【インタビュー】PENICILLIN、「30年の軌跡をみなさんと楽しんでいきたい」

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■PENICILLINがたどってきた30年の歴史の流れ全体にアクセスしやすいつくりのベストになってる

──そんなDISC 4では「ボニー&クライド」と「走れメロディー」が“30 -thirty- Universe ver.”となっていますが、DISC 1での6曲ともども、このベストにおけるリレコーディングではどのようなことを特に心がけられたのでしょうか。

O-JIRO:まず、DISC 1の「God of grind」「冷たい風」「螺旋階段」「Desire」「Chaos」「Quarter Doll」の6曲は20周年の時にも録り直しているんですけど、その後もずっとライブでやって来てる曲たちなんですね。そして、20周年の時にやったリレコーディングと一番違うのは、今までやったことのなかったライブっぽいレコーディングに挑戦したこと。いわゆる「THE FIRST TAKE」的な感じで、4曲ぶっ続けで録ったんですよ。

──音に臨場感があふれているのはそのためだったのですね。

O-JIRO:初めてのやり方でレコーディングするというのは、僕らとしても新鮮で楽しめましたね。やっぱり、普通に同じ曲たちをまた10年後にレコーディングしましたというだけでは代わり映えもしないと思うんですよ。その点、今回は「ワン、ツー、スリー!」でクリックもなしにレコーディングを始めて、そのまま次の曲にいくっていうライブの時と同じ感じで「God of grind」「Quarter Doll」「Chaos」「Desire」の4曲は一気に演奏してます。あと、マニアック盤の方に入ってる「ボニー&クライド」と「走れメロディー」の2曲は「もうちょっと今の感じで音を詰めたいね」という思いがあったんで、こっちはリアレンジもしたうえできっちりとリレコーディングしました。

──すなわち、DISC 1の6曲は全てノークリックでのライブレコーディングなのですね。昨今ドラムはおろかギターもスタジオで録るのは贅沢なことになりつつあるといいますし、そもそもバンドサウンドを生のままパッケージすることが出来るというのは、高い経験値を持つPENICILLINだからこその強みですね。

O-JIRO:せっかくの30周年なんで、僕らとしてもそのくらいやらないと楽しくならないだろうなって思ったんですよ。ちなみに、今回はLEVIN(La'cryma Christi)さんのスタジオで録ったんですけど、曲を連続で録るっていうのは彼からのアイディアだったんですよ。「ノークリックでやるんだったら、一気に数曲録っちゃった方がよりバンド独自のノリが出やすいと思う」って言ってて。だから、レコーディングが終わった時は「ホントにやったんですね!」って凄く喜んでくれてました(笑)。

HAKUEI:どれもライブで何百回やったかわかんないくらいたくさんやって来てる曲たちだし、歌も「THE FIRST TAKE」っぽい感覚で歌えたんで、僕もライブの時の勢いはかなり出しやすかったです。でも、録り終わって自分で聴いた時には意外と発見もあったかな。こういう録り方をすると、この曲はこうなるのかっていう点で。そこも面白かったです。

千聖:今回の新しい発見は、スタジオでライブと同じように録った音って、リアルなライブともまた微妙に違うんだなっていうことね。

HAKUEI:厳密には「Quarter Doll」と「Chaos」はライブと若干テンポも違うしね。ノークリックだから自然とそうなってるわけで、そこがなんか新しい感覚だったかも。

O-JIRO:そういう意味からいくと、DISC 1の最後に入ってる「イナズマ」を“Live ver.”にしたのも理由は明確なんですよ。これはもうライブでのかたちが完全に仕上がって確立されてる曲だから、これはリレコーディングするよりライブの時の音をそのまま入れようっていうことになりました。


──そのライブテイクは何時のものなのでしょうか。

千聖:これは...ね、2022年の8月7日に渋谷Veatsでやった<PENICILLIN 30th anniversary ファン感謝「祭」2022>の。

HAKUEI:ベストとして考えると、わりと最近のライブテイクである「イナズマ」に、ファーストテイク的な録り方に初挑戦した曲たち、そしてスタジオでリレコーディングした曲たち、発表した当時のままの原曲たちっていう、それが全て今回の『30 -thirty- Universe』に入ったのがコントラストとしては非常に良かったと思います。

──アーティストにもよりますが、過去の楽曲が黒歴史として扱われてしまうようなケースもたまにあることを思うと、いまだに最初期の頃の曲も普段からライブで演奏し、ベストを出す際にはエントリーもして、バンドにとっての大事な財産にしているPENICILLINの姿勢は大変素敵だと思います。

千聖:個人レベルで言えば「天使よ目覚めて」なんかは前回の20周年テイクの方が完璧に近いから、原曲の方は「う〜ん」というところは多少あるけど(笑)。でも、今回の『30 -thirty- Universe』については、聴いてくれる人たちそれぞれの思い出とかもあるだろうし、当時のオリジナル性を重視した感じかな。

──時系列順に曲が並んでいることにより、DISC 2が名曲「花園キネマ」で始まるというのもなかなかオツですよね。もともとこの曲は雰囲気的にノスタルジーの漂うものではありましたけれど、オリジナル音源であらためて聴くことにより、郷愁がさらに倍増する感覚がありました。

千聖:「花園キネマ」は20周年の時のファン投票で1位だった曲だよね。

O-JIRO:DISC 2の中だけでも10年分の曲が詰まってるので、自分で聴いててもこのベストはいろんなことを思い出すし、テンションも上がってきますね。「だんだん自分もいろんなことをやれるようになっていったんだな」っていうことが、音から感じとれるところも良いんですよ(笑)。

HAKUEI:時系列順になってるのはそういう意味でもいいよね。「このへんの時期はアレンジに懲り過ぎて大変な思いをしたな」とか「その反動で今度はシンプルになってる」とか、「この時期に喉の手術をしたんだな」とかね。僕もこのベストからは時の流れというものを感じます。当時の気持ちや、トレンドとかも思い出しますもん(笑)。ちなみに、同じアルバムに入ってて同時期に発表されてるものはその時の曲順に沿って入れてます。

千聖:ギターもこの時期から変則チューニングを使い出したんだなとか、この時期のギターサウンドはロックンロールなスタイルだったんだな、あの時期はヘヴィでスラッシュメタルみたいな音が好きだったんだ、っていうことが聴いてると自分でもよくわかる。もちろん、当時のことを思い出すっていうのは俺たちだけじゃなくファンの人たちもあるんじゃないかな。それと同時に、ある時期までは聴いてたとか、この時期からは知ってるみたいな人にとっても、PENICILLINがたどってきた30年の歴史の流れ全体にアクセスしやすいつくりのベストになってると思う。

HAKUEI:これだけ長くやってるバンドなんでここまでにはいろいろありましたけど、とにかくガムシャラにいっぱいいっぱいでやってた時期も経て、近年はヴォーカリストとして単にメロディーに合わせて声を出すというのではない表現というか、ちゃんと言葉として聴き手に責任を持って届けられるように表現したいという気持ちが強くなってきているので、そういう変化や変遷もこのベストからは感じてもらえるはずです。


──つくづく、この『30 -thirty- Universe』は聴き応え満点ですね。各時代のオリジナル曲ばかりか、マニアックなDISC 4には「天城越え」「1/2の神話」のカバーまで収録されているところにも隙のなさを感じます。

千聖:そこは半ばネタというか(笑)、ひとつの経歴として入れた。

O-JIRO:どちらも2015年に出したカバーアルバム『Memories ~Japanese Masterpieces~』に入っていたんですが、僕的にはあれってもっと評価されていいのかなと思ってるんですよ。どれもクオリティ高かったけど、特に「天城越え」と「1/2の神話」は今まで聴いたことなかったっていう人にも、ぜひ今回のベストで聴いてもらいたいなと思ってます。

──これまたDISC 4のことにはなってしまうのですが、個人的には「男のロマンZ」がここにエントリーされたことも感慨深いです。97年に発表されたアルバム『Limelight』に収録されていた「男のロマン」が源流だとすると、2002年のシングル『花園キネマ』に収録されていた「男のロマンZ」はその進化形ですが、このシリーズは「あのPENICILLINが?!これを??」という衝撃を聴き手に与える曲であるという点で、ある意味とても際立っています。

HAKUEI:それ、よく言われるんですよ。ファンの人もだけど、若いミュージシャンの方からも。やっぱあれは相当インパクトあったみたいですね。それだけの存在感があるってことは、ここに入れといた方がいいだろうとなりました。

──特に、最初の「男のロマン」の頃のPENICILLINのパプリックイメージは、あくまで“音も見た目も尖っていてカッコ良いバンド”というイメージをだったので、そんなPENICILLINがクワガタ捕りについて歌うとは予想もしていなかったのです。

HAKUEI:そうだったみたいですねぇ。

千聖:いやでも、その「カッコ良いバンドというイメージ“だった”ので」っていうのはちょっと引っかかるけど(苦笑)。

──すみません。失礼いたしました(笑)! 今はPENICILLINが多様性を持ったバンドだと知っているのですが、当時はなにしろあの曲の内容と見た目のギャップに驚いたのですよ。

HAKUEI:でしょうね(笑)。自分でもあれは「このまま出すの?」って思ったくらいですから。もともとは仮歌詞だったものを、プロデューサーから「面白いからこれでいいじゃん」って言われて出しちゃった感じだったんですよ。

O-JIRO:あと、今回のベストに入った「男のロマンZ」の方はシングル『花園キネマ』のカップリングとしてしかこれまでは音源化してなかったんで、その点でもけっこうレアな選曲だと言えると思います。

千聖:レアさで言うと、DISC 3の「SOL」も2014年に出したシングルにしか入ってなかった曲だよね。アルバム未収録ですよ。

──当然ながら大ヒット曲「ロマンス」もDISC 1に収録されていますし、やはりこのベストは必携アイテムですね。

千聖:なんか、最近ファンレターで知ったんだけど、若手のとあるヴィジュアル系バンドが「ロマンス」をカバーしてたらしい。でも、そこのバンドのファンの中には俺たちの「ロマンス」を聴いたことがないから「そのバンドのオリジナル曲」と思ってた人たちがいたみたいで、本当驚いた(笑)もはや谷村新司の「昴」状態(笑)。

──「ロマンス」は98年発表の曲ですから、俗に言うZ世代以降の方たちにとってはもはや「生まれる前」の曲なのでしょうね。とはいえ、そうした人々に向けての間口としても今回の30th Anniversary BEST『30 -thirty- Universe』は最適だと思われます。

千聖:そう。俺としては、そういう子たちにもこのベストを「こっちオリジナルだから聴いてみてね」って伝えてあげたい(笑)

──ところで。いよいよ2月18日からは全国ツアー<30th anniversary TOUR「30 -thirty- Universe」>も開始となります。PENICILLINにとってこの規模のツアーはコロナ禍を経て3年ぶりとなるので、ここにかける想いにはひとかたならぬものがありそうですね。

千聖:岡山とか広島とか、場所によっては7〜8年ぶりで行くところもあるし。本数もわりと多いですが、どこに来てもらっても楽しめるようなライブにしていきたいと思ってる。しかも、新譜のツアーともまた違って今回は周年のベストを出した上でのツアー。PENICILLINが歩んできた30年の軌跡をみなさんと楽しんでもらいたいし、久しぶりにライブに来るという人たちにもしっかり楽しんでもらえるように準備してるから是非。

O-JIRO:『30 -thirty- Universe』は時系列に沿った曲順ですけど、ライブの方はここに入ってる60曲以上の中から1本のライブとしてまんべんなくセットリストを組んでいくことになるので、きっと面白い感じになっていくと思います。

HAKUEI:時代って変わってくものだし、たったこの数年でも音楽を世の中に発信する方法がぐいぐい変わってきてる中で、昔と比べたらヒット曲が出難いとか、CDが売れないとか、それこそコロナ禍でライブの動員も昔のようにはいかないとか、いろんなことが言われてるじゃないですか。僕らもこの30年ずっとバンドをやって来てるからそれぞれの時代のことを知ってますけど、確かに今ほど普通にやってるだけじゃ自分たちの音楽を届けるのがなかなか難しい時代はないなっていうことは思うんです。でも、PENICILLINの場合はずっと応援してきてくれているファンの方たちに支えられてますからね。だからこそ、今度のツアーはしばらく行けてなかったところにも行きますし、ライブ自体ちょっとご無沙汰してたっていう人とかも、みんな必ず満足させて帰そうと思ってるので、ぜひ足を運んでもらえたら嬉しいです。


──そういえば、HAKUEIさんは昨年末に体調を崩されたのを切っ掛けに、より1本ずつのライブを大事にしていくことを考えて禁煙を始められたのだとか。その成果も既に出ていらっしゃる感じですか?

HAKUEI:1ヶ月前、2週間前と比べても今の体調はかなり良いですね。それが禁煙のせいなのかはまだちょっとわかんないですけど、気分的なものもけっこう違います。今度のツアーは良い状態で臨めると思いますよ。

──ファイナルとなる4月16日の新宿BLAZEまで、どうぞご無事で完走されてください。最後に、それ以降の2023年夏やそれ以降の動きについて匂わせ程度でもなにかしら教えていただくことは出来ますでしょうか。

千聖:そのあたりはまた別途取材してください(笑)!

HAKUEI:まぁ、今後の予定はO-JIROくんの気分次第ですかね(笑)。

O-JIRO:いやいや、僕の気分次第っていうことはありません(笑)。

取材・文◎杉江由紀

『30 -thirty- Universe』

2023年2月1日(水)発売

【限定盤】
商品区分:4CD+Book
仕様:ゲイトフォールドLPサイズジャケット+4CD+ブックレット
品番:UPCY-90192
価格:¥12,100(本体価格 ¥11,000 税率10%)

【通常盤】
商品区分:3CD
仕様:3CDデジパック+ブックレット
品番:UPCY-7089/11
価格:¥6,600(本体価格 ¥6,000 税率10%)

【「30 -thirty- Universe」収録曲】
Disc1
01.God of grind (30 -thirty- Universe ver.)
02.Desire (30 -thirty- Universe ver.)
03.Chaos (30 -thirty- Universe ver.)
04.螺旋階段 (30 -thirty- Universe ver.)
05.冷たい風 (30 -thirty- Universe ver.)
06.Little Love Story
07.Quarter Doll (30 -thirty- Universe ver.)
08.Realxxx
09.BLUE MOON
10.天使よ目覚めて
11.99番目の夜
12.CRASH
13.make love
14.ロマンス
15.Japanese Industrial Students
16.イナズマ (Live ver.)

Disc2
01.花園キネマ
02.one star
03.腐海の砂
04.NEW FUTURE
05.四次元ダイバー
06.SAMURAI BOY
07.LOVE DRAGOON
08.JUMP#1
09.hyper chord
10.太陽
11.RAINBOW
12.orb
13.WARP
14.BLACK HOLE
15.Rosetta

Disc3
01.少年の翼
02.幻想カタルシス
03.秘蜜のデザート
04.快感∞フィクション
05.SOL
06.戦慄迷宮
07.Dead Coaster
08.Stranger
09.飛翔遊戯
10.メランコリア
11.Lucifer 〜光をもたらす者〜
13.SEX
14.Too young to die!
15.パライゾ-30th ver-
16.Time Machine

Disc4(限定盤のみ)
01.太陽の国
02.地球
03.Tommorrow
04.ボニー&クライド (30 -thirty- Universe ver.)
05.走れメロディー (30 -thirty- Universe ver.)
06.男のロマンZ
07.FOR BEAUTIFUL MAD HUMAN LIFE
08.MIND MASTER MIND
09.白髏の舞
10.ハカナ
11.Blood Red Snow White
12.君へ
13.SCREAM
14.DEATH DANCE
15.天城越え
16.1/2の神話

<PENICILLIN 30th Anniversary Tour 「30 -thirty- Universe 」>

2023年
2月18日(土) 西川口Hearts
開場17:00/開演17:30

2月19日(日) 柏PALOOZA
開場17:00/開演17:30

2月23日(木祝) 京都MUSE
開場17:00/開演17:30

2月25日(土) 福岡DRUM Be-1
開場17:00/開演17:30

2月26日(日) 福岡DRUM Be-1
開場16:00/開演16:30

3月05日(日) 仙台MACANA
開場17:00/開演17:30

3月11日(土) 浜松窓枠
開場17:00/開演17:30

3月12日(日) 名古屋BOTTOM LINE
開場17:00/開演17:30

3月18日(土) 札幌cube garden
開場17:00/開演17:30

3月19日(日) 札幌cube garden
開場16:00/開演16:30

3月25日(土) 大阪umeda TRAD
開場17:00/開演17:30

3月26日(日) 神戸VARIT.
開場17:00/開演17:30

4月08日(土) 岡山YEBISU YA PRO
開場17:00/開演17:30

4月09日(日) 広島Live space Reed
開場17:00/開演17:30

4月16日(日) 新宿BLAZE
開場17:15/開演18:00

・チケット
オールスタンディング:8,500円(税込/D別) ※未就学児入場不可
福岡・札幌 各2DAYS通し券[FC先行のみ・整番は2日間共通]:15,000円(税込/D別)

(問)サイレンエンタープライズ 03-3447-8822

・チケット販売スケジュール
対象公演:2/18西川口Hearts~3/12名古屋(8公演)
一般発売(先着)受付中

対象公演:3/18札幌~4/16新宿BLAZE(7公演)
一般発売(先着)
2月25日(土)~

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