【ライブレポート】超学生、初ワンマン。セオリーにとらわれない刺激的な“入学説明会”

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超学生は固定観念にとらわれないアーティストだ。たとえば彼はあの特徴的な低音ボイスに合った楽曲を歌うべきだという思考にもとらわれていなければ、ボーカルのスキルアップと同等にマイキングや機材への追及を欠かさず、音楽以外にも様々な活動をしたいと意欲的である。その行動力の根源は打算的な思惑ではなく、様々なものに興味が尽きないという純粋な好奇心だ。

それは彼が活動を開始した小学生の頃と変わっていないのかもしれない。日本青年館ホールで開催された初のワンマンライブ<入学説明会>も、なんとなく存在する“ライヴってこういうものだよね”のセオリーにとらわれない、自由でアイデアと挑戦に満ちたステージだった。

◆ライブ写真

開演前に流れるクラシックが、暗転とともに不穏な物音と秒針の音に変わると、モニターには超学生のミュージックビデオを使用したカウントダウンムービーが表示される。シンフォニックに展開していくSEからチャイムの音につなぎ、「ルームNo.4」のイントロに乗せて子どもと思わしきアナウンスが響いた。“寒さの中に春の気配を感じるこの頃、保護者の皆様におかれましては……”と、まさに入学説明会さながらの台詞である。ステージ一帯にスモークが立ち込めると、モニター下の壇上に超学生の姿が。音をかき消すほどの観客の歓声が湧くと、5人のサポートバンドとともに、彼の初オリジナル曲であり1stフルアルバム『超』の1曲目である同曲をパフォーマンスしてオープニングを飾った。


学ラン風の黒い衣装とマントに身を包んだ彼は、楽曲の世界に身を埋めるように、音に乗ってボーカルを繰り出していく。続いての「Innocent Tyrant」のイントロが流れるや否や、再び客席からは熱い歓声が起こった。超満員とはいえキャパシティ1200人とは思えないほどの凄まじい声量に圧倒されたが、観客にとってはずっと手持ちのイヤホンやスマホのスピーカーを通して聴いていた歌声と観ていた姿が自分の目の前にあるのだから、歓喜と興奮があふれ出すのも当然だ。と思いきや超学生が歌い出すと一斉に、観客たちは彼の声も一挙手一投足も逃すまいとステージに集中する。2曲目にして非常に気持ちのいい空間が出来上がっていた。


超学生も堂々としたステージングで観客を魅了していく。「Fake Parade」では躍動感に特化したボーカルで楽曲に宿るユーモアを表現し、「Untouchable」ではダンサブルなビートに身をゆだねる。すると曲が終わるやいなや、再び冒頭と同じ人物のアナウンスが流れた。“入学説明会もまだまだ調子が上がっていき、真骨頂を迎えていき、そしてみんな何も考えられなくなって……――ダメだ残ってるぞ思考”という台詞から「ガトリングアジテイタア」へとつなぐ。なるほど、アナウンスは同曲の歌詞の引用だ。cosMo@暴走PによるVOCALOID文化を総動員したような早口でまくしたる楽曲を皮切りになだれ込んだのは、 “歌ってみた”のセクション。「マカロン」や「オルターエゴ」など、どこか不安定かつ不穏なムードが漂う曲を立て続けに披露する。


本人のMCもなく、どこの誰だかわからないナレーションによって進行していくライヴに、なんだか催眠術で頭をぐるぐると振り回されるような、悪い夢を見ているような感覚に陥っていく。だが不思議と心地よさを感じてしまうのも事実だった。これは子どもの頃からずっと、音楽に限らずネット文化や映像作品、舞台など様々なことに興味を持ち続けてきた超学生のマインドを現段階でライブに落とし込むとこうなる、というひとつの解なのだろう。まったくもって刺激的な入学説明会である。

優雅さと悲壮感を併せ持つピアノや叫ぶようなギターソロなど激情的なサウンドスケープのバンドインストを挟んで披露したのは、ダーク×メルヘンの「インゲル」とメタル風のアレンジが施された「けものになりたい!」。特に後者は元のアレンジとのギャップが大きすぎるわ、歌詞の世界観と音の世界観も違いすぎるわ、演者たちはそれをものともせず全力でひりついたステージを届けるわ、その光景がシュールで思わず笑ってしまった。


個性とは何かを主張するアナウンスの後には、それをテーマにした「Let’s go」でダイナミックかつ晴れやかな歌唱を響かせ、「ホワイトハッピー」や「アンノウン・マザーグース」などカバー楽曲を届ける。あらためて彼は耳に残る個性的な低音ボイスの持ち主で、さらにカバーでもクリエイターのカラーや感情が色濃く出た楽曲を選んできたのだと思い知る。なかでも「KING」での魔王感は格別だった。本編ラストは『超』と同様に「サイコ」。謎めいたムードを残したまま、彼はステージから去っていった。


突如モニターに“追試”の文字が映し出されると、「ダーリン」でアンコールへ突入。一言「ありがとう」と告げると、この日を締めくくったのはメジャーデビュー曲「Did you see the sunrise?」。感情を吐き出すような迫力あるボーカルがサウンドを牽引し、この日を締めくくるに相応しい圧巻のパフォーマンスだった。歌い終えて壇上に上がった彼の姿はスモークに包まれ、ステージから消えていく。すると終演後のアナウンスが流れたかと思いきや、今秋2ndワンマンライヴが大阪国際交流センターとパシフィコ横浜にて開催される旨がモニターを通じて発表された。


終演後にMCを設けなかった理由を尋ねたところ、彼は「ナレーションで運んでいくライブがしたかった」と語っていた。その言葉を受けてナレーションを振り返ってみると、「KING」前に流れた内容が印象に残った。

“超学生はここにいます。愛を歌に込めて口ずさんでいきます。この“先が見えない ヴァージン ハッピー ショー”を、最後まで超学生から目を離さず、その愛を受け取っていただければ幸いに存じます”

歌詞の単語を引用しつつも、ファンに向けた気持ちが率直に綴られた箇所だったように思う。超学生のフレキシブルな行動の源は冒頭で論じた好奇心に加え、自分から湧き上がる愛、ファンから受け取る愛の双方から生まれるエネルギーなのだろう。これまでの活動で彼がファンとともに積み重ねてきたそれを召喚するような、どこか奇妙で、だがとても誠実な一夜だった。

取材・文◎沖さやこ
撮影◎堀卓朗[ELENORE]

ライブ情報

2023年9月10日(日)大阪国際交流センター大ホール
2023年10月22日(日)パシフィコ横浜国立大ホール
※チケット発売日など、詳細は後日公式ホームページで発表

1stアルバム『超』

発売日:2023年2月15日(水)

商品形態/価格/品番:
通常盤(CD ONLY) / 3,300円(税込) / PCCA.06180
豪華盤(CD+GOODS)/ 8,800円(税込)/ SCCA.00141

[収録曲]
1. ルーム No.4 [ Lyrics, Music & Arrangement: すりぃ ]
2. けものになりたい! [ Lyrics, Music & Arrangement: ピノキオピー ] 
3. Innocent Tyrant [ Lyrics: TOPHAMHAT-KYO, Music: FAKE TYPE., Arrange: DYES IWASAKI ]
4. Fake Parade [ Lyrics, Music & Arrangement: 辻村有記 ]
5. Untouchable [ Lyrics, Music & Arrangement: 栗原暁 (Jazzin'park), 久保田真悟 (Jazzin'park), 前田佑 ]
6.インゲル [ Lyrics: 品田遊, Music & Arrangement: 篠崎あやと, 橘亮祐 ]
7. Let's go [ Lyrics: Code.EK, Music & Arrangement: Peter Nord ]
8. Give it to me [ Lyrics: IE-MON, DX ISHII, Music & Arrangement: ROBBIN, ZWOO, Mohanp, RYAN JHUN ]
9. ガトリングアジテイタア [ Lyrics, Music & Arrangement: cosMo@暴走P ]
10. Did you see the sunrise? [ Lyrics & Music: 松隈ケンタ, Arrangement: SCRAMBLES ]
11. サイコ [ Lyrics, Music & Arrangement: すりぃ ]

【法人別特典】
・Amazon.co.jp:メガジャケ
・全国アニメイト(通販含む):56mm缶バッジ&L版ブロマイド
・タワーレコードおよびTOWERmini全店、タワーレコードオンライン:A4クリアファイル
・楽天ブックス:アクリルキーホルダー
・セブンネットショッピング:アクリルカラビナ
・ポニーキャニオンショッピングクラブ、PONYCANYON SHOP、魔法集市:スマホサイズステッカー

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