​​【インタビュー】#STDRUMS、「辿り着いたカセットテープレコーディング」

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ユージ・レルレ・カワグチによるドラムソロ・プロジェクト#STDRUMS。東京やロンドンでの路上パフォーマンスをはじめ、平沢進+会人のサポートや全国津々浦々を巡るライブハウスツアーなど精力的な活動をしている彼が、アルバムと映像作品をリリースした。新作『JUST A PHENOMENON』では70年代のロックサウンドを追い求めるあまり、カセットテープでの録音に行き着いたという経緯や、ドラムソロでのパフォーマンスに見い出している希望などをたっぷり聞いた。

◆#STDRUMS 関連映像&画像

■コロナ後のロンドンで受けたカルチャーショック

──昨年末にアルバム『JUST A PHENOMENON』を完成させ、それとリンクした映像作品『JUST A PHENOMENON - LONDON THE MOVIE -』をリリースされました。昨年はようやくロンドンへ行けたとか。

#STDRUMS(エスティドラムス):2022年の6月、3年振りにロンドンに行きまして、何度も渡英しているにも関わらず改めてカルチャーショックを受けました。空港に降りたときからほとんどの人がマスクをしていない。人々がお互いを尊重しあって生活している。「人が人として」存在していることに、音楽の在り方にも改めてポジティヴな気持ちになりましたね。

──日本の状況とは違っていた?

#STDRUMS:私はストリートで演奏するので、街の人たちにも「COVID‑19 はどうなの?」って聞いていたんですが「最初は皆怖がっていたけど、もういい」って。政府やメディアが言うことにただ従うのではなく、自分たちで意味と理由を考えて判断できるんですよね。大切なのは、マスクをする人にも理由があって、“お互いに認めあって共存している”点です。それぞれの選択を容認できるのがロンドンの好きなところです。

──ロンドン滞在中の様子は、映像作品『JUST A PHENOMENON - LONDON THE MOVIE -』としてYouTubeで公開されました。音楽作品ではありますが、2022年のロンドンを収めた貴重なロードムービーですね。


#STDRUMS:到着初日に行った会場「THE OLD DISPENSARY」でライブが決まって。旅のハイライトとなっている気合い充分の演奏です。マイキングされていないドラムや、踊ってくれる人々、喧騒、演奏へのレスポンス、街並みや人々……ロンドンのリアルが無加工で収録されています。2022年に日本人が見たイギリスという視点でも面白い作品になっている筈です。多くの人に見ていただいて感じるものがあれば嬉しいです。

■“繋ぎ”を意識することでループする

──アルバム『JUST A PHENOMENON』はどのような経緯で作られたのですか?

#STDRUMS:振り返ると、平沢進+会人(EJIN)のサポートドラムで出演した『24曼荼羅(不死MANDALA)』がきっかけですね。スネアドラムを24万打カウントしていく(90000からスタート)様子を動画にして特設サイトにアップしていく面白い企画で。そのとき撮影した制作途中の楽曲たちが『JUST A PHENOMENON』に収録されています。アルバムの全体像が見えてきたのは、それらの新曲がライブで成立するようになってからですね。

──ライブは重要だった?

#STDRUMS:私は偶発的だったり即興的なものに能力が向いているので、プログラムされた同じ音を出すオケ(楽曲)と一緒に演奏することに矛盾を感じていました。有機性をどこで活かせるかと考えたときに、曲同士の繋ぎに意味が生じるのではないかと。テーマとするひとつのフレーズを曲中や繋ぎに散りばめることで、THE WHO の『TOMMY』のようなストーリー性を持たせられるのではと感じました。

──今回はレコーディングにもかなりこだわったそうですね?

#STDRUMS:マスタリングエンジニアをやっている友人と、どういうレコーディングをしたら面白い音が録れるんだろうって話をしてるときに、ネジ倉庫でレコーディングするのはどうか?って提案されたんです。

──倉庫でレコーディング?

#STDRUMS:はい。『24曼荼羅(不死MANDALA)』の「108312」は、多摩川の河原で叩いたものをフィールドレコーディングしたものなんですけど、外なので当然、風の音とかノイズが入っているんですね(https://www.susumuhirasawa.online/post/108312)。それがエフェクトとしてとてもよい効果を生みました。『LOTUS ROOT』も屋内倉庫でのレコーディングだったので自然な流れでした。


■倉庫でのカセットテープレコーディング

──倉庫でのレコーディングのメリットをもう少し詳しく聞きたいです。

#STDRUMS:日本でのスタジオレコーディングは防音が非常にしっかりしているため、お互いのマイクへの“被り”が少なく編集しやすい一方、どこも音が似たり寄ったりになってしまう気がしています。今回使用したネジ倉庫は広い敷地で、防音の概念もないため、オープンに飛んでいく音と倉庫として反響する音が収録できるわけです。さらに録音媒体をカセットテープにしました。

──カセットテープ? 

#STDRUMS:“ダイレクトレコーディング”という演奏がそのままマスターテープに録音され、のちに編集どころかミックス作業すらできない挑戦的な環境です。昨今はドラムを録音するのにたくさんのマイクを使いますが、倉庫では3本立てただけ。ローファイではなく、ナチュラルな音を目指した結果という感じです。



──一般のレコーディングの概念とは大きく違いますね。

#STDRUMS:70年代ブリティッシュロックの質感がテーマでした。当時のレコーダーって8チャンネルとかで、入力数がまだまだ少ないんですよね。彼らはそこで限りある技術とアイディアを使った。演奏は一発録りだし、オーバーダビングすれば音量の負荷が大きくなる。その“負荷”こそがロックの音を生み出したと思っているんです。

──分かります。ただ、現代の技術ではそれをデジタル環境で再現することも簡単ですよね?

#STDRUMS:それらしい音は作れるとは思いますが、“負荷”は得られないんですよ。結局デジタルは“対応”して負荷が掛かっているような演出処理をするので。カセットテープっていう細い磁気テープを使えば、入力が強すぎて歪んじゃったりする“負荷”を得られるんじゃないかと思ったんです。今回の作品ではベースドラムにいい結果が表れていると思います。



──機材はどういうものを揃えたのですか?

#STDRUMS:エンジニアとそのご友人がカセットレコーダーやテープ・イコライザーやミキサーなどのこだわりの機材を持ち寄ってくれて、私が望んでいる質感を的確に録音してくれました。アナログレコーディングをとても楽しんでくれて、意気投合しながら進んだ有意義な時間でした。

──倉庫レコーディングでは結局、何曲録音されたのですか?

#STDRUMS:4曲ですね。「SATURATIONS」は the band apart の原ちゃん(ベース:原昌和)に弾いてもらったおかげで、ワンループを弾き続けても飽きない音楽的な強さが生まれました。「EAR INFECTION」から「LINKED」までは一気に続けて一発撮りです。

──アルバムの後半はレコーディング場所がまた違いますね?

#STDRUMS:後半は吉祥寺のGok Soundです。スタジオが主催したクラウドファンディングのライブイベントの音源を拝借しました。コンクリートが1枚張りの爆鳴りする部屋で、倉庫と同じ条件でレコーディングをしました(※現在閉店を余儀なくされ移転中)。ライブなのでこちらも全て一発撮りです。

──それはアナログ? デジタル?

#STDRUMS:こちらはデジタルを駆使した仕上がりにしています。4曲目の「LINKED」と5曲目の「MARCH OF KOKE」の繋ぎをよく聴くと、シンバルがふたつ重なっている箇所があります。この繋ぎ目に“循環”という意図があります。

──その意図は、今回のアルバムタイトル『JUST A PHENOMENON』に込めたものと関係が?

#STDRUMS:アルバムのもう1つのテーマは“循環していくもの”。曲同士を接着していく“繋ぎ”を発展させていたときに、ループするライブ形式にリンクしたんです。セットリストは変えずに、繋ぎの部分が有機的に毎回違って、ライブがどこで終わっても、どこから始まっても成立するような。2回同じ曲が演奏されても新鮮に感じる作りにしてみたかったんです。

──同じに見えてもライヴごとに違う体感ができるわけですね。

#STDRUMS:nakaitoshifumi と全国を周った<RICH BUDDIES JAPAN TOUR 2022>でも「LINKED」で始まって「LINKED」に戻ってみたり。これらの意図を基軸に演奏しました。


──最後の「LETTER YELLOW」は仙台のライブハウスFLYING SONでのライブ演奏というのも #STDRUMSの現場感とリンクしますね。

#STDRUMS:「LETTER YELLOW」はドラムの後ろにレコーダーを一個置いただけにも関わらず綺麗に録れてて。日本武道館が聖地と呼ばれるようになった理由と云われているディープ・パープルの『Made In Japan』なんかもこういった偶然から生まれた作品なんじゃないかと感じています。鳴っている音や使っている機材は同じなんだけど、環境によってフェーズが変わっていくようなイメージですかね。その日の気分や体調から生じる有機性や偶発性が、同じオケでも新鮮に感じさせていく。「LETTER YELLOW」はループから抜けた“エンディングルート”という立ち位置です。


──収録曲は以前からやっているのもあるし、新曲もありますが、全体的にメロディアスになっている気がします。

#STDRUMS:ドラムソロという形態から想像できる概念を超えて、“いい曲を聴けて踊れるアーティスト”になりたいと思っているので、楽曲に触れていただけるのは嬉しいです。トラックにもドラムを入れたり、サンプリングを増やすようにしました。気を付けないと音を埋め尽くしてしまう性格なので、オケに隙間を増やしてコントラストを付けようと意識しました。

──「EAR INFECTION」は特にメロディが良いです。

#STDRUMS:「EAR INFECTION」はロンドンのキーパーソンとも言える友人Javi Pérez(ハビ)の作曲で、『LOTUS ROOT』にも収録されている楽曲なのですが、レコードの都合上ショートバージョンになってしまったんですよね。今回ようやくフルバージョンをお届けすることができました。

──春にはそのハビが日本にやってきて一緒にツアーを回るとか?

#STDRUMS:そうです。ハビのバンド“ZURITO”と4月から全国ツアー<RICH FOREVER JAPAN TOUR 2023>が始まります。<UNDERGROOVELAND>での来日以来なので6年振りですね。端的な言い方になりますけど、“音楽的”、“情熱的”という意味で日本の誰よりも上手いギタリストだと断言します。楽器をやる人も、そうでない人もヨーロッパのストリートで鍛え上げられた彼らの音楽と演奏に衝撃を受けてほしいです。

──それは見逃せませんね。

#STDRUMS:東京では新宿LOFTで私の自主企画<RICH FOREVER SEMINAR>を3年振りに開催します。去年一緒にツアーを回った nakaitoshifumi と、そのとき苫小牧で対バンしてくれたタートルテイル。垣根を壊す担当のSMASH YOUR FACEに私がサポートドラムで参加するインビシブルマンズデスベッド。文化と世代を交流させて、音楽のみならず、いろんなアートや表現を見て感じられる。ツーステージを使って、平日の夜なのに“フェス”を濃縮して体感できる1日にしようと思っています。必ず来るように!

取材・文・撮影:高畠正人/アーティスト写真・シマモトアンナ/倉庫写真:#STDRUMS



ZURITO (UK) & #STDRUMS (TOKYO)
<RICH FOREVER JAPAN TOUR 2023>

4月14日(金) 新宿 ROCK INN DICE
4月15日(土) 高円寺 SHOWBOAT
4月20日(木) 福岡 como es
4月22日(土) 札幌 REVOLVER
4月23日(日) 旭川 MOSQUITO
4月28日(金) 福岡 UTERO
4月30日(日) 岡山 PEPPERLAND
5月1日(月) 香川 TOONICE
5月3日(水祝) 高知 CHAOTIC NOISE
5月5 日(金祝) 福井 NoSiDE
5月7日(日) 大阪 火影
5月8日(月) 京都 RAG
5月13日(土) 岐阜 多治見市役所 駅北庁舎

<RICH FOREVER SEMINAR vol.10>
5月31日(水) 新宿 LOFT
出演:
ZURITO (from UK)
#STDRUMS
SMASH YOUR FACE
インビシブルマンズデスベッド
nakaitoshifumi
タートルテイル (札幌)
…and more!

※入場者全員に特製CDプレゼント(非売品)

OPEN 17:30 / START 18:30
ADV 3500yen / DOOR 4000yen (共に+1d)
特製プリントチケット販売開始:3月26日(日)12:00~
https://shop.rerure.com/product/rfs10_ticket/
※受け付け開始までアクセスできません。

◆#STDRUMS オフィシャルサイト
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