【インタビュー】JURASSIC JADE「停まらない列車から降りないから」、最新作『Nyx filia』リリース

■バンドの皆が今までで一番曲を磨き上げていってくれた

── 「朝５時に戦争が始まる」はさっきも言っていましたが、WATANABEさんが最初にJURASSIC JADEで作った曲ですね。今までスタッフとしてJURASSIC JADEの作曲プロセスを見ていて、自分で曲を書いてみようと思ったのは何故だったのですか？

WATANABE：自分で曲を書いたというのはタイミングだと思うんですよ。今だったら、自分でJURASSIC JADEとして面白い曲を書けるなと思い始めた時があって。その思いを汲み上げてくれるメンバーがいてくれるタイミングでもあった。それが重要で、それまで僕は曲を作るのを自発的に止めていたんです。このバンドでベースを弾いていてその考えが変わってきて、自分で面白いと思う曲を書けてそれを皆が磨いてくれたら更に良い曲になっていくだろうなって。だから今回自分で曲を書いたんだろうなって分析しています。それで出来上がった曲を聴いたら、自分の思い描いていたもの以上のレベルの高い曲になったので他のメンバーには感謝しています。

── 作曲している時に今までのJURASSIC JADEを継承した曲にするか、壊していく曲にするかは考えましたか？

WATANABE：そこに迷いはありませんでした。このバンドは演奏している時にどういった曲がカッコいいんだろうなって常に考えていて、スタッフの時からずっとドラムセットの後ろでも観ていましたから。JURASSIC JADEの要素だったり世界観、リフだったりリズムだったり、HAYAのドラムのパターンだったり。それが分かっていたから、自然と曲に出てきていると思うんです。だから、JURASSIC JADEの流儀に乗せようとか、昔風にしようとか、壊そうとか、そういったことは考えていなかったです。

── 作曲した曲は共にアグレッシブなものでしたね。

WATANABE：ストレートで突き進む感じがこのバンドの持ち味の一つだと感じているので。全員でアレンジすれば他の要素が足されるのも分かっていたから、激しく突き進む原曲を持っていきました。

NOB：長らく自分が作曲の中心だったから、凄く新鮮な作業だった。好きでずっと観ていてくれていたのもあったから、自然とは言っていたけどJURASSIC JADEに寄せてくれたとは思う。

WATANABE：意図して思わなくても自然とそうなってしまったかも。

NOB：自分が気持ちよく弾ける曲だったから、身体が動くよといったレスポンスしました。

HAYA：NOBと違って、WATANABEは全部作って持ってきたからね。こんなドラムを俺は叩けないぞって（笑）。

▲HAYA

WATANABE：でも、HAYAはそれを出したとしてもその通りには叩かないと分かっていたから、どう自分流にアレンジしていくのかというのも楽しみにしていて、そこは安心して彼のセンスに任せました。HAYAのドラムをずっと近くで観てきて、それがデフォルトにもなっていますし。勿論、他のヴォーカルもギターもですけど。

HIZUMI：曲を聴いて歌詞でも台詞でも何でも降ってくる様な感じで。それで良いと思ったし、突破口にもなったかな。

NOB：そこで歌詞に急に勢いが付いた感じだった。

── 今までは歌詞においてWATANABEさんはかなりヘルプをしていましたよね？

HIZUMI：アドバイスしてくれていたり、訳詞の時もこの言葉選んでよいのかのチェックをしてもらっていたし。NOBは注文が多いんです。このリフを生かす為に言葉が多いとか少ないとか。あと、（WATANABEの曲は）どちらも子供目線で書いている。戦争弱者で未来ある者たちだよね。子供が降りてきて、子供口調で歌っている。「大きくなったら何になる？」とか「まだご飯食べていない」といった歌詞が出たのは、私の視点とかがWATANABEの曲によって生まれ変わったからかも。生き直しだね。

▲HIZUMI

── あとこの曲のイントロ部SEはDOOMが頭を過ったのですが。

WATANABE：作っている時は全く意識していなかったけど、できあがったものをレコーディング・スタジオで聴いていたらどこかで聴いたことあるパターンになっていて。その時スタジオにはDOOMの藤田さんが来ていたんですよ。自分から藤田さんに「これってDOOMのあの曲に似ちゃいましたね」って言ったら、「言わないでおこうと思ったのに」って言われちゃって（一同爆笑）。

HIZUMI：かなりニコニコしながらね。

WATANABE：最初は素材集にもあるものを使おうと思っていたら、作ってみたらってアドバイスを受けてやってみたらああなってしまった。好きな人がピンときてくれれば、それでいいです。

HIZUMI：WATANABEの憧れのバンドだからね。

HAYA：コーラスの声も寄せたよね。

WATANABE：カッコいい声を出そうと個人練習もして頑張ったつもりだけどまだまだですね（笑）。

▲WATANABE

── 「まだうたえない」は曲調も歌詞もJURASSIC JADEらしい捻くれた曲ですね。

WATANABE：この曲は「id」をリリースした後にできた最初の曲です。ほぼ、作詞と作曲が同時進行だったけど…。

HIZUMI：この曲と「君が死んだあとで」は少し歌詞を書くのを放っておいた。

── NOBさんが前作のインタビューでやり残したリズムがあるって言っていたのはこの曲かなと思って。

HIZUMI：それは「君が死んだあとで」の方だね。ギャロップみたいなリズムはNOBが青春時代から好きだったから。「id」の時にもやりなよって言っていたけど、上手く弾けないからとか言っていて。実は難しいんだよね。

NOB：SCORPIONSの「Is There Anybody There」みたいなレゲェっぽいリフもやりたかったけど、それはとうとうできなかった。

── この曲も歌詞を読むほど謎が深まっていって、謎かけの多い曲だなって。最後が方言になっているのもヒントなのかなって考えてみたり。

HIZUMI：みんな頑張れ（笑）。心の中の闇の猫が跳ねた時にね。私の中に明確な答えがあるけど、それを伝えたら面白くないから。「まだうたえない」となったのは、これから歌うってことなんでしょうね。自分に自分で。Casketって棺の意味なんですよ。

── 同意のCoffinを使わないのは、その前に出ているBiscuitと韻を踏んでいるからですね。

HIZUMI：そうだよ、パパが作ったビスケット、パパが作った棺。私には意味があるんだよ。

── 「No Cherry Blossom」は大作で、正統派な面もあったりプログレッシブな面もあったりで。最後にズッシリとした曲を持ってきたなと。

NOB：自分でもとっ散らかっていると思う。でも自分の中でこの後にはこれをあれをとやっていったら、こうなってしまったんだ。

HIZUMI：イントロの台詞「風が強くて～」は、ちょっと加工しちゃったけど、HAYAの奥さんが語ってくれて。凄くよかったよ。彼女をイメージして書いたんだ。

── 春は生命が生き生きと羽ばたくイメージなのに、この曲は悲しさに満ちていますよね。歌詞にあるMemento Moriは死を意識して今を生きるってことですし。歌詞にあるE.S.P.はNOBさんがエンドース契約しているギター・メーカーというのもちょっと引っかかって。

HIZUMI：今までのやったことなかったから感謝でE.S.P.って言葉を入れたかっただけ。

── だからこの曲がJURASSIC JADEにとって最後の曲になってしまうのではとも思ってしまって。

NOB：「Memento Mori」を入れてくれと言ったのは俺なんだ。藤原新也という写真家がいるんだけど、彼のデビュー写真集のタイトルが『メメント・モリ』だったんだ。藤原さんの写真にインドで倒れている人を犬が食べているものがあって、「人は犬に食われるほど自由だ」ってコメントがその写真に付いていて、もの凄いインパクトだったんだ。後にその写真集を手に入れたんだけど、そこでは常に死がそこにある。この年になってそれを痛く感じて、その言葉を入れて欲しいって言ったらこの曲に入れてくれたんだ。この曲がアルバムの最後に収録されていることもあって大きな意味も生れてしまった。

▲NOB

HIZUMI：元々、桜なんだから樹の下には死体が埋まっているからNOBに言われるまでもなくメメントモリなんだけどね。そんなことも言わないと分からんか君はって言いながら歌詞を書いたよ（笑）。私の仕組みとしてこの曲にDOOMの藤田君のコーラスが入っていますが、さてどこでしょう？ってことです。

── 暫く藤田さんはDOOMでの活動が沈黙していたので、SNSで彼が参加していると伝えられた時は驚きました。その姿を見て喜んでいたファンも多かったですし。

HAYA：HIZUMIの安定剤的存在だから。いると安心してレコーディングできるから。

HIZUMI：彼がいない時は心の中に小藤田を握りしめて歌っているから。EXPLOSIONという場所で濃厚な時代を過ごした生き残りだし、大事なロック・スターだからね。藤田君が来てくれて楽しくレコーディングできました。

── 前作で最終作になると言っていましたが、その時に皆さんはどう思っていましたか？

NOB：勝手に言っていただけで誰も認識していなかった。

HIZUMI：年寄がほざいているだけだから。

NOB：そう思わないとやれないって部分もあるんですよ。毎回最後の力を振り絞っているつもりなので。

HAYA：そういったことは言わない方がいいよって。だからって止めるとは1mmも思ってないし。

▲HAYA

WATANABE：僕は前作『id』の時も『Nyx filia』でも、最後になったとしても自分では悔いのない気持ちで作品を作りました。何が起きたとしても受け入れる覚悟をしていたし。それは裏を返すと、自分が真っ先に脱落するかもしれないってことも頭の隅にあるからで、それだけ神経注いでやっているってことでもあるんです。やり残したことがあって去るのはつまらないじゃないですか。どの時点でストップしたとしても、自分は十分にやってきたと思いたいのでずっとベストでやっています。自分たちの意志で止めるのもある。だけど、ある日突然誰かメンバーの命が尽きて神様がストップをかけてしまうかもしれない。それを覚悟しているのかどうかって問題だと思います。続いて欲しいって心の中で思っていても、それとバンドを現実的に継続させていくってことは別だと思っているので。実は『Nyx filia』の曲作りは僕の中では実はかなり苦しい作業だったんです。短い期間で10曲を作ってというのは苦しくて、しかも集中もしてもいたしで。だから、自分が作ってきた曲をバンドに持ってくることで苦しみを緩和して突破したい思いもありました。

HIZUMI：結果としてバンド活動が長くなったけど、私を除けてバンドを作ってって頼んだこともあったんです。自分が心身ともにアップアップだった時で、実はメンバー構成とかのアイデアもあったんだよね？

NOB：HIZUMIとやる時は「HIZUMI with JURASSIC JADE」にして、JURASSIC JADEは別のヴォーカリストを加入させてやろうってね。

HIZUMI：そんな時期もあって、JURASSIC JADEをやりたくなかった（笑）。

── HIZUMIさんのステージに迷いがあったのは観ていますし、振り返ればその時がバンドとしてピンチだったのかなって。

NOB：そうかもね。

HIZUMI：HIZUMIのいないJURASSIC JADEがあってもいいよねって時期を乗り越えて今があるから。そんなことはおくびにも出さず、ど真ん中で堂々としていますけど。WATANABEも言っていたけど、それこそ全ての生きとし生けるものは神様がお決めになることだから、バンドとしての寿命も人としての寿命も委ねることになります。

── ここ近年のHIZUMIさんはどんどん若返っていくような勢いがありますよね。このアルバムのアーティスト写真を見るとエナジーを感じます。

HIZUMI：何かスイマセンネ（笑）。踊りはここ数年程トレーニングをしていて、ディレクターさんのアイデアで撮影の時に小さく音を流していただいて、それに合わせて踊っているところをカメラマンさんに撮ってもらった。だからエネルギー感が出ているんだと思う。

── 最後はNOBさんで。毎回最後のつもりで的なことは言っていましたが、『id』では明確に口に出していましたので驚いていたファンも多かったんだろうと思います。

NOB：『id』をリリースして、完全にそのつもりだった。でも、WATANABEが加入したのに1枚だけで終わりにするなってツッコミを凄く受けた。そこで俺は俺のことだけ考えて燃え尽きてしまったんだなと。この作品はバンドの皆が今までで一番曲を磨き上げていってくれた。それによってこれが最後の作品になってしまう可能性もあるんだけどね（笑）。

HAYA：外に出てすぐに車に轢かれちゃうかもだから（笑）。

NOB：WATANABEも言っていたことに共感をもったんだけど、急に自然に終わってしまうこともある。その前にJURASSIC JADEとしてやるべきことを全て出し尽くしてしまったら、そこでも終わり。今回撮ってもらったアーティスト写真で俺だけ他のメンバーから少し離れているものがあるんだけど、それも何となく象徴的で、意味があるかもね。

HIZUMI：それはNOBだけが生き残るってことかも（笑）。その地平線もないとは言えないから。種の保存としては足並みがそろわない方が長生きするんだよ。皆で喜び合ってよい作品が出来たって手を取り合って万歳ってのが本当は理想かもだけど、凸凹あるのも悪くないんじゃないかと思う。ロックの神様が生かしてくれるとこまで行きつくしかないよね。

インタビュー：別府“Veppy”伸朗

　　◆　　◆　　◆