェフ・バクスターがプロデュースしたからか、ポール・ブリスが憧れていたからか、たぶんその両方ですが、Steely Danに雰囲気がすごく似ているんですよねー。ただ、このバンドのベーシスト、アンディ・ブラウンのベースはめちゃくちゃなめらか且つメロディアスで、とても耳を惹かれます。

  • ⑨Esperanza Spalding「Radio Song」
    *bass: Esperanza Spalding

    エスペランザ・スポルディングはジャズのベーシスト兼ボーカリスト。バークリー音楽大学を20歳で卒業した秀才で、アップライトベースとエレキベース、どちらも演奏します。1984年生まれで、2006年デビュー。「The 50 Greatest Bassists of All Time」では45位にランクしています。
    ロックやポップスという枠には収まらないので、ジャズとされますが、本人は特定のジャンルにカテゴライズされるのは嫌がっていて、音楽的にもジャズ/フュージョンをベースに、ファンク、ラテン、ヒップホップなどいろんな要素を取り入れた、独自の境地をつくり上げています。
    この曲はエレキベースで演奏しています。ボーカルももちろん彼女、作詞・作曲・アレンジ・プロデュース、すべて彼女です。

  • ⑩Weather Report「Havona」
    *fretless bass: Jaco Pastorius (band member)

    唯一無二のベースを弾くジャコ・パストリアス。「The 50 Greatest Bassists of All Time」では8位です。ポールのひとつ上ですね。1976年から1982年まで“Weather Report”というジャズ・フュージョン・バンドに在籍しました。その時期がWeather Reportにとっても最盛期でした。1976年のある日、ジャコがWeather Reportのライブを観に行きまして、終わったあと、リーダー格のジョー・ザヴィヌルに近づいて、「I'm John Francis Pastorius III. I'm the greatest bass player in the world.」と自己紹介したんだそうです。そのずうずうしさに感心してしまって、「じゃあ何か君の音を聴かせて」と。で、彼の演奏を聴いたらこれがホントにすごいので驚いた。ちょうど6枚目のアルバム『Black Market』を制作中でしたが、ベースのアルフォンソ・ジョンソン(Alphonso Johnson)が辞めることになったので、ジャコに声をかけました。次の7thアルバム『Heavy Weather』から全面参加して、作曲やプロデュースにまで関わっていきます。ところが、アルコールと薬物で次第に情緒不安定になって、82年には双極性障害になり、Weather Reportを辞めました。1987年9月、つまらないことで街で喧嘩をして、相手がマーシャルアーツの使い手だったのでボコボコにされ、それが元で脳出血を起こして、わずか35歳で亡くなってしまいました。
    『Heavy Weather』収録の「Havona」は、ジャコが曲も書いています。

  • ⑪Jamiroquai「(Don't) Give Hate a Chance」
    *bass: Derrick McIntyre (session musician)

    英国では売れるんだけど、米国ではあまり売れないという英国のアーティストが時々いますね。それってたいていは音楽性がひねくれてる、たとえばXTCとか10ccみたいなケースが多くて、ファンクっぽいダンサブルなものなら米国でも受ける。“Queen”でも、たとえば「Somebody to Love」は全英2位なのに全米13位だけど、あの「Another One Bites the Dust(地獄へ道づれ)」、私に言わせれば「Queenのヒット曲の中でいちばんしょうもない曲」…は全英7位なんだけど全米1位です。
    ところが、“ジャミロクワイ”はファンクでダンサブルでポップなのに、なぜか米国ではそれほど売れません。アルバムはほとんど全英1位なのに、米国では最高で、3rd『Travelling without Moving』が24位止まり。なぜだろう? 彼らのトレードマーク「バッファローマン」がアメリカ先住民=インディアンの象徴であり、バンド名「Jamiroquai」にはインディアンのイロコイ(Iroquois)族の名前が含まれている、ということが何か関係しているのでしょうか?……
    「(Don't) Give Hate a Chance」は、6th アルバム『Dynamite』からの第3弾シングルです。このアルバムのベースはメンバーではなく、デリック・マッキンタイアというアフリカ系イギリス人のセッションマンです。ニック・ファイフェ(Nick Fyffe)というメンバーが前作の後辞めたからで、このアルバムだけの参加なんですが、とてもいいベースだと思います。

  • ⑫荒井由実「Cobalt Hour」
    *bass: 細野晴臣 (guest musician)

    細野さんは、YMO以降長い間、ベースは弾かなくなってデジタル一直線、ここ20年くらいはアナログに回帰しているという感じですが、本来めちゃくちゃ上手い人で、主に70年代はいろんなレコーディングに参加して名ベース演奏を残しています。誰かが言ってたけど、楽器が演奏できずにデジタルで音楽やっている人は多いけど、YMOは全員生演奏も達人だったから、テクノでも奥が深いんだと。名曲もつくる、編曲・プロデュースもすごい細野さんが弾くからこそ、そのベースはやはりひと味もふた味も違うんじゃないでしょうか。
    ユーミンの「Cobalt Hour」という曲で、そのベースのフレーズの面白さとリズムのキレを味わってください。荒井由実時代、3rdアルバム『COBALT HOUR』のA面1曲目に入っていて、飛行機のSEから始まります。

  • ⑬Kajagoogoo「Too Shy(君はTOO SHY)」
    *bass: Nick Beggs (band member)

    Kajagoogooはイギリスの5人組バンド。1983年にデビューして、わずか半年でボーカルのリマールは解雇され、でも翌84年に「Never Ending Story(のテーマ)」で大ヒットを飛ばします。
    さて当時は、あのビジュアルで、“カジャグーグー”なんていう妙な名前だから、いわゆるアイドルバンドだと思い、食わず嫌いでした。でもめちゃくちゃヒットしましたから「君はTOO SHY」のメロディや歌の感じはよーく覚えているんですが、実はこんなにベースがカッコいいなんて全然知りませんでした。最近偶然知りました。
    ちなみに「カジャグーグー」というのは、多くの赤ちゃんが最初に発する音を文字にしたものだそうです。
    ベーシストはニック・ベグズという名で、もちろんふつうのエレキベースも弾きますが、チャップマン・スティック(単にスティックとも。ベースとギターの機能を合わせた楽器。タッピング奏法で演奏する)の使い手です。

  • ⑭Earth, Wind & Fire「Happy Feelin'」
    *bass: Verdine White (band member)

    “EWF”のベーシストはモーリスの弟、ヴァーダイン・ホワイトです。さらにその弟フレッドはドラマーです。ヴァーダインは1970年の結成直後にEWFに加入して、それ以来不動のメンバー。モーリスとヴァーダイン以外は72年の時点でみんな辞めており、モーリスは2016年に亡くなったので、ヴァーダインが最も在籍期間が長いメンバーということになります。
    ヴァーダインといえば、ダンサブルで腰のある演奏と、サービス精神あふれるパフォーマンスが個性ですね。「The 50 Greatest Bassists of All Time」では19位。
    EWFの6thアルバム、1975年3月にリリースされた『That's the Way of the World(暗黒への挑戦)』は同名の映画のサウンドトラックで、映画はこけたんですが、アルバムは大ヒット、彼らの初めてにして唯一の全米1位アルバムとなりました。「Happy Feelin'」はその収録曲。

  • ⑮Graham Central Station「Release Yourself(魂の解放)」
    *bass: Larry Graham (band member)

    ラリー・グラハムはベースの「slapping奏法」を発明したと言われています。きっかけは「お母さんが自分のバンドにもうドラマーは要らないと決めたこと」だったそうです。よく解りませんが、それで、ベースにパーカッションの役目もさせることを発想したらしい。
    「The 50 Greatest Bassists of All Time」では7位です。
    “Sly & the Family Station”の結成に参加したのが1967年、21歳の時。Slyのワンマンぶりにだんだん嫌気がさしまして、72年に脱退。翌73年に“Graham Central Station”を結成しました。
    この曲が収録されたアルバムには、“Tower of Power”のホーンセクションも参加しています。

  • ⑯Tower of Power「Whar Is Hip?」
    *bass: Francis Rocco Prestia (band member)

    “Tower of Power”はホーンセクションも有名ですが、ドラムとベースのコンビネーションがすごい。
    ベーシストはフランシス・ロッコ・プレスティア。ドラマーはデイヴィッド・ガリバルディ。16ビートのファンクビートが得意なんですが、そのグルーヴが独特で唯一無二なんです。たとえば、先ほどの“EWF”と“GCS”は基本的に同じ傾向のファンクビートですよね。これは「slapping bass」的なノリなんです。だからslapping奏法のベーシストがいると、ブーツィー・コリンズでもルイス・ジョンソンでも、やはり同傾向のビートになります。だけど、ロッコは違う。主に人差し指と中指で16分音符を跳ねずに均一に弾くというやりかた。今回登場した中で言うと、ジェイムズ・ジェマーソンやフリーのタイプですかね。それがガリバルディのクールで正確無比なドラムと絡むともう最高なんです。
    例の「The 50 Greatest Bassists of All Time」の選外なのですが、どうかと思います(怒)。

次回の爆音アワーは・・・

                        
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