【ライブレポート】Teleの音楽がなぜ今求められているのか

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▲<nai ma ze>東京公演

谷口喜多朗のソロプロジェクトTeleが、東京及び大阪でワンマンライブ<nai ma ze>を開催。今回BARKSでは、この2公演について綴ったオフィシャルレポートを独占掲載する。

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2月18日東京・Spotify O-EAST、2月24日大阪・BIGCATにて、Teleがワンマンライブ<nai ma ze>を開催した。

Teleにとっては2度目のワンマンライブであり、東京以外では初。Spotify O-EASTは初ワンマンよりも約2倍のキャパシティで、BIGCATは約9か月前に他2組とともにTeleとして初めてライブを行った原点の地。どちらもTeleにとっては大切な挑戦となったが、チケットはソールドアウト。<nai ma ze>は、現在Teleがどういったアーティストであるか、そして、その音楽がなぜ今求められているのかを明確に示すメモリアルなライブとなった。

Teleは、あらゆる価値観やこの国の在り方が急速に変化する時代において、もっといえばマスク生活や格差社会が当たり前の中で大人になっていく世代にとって、まだ名がついていない世の状況、どの定義にも当てはまらない暮らし、そこで生きる人たちの自分ですら気づいていない感情を歌っている。だから私たちはこの時代にTeleの音楽を必要とする──そう確信させるライブだった。



▲<nai ma ze>東京公演

<nai ma ze>は「ロックスター」からスタート。これまで自分を救ってきたロックスターたちの役割を、次は自分が果たすことで誰かが息をできる状態にする。そんな宣誓のようでもある開幕だ。

東京ではそのまま「東京宣言」へとつなげ、大阪では「私小説」を2曲目に演奏。《美しい愚者よ ただ生きよう、どうにせよ僕ら醜いから》と歌い上げて「いくぞ!」とオーディエンスを引っ張ると、ここに集まった人たちが音に合わせてそれぞれの生命力を迸らせる。2階から見ていると、人間のエネルギーが渦巻いているその光景が実に美しかった。



▲<nai ma ze>東京公演

Teleは、人間の本能を信頼しているのだと思う。諦めと隣り合わせの生活。手に入れ方がわからない、上の世代が実現している幸せ。じりじりとのしかかる、自分には何もない、自分は何者にもなれない、という想い──それでも、Teleは悲観しない。なぜならTeleは、どれだけ退屈さや醜さが覆いかぶさっても、人にはよりよく生きようとする本能があることを知っているから。人間には愛と呼ばれる本能があることを知っているから。Tele自身の人間的エネルギーに満ちた歌と演奏は、奥底で眠っている感覚を呼び覚ましてくれるようだった。

Teleは何度も「行儀よくしなくていい」とオーディエンスへ語りかける。ライブという空間の外に出れば、人間の本能を抑え込む事象が溢れている。Teleはここで、それらを一つひとつ解き放とうとしてくれるのだ。東京公演では「私小説」を歌ったあと、「3年弱僕たちを縛っていた呪いみたいなものは一朝一夕では解けないから、今日無理やりみなさんの呪いをこっぴはがしにやってきました」と言葉をかけた。



▲<nai ma ze>東京公演

コロナ禍に活動を始めたTeleにとっては<nai ma ze>が初の声出しOKライブとなった。「Véranda」を演奏する前、東京では「ようやく声を出していいようですよ。だから今日この日から、僕のライブではお行儀のいい人はいらないってことでしょ? そうでしょ? だから手始めにクラップからいこう。あなたたちが手拍子をしてみよう」とオーディエンスの身体をほぐし、大阪では「初めて大阪にライブをしにきたときに新大阪駅の賑やかさ、騒がしさに感動して気分が上がったことを覚えています。まさかそんな街出身のみなさんが、この程度で終わるわけがないですよね?」と大阪に寄り添いながらクラップを仰ぐ。呪いを引っ剥がした声たちが重なり合うと、凄まじいエネルギーが会場中を満たす。そしてTeleはハンドマイクで愛を叫び、オーディエンスをますます解放させる。

中盤では、未発表曲「花筏」を初披露。桜の花びらがいかだのように川を流れることをテーマにした、アコースティックギターと歌から静かに始まり、エモーショナルなギターソロからピアノへとつながるアウトロが印象的なバラード。オーディエンスはじっと集中して聴きに入って、演奏後には大きな拍手を送った。





▲<nai ma ze>東京公演

Teleの足踏みにベースライン、そしてお客さんのクラップが乗っかっていったのは、デビュー曲「バースデイ」。《僕らに明日はないんだぜ。》《僕らに夢などないんだぜ。》と叫ぶにもかかわらず、やはりその音楽からは悲観を感じさせない。大阪公演ではアウトロにサポートメンバーのソロ回しを加えて、「歓声が小さいよ!」と煽りながら、自身も飛び跳ねて動き回る。何もないからこそ、ここから一緒に何かを見つけていこうよ──まるでそう言うかのように、一人ひとりを巻き込みながら逞しく引っ張っていってくれるパフォーマンス。演奏が終わり「ありがとう!」と叫ぶと、喜怒哀楽という言葉には収まらない感情に満ちた大歓声がフロアから湧いた。

そんな「バースデイ」の演奏後、サポートメンバーが一度ステージを去ると、Teleは今の想いを丁寧に紡いだ。

「リハーサルのときにステージの端から端まで歩いたら13歩くらいだったんですよ。多分僕はこれからもっと大きいところでやるだろうけど、第2回目のワンマンのステージは端から端まで13歩。これが100歩とか、1,000歩とか、10,000歩になったときには、きっと僕の足だけじゃ足りないから。ここに集まってくれたみなさんの歩幅も一緒に足していきたいなと思ったんです。大きいところでやるとなっても今日13歩の会場でやったことは忘れないし、13歩の会場に集まってきてくれたみなさんを忘れないし、13歩の会場で演奏してくれたミュージシャンを僕は忘れない。だからこれからもっと歩幅の大きいステージでやっていく僕を、できれば忘れないでください」(Spotify O-EAST公演)

「ここBIGCATで、Teleは初めてライブをしました。初めてライブをした場所でワンマンライブができて、これだけ人が集まって、本当に嬉しいです。どうもありがとう」(BIGCAT公演)

そして6畳間で作ったという「クレイ」を弾き語りで披露。まるで隣にいる大切な人へ語りかけるようなトーンで《息を止めちゃダメだよ。》と教えてくれる。人が生きる理由や意味、それは「生きている」という事実以上に必要なことなのだろうか。



▲<nai ma ze>大阪公演

そのあと、青色に染まったステージで最新曲「鯨の子」を演奏したシーンも<nai ma ze>のハイライトのひとつ。他の鯨には聞こえないと言われている孤独な鯨の52ヘルツの鳴き声のように、聞き逃されている声にTeleは音楽を通して耳を傾けるし、ないとされてきた存在に音楽を通して目を向ける。

本編は「comedy」「ghost」で締め括った。白い光が後ろから射す中でかき鳴らされる轟音には、悲しみや怒り、それ以上の愛と祈りが込められていた。その音がBIGCATの空間を満たす中で、頭を大きく振っている少年が見えた。彼はこのライブで、「ぼく」から「僕」へと変われる何かを掴んだのだろうか。

アンコールでは「花瓶」を演奏。オーディエンスの大合唱、コール&レスポンスが鳴り響く。呪いや束縛するものから解き放たれた人間のエネルギーが、色付いて目に見えるようでもあり、全身を震わせた。Teleも思わずこう言葉にする「声を出しちゃいけないと言われた時期に活動を始めたんですけど、最悪なことばっかりの中で唯一よかったなと思えるのは、こうやって緊張感ややっちゃいけないことからの解放みたいなものを、僕のことを好きでいてくれる人たちと一緒に味わえたこと。それだけでも僕は2021年から音楽を始めて本当によかったと思ってます」。



▲<nai ma ze>大阪公演

そして最後は、「誰からも目を向けられていなかった時期を嘘にしたくないから」と、Teleが3ピースバンドだった頃に書いた「生活の折」を歌った。次は9月から10月にかけて<Tele TOUR 2023 「祝 / 呪」>を全国6か所にて開催することを発表。バンド結成、ソロプロジェクトとしての始動、BIGCATでの初ライブ、<nai ma ze>、<祝 / 呪>──何者でもなく何にもない場所から地続きにあるすべての出来事を大事にしながら、Teleは足を前に進めていく。この素晴らしき表現者の紡ぐ音楽は、この先も誰かの心を生き返らせるだろう。

▲<nai ma ze>大阪公演

文:矢島由佳子
撮影:東京公演=山川哲矢/大阪公演=渡邉一生、松本いづみ

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『鯨の子』

2023.2.15 Digital & Subscription Release
https://tele.lnk.to/Kujiranoko

<Tele TOUR 2023 「祝 / 呪」>

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プレイガイド最速先行
●受付URL
https://eplus.jp/tele/
●受付期間
2/24(金)21:00~3/8(日)23:59
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9月28日(木) 札幌・PENNY LANE 24 18:15/19:00
(問) WESS info@wess.co.jp
10月3日(火) 名古屋CLUB QUATTRO 18:15/19:00
(問) サンデーフォークプロモーション http://www.sundayfolk.com
10月5日(木) 仙台・Rensa 18:15/19:00
(問) GIP https://www.gip-web.co.jp/t/info 
10月11日(水) 福岡・BEAT STATION 18:15/19:00
(問)キョードー西日本 TEL:0570-09-2424  平日・土曜11:00~15:00
10月13日(金) 大阪・なんばHatch 18:00/19:00
(問)夢番地YUMEBANCHI(大阪) TEL:06-6341-3525  平日12:00~17:00 / 土日祝 休
10月15日(日) 東京・Zepp Shinjuku (TOKYO) 17:00/18:00
(問)DISK GARAGE https://info.diskgarage.com/
チケット料金 税込 ¥ 4500
※ドリンク代別 ※未就学児入場不可 

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