【ライブレポート】ワロウズ、初来日とは思えない相思相愛の熱狂と幸福な景色

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ここはどこなんだろうと思った。曲のイントロが鳴っただけで、スタンディングの客席から「キャー!」と歓声が上がる。そして、ほぼ全員と言ってもいい観客がシンガロングする。それが全21曲を演奏した約80分の間、ずっと止まらない。しかも、メンバーの一挙手一投足に対しても悲鳴に近い黄色い声が上がったのだ。本当に、ここは日本なんだろうか⁉

◆Wallows 画像

100%肯定的な意味で言うのだが、アイドルなんて言葉も思い浮かぶほど人気の海外バンドがいつの間にか誕生していたことに恥ずかしながらびっくりさせられた。ロサンゼルスを拠点にしているインディ・ロックバンド、ワロウズによる初来日公演が2023年2月24日、東京・恵比寿ガーデンホールにて遂に実現した。前述した人気ぶりを考えれば、まさに待望と言ってもいい。


ワロウズは元々、幼馴染だったというディラン・ミネット(Vo, G)、ブラーデン・レマスターズ(Vo, G)、コール・プレストン(Dr)の3人組。10代半ばでバンドを始めた3人が2017年にワロウズの名の下、セルフリリースしたシングル「Pleaser」が地元のロック専門ラジオ局、KROQでヒットしたことに加え、SpotifyのGlobal Viral Chart 50チャートにランクインしたことで一躍注目バンドに。そして、翌2018年、アトランティックレコードと契約を結んだワロウズはこれまで『Nothing Happens』(2019年3月)と『Tell Me That It’s Over』(2022年3月)という2枚のアルバムをリリース。新進バンドとして、めきめきとロックシーンで頭角を現してきたそうだ。ちなみにディランとブラーデンは元々、子役としても活躍していたそうで、ディランはNetflixの人気シリーズ『13の理由』に出演するなど、現在も俳優業を続けているというから、彼らの人気はそんなところとも関係がありそうだ。

ともあれ、そんな彼らを一目見ようとこの日、会場である恵比寿ガーデンホールに集まったファンを、まず迎えたのがスペシャルゲスト・アクトを務めた2019年結成の3ピースバンド、Chilli Beans.だ。SNSを中心にネクストブレイク・バンドと大いに期待されている彼女達は、「ワロウズ大好きだから、ゲストアクトに呼んでもらえてめっちゃうれしい!」と言いながら、海外のインディロックに共鳴するファンクロック・サウンドと、ファッションも含め、音源以上にストリート感覚も持つパフォーマンスで観客を魅了していった。ふわっと漂うような歌と軽快なラップを使い分けながら、奔放にステージを飛び跳ねるMoto(Vo)はもちろん、ギターをバリバリと鳴らしながら、閃きに満ちたフレーズを奏でるLily(G, Vo)、スラップも交え、太いグルーブを支えるMaika(B, Vo)ともにプレイヤーとして、キャラに華のあるところも見どころだった。そして、メランコリックな1曲目の「School」から全7曲を演奏した25分のセットの最後を飾った「シェキララ」の4つ打ちのビートで観客を存分に跳ねさせると、Chilli Beans.はその熱気をワロウズに繋げるというゲストアクトの役目を見事に果たしたのだった。

セットチェンジの間から、待ちきれないとばかりに始まったワロウズコールに迎えられ、ベース、キーボード、ギターを担当する3人のサポートミュージシャンとともに登場したワロウズの演奏は、『Tell Me That It’s Over』のオープニングナンバー「Hard to Believe」からスタート。オールディーズ風のバラードがバンドインとともにバウンシーなポップソングに変化すると、観客が手を上げながら、早速、ジャンプを始める。コールによるドラムの連打から『Tell Me That It’s Over』の曲順通り「I Don’t Want To Talk」に繋げると、ディランが加えたハーモニーソロに客席が沸き、彼の「1-2-3!!」という掛け声を合図に観客がシンガロングの声を上げる! いきなり目の前に出現した、初来日とは思えない光景に度肝を抜かれながら、この日を待ち焦がれていたファンの思いに思わず胸が熱くなった。

そんなふうに序盤から相思相愛のバンドとファンならではと言える熱狂を作り上げていったバンドは、2枚のアルバムからの曲に2018年と2020年にリリースした『Spring』と『Remote』2枚のEPの収録曲も交えながらテンポよく曲を披露していく。アメリカではすでに大規模フェスのステージも経験しているだけあって、ステージパフォーマンスはエネルギッシュで堂々としている。


それに対する観客の反応は冒頭に書いた通りだが、ライブを見ながら興味深かったのは、メンバー達が世代的に直接、影響を受けたというアークティック・モンキーズ、ストロークス、リバーティーンズといったいわゆる2000年代のギターロック・バンドからだけではなく、1990年代のパワーポップに加え、1980年代のニューウェーブなロックやエレポップ、さらに遡ってビートルズをはじめとする1960年代のポップロックからの影響も受け継いでいるように感じられたことだった。そんな影響を巧みに取り入れつつ、曲ごとにサーフっぽいとも、ネオサイケっぽいとも言えるエレキギター・サウンドを前面に押し出したり、シンセのリフやビートを使って、エレクトロニックに味付けしたりと変化をつけ、どこかノスタルジックなところもあるロックサウンドとして聴かせるところが、彼らの魅力なのだと思うが、そこにソウルバラードの「OK」や、なぜか歌メロに和の情緒が感じられる「WISH ME LUCK」といった変化球と言える(?)曲も織りまぜるところが心憎い。

そして、もう1つ。3人全員が歌えるところも忘れられないワロウズの大きな魅力だろう。1曲の中でリードボーカルが入れ替わったり、歌を掛け合ったり、ハーモニーを重ねたりするディランとブラーデンのボーカルアンサンブルは音源以上に歌う姿が見えるライブで味わってこそという気もするが、この日は中盤に演奏したシンセオリエンテッドなポップロック・ナンバー「Quarterback」でディランとポジションを入れ替えたコールがギターを弾きながらリードボーカルを取るという見どころも。

シンセオリエンテッドなサウンドに乗せ、リラックスした歌声で、大きな譜割のしっとりとしたメロディを歌い上げた「At the end of the Day」から一転、「Chilli Beans.最高! みんなも最高だよ。残り数曲!」とディランが言ってからの終盤は、「Scrawny」「Just Like a Movie」「Remember When」と力強いリズムを持つロックナンバーをたたみかけるように繋げ、ラストスパートを掛ける。「Remember When」のサビではキックの4つ打ちに合わせ、シンガロングしながら観客がジャンプ! 今日イチの熱狂を作り上げた……と思いきや、最大のクライマックスはバラードナンバーに観客がワイプで応えた本編最後の「Guitar Romantic Search Adventure」と、ディランがギターをかき鳴らしたアンコール1曲のロックナンバー「I’m Full」の先に待っていた。

この日、ワロウズが最後の最後に演奏したのは、『Nothing Happens』収録のチルウェイブな魅力もある「Are You Bored Yet?」。音源では歌詞を恋人同士の会話として聴かせるため、女性シンガーソングライター、クレイロをフィーチャーしているのだが、バンドもファンもきっと同じことを考えていたに違いない。つまり、クレイロのパートを、代わりに観客が歌ったら最高じゃないか、と。

その思惑は見事ハマった。曲の冒頭からシンガロングしていた観客の歌声はクレイロパートでさらに大きなものに! こうしてワロウズの初来日公演はバンドとファンの交歓が最良の形で実現するという幸福な景色を描きながら、大盛況の内に幕を閉じたのだった。

取材・文◎山口智男
撮影◎Joeseth Carter (@joeseth.carter)

■<Wallows TELL ME THAT IT'S OVER ASIA TOUR 2023 TOKYO>2月24日(金)@東京・恵比寿ガーデンホール SETLIST

01. Hard to Believe
02. I Don’t Want to Talk
03. These Days
04. Especially You
05. Pleaser
06. Treacherous Doctor
07. Sun Tan
08. Ice Cold Pool
09. Quarterback
10. OK
11. WISH ME LUCK
12. Pictures of Girls
13. Hurts Me
14. 1980s Horror Film II
15. At the End of the Day
16. Scrawny
17. Just Like a Movie
18. Remember When
19. Guitar Romantic Search Adventure
20. I'm Full
21. Are You Bored Yet?


■アルバム『TELL ME THAT IT’S OVER』

2022年3月25日 配信開始 ※配信限定
配信リンク:https://japan.lnk.to/TMTIO
▼収録曲
01. Hard to Believe
02. I Don’t Want to Talk
03. Especially You
04. At the End of the Day
05. Marvelous
06. Permanent Price
07. Missing Out
08. Hurts Me
09. That’s What I Get
10. Guitar Romantic Search Adventure


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