【インタビュー】鍵盤奏者の平畑徹也、ヨルシカや高橋優、キタニタツヤなど9名のゲストを迎えた初アルバムに音楽人生の総括「自分自身を再確認できた」

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■1000曲を超える作品の中でも
■群を抜いて良い音を録ってくれた

──では、3曲目「恋に首輪」のお話に移りましょう。キタニタツヤさんも平畑さんと関係性が深いですよね? ヨルシカのバンドメンバー同士ですし、平畑さんはキタニタツヤさんのライブサポートとかもしていらっしゃいますから。

平畑:はい。タニやん(キタニタツヤ)は多くを語らずとも信頼感を示してくれる人なんです。

──「恋に首輪」は、キタニタツヤさんの歌声を存分に活かしたくて作った曲ですか?

平畑:まさに! まず、スキャットをやらせたかったっていうのがあって。僕はソウルフルなディーヴァ系の声よりは、ロックなカツン!とくる声質が好きで、そういう点でタニやんはドンピシャなんです。彼の歌唱はアカデミックな歌い方ではない、言葉が優先されている声というか。そういうところが好きなんですよ。

──「ボイトレに行かないで!」って止めたことがあったとか?

平畑:「ヴィブラートを多用せんでいい!」とか言いました(笑)。そのほうが言葉が伝わると思うので。言葉よりもメロディを伝えようとしないでいいと思うんですよ。

──スキャットの参考にするために、キタニタツヤさんが行なったことが面白いんですよね。その辺りのエピソードは『AMNJK』初回生産限定盤付属ブックレットの対談でも話されていますが、エラ・フィッツジェラルドのコピーをしている人の動画を観たりしたそうで。

平畑:YouTubeでいろいろ観たらしいです。デジタルコンテンツを参考にするという今の学び方を、彼に教えてもらった感じもあります。

──この曲のアウトロのサックスも要注目です。サックス初心者のキタニタツヤさんの演奏ですから。

平畑:そうなんです(笑)。メロディとか、さすがのセンスでした。エンディングは最初、サックスソロではなくて、言葉で語ってもらってもいいんかな?って思ってたんですけど、タニやんが「サックスソロに挑戦したい」と言ったんです。やってもらったら、「曲に合う! これはいいなあ!」ってなりました。


──アルバム『AMNJK』には、参加アーティストの新しい挑戦もいろいろ反映されていますね。「よるのとばり」に参加したみゆなさんもそうですし。

平畑:優くんやタニやんもそうなんですけど、彼女に関しても、“もっとこの人の歌声が世の中で聴かれたらいいな”っていう想いがあります。

──温かく包み込むような歌は、みゆなさんファンにとっても新鮮さがあるのではないかと思いました。

平畑:彼女のアーティストとしての音楽性はデジタルミュージックな方向というか、音圧が強いものが多いですからね。でも、それだけではない素朴な感じというか、寄り添うような声だということを、ライブとかで演奏してきて僕は知っているんです。それをレコーディング作品として形にしたかったんですよね。

──レコーディングがピアノ、ベース、歌の一発録りなのもなかなかないことですし、クリックも使っていないという。

平畑:はい。ピアノ、エレキベース、歌っていう編成も、日本だとなかなかないですからね。ベースの玉木正太郎くんとは他のアーティストでもこの編成でやったことがあって、“呼ぶなら彼しかいないな”と思っていました。それくらい彼とは相性が良いんです。クリックを聴かないで3人で録ったのは、みゆなにとってもドキドキものだったと思います。基本的に直しもきかないですからね。プロトゥールスの登場以降、レコーディングが修正ありきのものになったわけですけど、そうではないライブ的な音楽の聴き方をリスナーにしていただきたいという想いもあります。

──生の空気感も録音された曲なので、“息を合わせるってこういうことだ”という気合いも感じます。

平畑:“同じ時間を記録した音”っていう感覚があります。今の主流のレコーディングは“別々の時間”っていう感じですけど。たとえば、パート毎で、録った日が別だったりもしますからね。でも、この曲は全員が同じ時間を生きている記録です。それが良い演奏にも繋がったと思います。単純にピアノの音ひとつ取っても、今までに僕がレコーディングしてきた1000曲を超える作品の中でも、群を抜いて良い音をエンジニアの臼井ミトンが録ってくれました。


──このアルバムは、全曲のエンジニアを務めたのが臼井ミトンさんですよね。“feat. 臼井ミトン”という形で参加していると言っても過言ではないくらい。

平畑:「遠野」のアコギも彼に弾いてもらいましたし。このアルバムは臼井がいなければ完成しなかったと断言できます。スタジオで「この曲のこの感じにしたい」ってリファレンス曲を再生すると、「だったらこういう曲もあるよ」って彼が新たなアイデアを引っ張り出してきたり。音楽を聴くだけで数時間経っていましたから。音楽を始めたての頃のサークル活動とか、軽音部の友だちと放課後につるんでいる感じに近かったです。その感じで作れなかったら、全然違うアルバムになっていたでしょうね。

──そういう雰囲気は、柔軟な遊び心にも繋がったのかもしれないですね。例えば、俳優の小関裕太さんが参加した「とある王子の恋物語」ではレンタルしてきた銅鑼を鳴らしたり、いろいろなアイデアを反映しているわけで。

平畑:この曲も楽しかったです。小関くんがミュージカルで歌っている姿は観ていたんですけど、こういう形で歌が音源化されるのは初なんですね。僕のむちゃぶりなんですけど、小関くんも楽しんでやってくれたことが滲み出ていると思います。「作詞したことないんですけど、頑張ってみます」っていうところから始まって、まさかこんなに攻めた歌詞が出てくるとは思っていなかったです。

──歌い出しが“常にモテモテ王子 僕はわがままボーイ”ですからね。

平畑:“花屋の若社長”っていうワードも、初作詞でなかなか出てこないと思います。間奏にセリフを入れるのも小関くんのアイデアで。歌声の表情の切り替え方もすごい。男臭いところも見せてくれるし、カッコいい曲になったなって感じています。人間味のある小関くんもふんだんに盛り込まれています。

──エンディングのインパクトもすごいです。“王子さまは、そんな決断に至ったんだ⁉”ってびっくりさせられました。

平畑:そうなんです(笑)。彼は撮影の合間のレコーディングだったので、タイトなスケジュールだったんですけど、たくさんアイデアを出してくれました。お互いの発想の相互効果というか、ケミストリーがいろいろ生まれた曲ですね。

──小関裕太さんとの出会いは、数年前の<秋田CARAVAN MUSIC FES>の打ち上げで一緒に飲んだのがきっかけだったとか?

平畑:そこですごくフレンドリーに話をしてくれて、その後も「キーボードを買おうと思うんですけど、どれがいいんでしょうか?」とか、連絡をくれるようになったんです。

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