【インタビュー】ブラジル音楽を背負う今井亮太郎「僕がやらなきゃいけないのは、新しい門戸を広げて、新しいファンを増やすこと」

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■引っかかってもらうためにも、尖っていないといけない

── みなさんの想像のおもむくままに楽しんでいただければと。そしてもう一つ、お聞きしたかったのは、前回僕がお話を聞かせてもらったのが『コバルト・ダンス-COBALT Dance-』の時で、これからブラジル音楽が日本で盛り上がっていくためには、パワーのある、魅力的なアーティストが増えていかなきゃいけないというお話をされていましたね。今はどういう状況なのか、あらためて聞かせてください。

今井:いや、まったくそこは変わってないです。今ブラジル音楽を日本でやっている若い子が全然いなくて、20代や30代のアーティストが、少しはいますけど、ほぼいない状態です。たとえば小野リサさんは僕らの世代のアイコンで、リサさんを目指して弾き語りを始めた人もいるだろうし、影響力がすごく強かったんですね。そういう意味で、僕がもっと活躍していれば「ああいうことをやりたい」という若いミュージシャンが増えたんじゃないかって、そこは反省もしているし、背負っていかなきゃいけないだろうなと思うんです。

── はい。

今井:オルガンを始めたのも、実はそういう意味があるんです。まさに『コバルト・ダンス-COBALT Dance-』は、このアルバムで勝負したいと思って作った作品だったんですけど、あの時は自分で思ったほどの結果は出なかった。それを人のせいにするのか、自分のせいにするのかを考えた時に、人のせいにするのは簡単だけど、自分に問題があったんじゃないか?というところにスポットライトを当てようと思った。それで2016年、17年ぐらいに考えたのが、僕はトップアーティストと比べて、作曲能力はそこまで劣ってはいない。ライブのパフォーマンス力、MCなどの力もなくはない。そうやって一個ずつ確かめていった時に、足りないものを見つけて、それがピアノ力だったんです。当時、ブラジル音楽のフィールドだったら負ける気はしなかったんですけど、ピアニストとして全ジャンルのトップアーティストと比べると、自分がそこに割って入れるのか?と言ったら、力が足りない。それで基礎を全部やり直して、フォームも直しました。そのあとに『独奏~at Hall~』(2020年)というアルバムをインディーズで出したんですが、それは2018年にファンの人が企画してくれた機会で、小ホールで、スタインウェイで、ピアノソロでやったコンサートなんですけど、基礎を一から見直したことで音色も全然違ったし、音楽に対する考え方も変わったし、細かいところをもっと詰めていくようになった。それが『コバルト・ダンス-COBALT Dance-』以降の時間でした。



── はい。なるほど。

今井:その年(2018年)にちょうど、デビュー5周年のベストアルバムをリリースさせていただいて、それも一区切りだなと思って、これからブラジル音楽を背負って活動していくために、次にチャレンジするのは何だ?と思った時に、「オルガンだ」と思ったんですよ。もともと僕はワルター・ワンダレイというブラジルのオルガニストを、小学校6年生ぐらいの時に聴いて、家にあったピアノで真似したのがブラジル音楽との出会いなので、オルガンに憧れていたんですよ。でも家にはなかったし、あと、足を使わなきゃいけないでしょう。だから手が出ないというか、足が出ないというか(笑)。

── あはは。うまい(笑)。

今井:これは足が出ないなと思いつつ、なんとなくいいなと思っていたんですね。それが40歳になった時に、「憧れているならやったほうがいい」と思って、2018年の秋に独奏コンサートをやった直後、もう閉店しちゃいましたけど、モーション・ブルー・ヨコハマさんでライブをやった時に、MCで「1月の僕の誕生日ライブでハモンドオルガン奏者デビューします」って言っちゃったんです。まだ持ってもいないのに。

── 前のめりですね。すごい。

今井:そのあと購入して、練習して。ゼロからなので本当に大変だったんですけど、でも狙いとして一つあったのは、ピアノにはアカデミックな楽器というイメージがあり、ピアノで出せる世界観はすごく広いんですけど、同時に、一般の人が思うブラジル音楽を考えた時に、「楽しい、華やか、派手」というイメージがありますよね。それをピアノで演奏すると、アカデミックな、かっこいい方向に行っちゃうんです。それはそれで全然悪くないんですけど、それだけでは違うなと僕は思って、オルガンならそこを打破できるんじゃないか?と。逆にピアノを弾く時は、もっとアカデミックで繊細なサウンドを作れるんじゃないか?と。



── 二刀流にすることで、どっちも研ぎ澄ますことができる。なるほど。

今井:ファンを減らすのも覚悟で始めたんですが、それから1年後ぐらいに『シネマ・ボッサ〜ニュー・シネマ・パラダイス/ラ・ラ・ランド〜』という映画音楽のカバーアルバムのお話をいただいて、1年しかやってないのに大丈夫かなと思いながらチャレンジしました。だからまだハモンドオルガンを始めて4年ぐらいですけど、今は自分の一部のようになって、ピアノじゃないと出せない世界観と、オルガンでしか出せない世界観があって、どっちも無理しないで済むようになったというか。ピアノでやると研ぎ澄まされた感じになるし、オルガンでやるとワーッと気持ちが出たりするので、面白いんですよね。今回も、「月の光満ちて」はピアノで新録音しましたけど、「橙」はオルガンで新録音しています。

── それもこれも、ブラジル音楽をもっと大きく、深く、楽しく広めるために。

今井:そうです。ただそれは、もしかしたら以前に言ったことと違うかもしれないですけど、当時も今も、この音楽をなんとか広めてやろうという気持ちは変わらないですけど、今思うのは、たとえばアントニオ・カルロス・ジョビン、ワルター・ワンダレイの時代は、ある意味古典の域ですよね。そういう古い音楽をやっているわけで、それが日本でこれからメジャーな音楽になるか?というと、どう考えてもそうはならない。でもそれを、生活の中でチョイスする音楽のひとつにすることはできると思うので、そこにフォーカスしたいと思ってます。誰もやらなければ、このまま溶けて小さくなってしまうので、溶けないように、エッジがある音楽として、「今もこうやって気合いを入れてブラジル音楽をやってる奴がいるんだ」というところで、皆さんに引っかかってくれればいいと思っているんですよ。

── 素晴らしいと思います。

今井:ブラジル音楽をやる若い人がいないのも、まさにそこだと思っていて、引っかかってもらうためにも、尖っていないといけない。ただ昔のものをやるなら、昔のものを聴いたほうがいいけど、今の時代で、今の音で、今の人がブラジル音楽をやって、かっこいいと思ってもらえるように、頑張っていかなきゃいけないと思っています。今いらっしゃるブラジル音楽好きの方は、もちろん一番大事なんですけど、僕がやらなきゃいけないのは、新しい門戸を広げて、新しいファンを増やすこと。その切り口として、「へえ~」と思われるようなものを常に提示しながら、新しい感覚でブラジル音楽にハマってほしいなと思っています。



取材・文:宮本英夫

  ◆  ◆  ◆

『今井亮太郎 メジャーデビュー10周年記念 リクエストベスト 〜Seus Dez〜』

3月8日リリース
COCB-54354

商品情報HP
https://columbia.jp/artist-info/imairyotaro/

・収録曲
1. 月の光満ちて - Lua Cheia Iluminando -
2. Ao Céu - 空へ -
3. 青い瞳のアドリアーナ - Adriana -
4. 星のすず - Sino da Estrela -
5. 限りなく青いブルー - Mais Que Azul -
6. 橙 - Daidai -
7. Tudo Bem - トゥドゥ・ベン - (小野リサ & 今井亮太郎)
8. 雨の日曜日 - Domingo com Chuva -
9. ブルー・フライト - Vôo Azul -
10. 色えんぴつ - Lápis de Cor -(今井亮太郎 feat. Celsinho Silva)
11. スカイブルーの肖像 - Retrato em Céu Azul -(渡海真知子 & 今井亮太郎)
12. 湘南ーリオデジャネイロ - Shonan ー Rio de Janeiro -
13. 星踊る夜に - Dança das Estrelas -
14. パブロの横顔 - Rosto de Lado de Pablo -
15. 100万回の月 - Seu Olhar é Como a Lua -(Karen Tokita & 今井亮太郎)
16. 湘南マランドロ - Malandrinho do Shonan -(今井亮太郎 feat. coba)
17. 貝殻のペンダント - Pingente de Concha -

リリース記念ライブ<今井亮太郎 メジャーデビュー10周年記念LIVE with special guest coba at COTTON CLUB>

3.14(火)@COTTON CLUB (丸の内)

<出演>
今井亮太郎(Piano/Organ)
Gustavo Anacleto(Sax/Flute)
助川太郎(Guitar/Cavaquinho)
外園健彦(Guitar)
コモブチキイチロウ(Bass)
黒田清高(Drums)
Francis Silva(Percussion)

ゲスト *
coba(Accordion)

ステージ *
1st stage 開場17:00 開演18:00
2nd stage 開場19:45 開演20:30

チャージ *
[全席指定]¥6,000
テーブル席 : ¥6,000
ボックスシート・センター (2名席) : ¥8,500
ボックスシート・サイド (2名席) : ¥7,500
ボックスシート・ペア (2名席) : ¥8,000
ペア・シート (2名席) : ¥7,000
※料金は1名様あたりの金額となります。

COTTON CLUBのWEBからご予約はこちら
http://www.cottonclubjapan.co.jp/

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